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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter2 〝ルーイエの里と魔法使いへの道〟
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2:28「そして俺たちは帰路につく」

グラース暦266年 リョクの月50日 朝7時。


「達者での」

「えいちゃんこそ~」

「またいつでも来な! オレたちゃ歓迎するぜ」

「はい、ありがとうございます。アルトガさん」


「今度は私たちとももっとお話ししましょうね!」

「そーだ! 長様たちばっかだったもんな!」

「ぼくもおねーちゃんたちとあそびたーい」


「はははは……」


 大よそ五十人程度で構成されているこのエルフの里『ルーイエ』。

 俺たちは約一か月の滞在を終え、里の皆に見送られながら、ファメールにある親父の屋敷への帰路に就く。

 一か月ぶりに母さんのお古(ワンピース)を着て里の皆の姿を見ると、もうこの田舎臭い民族衣装ともお別れかと思い、少しだけ寂しい気持ちにさせられた。


「じゃあ、行くね」

「うむ」

「……おう」


 一か月という短い間に色々あった。

 迷いの森から始まり、今日にいたるまで……それはもう、本当に色々なことが。

 あの時から俺はどのくらい成長できたのだろうか。


「ああそうじゃった、迷いの森は行きと同じく真っ直ぐ進めば10分ほどで出られるはずじゃ。今度は小僧だけはぐれたりせんから安心せい」

「本当! よかったぁ~」

「……ホントに大丈夫かな」

「なんじゃ、何か不満か」

「いやだって前科が」

「何か言うたか」

「なんでもないです!!」


 俺とエィネのやり取りに、辺りから優しい笑い声があがって来る。

 こっちからしたらたまったもんじゃないのだが……まあ、今は大目に見ておこう。


 俺は今立っている里の入り口から里全体を見回し、大きく息を吐き出してから、森に充満している新鮮な空気を目一杯肺にに送り込む。

 そして目一杯……遠くに見える神樹さまにも聞こえるくらい大きな声でこう言うのだ。

 散々な目に会わせてくれた里に、俺を強くしてくれた里に……この神秘的な里に、精一杯の感謝を込めて。


「お世話になりましたッ!!!!」









 * * * * * * * * * *









「当たり前だけど、変わってないな」

「一か月だからねえ」


 馬車から外を見て、そんな言葉が落ちた。

 あれから迷いの森は無事に抜けられ数時間、今は既にファメールの町に入って、町外れの道へと突入している。

 もう屋敷はすぐそこだ。


「……なんか一年ぶりくらいに来た気分」

「色々あったからねえ」

「本当、色々なあ……」


 俺は自分の長い髪を撫でては、深いため息をこぼす。

 この一か月ですっかり慣れてしまったこの膝まで伸びた長い髪……屋敷を出た時は腰上ほどの長さだったのだ。

 そのことをついさっき思い出して、今は少し屋敷に帰るのが億劫になっている。だってこんなの見たら親父が黙ってるわけないし!!


 しかしそうこうしているうちに馬車は屋敷の門を通り、庭に入っていく。

 そして……。


「つきましたでお二人とも」

「ついちゃったかぁ……」

「あらあら」


 御者さんが「よいしょ」と御者台から放れ、キャリッジの扉を開いてくれる。

 母さんは御者さんに一礼しながらルンルンと降りていくのだが……ちょっと俺ここでうずくまっててもいいですかね。


「ロディいいいいいいいいいいぃぃぃっ!!!」

「あらあら」


 そんなことを思うのもつかの間……矢先に親父が勢いよく母さんの胸にダイブしてきやがった。

 もう放さないとばかりに見た目二十代の美女に抱き着いている中年親父の姿はもう……変態としか言いようがない。

 母さんも母さんで平静沈着……当たり前のように抱き返し、親父の頭を「よしよし」と言いながら撫でている。


(こ、この隙に……)


 親父が母さんに気を取られている間に屋敷の中へ。

 どうせバレると分かっていても、その時を少しでも遅らせようとして俺の体は動いていく。


「……恵月?」

「ひぐっ!?」


 しかしこういう時にこそ、お約束のように気づいてくれるのだ。

 母さんの後ろをひっそりと通り抜けようとした俺を、その母さんの脇から顔を出した親父がじっと見つめてきている。

 ああ、これから親父が言うであろうセリフが手に取るようにわかってしまう!!

 もう知らん! 罵りたければ罵ればいい!!

 ただその代わり、今ばかりは神樹さまを恨んでも構わないだろうか!?


「……可憐だ」

「…………」



「は!?」


 うん、そう来るとは思わなかった。

 親父は頬を赤らめて、すごくキョトンとした顔で短く「可憐だ」と、そう言った。


「あ! いや、スマン……どうしたんだ? その髪」

「え、えっとこれは……その……」


 思わぬ反応をしてくれた親父に対して俺は少しばかり戸惑ってしまい、毛先を指でいじくり顔を逸らす。

 全く嬉しくはないしむしろこれなら笑ってくれた方がマシとさえ思えてくるのだが、何故だろうか……少し顔が熱くなっている気がした。


「ま、まあなんだ! 立ち話しもアレだからよ、中入ろうぜ。ファルもミァも、もう帰ってきてっからよ」

「う……うん」

「はーい♪」



 * * * * * * * * * *



 それから俺たちは広間で待っていたファルとミァさんに挨拶だけ済ませ、親父の部屋へ赴いた。

 ルーイエの里で起きた事件、そして俺の髪が伸びた原因である樹霊の儀……鍛練の日々。それらをざっと説明し終えると、親父はデスクに放り投げられている一枚の紙きれを手に取り、口を開いた。


「……なるほどな。お前たちと言いファルといい……大変だったな」

「ファルも?」

「何かあったのぉ?」

「ああ。ファルは王都のギルドで変なメモ書きを見つけたらしくてな、それを頼りにお前たち二人が里へ向かう為に使った森へ走ったんだ。そしたら森の中に小型……人間と同じくらいの背丈のドラゴンがうじゃうじゃいたんだとよ」

「な!?」

「それで、ファルのやつは昨日帰ってくるまでずーっとあの森に籠もってたそうだ。おかげでドラゴンは全部狩りつくしたそうだから安心してくれ。あいつも気になるところはあるけどいい修行になったって言ってたしな」

「あらあら、ファル君強いのねぇ」

「オーク瞬殺するヤツだからね……」


 しかしこのタイミングで小型のドラゴンの群れ……確かに気になるところは山ほどある。

 六日後の……討伐するであろうドラゴンと、何か関係があるのだろうか。


「! そうだ、ドラゴンも大変だけど親父、どうなったのさ! 俺と母さんの強制参加の件!!」

「あらー、そういえばそんなこともあったわねぇ」

「いや母さん、他人事みたいに……」


「ああ、その件なんだがな……」


 親父の顔が曇る。

 まあ大方予想はついていたが……そういうことなんだろう。



「手違いでした! ってさ!」

「……え?」

「てちがい?」

「ああ、手違いだ。ギルドに書類持ってったらそれはもう、受付のお姉さん何度も何度も頭下げてたぞ」


 なんでもギルドで俺と母さんがステータスを測った時に、その写しを間違って登録者の棚に入れてしまっていたのが原因らしい。

 それが名簿代わりにもなっていたそうで、書類を作った人間がそのまま名前を入れてしまったんだと。

 全くもって冗談じゃない話だが、それならそれで……ただのミスでよかった。間違いは誰にでもあるもんだし、これ以上とやかく言うつもりもない。


「じゃ、じゃあ……」

「おう! ロディと恵月はこなくて大丈夫だ。どーしてもってんなら連れて行かんこともないがどーする?」

「やめてくださいしんでしまいます」

「はははは、冗談だよ。 ま、オレとファル、それからミァは先に表明しちまってるからどうしようもねえけどな。心配すんな! ちゃんと生きて帰るよ」

「親父、それ死亡フラグ……」

「ぬ」

「大丈夫よー、きょー君が強いのはみれば分かるもの」

「ま、それもそうか。じゃあ大人しく待ってるよ『英雄様』」

「えづ!? お、お前どこでそれ……」

「ハハハハハ―――」


 その後、俺たちは一か月ぶりの会食を済ませた後、各々部屋に戻っていった。

 俺はすぐにベッドに倒れこみ、この一か月での疲れ、それから先に言われた……大討伐隊に出なくてもいいんだという安心感にとらわれ、深い眠りについた。

 そして――。











「……ん」

「……る ……ん」


「ん……?」


 誰かに呼ばれたような声がして目を覚ます。

 明かりのついていない部屋は既に暗く、カーテンをし忘れた窓の外にも灯りらしきものが見えないことから、もう夜が深いのだということが分かった。


「エルちゃん……ごめんね、夜遅くに」

「……母さん?」


「あのねエルちゃん……大事なお話があるの」


 その時の母さんの顔は、暗がりでもわかる程に不安で満ち溢れていた。

お読みいただきありがとうございます!


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