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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter2 〝ルーイエの里と魔法使いへの道〟
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2:22「呪いの一撃」

「な……なん、じゃ……!?」

「…………!!!??」


 何が起こっているのか、エィネの口から動揺の言葉が漏れる。

 後ろから見ても明らかにおかしかった。

 男が半円を描くように降りあげようとしていた腕は半ば……それも動かしはじめたすぐあと、半円のさらに半分も描かぬうちに痙攣をおこしながら止まっている。

 小刻みに揺れる腕はどうにかして動かそうと力が入っているのが見受けられるがビクともしない。不自然に構えたままの体勢からして、腕だけでなく体全体が言うことを利いていないようだった。


 が、好機。

 俺は足を速め、男の脇へと助走のついた渾身の回し蹴りを喰らわせてやる。

 本当だったらこんなチャンス、もっと大きな魔法でも当ててやりたいところだったが、すぐ後ろにエィネがいる。二次被害を避けるためだ、致し方なし。

 おじいさんから受けた力によってどの程度ちからがブーストされているかは分からないが、少なくとも男を蹴り、数メートルほど飛ばすだけの力はあるようだった。


 ……とんでもない怪力である。


「エィネ!! 大丈夫!?」

「あ、ああ。何ともないわい……しかし、あやつは何が……小僧、おんし一体何をした?」

「それが分かったら苦労しないって」

「そ……そうか」

「そうだよ。それから……無理させてごめん、エィネは休んでて。あとは俺がやるから」

「……うむ。すまん」


 エィネの返事に黙って頷くと、俺は向かって右側――男が飛んで行った方へと目を向ける。

 どうして急に男の動きが止まったのかは分からないが、それよりもまずはやることがある。……早急にけりをつけなくては。


(痛い……けど、まだなんとか動ける。)


 手をグーパーと閉じては開いて、体の感覚を確かめると同時に、倒れていた男が起き上がった。しかし先ほどと同じくどこか動きがぎこちなく、度々体をビクつかせては体勢を不安定にさせている。


「ゼぇ……ハァ……ハァ……き、キサマァ……一体、何を……」


 顔を上げた男の形相はすさまじいものだった。

 怒りと不安、そして焦りが全部合わさって、見るに堪えない……いや、こちらも見ているのが辛くなるほどの苦痛がうかがえるほどに歪み切っていた。


 ついさきほどまでとは打って変わって余裕がなく、息を切らしている様子の男。やはり何かがあったに違いない。

 何があったかって、男の言動からしても俺がやったに違いないのだが。


「考えるのは後だ! このチャンス、逃さすわけにはいかない」


 男の動きが鈍っている今しかこれを使うことは叶わない。

 俺は右手に握る杖を正面で構え、左手を右手の甲へとそっと添える。


「ハァ……は……ああ……がああああああああ!!!」


 同時に男が雄たけびを発しながら左手に刃を生成しようと構えた。


「集え 精霊の御霊たち 風神アゼラウスの名のもとに!!」


 杖の先端……光の宝玉が青紫に染まり、あたりの精霊たちがそこへ吸収されるように集まっていく。

 男もゆっくり、少しずつ刃を形作っていくが、身体の痙攣と共に何度も崩れそうになっている。

 他にも右手で顔の半分を覆い、何か隠しているようにも見えるが……?


「幾千の世 斬り払わんとする嵐炎と化せ 慈悲無き刃を 顕現せん」


「荒れよ 狂えよ 破壊を尽くせ 汝諸共 全命ゼンメイを断ち切らん!!!」


「……があああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 俺が発する最後の一文。

 男が発する雄々しい雄たけび。

 二つが重なり、広間に衝撃波にも似た波が走る。

 先程までよりもさらにドスの効いた、赤黒いオーラを放つ紫の刃は先程よりも一回りは大きく、目を血走らせた男は左手に構えた刃を俺に向けながら最後の攻撃を仕掛けてくる。

 俺も男が向かってくるのと同時に、杖へと集めた精霊の力を解放せんとその先端を男に向けて構え―――。




「レインストーム・ディストラクション――――!!!!!」




 目の前が燃え上がる炎のような嵐に包まれ、風の切るような音と共に男の悲鳴が耳に響いてくる。

 力を使い果たしたのか気がつけば俺の膝が地についており、光の杖もローブコートも跡形もなくなっていた。心臓をつく痛みは相変わらずでいつまで意識がもつのか分からない。

 ただただ目の前の光景を目に、男がどうなったのかを――――。


「ごぷっ」

(―――え?)


 不意にあの時と――おじいさんの魔力を受け、吐血した時と同じような感覚を覚えた。

 手をあてがう暇もなく体をやや前傾させると、眼前の芝生が紅く染まっている。

 そしてその視界の中心線を切るように……紫色の刃物が、俺の腹へと向かって伸びていた。

 刃は俺の腹を貫き、傷口から燃えるような熱い痛みが駆け抜けていく。


「がはっ……あ……!!!」


(熱い 熱い 熱い熱い熱い 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!)


 あつ――――。


「……!!」


 思い出したかのように、意識が腹部から耳へと移る。

 俺の放った魔法【レインストーム・ディストラクション】の音が消え、その代りに芝生を踏みしめるような力強い音が耳に入った。そして同時に、俺の腹を貫いていた刃が消えてなくなっていく。


 腹部の痛みと熱に耐えながら顔をあげてみると、そこには血で赤く染まった……ズタボロになった男が確かに立っていた。


「ゼぇ……ゼぇ……ガァ……ハッ……」

「ウソ、だろ……」


 ゆっくりと、着実に。

 男は身体を大きく揺らしながらも、芝生を血で赤く染めながらも、着々と俺の方へ向かって足を運んでいた。

 ほんの数メートルを、永遠にも思える時間をかけて……ゆっくりと。

 俺はそれをただただ見ていることしかできなかった。

 男が再び左手に小さな……小刀程度の小さな刃をどうにかして生成し、逆手持ちにしたそれを俺の頭部てめがけて―――。





「…………そうか」


 刃を振り下ろさんとしている……いや、振り下ろせずに硬直している男を見て、俺の口からその言葉が漏れた。


 男が急に苦しみだしたワケ……それは、俺の先の攻撃【暴食:炎咎之華】によるもの。

 正確には、それにより引き起こされた……全身への【呪い付与】。

 おじいさんからかし受けた力の中に、特殊効果、属性発動率+100%なるものがあった。

 それはつまり、俺がこの世界に生まれ持った特殊効果【呪いの極意】による呪い属性付与が確実に入るということだ。

 実際に呪いというものがどういった効果をもたらすのかは分からないが……少なくとも今現状で考えられるものが他になかった。


 しかし分かったところで、もう俺には抗う手段がない。

 おじいさんの魔力が抜けたということは、俺の物理火力は雀の涙……体を硬直させている男がこのまま気を失ってくれるのを待つしか――――。


「―――あ」



 悔し紛れに視線を右へと逸らした先……すぐそこにあった一冊の本へと、俺の目は釘づけにされる。

 男への攻撃を当てるための犠牲になってもらった……白紙の魔導書。

 疲弊し、今にも倒れそうな男は未だ俺に刃を向けたまま硬直している。先程蹴り飛ばした時もそうだったが、恐らくは俺が直接手を下さない限りこのままの状態になるのだろう。

 この一撃……俺の全身全霊を駆けた一撃が当たれば、流石の男も倒れてくれる……ハズだ。


 俺は力の抜けそうな全身を奮い立たせ、赤い表紙を手に取り、ふらつきながらも立ち上がる。

 そして足腰へ精一杯の力を―――大きく足を開き、両手に持った魔導書を頭の上に構え――――。



「はあああああああああああああああああ!!!!」





 ―――ゴツン!!!!





 一番痛い……この分厚い本の角を、思いっ切り男の頭へと叩きこんでやった。


「レ…………ラ……」


 男はそう呟きながら小刀サイズの刃を魔力の光へと霧散させ、頭を打たれた勢いのままに倒れる。

 それと同時に全身からスーッと力が抜け、俺はその場に同じくして倒れこんでしまった。

 今外がどうなっているのか……母さんとアルトガさんは無事なのだろうか……火はどうなっているのだろうか。

 男との戦いが終わった後になって、あらためて不安が色々と頭を駆け抜けていく……が、身体はもう一切の言うことを聞いてくれない。


「…………」


 ……やることはやった。少しくらい、休んでもいいだろう。

 そうして大の字になった俺の体は空を仰ぎ見ながら、達成感と不安を共に……意識を手放していくのだった。

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