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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter5 〝キミと伴にあるために〟
202/220

5:59「ドラゴンスレイヤー」

「な……何が」


 何が起こったと言うのか。

 不意に目の前から消えたドラゴンを追い、ゆっくりと首が左を向く。

 砂煙が立ち込めるその場所には、吹っ飛ばされて横たわるドラゴン……そしてその足元へ立つ、小さな影。


「あれは……?」

「ラメール様! ドッソは!? ドッソは大丈夫なのですか!?」

「ス―レン……そうだった!」


 岩陰から走り寄ってくるス―レンが、この隙に乗じてやってきた。

 何処の誰かは分からないが、助太刀してくれると言うのであれば、これに乗じない手はない。一刻も早くドッソの応急手当だけでもしておかねば。


「傷の深さまでは見えないが、時間が無いのは確かだ……ひとまずは出血だけでも何とかしないと。ス―レン、運ぶのを手伝ってくれるかい」

「も、もちろんです! 急ぎましょう」


「もう一人、助けは必要ですか?」


「「――!?」」


 ドッソの処置をするため、先程ス―レンを運んだ岩陰へ行こうとしたその時。

 背後から何者か、確かに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 一体何がどうなっているのか、本当に理解が追いつかない。なぜならその声は、ここで聞こえてくるはずのない声だったからだ。

 そう、この声の主は――。


「アー……ちゃん!? どうしてここに、しかも血だらけじゃないか!」

「話はあとです。ドラゴンはのーのちゃんに任せて、今は剣士さんを」

「何!? のーのちゃん!? ……いや、言う通りにしよう。スーレン」

「はっ、はい!」


 アーちゃんの手も借り、ボクたちはドッソを岩陰へと運んでいく。

 砕けてしまった鎧を脱がしてみると、下に着ていた鎖帷子も前面の多くが引きちぎられており、カギ爪をたてられた場所だけでなく、ちぎられた際に鎖がめり込んでしまったであろう肩からもダラダラと血が流れ出ていた。

 かろうじて息はしているものの、既に時間の問題。応急処置をしたところで

時間を稼げるかも怪しかった。

 それでもやらないよりはと、携帯していた消毒薬と包帯を出し合い、ドッソの体へ巻き付けていく。


「どうか、頼む……外に出るまで、持ちこたえてくれ……!」

「祈るしかないですね……後は剣士さんと、皆さん次第でしょう」

「皆さん? そうだ、アーちゃんは何故ここに!?」

「そうですね。でもまずは、あちらが片付いてからです」


 あちらと言いながらアーちゃんが顔を向けたのは、たった一人でドラゴンと戦い続けているのーのちゃんの方だった。


 同時にボクは唖然とする。

 何時間も戦って全然消耗させることのできなかったドラゴンの額から、だらだらと真っ赤な液体が流れ出ていることに。


「本当に、何がどうなっていると言うんだい……あの子は八歳の女の子だろう? 英雄殿が強く言うもんだから戦力として数えはしていたけど、あれは異常じゃないかい?」


 振るった斧による重心の変化さえも当たり前のように使いこなし、ドラゴンを翻弄している姿は、まるで野生に生きる狩人のようであった。

 それも幾多もの視線を潜り抜けてきた、歴戦の猛者と言って違わぬほどの。いくら天才児だとは言え、到底八歳の子供ができるような芸当だとは思えなかった。


「ラッ君が言いたいことはわかりますよ。私も同じ思いをしたばかりですから。それでですね、ちょっと〝視て〟みたんです。のーのちゃんのこと」

「視てみた……?」

「鑑定系のスキルです。職業柄、オーダーを受けた時にこっそり視たりするんですよ。お客さんの能力が分かれば、それだけ要望にも応えられるってもんですから。例のバングルみたいに全部丸わかりってわけじゃないんですけど」

「またそれは、珍しいものを持ってるんだね……それで、何が出たと言うんだい?」

「竜殺しです」

「……何?」

「正確にはドラゴンスレイヤーと読みます」

「読み方は聞いてないよ! その能力は!」


 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 その名の通り竜族に対して圧倒的な力を誇り、自身の身体能力をも大きく底上げする特殊能力。

 賢者と並び伝説とすら言われるその力は、ある一つの物語として語られている。

 大昔――大空をドラゴンが闊歩し、支配していた時代。

 彼らの圧倒的な力を以って世界中を侵略せしめんとしていた、災厄の時代の物語。

 その物語に出てくる英雄こそが、竜殺しの異名を持つ騎士レヴァル。


 教科書にも載っている伝説の騎士が有していた、当時から現在に至るまで、彼ただ一人だけが有していた力こそが、【竜殺し(ドラゴンスレイヤー)】という異能だった。


「私も自分の目を疑いましたよ。でも間違いないです。ここまでこれたのも、のーのちゃんの〝鼻〟があったおかげですから」

「竜族の匂いをかぎ分ける鼻、か。……きっと、将来は美しい女性に育つだろうに。ああ、なんたる運命か」

「ム。ラッ君、今下心が出てましたね」

「ラメール様! 今はそのようなことをおっしゃっている場合では!」

「えっ!? そんなワケ…………いや、すまない。こうでもしていないと、もう色々と参ってしまいそうでね……本当にすまない」


 何かに気を逸らしていないと、自虐の念に駆られてどうにかなってしまいそうだった。

 ボクが今向かって行っても、助けるどころか足手まといになってしまう。

 ただ見ていることしかできない自分が、嫌で嫌で仕方がなかった。


 そうこうしているうちにも、ドラゴンの体には次々と傷が増えていく。

 アーちゃんを見る限り、彼女たちも戦闘を越えてきたに違いない。

 疲労も溜まっているはずだ。

 しかしそんな事は全く感じさせないほどに、のーのちゃんはドラゴンを圧倒していた。


 よくよく見ていると、ドラゴンの方もどこか様子がおかしいような気はしてくる。

 ボクたちとやっていた時と違い、ドラゴンはどこか恐怖しているように見えたのだ。 

 竜殺したる彼女が圧倒するのはまだ納得した。だがそれでものーのちゃんはまだ子供だ。

 子供でそれほどの力を誇っていると言う事ではあるのだが、それにしたって一見してただの子供である彼女に、ドラゴンが恐怖を抱くとはどういうことか?

 そこがどうにも腑に落ちなかった。


 動きにも先ほどまでの鋭さが無く、迷いが浮き彫りになっている。

 そこを何度も付け込まれ、致命傷を負ったドラゴンはとうとう膝をつき、ドスンと大きな音を立てながら横転した。

 ピクリともしなくなったドラゴンは、しばらくするとキラキラと光の粒子となってい消えて行った。


「やった……のかい?」

「ううん、まだ」


 息一つ切らさずに、我々の元まで走ってきたのーのちゃんは、そういって首を横に振った。

 本当に、何事もなかったかのようにけろっとした顔をしている少女を前に、ボクは無意識のうちに後ずさってしまう。

 そして一歩。隙間が空いたその場所にを隠すかのように、アーちゃんが前に出て口を開いた。


「のーのちゃん、お疲れ様です。任せちゃってごめんなさいです」

「いいの。どらごんさんなら、ののにお任せ。一度勝ったどらごんさんに、ののは負けない」

「一度、勝った……?」

「とすると、先ほどの幻獣がコロセウムで戦ったって言うドラゴンだったんですか」

「そーそー」


 コロセウムで一度戦った……?

 そういえば、そんな話を聞いたような気もする。

 この異空間の情報も、その時の経験からもたらされたものなのだから。

 そうか、一度戦って負けた相手だったから、あのドラゴンはのーのちゃんにおびえていたのか。

 ……と、自分を納得させようとして、少しばかり思考するのだが、一度見てしまった異常なものを考え直そうというのは、正直かなり難しい。


 そんな時、ボクの手が震えていたことに気が付いたのか、アーちゃんがこちらへ振り向くと、にこりと微笑みながらこう言った。


「ラッ君、肩の力抜いてください。気持ちは分かりますが、見ての通り普段は何の変哲もない、可愛い普通の女の子なんですから。それとも、ラッくんはレディにそんなみっともない顔を見られたいんですか?」

「っ……痛いところを突いてくるな、アーちゃんは」


 それも言われてやっと気が付いたんだけど……ごまかしがきかないほど、頬が引きつっていた。

 本当にみっともない。

 今までの、エルナさんと出会う前のボクが今のボクの顔を見たら、反省文を原稿用紙十枚分は書かされただろう。

 言う通り、こんなところをレディたちに見られてしまうというのは、本当に情けなくて、失礼なことだ。

 それに、ボクはこの作戦に参加している全員の統括役でもある。

 せめて表面だけでも、もっとしっかりしないと……か。


「すまない。ありがとう、アーちゃん……話を進めよう」

「了解です。剣士さんのこともありますし、手短にお話しましょう。まずどうして此処に私たちがいるのかです」




「私たちが渦から入ったこの異空間……おそらく今現在、四つの空間全てが統合され、一つの大きな空間になってしまっているのだと思います」

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