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馬に乗って

作者: 小松八千代


 かれこれ半世紀、いや一世紀ほど前の話かもわかりません。

そのころはまだ南米の片田舎では、馬やロバが交通の手段でした。

よく晴れた、春うららかな日のことです。のんびりと馬にまたがって、若いセニョリータが買い物に出かけていました。年のころは、十七歳か十八歳ぐらいで、日本で言えば番茶も出鼻の年頃のセニョリータです。

小麦色の肌に、赤いほっぺがまだ幼さを感じさせます。白地に小花を散りばめた地味なブラウスに、紅いネッカチーフを首に巻いて、背中に三角に垂らしています。三つ編みにしたお下げの長い髪が赤いネッカチーフの上で、馬の動きに合わせて、リズミカルに跳ね上がります。そして、はたまたスカートは派手な赤い大きな花柄で、下にズボンを穿いています。

一昔前まではこんな服装をしていました。

大陸の大雑把な風景と、奇抜な衣装を身に着けたセニョリータが一役買って、パラグアイ独特のエキゾチックな光景を作り出しています。

緑の草原が果てしなく広がっていて、牛の群れが草を食んでいます。傾きかけた、粗末な小屋の煙突から、遅い朝食なのか、それともお昼の支度なのか、細い煙が上がっています。晴れ渡った空にぽっかりと白い雲が浮かんで、歌でも歌いたくなるような陽気なお天気です。

 セニョリータが半分居眠りをしながらちょうどそこを通りかかったときです。突然馬のいななきが聞こえてきました。驚いたセニョリータは顔を持ち上げて馬のいななきが聞こえたほうに首を回しました。なんと栗毛の大きな馬が歯を剥き出して、長い顔を持ち上げながら、土煙を上げて、こちらへ突進してくるではありませんか。セニョリータは益々驚いて、目を丸くして近づいてくる馬を凝視しました。馬はあっという間に、右往左往する牛の群れを蹴散らかして、策を乗り越えて、セニョリータのところへ暴走してきました。

実は、セニョリータが乗っている馬は雌馬だったのです。ぶるぶる鼻を鳴らしながら突進して来たのは雄馬でした。

セニョリータが乗っている雌馬も年頃のセニョリータだったのです。

そして突然、セニョリータの肩に荷がかかりました。

「いや~、助けて。やめて」

と、セニョリータは悲鳴を上げながら、乗っている馬の手綱を引っ張りました。雌馬は手綱を引っ張られて、仰け反って長い顔を天に向けて嘶きました。そしてセニョリータは肩に乗っている雄馬の前足を、払いのけようとしますが、しっかりと肩に食い込んだ前足はびくともしません。雄馬の荒い息がセニョリータの首筋にかかります。

後ろで何事が起きているやも分からず、なおもセニョリータは、助けを求めました。

「たすけて。たすけて」

セニョリータは肩が潰れそうになるのを、やっと堪えました。

天下の大通りの真ん中で、馬の上に馬、真ん中に人と三体重なって、形の定まらない大きな物体が蠢いているようです。

馬の六本の足が忙しげに右に左に動きます。

パカ、パカ、パカ。

そして、雄馬が妙な動きを始めました。

百メートルほど離れたところにいた牧童の一人が、やっと気がついて、馬を飛ばして走ってきます。小屋の中で煮炊きをしていた、老夫婦も外の騒々しさに気がついて、小屋から出てきて、セニョリータのところへ、転げそうになりながら走ってきました。

「どうどう」老人が、セニョリータの肩に前足をかけている、馬を引き離そうとしますが離れません。牧童がやっと駆けつけて、鞭で馬のお尻を叩きましたが、馬は痺れてしまって感じないのかびくともしません。

馬はことが終わらないと、下りないようです。セニョリータは肩の骨が折れてしまいそうです。

春のうららかな太陽がまるで笑っているかのように、雄馬の前足の間でもがいているセニョリータの顔を照らしました。

そして、しばらくの奮戦の末、やっとことが終わって、馬はセニョリータの肩から前足を下ろしました。

牧童は気絶しそうになったセニョリータを馬から抱きかかえるようにして、下ろしました。

そして…。


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