3:13「合流の一手」
前中盤エルナ、終盤キョウスケと視点が移ります。
「えーい えーい えーい」
「なっ……何やってるんだあの子は!?」
「のーのちゃん!?」
急に走っていってしまったののを追いかけ、俺たちも外……二階の観客席へと足を踏み入れると、ののは杖をブンブンと振り回して、まるでモグラたたきでもするかのような感覚でバッタバッタと……その場にいる小型ドラゴンたちをなぎ倒していた。
「な……なんなんだ、この子は?」
俺たちがその光景に目を奪われていると、少し遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
競技場の端っこの方。
顔と腹部を血で赤く染めている親父がそこに立っていた。
「親父!」
「え! きょー君!?」
「!?」
俺たちの声に気が付いたのか、親父がこちらの方を見る。そして「なんだおまえらか」的な態度で一度は正面に向き直るものの。絵にかいたような驚愕に満ちた顔で二度見をして見せた。
「ロディ! 恵月!! お前らなんでここに!!!」
「え? ……あっ!」
そう言えば秘密なの忘れてた!
緊急事態のあまり……さっきまで怒られるとかなんとか考えてたのに!
一応万が一の場合は堂々と出て行けばいいとかいつだか言った気がするけど、それでもやっぱりいざとなると……少し申し訳ない気持ちになる。
「えっとこれには深い理由が……」
「つッ……とりあえずそこにじっとしてるんだ!! 外はアブねえかもしれねえ!!」
「はっ!? 何言って……」
じっとしてろは理解できる。
外が危ないかもしれないって!?
しかしそれよりもだ、今まさに危ない状況に陥っているであろう親父を放っておけるほど俺もお利口さんじゃない。
ののだって何だかすさまじい勢いで三桁はいそうな小型ドラゴンを倒しているが、いつどうなるかわかったもんじゃない。
つかあの子ホントに何?
魔法使いじゃないの? めっちゃ殴ってるけど?
……じゃなくて
「母さん、ここから親父のとこまでいける?」
「! ええ」
「じゃあお願い、俺はここから……」
邪魔くさい小さいのを一掃する。
同じことをしているのの、それから囲まれてる親父に当たらないように……できるだろうか。
ここはあの空間と違って精霊が本当に少ない。
エルフに伝わる魔法は精霊の力を頼ること前提につくられているため、消費魔力がかなり高い。
例えばレベル1で最初から覚えてる攻撃魔法の消費魔力が2とするなら、エルフの魔法の場合はそれで10消費する。その分基礎火力も相当なものだが、無駄うちは絶対にできない……まあ、その辺は個人の魔力値に依存するらしいから、大きく振り切れてる俺や母さんはそこまで心配する必要もないのかもしれないが。
……とは言っても不安だ。
正直、そんな細かいコントロールができるほどの自信はない。
まずはこっちを向かせるために一発挑発代わりの【猛火弾】でも撃って集めるのがいいだろうか。
ここは一応二階だし、いきなり襲ってこられるという心配は多少薄まるだろう。
「よし、これで……」
「まって えるにゃん」
「!?」
頭の中での作戦会議がひと段落した瞬間、さっきまで暴れまわっていた幼女の声にせき止められて体をビクつかせる。
何やら俺に物申すというような、そんな不満顔をしているようなのだが……なぜに?。
「のの?」
「まほうは、死んじゃうからだめ」
「は? 何言ってるんだ! それじゃあ――」
「小さいどらごん、とーばつたいの人混じってる」
「……なんだって?」
まさか、ここにいるドラゴンはあのとき……コロセウムに戻ってきたときにいたやつらなのか?
しかし全部が全部あの場にいたやつじゃない。さっき何だかものすごい咆哮が聞こえてきたが、それに当てられて集まってきたのだろうか。
混じってるって言うことは元からドラゴンのやつもいるのだろうが、一体どれだけの数が姿を変えられてしまったのか。
しかしなんでまた……。
「もしかしてのの、どれが元々討伐隊の人なのかわかるのか……?」
「のの、わかる」
「じゃ、じゃあ――」
「三匹以外、みんなとーばつたいの人」
「……マジで」
「まじまじ」
それ混じってるのはドラゴンの方じゃんかよ!!
……なんてツッコんでる場合じゃない。
それが本当だったら確かに……このままじゃ本当に殺しかねない。
いくら俺が人間をやめてしまったからと言って、人殺しになるのは御免被る。
「くっそ、どうにかして元に戻す方法はないのか……!?」
「このまほう、ふぉにゅっ」
(あ……噛んだ?)
「ふぉにう……ふぉにりゅ…………」
(頑張れー、もーちょっとー)
「……おっきいどらごんに操られてる」
(諦めた……)
『フォニルガルドラグーン』は幼い舌には難しかったらしい。
心なしかののの顔が沈んでいるように見えるが、少し和んでしまった頭を再度戦闘モードに切り替える。
この魔法……というのは、恐らくドラゴンに変える魔法のことだろう。ののが言っていたやつだ。
そしてその魔法がフォニルガルドラグーンに操られていると。
先ほどの咆哮にはそんな作用もあるということでいいのだろうか?
つまり主導権は今俺たちの前にいる、討伐対象モンスターに……。
「! ってことは」
「うん おっきいの倒せば、みんなもとにもどる」
「……なるほどな」
なんでこんなことをののが知ってるのかは置いといて、それならそれでやりようはある。
「でも結局数が多い、頭を狙うにも周りをどうにかしないと……」
「のの、やる」
「ダメだ、ケガしたらどうするんだ」
「のの、へーき」
「俺が平気じゃないの!」
「むぅー」
ののが見た目以上にできるのはさっきの行動を見てればわかる。
それでもこんな小さい子を率先して戦場に向かわせるわけにいくか。
そんなこと言ってられないと言われればそれまでではあるものの、出来ることなら討伐隊ドラゴンくらい俺が一人でどうにかしてやりたい。
……くらいと言うのも討伐隊の人たちに失礼だったか?
「……ちょっとやってみるか。のの、下がってて」
「? えるにゃん?」
やれることはする。
一か月前、まだ魔法を使えなかった頃……己の無力さに絶望したあの頃とは違うということを親父に見せるいい機会でもある。
とはいっても自信はないが。
雑念を振り払うようにぶんぶんと首を振ると、俺は杖を構え、意識を集中させていく。
「さて、上手くいくかな……もってくれよ」
* * * * * * * * * *
オレが格好良く……いや、格好よくはねえか。
無様にも、意地でも生き残ってやろうと決意を固めたところにぞろぞろと……。
しかも出てきたのが幼い少女とロディと恵月って……何がどうしたらこんなことになるって言うんだ?
そんなこんなでオレが頭を混乱させている間にも三人は行動を起こし、競技場の西側……いつの間にかでっかい穴が開いていたその二階観客席から南側に回り込むようにやってきたロディが、オレの元に飛び降りてくる。
そしてすぐに噛みつかれた、血のにじんでいる腹部に回復魔法をかけようとして手を差し伸べてきた。
「ロディ、お前――」
「大丈夫きょー君、今回復してあげるから……」
「そうじゃねえ! どうしてお前らがここにいるんだよ! 商店街に向かったんじゃ」
まあ、治療は受けるんだが。
しかしちゃんと説明してもらわねえと納得がいかねえ。
オレは確かにお前らは来なくていいと言った。来なくていいとはすなわち来るなということだ。恵月と町を見て回りたいとか言ってたのは何だったんだ!?
険しい表情で応じるオレを見てか、ロディが顔を俯かせる。どうやら自分が何をしているかは分かってるようだが……。
「……嘘をついたのはごめんなさい。あとでちゃんと話すから、今は……」
「…………」
……俯かせてる。
結婚してから今までに……一回も見たことが無いくらいに心配そうな顔をして。
(ああ、そうか……そうだよな)
その顔を見てようやく気が付いた。
自分が何をしているかわかってるかって……オレの方こそわかってんのかって言いたくなるな。
こいつらは、オレのことを心配して……。
「ロディ……」
「……なぁに?」
「いや、なんでもねぇ。オレも後で……お前たちに話がある」
「――――わかりました」
思えばオレは、こいつらの為だと思いながら……自分のことをないがしろにしてたのかもしれねえ。
今回もこうして……そんなオレの行動が、結果的にロディたちを危険な目に会わせることになっちまった。
説明してもらわねえと納得できねえ?
どの口が言ってやがる。
説明するべきはオレの方だろうが。
今まで何一つ説明してこなかったやつが、偉そうに人に求めてんじゃねえ。
この戦いが終わったら、全部――――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!
「何!?」
「なんだ!?」
全部、洗いざらい……そう心に決めたその直後、競技場内に炎の雨が降り注がれた。
お読みいただきありがとうございます。
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