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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter5 〝キミと伴にあるために〟
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5:31「再会と急成長」

「よく来たの、小娘。小僧も元気そうじゃな」

「えいちゃん久しぶりぃ~!」

「うん。久しぶり」


 迷いの森を抜け、エィネが里の前で俺たちを出迎えた。

 三日前、ラメールから情報が入ってすぐに、俺たちは魔導書簡を使ってエィネに連絡を入れ、ここで再び修行をすることになった。

 迷いの森の件は自分の中でも中々トラウマとしてまだ残っているらしく、無事に抜けることができて心底ほっとしている。


 で……それはそれとして。

 挨拶を済ませるや否や、エィネが俺のことを不思議そ~な目で見つめてるんですが。ほっぺにご飯粒でもついてます?


「何?」

「小僧。おんし、ちと雰囲気変わったの」

「あー……そ、そう?」

「うむ。何となくじゃがの」


 エィネと最後に会ったのは、グレィを執事として迎え入れることになったあの日以来だ。

 その頃から何か変わったかと言われれば心当たりがありすぎるくらいなのだが……ぱっと見でわかる違いだとなんだろう。

 ……胸?

 そうか、あれだな。幼児体系なエィネさんはその辺のセンサーに敏感なんだな。それは仕方がない。


 そんなことを思いながらエィネに何となく生暖かい視線を送ると、なぜか苦虫を現在進行形ででかみつぶしたかのような、ものすごく嫌そうな顔が返ってきた。


「――さて、ここで話し込んでおっても仕方あるまい。事情は粗方聞いておる。賢者の試練を受けるのじゃろう? まったく、キョウスケも無茶を言うもんじゃ……ついて参れ」


 しかししかし、嫌そうな顔もそれどころではないと話を次へ進めるエィネ。

 俺たちは言われた通り、小さな背中の後ろをついて行く。

 目的地は神樹さまのご神木がある、以前俺と母さんが樹霊の儀を行った場所だ。

 そこまでに何人か里の人たちとすれ違ったのだが、俺たちが来ることを知っていたのか、そこまで驚くような反応をされることはなかった。

 軽く手を振ったり挨拶をしたり。

 そんなこんなで大樹の根元までたどりつき、その先の狭苦しい道を懐かしい思いに浸りながら進んで行く。

 するとその先には――。


「お、来たの」

「――!」

「あらあらぁ?」


 なんだか見覚えのある顔……しかしルーイエで知り合ったのではないはずの人がそこにいた。

 長い銀髪を腰のあたりで折り返し、うなじの辺りで更に結い返し、それでもなお地に着くほどの、俺や母さんも顔負けの長すぎる髪の毛。

 神々しささえ思わせる巫女服に身を包んだそのエルフのお姉さん。この人はそう……普段は獣人に扮して隠居しているはずのあの人だ。


「シーナさん! どうしてここに」

「わしが呼んだんじゃよ小僧。賢者の試練は、現役の賢者が直々に監督することになっておるからの」

「エィネよ、わしはもうほとんど引退した身なのじゃが……あの英雄めが抜け目なくてのう。わしと知り合いだと言伝しておったそうで、それを聞いたこやつが精霊まで使って呼びだしおったんじゃよ」

「精霊を?」

「精霊を使った伝言ゲームみたいなもんじゃ。距離があると多少精度は落ちるがの、一つ覚えておくといい」

「ほぉ……」


 話を聞くに、エィネはシーナさんのことを昔から知っていたということになる。

 エィネも賢者の素質を持っているとのことなので、もしかしたらその関係で面識があったのかもしれない。

 しかしなんだ、この二人喋り方がそっくり過ぎて微妙に頭が混乱する。

 そりゃ二人ともいい歳してるだろうし、老婆口調なのも納得は出来る。でもぱっと見小学生とお姉さんだぞ。違和感ありまくりである。


 ……いや待てよ?

 エィネとシーナさんは知り合いで、エィネはこれでも齢七百を越えている。

 そしてシーナさんは今こそ隠居()生活を送っているが、二人はかなり関係が深い様にも見える。

 となると、もしかしたら……想像レベルの話ではあるが、その昔エィネの面倒をシーナさんが見ていて、そのまま口調まで移っちゃったなんてこともあるんじゃないか? 知らんけど。


「長様、持って来たぜ」

「んっ?」


 若々しい老婆を見ながら変な想像を膨らませているところに、これまた聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。

 何かと思い振り向いてみると、手首サイズのバングルを二つ持った、見た目武闘派な男性――以前俺の特訓を見てくれたアルトガさんがやってきていた。


「アルトガさん!」

「おっすエルナ、元気してたか?」

「はい!」


 俺の返事に、ニコリと曇りのない笑顔と共に頷いて返してくるアルトガさん。

 彼は俺と母さんにそのバングル――アプティチュードバングルをひとつずつ手渡して、エィネの隣に立つ。


「再開を惜しんでる暇はないぞい。二人とも、そいつの使い方はわかっておるな」


 試練の前に今の力を測っておこうということだろう。

 俺はこくりと首を縦に振り、右腕にバングルを装着する。


 そうして可視化されたステータスに目を通すと――俺はいつの間にか、顔をめいっぱい引きつらせていた。



 名前:エルナ・レディレーク

 種族:ハーフエルフ

 性別:♀

 職業:冒険者(魔法使い)

 ――――――――――――

 基礎レベル:35    / 50

 生命力  :934   / 2500

 精神値  :8656  / 5000

 魔力値  :32498 / 9999

 ちから  :20    / 2500

 素早さ  :200   / 250

 知力   :780   / 5700

 運勢値  :21    / 255


 物理適正値:1008

 魔法適正値:42134

 属性特性 :炎 風


 備考   :【賢者の素質Ⅱ】精神値、魔力値、知力(最大値)に+50%

       【精霊の加護】魔力値+1000

       【混血】魔法取得レベル補正+10

       【呪いの極意Ⅳ】呪い耐性値100%・すべての物理、魔法攻撃に呪い属性付与15%(スキル解除、解呪可能)



「な、なにこれ……」

「エルちゃん、どうしたの?」


 レベル35!?

 呪いの極意Ⅳ……しかもこれの解除と、解呪可能?

 ちょっと待てよ、なんだこれ……俺、討伐隊の時以来戦闘らしい戦闘なんてこの前のヤマダ戦くらいだぞ? しかも負けたし。

 いくらなんでもこれは……


「あらあらエルちゃんすごいじゃないのぉ~!」

「いやいやおかしいって! バグってない!?」

「「バグ?」」


 明らかにおかしい。

 そう思って母さんと交換してみたが、出てくる数値は同じ。

 見た限り母さんの方はこんな大きな変化は無いようだし、バグっている……故障しているということはなさそうだった。

 つまり今の俺のレベルは本当に35で、呪い関係の力が意外と制御できるようになってて、力と運がちょっと上がってるってことになる。

 12だった力が20になったところでたかが知れてるが、運が7から21に……3倍になってるのは地味に嬉しいような……いや、誤差の範囲か。


 そういえば、精神値も前は振り切れてはいなかったような……? ってかこの右の表記が当てにならなさすぎる。こうも簡単に振り切れてちゃあ意味がない……それとも普通はそんなことにならないのか?

 とにかく意味が解らない。


「小僧。おんし最後に測ったのはいつか覚えとるか?」

「えーっと、確か冒険者登録するときだけど……でもあの時はちゃんと数字見てなかったから前にここで測ったのが実質最後かなあ」

「フム」

「何か心当たりでもあるの?」


 俺がエィネにそう問いかけると、エィネははっきりと首を縦に振って俺の顔を見る。


「〝愛の力〟じゃな」

「ぶっ!?」


 目を見て、しかも真顔で愛の力などと口にする姿に思わず吹き出してしまった。

 いやまあ、それだけじゃないんだけど……ああ、考えるとちょっと顔が熱くなってきた。


「む、小僧。その反応は心当たりがあるな?」

「ふえっ!? ななななな何を」

「わっっっかりやすいのう……ま、冗談じゃが!」

「いい加減にせえよこのロリっ子ぉ!!!」

「そう怒るでない。老けるぞ」


 うるせえよ!

 その悪戯顔をやめろ!

 でもいう通りだから何も言い返せないのがめちゃくちゃ悔しい。

 そうだよ! 図星ですよ!

 そのために今こうして戦おうとしてるんですからぁ!

 くそう……本当に、本当にいつか見とけよロリBBAめぇ……。


「まあ、愛の力というのもあながち間違ってはおらんのかもしれんがな。おんし、竜王の奴と接吻したことは覚えておるな?」

「んぶっ!? ……う、うん」


 今グレィの事出さないで!

 しかもファーストキスの時の話だし、余計に顔が熱く……まあ、二回目のことはまだ知られてないからその分マシ……なのか?

 しかしなんでまた。


「それだけが全てではないじゃろうが、その時に何か特殊な変化があったのは間違いないじゃろう。あと考えられる事と言えば、特殊な魔力による突然変異……あとは大きな心境の変化といったところじゃろうか。後者は迷信紛いではあるがのう」

「…………」


 ……ごめんなさい、心当たりしかないです。

 グレィとのキスが二回。その時の特殊な変化というのが何なのかはまだわからないが。

 特殊な魔力と言えば、元の身体を取り込んだ時に、魔鉱石の魔力が多少なりとも俺の身体に入り込んだ可能性が否めない。

 心境の変化なんてそれこそ言い逃れできないレベルだ。


 結局俺はこの後、討伐隊後からこれまでにあった事をエィネに打ち明ける羽目になったのでした。

 その時のエィネの表情と言ったらそれはもうこれ以上ないくらい嬉しそうで……辛いです。

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