26話
5日目午前7時00分 残り44時間
僕達が夢の中で出会った初老のベテラン刑事村上さん。その人が夢から戻ってくるや否や襲われたという。
僕と柏木さんはあまりに唐突な報告を受けて仰天した。
「村上さんは無事なんですか? なんで……どこで誰に襲われたんですか?」
「順を追って説明します。マップを起動したまま調べ物をしていたら1時間ほど前に銃声が聞こえました。すぐに確認した所、村上が自宅玄関前で血を流して倒れていました。現在意識不明の重体です。もうすぐここに来るかもしれません」
「そんな……」唖然とする僕の横で柏木さんは口を両手で押さえて涙を堪えていた。
「犯人は特定出来ています。心の声を聞くにヤクザ同士の抗争に巻き込まれたようですね。刑事なので巻き込まれたという表現には語弊があるかもしれませんが新宿嵐会という新興勢力が山崎の組を潰すために襲ったようです。まぁ、街中で銃による犯行ですしすぐに逮捕されるでしょう。あたし達が伝える必要はないと思います。そろそろ山崎の組の本部に警察が家宅捜索に入ります。犯行に使われた毒物なんかも出てくるかもしれませんね」
「村上さんは今どこに?」
「病院ですよ見ますか? 銃声がしたのですぐに近所の人が通報したんでしょう。救急車で運ばれました。急所は外れているらしいので血が止まれば助かるかもしれません。ただ、しばらくの間は戦線離脱ですね残念です」
画面には手術台の上で血の気の引いた顔で仰向けになる村上さんが映し出されていた。
「もう少し、言い方って物が……」
村上さんの現状を見て、我慢しきれなくなった僕は御崎さんについ、苦情を呈してしまう。
「すみません、謝ります。けれど、あたしも地獄に行きたくなくて必死なんです。多少の言葉使いは勘弁してください」
「……はい、ごめんなさい……八つ当たりでした……」
拳を強く握り締めながら、僕は冷静になろうと努力した。村上さんを撃った犯人は許せない。けれど、僕達は自分達の事件に集中しなければいけなかった。御崎さんが言うように、他人の心配をしている場合じゃなかった。
「警察の人員は大分こっちの事件に割かれてしまうかもしれませんしあたし達の捜査方針も少し見直さないといけないかも。そろそろ夢の中での話を伺ってもいいですか?」
「……はい」村上さんの様子は気になったけれど、なんとか気を取り直して報告する。
「たかしが金子を殺した事は伝えました。村上さんが撃たれて……警察にその事が伝わらないかもしれないですが、既に大分疑われているようなのでそこは問題ないと思います。ただ、村上さんは僕と同じようにたかしが殺した事に疑問を感じていました。協力者がいるかもしれないと」
「なるほど、協力者ですか。その線は気付けませんでした」
「金子が加藤さんを殺したという件についてはハッキリと否定されました。金子が加藤さんを殺したなら必ず死体を処分するらしいです。連続通り魔の犯人は僕達の知人ではないとも言っていました」
「はい、前半についてはあたしも賛同出来ます。ヤクザの裏事情に詳しいベテラン刑事の意見として大変参考になります。後半は刑事の勘というやつですか?」
「はい。けれど、村上さんは加藤さんやたかしとも面識があって、神谷よりも強く確信していました。連続通り魔の犯人は知人ではないと」
「元々被害者に共通の知人がいないですしあたしもそこは疑っていません。それを前提で捜査を続けることにしましょう報告は以上ですか?」
「はい」
「それでは先ほども言いましたが捜査方針を修正しましょう。少しでもあたし達の事件に人手を割いてくれるように誘導するか、あたし達だけで犯人を見つける覚悟で捜査するかの二択です。あたしは後者ですね。金子の事件だけ早期解決を手伝いながらあたし達だけで通り魔事件の犯人を見つけるつもりで捜査する方針を提案します」
「はい、警察をあてにし過ぎたくないですし、それでいいと思います。警察を出し抜くくらいが理想です。ただ、金子の事件は手を貸さなくてもすぐにたかしに辿り付くんじゃ……」
「それなんですけどね」
御崎さんが端末を操作して監視カメラの映像を3つ表示させる。
「マンションの入り口、金子の部屋がある7階のエレベーター前、同階の階段前の映像です」
御崎さんが3つの映像全てを早送りしながら説明を続ける。
「たかしが事務所を出た午前1時から金子が死んだと思われる午前5時の間の映像です」
御崎さんが映像を止める。
「午前4時、金子が自宅に着きます」
映像には金子の姿が映っていた。再び映像を再生して午前5時の映像で止まる。
「映ってないんですよ、斉藤の姿が。途中映像に映る人間は全て他の階の住人でした」
「協力者が同じマンションの住人だった。とか?」
「いえ、あたしはそもそも協力者説には疑問を感じてます。それに、午前3時半と5時半に金子マンション付近を歩く斉藤の姿をこれも監視カメラで発見しました」
「彼の自宅もこの近辺の別のマンションなので映っててもおかしくない場所ではあるんですが協力者に犯行を任せておきながらその近くをうろつくのは不自然です。斉藤が犯行に及んだ前か後の物だと思います」
「何らかの方法で監視カメラに映らずに金子の部屋に入った……」
「はい、しかし斉藤にはそんな事は出来そうにない。ここでループしちゃうんです」
「協力者が上の階に住んでてロープでベランダに降りたとか……」
「侵入の痕跡は無いらしいです。一応確認します?」
「いや、警察が見つけられない物を見つけられるとは思えません。じゃあ、監視カメラの映像をいじったとか……」
「それも斉藤に出来るとは思えませんけど、一応確認しますか。『金子悟郎の住むマンションの監視カメラへのハッキングの痕跡』」
「……無いですね」
「う~ん……」
「斉藤が逮捕されるまではそんなに時間かからないと思うんですよ近くの監視カメラに映ってますし事情聴取の時点で言動が怪しくて時間かかってたくらいですから。問題は斉藤が黙秘した場合証拠が見つからなくて長引くかもしれないってことくらいです。だから斉藤の殺害方法にそんなに時間を取られるのも本末転倒ですしとりあえず置いておきませんか?」
「はい、じゃあ捜査方針は──」と言い掛けた時。
「ねぇ、ちょっといい?」柏木さんが会話に入ってくる。
「え、なんですか? どこがわからなかったです?」と柏木さんにもわかるように説明をしようとする。
「そうじゃなくて、ちょっとひどくない? 私だってちゃんと話についていけてるんだからね?」
「ごめんなさい。悪気は無かったんです……それで、何が言いたかったんですか?」
ぷんぷんと少しぶりっ子になりながら怒る柏木さんが続きを言う。
「えっとね、これやったの加藤さんじゃない?」




