24話
5日目 午前1時00分
「柏木加奈子、ただいま帰還しました~」ビシッと敬礼して柏木さんが戻って来て、いつもの席に座ったのが1時間ほど前。
加藤さんがいなくなってから、離れた所でずっと一人二役でギャンブルごっこをしていた伊藤さんが飽きて横になったのが30分ほど前。
そして今、山崎の事情聴取がようやく終わりを告げた。それまでの間、僕は山崎の事情聴取の前半を聞きながら、御崎さんは続きを聞きながら、金子が加藤さんを殺したという前提で捜査を洗い直していた。
「ふぅ~。やっと終わりました。続きの録音聞きます? 後半はあまり参考になりそうな事は話してませんでしたけど」
御崎さんがイヤホンを外して背もたれに身を預ける。
「いえ、御崎さんがそう思ったのなら聞いてもたぶん二度手間で終わるでしょう。それより、柏木さんに説明も兼ねて、今の時点でわかった事を整理しましょう」
「はい、お願いします」と柏木さんが敬礼する。
「はいでは大事な部分から。斉藤隆が金子悟郎を殺した──」と説明を始める御崎さんに僕が口を挟む。
「すみません、僕から説明させてもらっていいですか? 足りない部分を御崎さんが補足する感じで」
あまり、御崎さんに頼りすぎるのも、僕の未練的に良くない気がして申し出た。
「はいそれは構いませんけど」と御崎さんが了承してくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、たかしが金子を殺した。これは決定ですよね?」
「はい。補足すると斉藤隆は加藤健二の弟分で金子悟郎は兄貴分です」
「凶器の注射器は組の商品から使った。在庫の管理は杜撰でいつどこで手に入れたかはわからない」
「はい。ちなみに犯行で使われた注射器からは指紋が検出されませんでした」
「金子の自宅マンションには防犯カメラが多数設置されていた、けれどそこにたかしの姿は無かった」
「そうなんですか? どうやって調べたんですか? いつ? 本当に?」
御崎さんが驚いて質問を投げかけてくる。
「あ、そういえば御崎さんまだ神谷の心の声聞いてませんでしたっけ。神谷が心の声で言ってました。今聞きます?」
「同時進行で聞くので、続けてください」
そう言って御崎さんはまたイヤホンを右耳に挿し『このマンションの監視カメラの映像をダウンロード』と言って、確認作業まで同時進行で進め始めた。
「金子の部屋は全てのドアと窓に鍵がかかっていた。玄関のドアはオートロック。窓には侵入の痕跡が無かった。争った形跡もなく、身内の犯行……」
「ん? はい、合ってるんですけどなんか推理が撒き戻ってませんか? 犯人は斉藤隆で身内の犯行ですよ」
「そうなんですけど、金子のマンションに防犯カメラに映らずに犯行に及ぶって可能ですかね?」
「ん~警察がどのくらい時間を遡ってカメラをチェックしたのかわからないのでなんとも言えませんが、あらかじめ部屋の中にいたとか、映っていたけど変装してて見落とした可能性とかもありますよね」
「なるほど……じゃあやっぱり犯人はたかし……」
「まだそこで躓いてるんですか?」
「いえ、犯人はたかしなんでしょうけど、何か違和感があるんですよ。なんか、言葉ではうまく説明できないんですけど、たかしが金子を殺したのか? 殺せたのか? みたいな違和感が」
「警察の勘みたいなやつですか? ちょうど神谷が今そんな事言ってます。ん~、あたしにはいまいちピンと来ないんですけど、計画性って言葉を使ってますね、斉藤隆と面識のある小林さんには彼にそんな計画性があるように見えないとかそんな感じですか?」
「それです! あと、たかしが人を殺すなら金属バットとか、ナイフとかを使う方がしっくり来ます」
「ん~、斉藤隆の事を良く知らないのでこれもなんとも言えないんですけど、彼なりに連続通り魔事件に見せかけようとしたんじゃないですか? 事実、警察もその可能性を追っていますし」
「ねぇねぇ、ちょっといい?」と柏木さんが話の流れを止める。
「どうしたんですか? 加奈子さん。何かわからない所でも?」と御崎さんが尋ねる。
「あのね、その隆君が金子さんを殺したってこと、加藤さんは知ってるの?」
それを聞いて「あ……」と声を上げて僕と御崎さんは顔を見合わせる。
「ど、どうしましょう? 犯人わかったら教えろって加藤さん言ってましたよね?」と御崎さんに相談する。
「別に教えなくていいんじゃないですか? あの人非協力的だし教える義理もないでしょう。それに教えちゃまずい事もあるじゃないですか」
「教えちゃまずい事?」咄嗟には出て来ないのでそのまま聞き返す。
「加藤さんを殺したのが金子かもしれないって事ですよ。まだ決定してないうちに伝えるのは絶対に反対です。あの人なら現世に行って死体を切り刻むくらいやり兼ねません」
短い間に、加藤さんの事をよくご存知のようで……
「じゃあ、加藤さんには内緒にするという事でいいですか?」と確認する。
「そう言いました」と御崎さんが答える。
「はい」「は~い」と僕と柏木さんは同時に同意した。
「伊藤さんも、聞いてました?」と確認すると、伊藤さんは向こうを向いて寝転がりながら「うぃ~」と左手を上げて返事した。どうやら寝ていたわけではないらしい。
「じゃあ、ちょっと順番が飛んじゃったかもしれないけど、ここまでが柏木さんがいない間にわかった事です。これを踏まえて、たかしが金子を殺した事と金子が加藤さんを殺したかもしれない事を警察に伝えればいいのかな?」
「補足します。金子悟郎は冥界に来たがすぐに天国に行ってしまいました。前者のたかしが金子殺しの犯人だと伝えるのは賛成です。出来れば証拠付きで。後者は反対です曖昧な情報を与えて捜査を混乱させてしまう恐れがあります」
「じゃあ、神谷にたかしが金子を殺した事を伝えて、僕達は金子が加藤さんを、ひいては僕達を殺した犯人なのかを捜査するということでいいかな?」
「神谷は起きたばかりなので村上にしませんか? 後日神谷にも伝えたほうがいいかもしれませんけどなるべく早く伝えたほうがいいと思います。出来れば証拠が欲しいところですが容疑者を一人に絞って捜査すればすぐに捕まるでしょう。後半は異存ありません。そもそもそれがあたし達の本題ですしおすし」
『おすし』?
「わ~陽子ちゃんやっぱりすごいね~」と柏木さんが手を合わせて感心する。
「いえ、そんな……偉そうにしてすみません。よく言われるんです。さっきも加藤さんを怒らせちゃって、自分では注意してるつもりなんですけど……」
そう言って素直に照れる御崎さんを見て、こういう顔は年齢相応に見えるんだよなあと改めて思った。




