30話
6日目 午前9時00分 残り18時間
木村は夜勤を終えて帰宅中、後藤は30分前に起床して自宅でテレビを観ている。
ここまでの捜査でわかった事は、木村、後藤、両名共にここ5日間は午後10時前には自宅付近のカメラに映っていて帰宅したと思われる事。木村は朝8時前に出勤する様子が、後藤は時々コンビニや近所のドラッグストアに煙草を買いに行く以外はほとんど家から出ない事が同カメラで確認された。
共にアリバイがあるように思えて僕は青ざめたが、犯行現場付近のカメラに今まで映っていなかった犯人が自宅付近のカメラに映らずに抜け出していてもおかしくないという御崎さんの意見に同意した。
木村と後藤以外の外見的特徴が目撃情報と合致しそうな人間には全て監視カメラで確認できるアリバイがあった。
「今日は被害者出ませんでしたね……」
「はい。少なくとも確認できている限りでは出てませんね」
夜の内に何回かアラームが鳴ったが、全て病気か事故と思われる物で、警察が動くような事も無かった。
僕と御崎さんは互いの担当を交換してお互いにチェックする事にした。
午後3時00分 残り12時間
木村は起床して出掛ける準備を始めている。後藤は近所の美容院で散髪中。
二人を犯人だと確定できる物が未だに出て来ない。残り12時間……
「やっぱり、犯人はこの二人じゃないんじゃ……」不安に駆られてそんな台詞が出てしまう。
「新しい被害者が出てない状況で捜査方針を変えてもやる事は同じです。現場付近の監視カメラのチェックくらいしか思い付きません。それに新しい被害者が出てないのはこの二人のいずれかが犯人なら当然です。あたし達は昨夜からこの二人の動向を監視してます。帰宅までの監視カメラの映像もあります。あたしは新しい情報が出るまではこの二人に絞って捜査します。小林さんだけ別の角度から捜査します?」
「いえ……」拳を握り締めて必死に冷静になろうとする。今から新しく容疑者を探すにはあまりに時間が無さ過ぎる。
「諦めないでがんばろ?」
柏木さんの言葉を聞いて昨夜の閻魔様の言葉がフラッシュバックする。少し気持ちが落ち着いた気がした。
午後6時00分 残り9時間
木村は病院で勤務中。後藤は自宅に戻り夕飯を食べている。
「ところで……」と御崎さんがディスプレイを操作しながら口を開く。
「もし今日犯行に及ぶとしたらやはり深夜の可能性が高いと思うんですがその場合ターゲットの被害者は助けます?」
「もちろんだよ。人が殺される所なんて見過ごせるわけないじゃん」と柏木さんが言う。
「はい。それはあたしも賛成なんですがどうやって取り押さえましょう? 今の段階で警察にこいつ等の情報を渡すと犯人と確定出来る前に取り押さえられてしまう可能性があります」
「それは……マズいです。もし本当に犯人だったとしてもそれが確定するのが明日以降じゃ僕にとって意味がない」
「ですよね。あたし達だけで取り押さえます? 或いは犯人の心の声でこいつが犯人だと確信してからタイミングを見て警察に伝える方法もあります。凶器を持ち歩いている所を取り押さえれば流石に犯人確定でしょう」
「はい、じゃあ伊藤さん今すぐ木村がいる病院に向かってください。勤務中に犯行に及ぶ可能性もあります。後藤の方は後藤が外出したら僕が向かいます」
「伊藤さんだけでは心許ないので加奈子さんもついて行ってください」
「オウ」「わかった」
二人は返事をした後、すぐに閻魔様に連絡を取って病院へ向かった。
午後9時00分 残り6時間
木村は病院で勤務中。後藤は近所のドラッグストアで煙草を買って帰宅後読書。
未だに動きが無い。この二人が犯人だと確定出来る物も見付からない。この二人のどちらかが犯人だとしても今日犯行に及ばなければ決定的な証拠は見付からない。頼む。犯人であってくれ。動いてくれ。頼む。僕は神に祈った。
7日目 午前0時00分 残り3時間
木村は病院で勤務中。後藤は読書を止めて風呂に入っている。
ガチャリと後ろでドアが開く音がして閻魔様が部屋に入って来た。
「捜査には協力してくれないんじゃなかったんですか?」と御崎さんが言う。
「はい。心配なので様子を見に来ただけです。口は挟みません」と閻魔様が答えてドアに寄りかかりながら僕達の捜査状況を見守る。
僕は神に祈り続けた。頭の中で閻魔様と柏木さんの諦めるなという言葉が何度もリピートした。諦めてはいなかった。ただ、神に祈るしか方法が無かった。──
午前1時00分 残り2時間
木村は病院で勤務中。後藤は風呂から上がってしばらくソファでテレビを見てから着替え始めた。
「何故この二人に容疑者を絞ったんですか?」と閻魔様が御崎さんに尋ねる。
「金子の知人の中から目撃証言を基に二人に絞りました。捜査には協力しないんじゃなかったんですか?」
「はい、捜査には協力出来ません」
「だったら少し静かにしててください。心の声を聞き逃すかもしれません。邪魔しないでください」
未だに木村と後藤に動きは無かった。
「後藤が動くかもしれません」と突然御崎さんが声をあげる。
両手を組んで必死に泣かないように努めながら神に祈りを捧げてた僕はバッと顔を上げてディスプレイを確認する。
「風呂上りなのにスーツに着替えてます。どこかに出掛けるんだと思います。それもコンビニとかじゃなく、どこかに」
後藤は黒いスーツに身を包んで、自宅の玄関を開けた。
「閻魔様!今すぐ僕をこいつの近くに送ってください!」と閻魔様の方に振り向きながら言った。
「待ってください。後藤、バイクに乗りました。行き先はまだわかりませんがバイクを降りてからその近くに送って貰いましょう」
「では、そのように準備します。ドアはこのままにしておくので、現世に行くならそのまま隣の部屋まで来てください」
そう言って閻魔様はドアを開けたまま隣の部屋に姿を消した。
祈りが、届いた? そう思いながら、昂ぶる気持ちを抑えて僕は後藤を注視した。




