15話
3日目 午前8時55分
伊藤さんの本性がわかってからは、伊藤さんに端末の使い方を教えながら、加藤さんを除く三人で色々と連続殺人事件の捜査や相談をした。
昨日、柏木さんがいない間に調べた事も含めて情報交換や相談をしたが、やはり捜査は遅々として進まなかった。
どうしたものか、と頭を抱えていると、コンッコンッとノックする音と共に、閻魔様が部屋に入って来た。
「あれ? 閻魔様、今日は休みなんじゃ?」と閻魔様に聞く。
最初は5人目の被害者が出たのかと思ったが、どうやら違うらしい。
僕の事を無視して、閻魔様は僕と加藤さんの間、お誕生日席に座って語り出す。
「今日から、本格的にあなた達に手を貸す事になりました。まずは、捜査状況を説明してください」
今日の閻魔様は何やら丁寧口調で、眼鏡をかけたスーツ姿だった。片手に資料を持ちながら淡々と話すその様は仕事の出来るオフィスレディ、あるいは社長秘書といった感じだった。
「えっと……じゃあ、僕から報告させて戴きます」
閻魔様に釣られて変な口調になる。
1.殺害方法は全て注射器(と思われる)による毒殺。
2.毒の種類は未だ特定されていない。
3.事件の目撃情報なし。現場からも目ぼしい物は何も見つかっていない。
4.被害者に共通点が見られない。警察は共通の知人を捜している。しかし、被害者同士で話し合ったが、どうやら、共通の知人はいない模様。
5.事件当時の詳細。僕と柏木さんは歩いている時、加藤さんと伊藤さんは路上で酔い潰れている時に犯行に遭ったらしい。
6.警察は、現場周辺の証拠探し、被害者の共通点探しを重点的に、私怨、通り魔、果ては愉快犯の可能性まで視野に入れて捜査を続ける方針だという事。
つまり、警察も僕達も何もわかっていない。という事と、僕達の捜査方針が未だに定まっていない事を報告した。
テーブルに資料を置いて、頭を抱えながら、閻魔様は呆れ顔で言う。
「じゃあ、私から提案させて戴きます」
一人称まで変わっている。この人、本当に閻魔様か? もしかして、閻魔様ってみんな同じ顔で、他所から派遣されて来た閻魔様なのかな? なんて疑念に駆られ、確認してみる。
「あの~、本当に閻魔様ですか?」
自分で言っておきながら、この聞き方じゃ質問になっていない事に気付く。
「私語は慎んでください」
キッと鋭い目で睨まれ、僕は怯んで少し仰け反ってしまった。
その様子を見た閻魔様は、こっちを見ながらしばらく考え込んだ後、テーブルに上体を乗り上げ、僕の耳元でそっと囁いた。
「また上司に怒られた」と。
なるほど。どの件で怒られたのかはわからないけど、それでこの変貌ぶりか。今回はよほどひどくお叱りを受けたらしい。休日返上で捜査協力もきっとそのせいだな。
「コホン。我々は私も含め、捜査の素人です。したがって、本職の人に意見を求めるのが賢明かと思われますが如何でしょう」
「はい、でも、どうやって? 警察に行っても、一般人相手にそこまで突っ込んだ話は聞かせて貰えないような……」
「少しは自分で考えてください。と言いたい所ですが、それでは一向に捜査が進みそうにないので、具体的に提案させて戴きます」
閻魔様の丁寧口調がやたら偉そうで、少しムカつく。実際、偉いんだけど。偉いのか?
「改めて、愚見を申しますと。捜査本部の指揮を執っている者の夢の中で、アドバイスを求める方法が妥当かと思われます」
なるほど、そんな事も出来るって言ってたな。
「その際、捜査資料等からでは読み取れない情報、例えば、一個人としての意見等も有益な情報になり得ます。こちらから、情報を与えるのも良いでしょう。冥界についての情報以外ならば、君達しか知り得る事の出来ない情報を与える事も許可します。どうせ夢の中です。一度や二度なら不思議な夢で片付けられるはずです」
「はい、その方法でやってみましょう!」
本物の警察と一緒に事件を捜査する。夢の中とは言え、それだけで僕は少しワクワクした。
「では、誰の夢に入るか、夢の中で何を聞くか、話すか等を相談して対象が眠りに就いたら私に報告してください。夢の中へは小林さんと柏木さんの二名で向かってください。それでは」
そう言うと、閻魔様は立ち上がり、さっさと向こうの部屋へ行ってしまった。
「閻魔ちゃん、どうしちゃったの?」と柏木さんが目を丸くして僕に訊く。
「なんか、上司に叱られたらしいです」
「えー、じゃあ後で謝っておかないと」
おぉ、なんか柏木さんのしゃべり方がフランクな感じになってない? それでも尚、優しさは健在で、猫は被って無かったんだなと安心すると共に、少し感動した。
「それじゃあ、誰の夢の中に入るか、から決めましょうか」
「ハイ!」と柏木さんが敬礼する。
それから二人で閻魔様に言われた事を色々と相談した。伊藤さんと加藤さんはクズ同士、意気投合して下衆な話に花を咲かせていた。
「まず、捜査本部の責任者の名前から調べましょうか」とブラウザを開く。
「はい」と言って柏木さんが隣の席に移動して来た。
「えっと、音声入力『毒物連続通り魔殺人事件 捜査本部 本部長? 責任者』」
本部長で合ってるのかな? と少し心配したが、すぐに、神谷守(かみやまもる)34歳 警視庁警視正という人物が出てきた。
「ワ~、イケメ~ン」と両手を合わせる柏木さん。
確かに、甘いマスク、という感じではないが、目力があって、真面目そうで、頭が良さそうで、悔しいけどイケメンだった。
「34歳って、かなり若くないですか? 大丈夫かなぁ? この人で」
本音が半分。少しでも柏木さんの中の神谷の印象を悪くしようというのが半分。
「そうですね、あ、じゃあこういうのはどうですか? 『捜査本部 ベテラン』」
「『毒物連続通り魔殺人事件』」と僕が付け加える。
「あ、この人なんて、いいんじゃないですか?」
村上源次郎(むらかみげんじろう)59歳 警視庁警部という人物が表示される。
「そうですね、他にも何人か選んで、寝るまで待ちますか?」
あれ? 今って朝の10時くらいだよな? 寝るまで待つのか?
「むしろ、寝てる人の中から探してみます?」と柏木さんからの鋭い提案。
「それだ! えっと、じゃあ『同事件 捜査本部関係者 就寝中』」と試しに入力してみる。
検索結果の一番上に『神谷守』の文字が表示され、二人で目を合わせて、急いでドアに向かう。そして、ノックもせずにドアを開け、隣の部屋に入室した。




