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TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?  作者: かんむり
Chapter4.5 〝隣海の夏と旧知の竜〟
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4:30「隣海の夏と旧知の竜 3」

「シーナさん何やってんですか!」

「ム。その声はエルナか? ちょっと待っておれ。見ての通り忙しい」


 シーナさんはこちらを振り向くこともなく俺へ言う。

 淡々と焼きそばを焼き、やけにしっかりとした皿へ盛り、群がる客へ売りさばく。

 そういえばこの人山の上でお店やってるんだったっけ……てそんなことはどうでもいい!

 この屋台が元からあったかどうかは知らないが、何でこんな事をしている!

 材料どこから持ってきた?


「何だ恵月、知り合いか?」

「えっ? えーっと、何て言うか……」


 俺の後に続いて屋台をのぞき込んでいた親父の問いに、何と答えたらいいのかわからずに口ごもる。

 目の前で汗水たらしながら手を動かしているのは、獣人族の老婆『シーナ』ではなくエルフの美女賢者『アリュシナ』だ。

 隠居してるって言ってたし本当のことを言ってもいいのか否か……つーか隠居するための幻ならなんで解いてるんだよ。


「後で説明するから待っておれい!」

「ぬ? あ、ああ。それなら……あ! オレたちの分も焼きそば残しておいてくれると助かる!」

「わかっておるよ!」

「……ちゃっかりしてんなあ」


 シーナさんと親父が互いにグーサインを送り合い、どれくらい待たされただろうか。

 そろそろ空腹が限界を迎えようとしたいたところで、ようやく屋台に集まっていた人が掃けたのか、シーナさんは大きく体を伸ばしてから俺たちの方へ振り向く。

 そして親父の注文通り俺たち全員分の焼きそばを用意すると、あらためてこちらへやってきた。


「いやぁ繁盛したわい。待たせたの」

「あらおいしそぉ~♪」

「ありがとうございます! えっとお代は」

「あーあーお代はもういらんよアリィ嬢」

「ふぇっ?」


 シーナさんに名前を呼ばれ、アリィは驚きを隠せない様子。

 隣に座るリリェさんもまた同じく。

 どうやら昔から面識のある彼女らですらも、シーナさんの本当の姿は知らなかったらしい。


「誰です……?」

「わしじゃよわし。おぬしらをここに連れてきたシーナじゃ」

「「…………は!?」」

「はははは……まあ、そうなるよね。てか言っていいんかい」

「まあ、おぬしらなら大丈夫じゃろ」


 会ってからまだそんなに経ってないんですが何その厚い信頼。


 シーナさんは獣人の姿に戻ると、先に俺に明かしたことの後、こんなところで屋台をやっていた理由を話した。

 と言っても、単純にそこそこ稼げそうだったからというだけらしいが。

 道具は即席で作ったり、【転移(テレポート)】を用いてこちらに召喚したりして見繕ったらしい。

 ちなみにエルフの姿を用いたのは客寄せに便利だからだと。まあ、確かにそういう意味では有用なのかもしれないが……


「幻で姿変えられるんなら、もっと別の姿でもよかったじゃないですか。その姿を隠すためのモノなのに、なんでわざわざ……」

「こっちの方が人が寄ってくるじゃろう!」

「シーナさん、本当に隠居したいんですか……?」

「それはそれじゃ」

「はぁ……」


 説得力ゼロである。


「ま、もうわしを詳しく知っておる者なぞそう多くはない。多少は問題なかろう」

「私も初めて見ましたよー! シーナさんそんなキレイな人だったんですね!」

「わ、私もびっくりです……」

「アリュシナ……聞いたことはある」

「あら、グレ君ものしり~」

「伊達に300年も生きてはいない」

「オレも文献で名前を見たことがある程度だな。確かアリュシナって賢者が名を馳せたのってもう数千ね――」

「おっと英雄の小僧。その話はそこまでじゃ」


 数千年――おそらく親父はそう言おうとしたのだろうが、言い切る前にシーナさんが話を途切れさせる。

 しかしその直後、シーナさんは用意された椅子に座る俺たちを見て、首をかしげながら大変なことを口にした。


「おぬしら、もう一人小さなおなごと、メイド服のおのこがおったじゃろう? あやつらは何処へ」

「「はっ!?」」


 小さな女の子。

 メイド服の男。

 この場でそんなのはののとミァさん以外にあり得ない。

 シーナさんの口からその言葉が出るまで、誰一人としていなくなっていたことに気が付かなかった。

 だがしかし、確かに一緒にこの屋台までは来ていたはず……一体いつから?


「なんでまた……」

「さあな。ミァのことだ、のーのちゃんと離れ離れってことは無いと思うが」

「ミー君だったら、どこか行く前に一言残すわよね」

「ああ」

「何か言えない理由でもあったんでしょうか?」

「言えない理由……?」


 何かあったんだろうか。

 仮にあったとして、ミァさんは黙っていなくなるだろうか?

 それもののと一緒に。

 のの――あの子もあの子で、初めて会ったときからよくわからないことをする子だが……。


「そういえば、のの……」


 例の大きな音。

 あれが何もないと分かっても、それからしばらく東の方を見つめていた。

 それはもう気になって仕方がないと言わんばかりに。

 もしかして、何か関係があったりするんじゃないだろうか?


「東……あの岩柱の方に行った……?」

「何?」

「エルちゃん、どういうこと?」

「さっきの音騒ぎの時。ののはずっと向こうを見てた。ミァさんが黙っていなくなった理由は分からないけれど、ののが行くとしたらそこかなって……」


 確証はない。

 だが子供は待ちきれない生き物だ。

 とことこ行ってしまったののを追いかけるようにして、ミァさんも慌てて何も告げずに……なんてこともあるかもしれない。

 どうあがいても想像の域を出ないが、有り得ないことでもない。

 今は小さなことに縋りつくしか……。


「手掛かりはそれだけか……仕方ない、手分けして――」

「東端の岩柱か。ちと待っとれ」

「シーナさん……?」


 再び親父の言葉を遮るようにして、シーナさんが立ち上がった。

 すると彼女は俺が言った東の方角を向くと、瞑想でもするかのようにじっと目を閉じる。

 時間にしてほんの数秒足らず。

 シーナさんはそのわずかな間だけ目を瞑った。そして開くと同時に、何か分かったと言いたげな表情をしながら、俺たちの方へ向き帰った。


「ふむ。確か人間は二人おるな。それ以上のことは分からんが」

「本当か!?」

「ど、どうやって……!」

「なに、少し気を探っただけさね。人間の出す気は独特じゃからの。すぐにわかる」

「……そういうもんなのか?」

「さあ~」


 親父がシーナさんと同じエルフである母さんに聞いてみるが、その反応は言わずもがな。

 続いて俺にも顔を向けてくるが、「まさか」と首を横に振る。

 つか分かったらこんなことにならないっての。


 しかしこれで一歩前進。

 その二人とやらが本当にののとミァさんかはわからないが、真偽行ってみればわかることだ。


「ふむ……よし! そうと決まれば善は急げだ。何があるかは知らんが、一応身構えて行くぞ!」

「「おお!」」


 まさかこんなことになるとは。とため息でもつきたいところであるが、今は先に二人を探し出さなければ。

 こうして俺たちは意気込み新たに、ハルワド海岸の東端へと駆けだしていったのだった。



 * * * * * * * * * *



「……匂うな」

「グレィ?」


 海岸をひたすら東へ。

 何重にも、50メートルは続こうかと言う岩のアーチの中腹辺りまで来ると、グレィがぼそりと呟いた。

 俺には海岸特有の潮の匂いしかしないのだが、ドラゴンの鼻が何かを察知しているのだろうか。


「どした恵月。何かあったか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど」

「あ! みんな見て!!」


 母さんが叫び、指さした先。

 岩のアーチが終わりを迎えるその場所には、俺たちが探していた二つの人影があった。


「のの!」

「ミー君!」

「――――!」

「な……キョウスケ様、皆様まで!」


 俺たちが呼びかけるとののとミァさんはこちらを見るが、どこか様子がおかしい。

 ののはなんだか深刻そう……とまではいかないが、いつもよりも表情が陰って見える。その傍らにいるミァさんは懐からナイフを取り出し、どういう訳か臨戦態勢を取っていた。


「お、おい。一体どういう――」

「おじさん、まって」

「のーのちゃん……?」


 親父が真っ先に二人の元へ駆け寄ろうとすると、珍しくののが自分の意思をもって言葉を発する。


 明らかに何かあがある。

 そんなピリピリとした空気に、俺も思わず息を呑んでしまう。

 俺の隣を行っていたグレィも表情を険しくして、俺よりも一歩前へ出て行く。

 一体何が待ち構えているというのか……その答えを求めようとしたところで、ののが鼻をすんすんとさせ、口を開いた。


「匂うの――どらごんさんの、匂い」

お読みいただきありがとうございます。

感想、誤字報告等ありましたら下にある感想欄からよろしくお願いします!


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