2話
閻魔と名乗る少女と、殺人事件に巻き込まれた僕による質疑応答は続く。
「さっきから、受け答えが妙に雑になってないかい? まだ夢だと思っているのかな? 夢じゃない事を証明するのは難しいけど、そのうち気付くから、今はとりあえずボクの話にちゃんと付き合ってくれ。真面目に、真剣に、本気で、じゃないと君は地獄に堕ちる」
初めて見る少女の深刻な顔に少し驚きながら、「え? 地獄?」と、おぞましい単語に嫌でも反応してしまう。
「そういえば、その辺の説明も忘れてたね。君の行き先は3つ。『天国』『ここで働く』『地獄』だ。未練が無ければ誰でも天国に行ける。未練が有っても善人と判断された場合はここで働く。悪人は地獄だ。天国と地獄はだいたい君がイメージしたもので合ってる。天国はイメージより少しハイテクかな、現世で手に入る物は何でも手に入る。地獄は拷問パーティーだ。鬼は天国に行った悪趣味な奴とかがやってる」
自分の死を実感して不安になった僕は閻魔様の言葉に真剣に耳を傾ける。何やら大事な事を適当に説明されている気がする。集中して聞かないと後々、大変なことになりかねないと思った。
「僕は地獄行きって……悪人なんですか?」今まで喧嘩もしたことがない、自分でも温厚な性格だと思う。そんな僕が、悪人? 地獄? 拷問? そんな目に合う筋合いは無いはずだ。そもそもここに来たのだって殺されて来てるんだぞ? こんなのあんまりだ。
「25歳ニートは大抵、悪人判定だね。殺されたのは同情するけど、まぁ、刑が軽くなるくらいだろうね、針山か血の池辺りかな?」
目の前が真っ暗になる。自分が死んだという事実よりショックが大きいかもしれない。
「ただ、死んでから1週間だけ未練を解消するチャンスが与えられる。君の場合は難しいかもしれないけどね」
未練を解消する?あぁ、あのこっ恥ずかしい未練か。
「よくあるのは、遺言を残したいとか、童貞を捨てたいとかだと割と楽。君みたいに何かになりたいとか、犯人を知りたいってのは難しい。連載漫画の結末を知りたいとか、子供の将来が知りたい、みたいな、1週間で出来ないものはほぼ、無理だ」
頭をフル回転させながら、とりあえず、わからないことは恥ずかしがらずに聞いておこうと思う。未だにこの状況は半信半疑だが、地獄は全力で回避したい。
「遺言残したり、童貞捨てるってどうするんですか? 犯人を知りたい人がよくいるって、殺人事件ってそんなに多いんですか? 連載漫画の結末とか、神様が教えてくれたりしないんですか?」と思いつく限りの質問を投げかける。
「お、ようやく真剣になってくれたかな? では、順番に答えよう。ここに来た者を私達は『来訪者』と呼ぶ。来訪者は未練を解消するために1週間の猶予期間が与えられる。こちらで用意した肉体や、幽霊のような状態で現世で活動して未練を解消を試みる事が出来る」
幽霊って実在したのか……実在って言葉は合ってるのか?
「遺言を残したい場合は、幽霊になって枕下に立ったり、対象の夢の中で別れの挨拶を済ますなんてことも出来る。童貞を捨てたい場合はこちらで用意した肉体に入って、現世でヤらせてくれる女性を探す。童貞なんて死ぬ気になれば大抵1週間で捨てられる」
ふむふむ。と忘れないよう、しっかり耳を傾ける。もう少しゆっくり話して欲しい。
「殺人事件が多いのかという質問については、ここは殺人課だからね、殺人事件以外の来訪者は来ない。これも言い忘れていたね、自殺課とか、事故死課とか、病死課とか、それぞれ地域別、年齢別に分かれてる。ここは日本国内の殺人事件が担当だ。」
言い忘れ多いな、この閻魔様……大丈夫か? と僕は少し不安になる。
「最後の質問、神様はたぶんいない。いても教えてくれないんじゃない? 全知全能かもわからないし。だから、君が頼れるのはボクと協力者だけだ。神頼みは出来ない」
協力者? そういえばそんなことを言っていた気がする。「それで、具体的に僕は何をすればいいんでしょう?」と単刀直入に質問する。プライドは捨てる。年下の少女にどう思われようと、頼れるだけ頼ってやる。
「君にはこの面接が終わったら、昨日来た来訪者に会ってもらう。彼は隣の部屋にいるから、自己紹介でもして犯人探しの作戦会議だね。ここで出来る事とか、簡単なルールは彼に伝えてあるから、彼から聞いてくれたまえ。あと、これ以上の質問も彼に訊いてくれ。ボクは今から仮眠を取って5時間後にまた出社だ。彼に聞いてもわからない事は明日、朝9時以降にまたボクに尋ねてくれ。じゃ、そこのドアから隣の部屋へどうぞ。お疲れ様でした」既に片手には枕を持っている。
僕は、一方的に質問を打ち切ろうとする閻魔様に慌てて止めようとする。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。まだ30分も付き合ってもらってないですよ?それに、さっきは頼ってくれって言ったじゃないですか、もうちょっとだけ色々教えて下さいよ」
それを聞いた閻魔は少しムッとして頬杖を突きながら答える。
「今、深夜3時半、寝てたのに呼び出された、『頼ってくれ』なんて言ってない、もうちょっとだけとか言いながら色々教えろとか絶対長引く。んっ」といつの間にか出現していたドアを指差し、アゴで出ていけと指図する。
これ以上怒らせるのは得策ではないと判断し、続きは明日聞くことにしようと思いながら、僕は渋々とドアノブに手を掛ける。
「ありがとうございました」
「お大事に~」
病院のようなやり取りを残し、僕は隣の部屋に向かった。後ろで乱暴に判子を押す音が大きく響いた。




