3:10「てんさいしょうじょ?」★
「何があったって……!?」
横はおよそ五メートル、小道までの距離はおよそ三十メートル程はあるはずの場所が、文字通りぎっしりと、身動きが取れないほどにドラゴンの群れで埋め尽くされている。
何かがあった事は間違いないと思うのだが、一体何があったらこんな事態に……。
「んー!!」
「ん?」
と、少し頭を悩ませようというところに、明らかに俺やガレイル、そしてドラゴンたちが発するの声ではない……少し苦しんでいるようにも聞こえる声が耳に入った。
「ど、どうした?」
「んふんー!……んー!」
「……この中に誰かいる!」
「何!?」
この中……正確にはこの群がっているドラゴンたちの中に、誰かが埋もれているんだと思う。
ここに居るのは小型のドラゴンばかりとはいえ、それでも一体辺りの身長は俺(150cm)よりも少し高い。
背伸びをして頑張っては見るものの、わずかな隙間から見えるのは奥にいるドラゴンばかりで……。
「ぐぬぬぬ……」
「す、すまん……オレがまともに動ければ、肩車でもしてやれたのだが……」
「よっ…… 余計なお世話ですー!!!」
「ぬ……そ、そうか」
誰が誘拐犯の肩車なんか受けるかよ!
そうでなくても身長は気にしてるんだ! デリケートなんだよその辺は!
あーもうそうだよ、後二十センチ……元の身長があればまだましだったのにぃ……くそ、なんかイライラしてきたぞ……。
(いっそのことこいつら手前から切り刻んでやろうか……)
じれったくなってきた俺は、順番に風の魔法をぶち込んでやろうかと杖を構えようとする。
その時……
――つんつん。
「あ?」
――つんつん。
「何!?」
――つんつん。
「だから何!! 今こいつらを――!!」
何度も何度も、しつこく後ろからつつかれ、頭に血が上っていた俺は大分怒ったような形相で振り向いた。
てっきりガレイルがしてきているのだと思っていた俺は彼の方を一度向くが、ガレイルは汗をたらしながら首を横に振ると、何やら下を示すように指さしていた。
こんな時に一体何だというのか、イライラ顔をそのままに下へと顔をおろしてみる……と。
「ぇっ ぁ、あのぅ……」
「ふぇ!?」
「ひっ! ご、ごめんなさぃ……」
綺麗な桜色の髪をした幼女がそこにいた。
完全に苛立っていた俺を見て委縮してしまっているようだが、この声はそう、さっき聞こえた声の主そのもの……だと思う。
ドラゴンたちの間をすり抜けてきたのだろうか……こんな小さい子なら見つけられないはずだ。
「え……いや、その。こちらこそ……ごめんね?」
「ひぅっ」
「うっ……」
(か、完全に怖がられてる……)
やばい、やらかした!
え、えっとぉ……こういう時はどうしたらいいんだ……と、とりあえず、友好の証に……そう! 握手、握手だ!!
内心かなりの焦りを感じながら、今にも泣きそうな謎の幼女へ今にも汗が噴き出してきそうな手を差し伸べる。
「だ、大丈夫。怒ったりしないから……ね?」
「……ほんと?」
「ほんと」
「…………」
小さな、年相応のとても柔らかい両手が俺の手を優しく包み込んでいく。
見たところかなり小さい……十歳いっているかどうかも怪しいくらいの女の子。しかしその姿はシンプルではあるもののしっかりとしたローブに身を包んでおり、背中には背ほどの杖を背負っていることから、この子がれっきとした冒険者であることをうかがわせる。
そしてここに居るということはそういうことなんだろうが……それにしたってなんだってこんな子が討伐隊に?
俺がこの謎の幼女に事情を聞こうと口を開きかけた時、幼女は俺の手をぎゅっと強く握って顔を見つめてきた。
「? ……あ、そっか」
「そりゃこんなとこじゃ落ち着いて話せないよね。ちょっと引き返そうか」
「……うん」
「いいのか? 急ぎ競技場へ向かわねば……」
「それにしたって前がこれじゃそう易々と進めない。確かに急ぎたいけど、この子が何か知ってるのかもしれないし」
「……そ、そう、だな」
「歩けますか?」
「ゆっくりなら何とか行けそうだ。気にせず行ってくれ」
「じゃあ遠慮なく」
俺はガレイルの言葉に頷いて足を進める。
幼女は心配そうに見つめていたが、本人が大丈夫と言うのなら大丈夫だろう。
しかし一応はガレイルの速度に合わせて、ドラゴンの群がる空間のひとつ手前の場所に移動する。
小道を十メートルほど挟んだ先にまた同じような広い場所があり、俺はそこであらためてしゃがみ込み、この謎に包まれた魔法少女に声をかけてみる。
「俺はエルナ。エルナ・レディレーク。君の名前は? どうしてあんなところにいたの?」
「……のーの」
「の……?」
「ののの名前、のーの。のーの・レヴァルスタ。8さい」
……のがゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
「レヴァルスタだと?」
「えっと、のーのちゃん……で、いいのかな」
「のので、いーよ。えるにゃん」
「にゃっ……!? ま、まあいいや。じゃあのの、どうしてあんな……ドラゴンの中に埋もれてたの?」
「あれはどらごんじゃないよ」
「……え?」
「なんだと?」
「どういうこと……?」
聞き間違い?
あれがドラゴンじゃないと……?
じゃあ何? トカゲか何かだと? もしかして新種のワニとか?
「あれ、とーばつたいの人たち。みんな魔法で変えられちゃったの」
「…………」
「……は?」
「…………!!??」
なんて言ったこの幼女!?
討伐隊の人が変えられた!?
ドラゴンに!?
そんなことってあり得るのか!?
さっきから頭がついて行っていない。
間違いなくさっきの……あの怪しげな空間が関係しているのだとは思うが、全くもってなにがなんだか……。
「えっと、のの? つまりあのドラゴンたちは全部討伐隊の人たちで、なんらかの魔法を受けてあんな姿になったと?」
「そう。のの、見てた。でっかいどらごんが、うわーってみんなに魔法をかけたの」
「う、うわーって……」
この子の話、信じていいのかイマイチよくわからない……。
子供のいたずら? にしてはおかしすぎるし、やっぱり本当のことなのか……つか今見てたって……。
「竜化の魔法を操るドラゴン……」
俺が頭を混乱させているとき、何やらガレイルがそうつぶやいた。
「何か知ってるんですか」
「あ、ああ。知っているというよりは……これも文献でな。他の生物を己の眷属にしてしまうドラゴンがいるというのを見たことがある。……そしてそいつもダイヤモンドオークと同じ」
「幻獣……ですか」
「うむ……しかしこんな小さな子が、本当に見ていたのか?」
「見たよ。だってそのどらごん……」
「ののが倒したんだもん」
「「………………」」
もう何だろう、訳が分からないよ。
つまりあれか!?
この子が、ののが言ってることが全部本当だとしたら、天才魔法少女ってことでいいのか!?
そりゃこの年で冒険者やってて、王様ドラゴン倒そうって部隊に参加してるくらいだもんな!?
半ば頭が考えるのをあきらめかけている気がする。
たぶん考えても答えが出てこないからだ。理屈で考えようとしても、そんなもの天才の前ではひれ伏してしまうのだ。
「それにしたって無茶苦茶な……」
「……お嬢ちゃん、のーのと言ったか」
ガレイルがその人相の悪そうな顔でののに問いかける。
しかしののはガレイルの顔を見るや否やさっきの……俺に怒鳴られたときのように委縮してしまった。
どうやら怖そうな人にはめっぽう弱いらしい。
ここまで移動するときにガレイルを見ていたのは心配じゃなく、何か言われるんじゃないかと怯えていたのか。
「はははは……嫌われたもんだなぁ、まあ慣れてはいるが」
「俺も大ッ嫌いですよ」
「うぐっ……う、うむ……しかしそれよりもだ! この子の名前が――」
そこまでガレイルが言いかけたところで、今度はコロセウム全体が大きく揺れたような感覚に襲われる。
「今度は地震!? なんなんだよもう!?」
「いや、ちょっと待て……」
「何!?」
「……おみず、くる」
「は!?」
ののがそう呟いた直後のことだった。
今俺たちがいる二階八時の方向の通路。その内側の壁が突如として決壊し、大量の水がまるで津波でも起こったかのように俺たちを襲ってきた。
俺はののと繋いだ手だけは絶対に放さないように必死になっていると、数秒で引いていった水の後、かろうじて残っている外側の壁を背にしてののの安否を確認しようと声をかける。
「ゲホッ! ごほっ! いったぁ……背中、が……だ、大丈夫か……のの」
「おみず。きもちよかった」
「そ、そっか……ガレイルは……」
近くにいなかったガレイルを探そうと見渡してみると、十メートルほど遠くに倒れている男の姿が。
おそらくガレイルだと思われるが、あの様子だと少し危ないかもしれない。
「本当に次から次へと……急いでるってのに!」
ただでさえ急いでる上に色々重なって頭が追いついていないのに、これ以上混乱させないでいただきたいものだ!!
また少し怒り気味の俺が正面……水のなだれ込んできた壁を見てみると、どうやら発生源は六畳ほどの部屋をはさんだ向こう側……ここと同じくらい広い廊下からのようだった。
その中心に誰かが立っているのでおそらくはその人が―――。
「……ん?」
……んん?
「あれは……」
見覚えのある…………。
「あら?」
「……やっぱり」
「エルちゃん! 無事だったのね!!」
ああ! たった今あんたに殺されかけたし全身びしょ濡れだよ!!!
母さん!!!
お読みいただきありがとうございます。
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