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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter3 〝華散る夜に祝福を〟
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3:3 「結襲」

『諸君も知っての通り、此度の大討伐隊は竜の王と謳われるドラゴン【フォニルガルドラグーン】の討伐を目的としたものである!』


 ギルドに集められた数百人にも上る多種多様な冒険者たちがみな、カウンターの前にたたずむウェイター姿をした初老の男性が発したその言葉に、盛大な歓声を上げる。

 まるで大砲でも放つかのような雄々しき雄たけびが響き渡る中、しかいウェイター姿の男はそれ以上を吹き飛ばすほどのさらに大きな声で――。


『静エェーー粛にイイィィーーーーッッ!!!!!』

『『――――!!!!』』


 男性の年を全く感じさせない気迫なのか、その化け物じみた声量がそうさせるのか……彼の「静粛に」の一言がギルドに響き渡った直後には、嵐が過ぎ去ったかのような静寂が再びその場を覆いつくす。

 そして何音もなかったかのように、ウェイター姿の男は元の声量で話を続けた。


『ゴホン……では話を続けよう。申し遅れたが、わたしはこのギルドのマスターをしているレガルドと言う者だ。以後お見知りおきを』




「うぐぅ……耳割れる……」

「わたしもまだギンギンする~」


 懐中時計の先でレガルドと名乗った男性が話を続けるも、彼が放った叫びによる余韻……耳に走り続ける激痛とも言えるようなひどい耳鳴りのせいで全く頭に入ってこない。

 ここが公道でなければ両耳を塞いでのたうち回っていたことだろう。


 しかし恐らく、この懐中時計から外へ漏れ出た音はそれほど大きなものでもなかったのではないだろうか。もちろんそれでも大きな声であった事には変わりはないが、普通の人ならまだ何とか耐えられるレベルではあったと思う。


 ではなぜ俺たちがこんなに苦しむことになっているのかと言えば……それはひとえに五感を研ぎ澄ましていたからに他ならない。

 この王都レイグラスはルーイエの里や森の中と比較すると、精霊の数が10分の1程度にまで減ってしまうのだ。そのため、いつも以上に精霊を感知するための力が必要になり……その結果、レガルド氏の爆弾のような声に耳がやられてしまったのだ。

 本当に、他の人たちが上げていた歓声とは全く異質の……破壊力に満ちた「静粛に」だった。


 そんな必死になって頭を使おうとする状態が数分間に渡って続き、ようやく耳が静けさを取り戻したころには――。


『――以上が本作戦の概要である。何か質問のある者はいるかね?』


「ふあっ……大事なとこ聞けなかった……!」


 無断でついていく以上、ここで隊の動きをある程度理解していなければ後々面倒なことになりかねない。

 もちろん何事もなく討伐に成功してくれればそれに越したことはないのだが、俺たちがここに来ているのはいざというときに親父たちの命を守るためだ。一応王都と周辺の地図は手元にあるが、土地勘がない俺たちが親父の後を追うにも、これからどこに向かうのかがわからなければ、ここで2時間もの間指を咥えてみているだけになってしまう。

 それでは何かあった時に母さんがどうなるか……。


「そうだ、母さんは!?」

「え?」

「母さんはなんとか聞けなかった!? 討伐隊の作戦概要!」

「うーん……さくせん……さくせん……」

「どう……?」

「ごめんねー、わたしもだめみたいー」

「そっか……」


 だめかーー!!!

 せめてここは聞き逃したくなかった……どうするかなあ……。


 こうなってしまってはできることもそうなくなってしまう。

 まあ、元より出来ることといえばコソコソついていくくらいなのだけれども……先が少しでも見えるのとそうでないのとでは天と地ほどの差がある。

 となればだ、その分を少しでも埋めるためには……。


「仕方ない。行こう、母さん」

「そう……ね」

「ん……母さん?」


 母さんの返事が暗い。

 見るとその座っている姿もどこか縮こまって見えるし、俺が顔をのぞき込もうとすると逃げるようにしてそっぽを向いてしまった。


「急にどしたの……?」

「…………」


「……ごめんね」


「ふぇ?」


 ほんとにどうしたの!?

 声色からして多分泣いてるし……何、俺何か変なこと言った!?


 ――がばっ。

「おっ――」


 縮こまっていたかと思ったら、今度は俺に飛びついてきた。

 まるで己の弱い面を呪うかのように、オレの体をぎゅっと抱きしめてくる。

 これはそう、つい最近にも同じようなことが……。


「……そういうことか」


 俺はそっと母さんの背中に手を回して、片方の手はそのまま母さんの頭に持っていく。

 さっきも……ガレイルとはちあわせたときもそうだったが、要は俺を巻き込んだ挙句に俺任せにしているのが許せないのだろう。自分が何もできていないことに対して責任を感じているんだ。


「全く……大丈夫だって。俺も自分から言って来たんだしさ、もっと俺を頼ってよ」

「…………でもぉ」

「責任感じすぎだって。親父なら大丈夫だーって、最初に行ったの母さんの方だよ? 守りたいのは分かるけどさ、そうやって変に責任感じたり過度に心配しすぎるのは、裏を返せば信用してないってことにもなる。それでもいいの?」


 俺の手の中で、母さんの頭が小さく横に振られた。

 その後に母さんはそっと俺の背中から手を放すと、新品の袖で涙を拭う。


「そう、よね……ごめんね、もう大丈夫……」


 そう言えば母さんのこの衣装も初めて見る……いつも通りのワンピース型ではあるものの、明らかにこちらの世界で作られた装備であるというのがそのファンタジーなデザインからありありと伝わってくる。

 ……て、今はどうでもいいか。あとで時間があったら聞いてみよう。


「分かればよし! いこっか」

「……ええ」


 そうして俺は母さんの肩を持ちながら立ち上がると、急ぎギルドの方へと足を運んで行った。






 * * * * * * * * * *





 ばさっ……ばさっ……ばさっ……ばさっ……。

 大きな翼が空をきり、何処までも続く青い空を行く。

 外の国を知らない私に、そのすべてを教えてくれる翼の音が、心の中に響いていく。

 でも今更何を知っても、きっとそれは全てが無に帰るのだろうと思うと、少し心が切なくなる。もっといろいろなお話をしておけばよかったと、後悔の念が沸き上がる。


「……外が騒がしいわね」


 『彼の翼の音』からしばし耳を遠ざけ、私は見慣れた天蓋付きのベッドから足を降ろした。

 そして騒がしい音の聞こえる方向……レイグラスの城下町を見下ろして、出どころが何処なのかを探ってみる。

 【ヒアリング】……私が使える唯一の魔法。

 昔から耳が良かった私は、この魔法を使って外で何が起こっているのかを聴くのが楽しみの一つだった。

 魔力を使うのも体に悪影響を及ぼすかもしれないからって、最近はあまり使わなかったけれど……。


「この声は、ギルドの……? 何かあったのかしら……」


 冒険者ギルドが賑わっているということは、何かお祭り騒ぎがあったということ。

 私はギルド以外から聞こえる声を遮断し、その一点に集中して耳を向けてみる。


「……最近、城の近くに飛んでる……ドラゴン……とう、ばつ?」






 * * * * * * * * * *





「どう? 母さん」

「まだ大丈夫みたい。みんなギルドの中にいるわー」

「よかった……間に合った」


 ギルドの陰。それもできるだけ身を潜められるような場所から、俺より背の高い母さんに中をのぞいてもらった。

 本当はこういう危険なところこそ俺が率先してやりたいのだけれど……こればっかりは仕方がない。

 ……前は俺の方が背高かったのに!


 しかしそんなことは置いといて、本当に間に合ってよかった。

 まさかこんな野次馬もぞろぞろといる中で避難勧告も出さずに市街戦などするはずもないだろうし、恐らくこれからドラゴンがいる場所へと移動するのだろう。絶対にここで見失うわけには行かない。

 このまましばらく動向を見て……。



「おい! あれ!!!」

「え? 何?」

「なにか近づいてくるぞ!?」


「……なんだ?」


 表で何やら騒ぎが起こりはじめ、バタバタと地面をたたく音が大きく、数多く鳴り響いていく。

 一体何が起こったのだろうか?


「エルちゃん!!! あれって!!!」

「へ? 母さんまでなに――」


 とんとんと肩を叩きながら母さんが指さす方向――遥か上空へ目を向けると、そこには大きく旋回をする鳥の様な生物の影が。

 しかしその影は次第にどんどん大きさを増していき、鳥ではない……元の世界では空想上の存在であったその形へと変貌していく。


「おい……嘘だろ……!?」


 大きく、大きく……10メートルはあろうかというその生物は、勢いをそのままに真っ直ぐこちら……冒険者ギルドの方へと加速度的に突っ込んでくる。

 そして―――。







 ドッッゴオオオォォオオォォン!!!!!






 冒険者ギルドの丁度真横。

 冒険者御用達の武具屋があったその場所が、煙と共に瓦礫の山と化した。

お読みいただきありがとうございます。

感想、誤字報告等ありましたら是非よろしくお願いします!

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