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ラブレス  作者:
2/3

閉店1

深夜2時。

バー・ラブレスは閉店する。

電車も動いていないこの時間まで飲むお客様はそうはいないが、2・3人のお客はいる。

もちろんオーフェンを含めてだ。

ごく稀に、帰れないくらい酔っ払ったり、泣きつかれて眠ってしまったお客様が泊まることがあるが、今日はそういったお客様はいなかった。



「えっぐ、店長〜」


「もう、滝嶋さん。好奇心から人の話を聞くのは百歩譲ってまあ仕方がないとしても、聞いた後に感情移入しすぎて泣きじゃぐる癖はいい加減どうにかしてください。」


長い営業時間が終わり、片付けや明日の準備が終わると、事務所兼自宅に2人でお酒を飲んでいた。

滝嶋さんは22歳で、大学生。

関西のほうの出で、今は独り暮らしをしている。


「だって〜、あの人かわいそうじゃないですか。4年も付き合ってた同僚の彼氏に、いきなり別れて欲しいって言われて、理由を聞いたら結婚するからっていうじゃないですか・・・。」


僕は、「結構よくある話じゃないかな」なんて思いながらも、滝嶋さんに同意する。

滝嶋さんと恋愛観を語らうのはかなりの疲労を伴うから、へたに異を唱えるようなことはしないに限る。


「そうだね、4年という歳月は、あの年齢なら結婚を考えるだろうしね。」


「そうですよ〜相手は何を考えて4年も付き合っていたんですか〜。」


彼女は基本的に感情移入しすぎるところがある。

ドキュメンタリー番組とか見た翌日には、その番組を見てなくともしっかり理解できるくらい喋り捲る。

作り物のドラマでヒロインが失恋すれば、泣きながら語るのだ。

たまにその感情移入過多な性格が、裏目に出ないか心配になることがある。

よく言えば、純情なのだろうが、悪く言えば酔ってしまうタイプだ。

時に周りが見えなくなってしまうから、なんとも危なっかしいのだ。


「まあでも、もしかしたら彼は、結婚する人が運命だって思ったのかもよ?確立は低いとしても、もしかしたら一生連れそう相手だからね、もし運命の相手だってわかったら躊躇はしないかもしれないし。」


「・・・店長って運命論者だったんですね。」


僕は運命論者ではない。

いつどんな場面だって、自分の行動や選択と結果には因果関係にあると思っている。

偶然なんてのはない、必然だけだ。

もし運命なんてもので生まれた瞬間に自分の人生が今のように決まっていたのなら、今までの努力や葛藤がなくってもよかったことになる。


「僕は運命なんて信じてないよ、ただ運命なんてあるかないかわからない物を信じている人もいるって事を知っているだけ。」


「私も昔は信じていましたけどね・・・運命ってやつ。」


少し遠い目をして、彼女お気に入りの芋焼酎をあおる。

事情を一から十まで知っている僕は、何を言っても彼女の欲しがっている言葉ではない気がして押し黙ってクラスを傾けた。

変な空気を振り切るように、お開きの旨を伝える。


「さて、そろそろ僕は寝るけど、滝嶋さん今日はどうするの?」


「今日は泊まっていっていいですか?明日は大学がないのでゆっくりしたくって。」


こういう会話は常だ。

別に滝島さんと男女の関係にあるわけではない。

しかし、深夜の2時までの勤務をこなしてもらっていて、いきなり閉店後に追い返すことはできない。タクシー代もばかにならないから。

彼女はここから3駅離れた駅前に住んでいるが、ほとんど寝に帰るだけだと言っていた。


「いいけど、明日の開店前には帰るんだよ?三咲さんが来るといらぬ誤解を招きかねないからね。」


「誤解じゃなくしてみます?」


彼女はたまに僕をこうやって挑発してくる。

年齢差はたった2歳だ。

ひとつ屋根の下で寝泊りするのだから、当然そういった空気が流れるときもある。

滝嶋さんは、お酒が入ると純情から一変する。本気なのか冗談なのか分かりづらい誘惑に、頭に触覚が生えた架空の存在の囁きをなんとか振り切って、雇用側としてぐっとこらえてかわすのだ。


「僕はそれでも一向に構わないんだけどね?」


反撃を試みた。いつもやられっぱなしってのは癪だった。

歳上は僕だ、それに僕は泊めてあげる側なのだから、本当なら上の立場だ。

酔った席で上も下もないが。

一瞬でもいいから躊躇った仕草が見て取れれば、ささやかな僕の反撃は大成功だ。

志が決して高くないのは、僕が僕たる由縁だろう。


「私も一向に構いませんよ?」


即座に妖しく笑ってそう切り替えされた。

酒気を帯びた顔、少し乱れた衣類、完成された肉体はいかにも艶かしい。

感動屋の彼女と今目の前にいる彼女が同一人物とは思えない。

酒の力は偉大といったところか。

滝嶋さんは、ささやかな反撃すら僕には許してくれないみたいだ。


「・・・冗談はここらへんにして僕は寝るね、おやすみ。」


「クスッ、冗談でもなかったんですけどね。おやすみなさーい、いつでも私の布団に来てもいいですからね。」


「気が向いたらね。」


後ろに手を振りながら部屋を出る。

毎日12時から4時間の休憩を挟んで深夜2時まで出ずっぱりは流石に疲れる。

人を雇おうとも思ったが、僕にしか出来ない仕事が多すぎる。

特にオーフェンの対応は、一歩間違えば相手を深く傷つけることになりかねないからだ。

最近は滝嶋さんがカクテルを作れるようになってきたから幾分楽になってはきたが、やはりくたくたで一日を終える。

隣の部屋で物音がする、滝嶋さんがシャワーでも浴びるみたいだ。

僕は布団の中で、「今度こそ彼女の布団にいってみようか」などと考えながらいつの間にかまどろんでいた。



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