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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter2 〝ルーイエの里と魔法使いへの道〟
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2:8 「緑髪超ロング はじめました…」

「な……な……」


 なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああ!!!???

「なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああ!!!???」


 か、髪が……髪が重い……気がする!

 待って、元は確か腰よりちょっと上っくらいまでの長さだったよね?

 それが膝上まで伸びたって!?

 何十センチ伸びてるのそれ!! ていうか……。


「エィネ! 髪の長さ変わんないんじゃなかったのかよ!?」

「う、うむ……平常時の長さは変わらんはずなんじゃが……なんでかの?」

「不思議ねぇー……でもいいんじゃない? お母さんは嬉しいわよー♡」

「俺が嬉しくないんだっての!!!」

「あらー」


 あらーじゃなくて!

 今までですら面倒だったというのに……エィネは本当にわからないっぽいし一体どういう……。


「はー……せめて元の長さまで切ろうかな……」

「それは無理じゃぞ」

「……なんですって?」

「そーなのー?」


 俺が自身の力を落とすことを覚悟してまで呟いた一言は、エィネの一言でいきなりぶった切られる。

 エィネは母さんになにやらぼそぼそと耳打ちすると、母さんは少し戸惑うようなそぶりを見せて言った。


「本当にいいのぉ……?」

「心配ない。見せた方が信じるじゃろうて」

「じゃ、じゃあ……」

「小僧、じっとしておれ」

「は!? 何!!?」


 俺の疑問への答えが帰ってくることはなく、母さんは「えい」と指先を俺に向かって向けて見せる。

 すると次の瞬間、俺のライムグリーンの髪の毛が風に飛ばされていく様が目に入った。

 見ると俺の髪の毛は元の長さ……腰のあたりまでバッサリと切られており、切り口が綺麗な直線を描いていた。


「な、なんだよ……切れるんじゃないか!」

「あら? これもこれで可愛いわねぇ♡」

「そうじゃな、切れることは切れる。髪の毛じゃしな」

「じゃあなんで無理なんて……―――うぐっ!?」


 唐突に頭にとてつもない不快感を伴い、足元の芝生に膝をついてしまう。

 それを抑えるように必死に頭を押さえるが、それから数秒ほどできれいさっぱり不快感は消えた。

 一体何だったのかとエィネの方へ顔を向けると、彼女は自身の下……足元を指し示すようにしながら「見てみぃ」と一言だけ俺に言った。


「見てみって、何……を……お?」


 芝生とさっき切り落とされた髪の残骸……だけじゃない。

 あきらかに髪の毛の割合が増えていた。

 出どころは当然、俺の頭。


「え、えっと……これはつまり……?」

「わしらにとって髪は重要な器官の一つじゃ。切ってもそうやってすぐ治ってしまうんじゃよ。最も、先のおんしのように、相当の不快感を伴うがの」

「……まじかよ……あ……あははは……はは……」


 笑えない。

 それってつまり万事休すってことじゃないか……。


「ま、受け入れるんじゃな。何事も慣れじゃよ」

「そ、それはそうだけどさぁ……」


 大きなため息をこぼしながら、芝生を散乱する髪諸共にぎりしめる。

 受け入れるしかない。

 ほかの選択肢がない以上仕方がないとはいえ……せめて納得の行く説明が欲しいところである。


「はぁ……参考になるかは分からんがな、一応わしも伸ばせないことはないんじゃぞ」


 不意に、そんなエィネの御情けと言わんばかりの一言が耳に入った。


「ど、どういう……」

「本気を出した時じゃな。どういうわけかわしの髪もおんしらくらいの長さまで伸びるんじゃよ。本気の本気……100%を発揮した時だけな。わしとて、力なくして長になたわけではないからの……じゃが見てわかる通り、契約時におんしのようなことは起こらなかった。実際、おんしのような事例は聞いたこともない。微かに混じっておる人間の血が、何か関係しておるのかもしれんの」

「は……はぁ……」

「ロングのえいちゃんかぁ~」

「だからえいちゃんはやめいと……まあいいわい。契約は済んだんじゃ、いつまでもこうしてるわけにもいくまい。一旦外に出るぞい」

「……うん」


 いまいち釈然としない。

 モヤモヤとした気持ちを抱えながらも、確かにじっとしていても仕方がないと、俺は重い腰をどうにかあげる。


「……やっぱ重い」

「大丈夫ー?」

「大丈夫! 行くよ!」


 そんなモヤモヤを母さんに押し付けるかのように、少し強めの言葉をかけてから出口へと向かってエィネの後を追った。

 悪いことばかりじゃない。

 こうなったメリットだってそれなりにあるはずだと、自分にそう言い聞かせながら。




 * * * * * * * * * *



「え、えっと……?」

「あらあらすごい人ねー」


 神樹さまの外へと戻ってきた俺たちを出迎えたのは、老若男女……このルーイエの里に住むエルフたち数十名。

 まるで抗議でもせんとばかりに、俺たちが出てくるのを待ち伏せていたのだ。



「水臭いですよ長様、皆に黙って樹霊の儀を済ましてきてしまうだなんて」

「そうです! 私たちだって楽しみにしてたんですよ!!」

「精霊たちもここ数日落ち着きなかったですもんねー」


「お、お前たち……だからと言ってそこで待ち伏せるのは落ち着きがなさ過ぎじゃろう……?」


 そんな彼らの声に、エィネも少しばかりたじろいながら答える。

 どうやら俺たちがこの里に来てかからまだエィネ以外の里人の一人足らずとも……母さんとすら顔合わせをしていなかったらしい。

 まあ里に来ているのが分かっていて三日も焦らされていたらと思うと……無理もないのではないだろうか。

 まるで注目の転校生にでもなった気分だ。


「医務室には誰も入るなーって仰ったのは長様ですよ! 私たちだって早く会いたかったのに!」

「まぁまぁ落ち着かんかい。終わったら順番に紹介していくつもりだったんじゃ」


「……なんかえらい歓迎されてるね、俺たち」

「そーみたいねぇー、なんだか嬉しいわぁー♪」

「他の里は知らんが、うちは比較的よそ者にも寛容な方じゃからのう……」


「で! で! どっちがメロディアちゃんで、どっちがエルナちゃんなんですか!?」

「ふぇ!?」

「これこれ! 落ち着けと言うとろうに!! ……背が高くて赤目の方がメロディア、低くて紫目の方がエルナじゃ。ちなみに二人とも『視えた』ようじゃぞ」


 視えた。

 エィネのその言葉を聞いたとたん、その場にいたほぼ全員がざわざわとし始める。


 おじいさんが言っていたアレのことなのだろうか。

 確か700年ぶりなんだっけ……?

 この里の平均年齢がどんなもんなのかは見た目じゃ全然わからないが、見る限り本当に珍しいものだったらしい。


「す……」

「す? ――うっ!?」


 里人たちの一番前列にいたそれなりに大柄……本当にエルフかというくらいのガタイのいいおっさんが俺たちの前まで出てくる。

 そしてそのまま俺の両肩をガっとつかみかかって、何やらものすごい形相で顔を見つめてきた。


「え……えっと……」

「すっげえええええええええええええええ!!!!」

「ふおおおおあああ!?」


 たかいたかーい!!!

 じゃない! なんで!? いきなり何するのこのおっさん!?


「長様! こりゃ今日は宴だよな!! 俺も手伝うぜ!」

「あらあらまぁー」

「はぁ……『アルトガ』、わかったから放してやらんかい……流石に舞い上がりすぎじゃぞ」

「だってよぉ! 賢者がこの里から二人……いや三人も出るかもしれねえって思うと……なぁ!!」

「なぁじゃないわい、小娘どもはともかく、わしはそんなつもりないからの! ほれ! 降ろしてやりんさい!!」


 なんか思ってたのと全然違う……!

 いや、いいんだけどね!?

 母さんはなんだか嬉しそうにしているが、俺はこの歓迎ムードにすっかり圧倒されていた。

 俺の中での硬派なイメージなどいとも簡単にぶち壊していき、里の広場はどんどんと宴モードへと移行していく。

 長テーブルがいくつも用意され、それはそれは豪華な食事まで食べきれないほどに出され、まだ昼間だというのに里の中はどんちゃん騒ぎ。


 圧倒されていた俺も、そのもてなしを受けているうちに、祭りの雰囲気の中へと没頭していく。

 特に誰かと積極的に話したりということではなかったが、さっきのごつい人……アルトガには気に入られてしまったようで、向こうからは酒を勧められたリ(断ったが)、もっと食えと勝手に肉や山菜を盛られたりしていた。


 エィネは終始頭を悩ませていたようだが、途中からはあきらめてヤケ飲みしはじめ、それはそれは大変なことになった。

 具体的には言えないが、彼女に酒を飲ませてはいけないと、その場の誰もが痛感したことだろう。

 母さんは流石の順応性で既に里の人気者……里人の名前ももう全員覚えたといか……。


「どしたー! ほれ、この森イノシシもうまいぞー!」

「ははは……じゃあ、いただきます」

「おう!! 宴はまだまだ続くんだ! たんと食えー!!!」


 おじいさんが言っていた通り、ハーフだからとかなんとか心配に思っていた自分が馬鹿らしく思えてくる。

 それほどに暖かくて、優しい空間だった。


 明日からはきっと厳しい鍛錬の日々が始まるのだろう。

 樹霊の儀はただ精霊の加護を受ける契約を結んだだけ。実践的なものは未だ一切進んでいないのだ。

 まずはちゃんと精霊の力を借りれるようにして……それから術式だっけ? それも覚えないといけないのだろう。


 既に時間はあと30日を切っている。

 俺は明日への覚悟を胸に、皿に盛られた肉を口いっぱいに頬張った。

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