25話
5日目 午前2時00分
「この金子悟郎って人、すっごいチビデブでブサイクだね~。あ、不謹慎だったかも」
柏木さんのこの一言で捜査が一時中断していた。
「女……には見えないですよね……」僕は念のため、御崎さんに相談する。
「見えないですね。身長は確かに低いですけどこれに殺されても軟弱者ではないでしょ」
「ですよね……」
「じゃあ、少なくとも僕を殺したのは金子じゃない?」
「それもどうでしょう、元々情報源に信頼性がないですしそこを疑うなら警察に渡した外見的特徴も訂正したほうがいいかもしれませんね」
そうなんだよなぁ、僕より身長が低くて女に見えたって外見的特徴の出所は既にボケが来ているどころか、いつお迎えが来ても……来たのかもわからない鈴木さんなんだよなぁ。
「金子さんが加藤さんを殺したってのが間違いなんじゃない?」柏木さんが言う
「はい。その前提で金子と斉藤を調べてみましょう。あ、村上が自宅に着いて着替え始めました。このまま床に就きそうです」
「じゃあ、閻魔様に電話しますね」
そう言って、スマホを操作すると、閻魔様が電話に出る前にドアが現れたので、僕と柏木さんは隣の部屋へ向かった。
「じゃあ、行ってきます」「いってきま~す」
「はい、お気をつけて」
何故、柏木さんもついてくるのかと言うと、刑事の勘を理解できる人間が二人同時に同じ印象を持てばそれなりに信用出来るという事だった。
それなら、御崎さんも一緒に来ればいいのにと誘ったが、ベテラン刑事の意見を聞いて三人全員がそれに流されてしまう恐れがあるという事でその意見に合意した。
部屋に入ると、閻魔様はべったりと机に顔を付けてうな垂れていた。
「だ、大丈夫ですか? 閻魔様」「閻魔ちゃん大丈夫~?」僕と柏木さんが心配する。
「うん……大丈夫……眠いだけだから……」閻魔様が答える。
「そういえば、冥界って、疲れたり眠くなったりしないんじゃ?」
「ボクは生身の人間だよ……歳は取らないけどね……」
「そうなんですか?」
「霊体は便利だけど、食事を楽しんだり肉体的快楽を得るには向かないからね、天国に行った人間の大半は生身の人間だよ。公務員も含めて……」
突然ガバッと体を起こして閻魔様が言葉を続ける。
「ボ、ボクはそういう事してないからな! 勘違いするなよ!」
「? よくわからないけど、僕達、村上源次郎という刑事の夢に行きたいんですけど」
「うん……わかった……」
再び机に頬をつけてそのままペンを走らせ、作成した書類2枚とペンを無言で渡される。机まで
取りに行かされる。
「サインすればいいんですよね?」
「うん……捜査に協力出来なくてすまない」
「いえ、僕のためだってわかってますから」
「うん……すまない」
そんなやり取りをしながら書類にサインして閻魔様に渡す。
「村上が起きる前に夢から覚めようと思えば、朝までに戻って来れるから……」
「はい、行ってきます。閻魔様も少し休んでください。呼び出しちゃった僕が言うのもなんですけど」
「うん……すまない。そうさせて貰う……」
そう言ってポンと力無く判子を押すと僕と柏木さんは村上の夢の中にいた。
夢の中で村上は金子の殺害現場にいた。神谷の時と同じように、金子の死体を見下ろして佇んでいた。神谷の時と違うのは、チョークの人型があった場所には死体が転がっていた点だ。
金子の死体は顔をこちらに向けてうつ伏せで倒れていて、怒っているようにも見える苦悶の表情をしていた。初めて目の当たりにする死体に僕達は近づくことを少し躊躇っていた。
すると、こちらに気付いた村上が金子の顔の上にハンカチのような布を落とし、こっちに近づいて来てくれた。
神谷の時とは違い、村上はこちらに向けてはっきりと語りかけて来る。
『突然、訳もわからず殺されたら、そりゃあ成仏出来ないよな』
自己紹介はいらないようだった。手短に要件を伝える。
『金子を殺したのは斉藤隆です』
村上は目を丸くして驚いていた。続けて加藤さんの件を伝える。
『動機は復讐です。斉藤隆は加藤健二を殺したのが金子だと思っています』
村上は優しく微笑みながら語りかけて来る。
『たかしは加藤を慕ってたからな、加藤もたかしを大事にしてた。けど、金子はそうじゃなかった。金子にとって加藤はただの駒だった。ヤクに溺れた加藤を金子が始末した。まぁ、無くは無いかもな。けど、違うよ。加藤殺害の犯人は知人じゃない。加藤の死体がそれを物語ってる。君達を殺したのも何処の誰ともわからない他人だよ』
『金子が誰かを雇って加藤さんを殺したとは考えられませんか?』と質問する。
『ないな、加藤ごときを始末するのに大金払ってプロを雇うわけがない。それに内輪の事件だったらあいつらは加藤の死体ごと処分する。道にほったらかしなんてあり得ない』
『それでも、金子を殺したのはたかしです。これだけは信じてください』
『あぁ、わかってるよ。既に警察もその線で動いてる。私怨ってのもたぶん本当だ。たかしの奴、一線を越えちまったなぁ……』
『お知り合いなんですか?』
『ああ、中学でヤンチャしてる時から署内では有名人だったよ。加藤がヤンチャしてた頃も知ってる。君達が生まれる前からずっと新宿で刑事やってるんだ。金子も山崎も古い付き合いだよ。ヤクザと警察の付き合いだけどな』
『けど、たかしが金子を殺したとなるとそれを手引きした奴がいるな。たかしにこんな計画性のある殺人は出来ない』
『神谷さんも同じような事を言っていました』
村上は再び目を丸くして軽く驚いた。
『へぇ、神谷の所にも化けて出たのかい。あいつは俺の自慢の弟子だ。キャリア組であっという間に上司になっちまったけどな。俺に何かあったらアイツを頼りな』
『はい、そうします』そう言って僕達はお辞儀をしてその場を立ち去ろうとする。
『次来る時は加藤も連れて来てくれ。久々にあいつに説教してやりたくなった』
『わかりました』そう言って僕達は再び軽く会釈して村上の夢を後にした──
「おかえりなさい」閻魔様ではなく、御崎さんの声で目が覚めた。
目を開けると目がくらむほど眩しくて、白い方の部屋だという事がすぐわかった。隣では柏木さんも同様に目を覚ましたらしい。
「いつから寝てました?」と御崎さんに確認した。
「いえ、突然そこに現れてびっくりしました。立ったまま寝てたんですか?」
なるほど、閻魔様が休んでるからここに戻るようにしてたのかなと思った。
「ただいま~」と柏木さんが目をこすりながら言った。
「おかえりなさい。早速ですが報告を聞く前にこちらからも報告があります」
何だろう? と思いながら僕と柏木さんは各々の席に着く。
「村上源次郎が襲われました」




