次郎坊さんと若い娘っ子達
「さぁ、戦争を始めるわよ」
「おい…」
「オペレーション・シングル発動!」
「おい!」
「あなた、名前は?」
「志島杏子です」
「年齢は…25歳だったわね」
「はい。それで…あなたは?」
「あー、俺の妹で薫だ。28歳」
「あ、初めまして。あの…」
「次郎兄、ちょっとついてきて」
「は?あっ、おい!…すまんな杏子。ちと待っててくれ」
「はい」
「次郎兄」
「あのさ…そもそも俺の家に呼び出す必要があったと?しかもわざわざ玄関先まで来てどうした?」
「…めっちゃ可愛いじゃん」
「あ?」
「うんうん。これを一目惚れって言うんだと思う。義妹にしたい気分」
「ちょっと待ってくれ。薫よ、本当にどうした」
「いやー、一目見た瞬間にわかったよ。あの娘は間違いなくいい娘だよ。私の外れたことがない勘がそう囁いてる」
「外れたことがないのなら、今からでも宝クジを買いに行かないか?」
「おぉ!そんなところに使い道があったとは…ではなくて!」
「いや、女の勘的なものはどうでもよくてだな…俺はお前が話してくれると言うから」
「うんうん、話したじゃない」
「名前聞いただけだろが」
「しょうがないな。もうちょっと話してみるよ」
「よろしく頼む」
「待たせたな杏子」
「ねぇ杏子ちゃんって呼んでいい?」
「え?あ、もちろん」
「私のことは適当にね」
「わかりました薫さん」
「それで、杏子ちゃんはウチの次郎兄のどこに惚れたの?」
「おい、いきなりそんなこと聞くことねぇだろ」
「その…大人でかっこいいところでしょうか?あと…優しいところとかも」
「うんうん、わかるわー。次郎兄は顔と学歴さえ優秀なら完全無欠だもんね」
「ですね」
「……若い娘っ子達に評価されるのがこうも恥ずかしいことだったなんて」
「でもね、次郎兄は好きで独身を選んだわけではなくて…なんて言うの?売れ残り?的な立ち位置なのよ。スーパーのワゴンセールに何度も出品されているのに、ちっとも売れないの」
「売れ残りって、妹でもそこまで言うなよ」
「一方の杏子ちゃんは可愛くて、一流大学を卒業して、次郎兄の職場の親会社のエリート組。もうね…売れると思うの。なんなら私が買いたいくらい」
「ありがとう…ございます?」
「だからさ………」
「……薫?」
「付き合うところから始めた方がいいと思うのよ」
「ちょ…お前何を…!」
「お互いを知る、ということですか?」
「うんうん、売れ残りの商品が掘り出し物なら良し、所詮売れ残り商品だというのなら別を探す。まずは急がなくても。次郎兄の競争率は0なんだし。この提案に次郎兄は大筋合意をしているわ」
「本当ですか?次郎坊…さん」
「まぁ…まぁ…何だ?せっかくここまで追いかけてもらったんだ。俺も腹をくくらなにゃならんだろう」
「じゃあ、お願いします」
「……むず痒いな」
「それじゃあ次郎兄、私はここでドロンするよ」
「は?まだ少ししか…」
「当事者同士でよろしくしちゃって!グッドラック!」
「帰りやがった…薫め」
「仲がいいのね。次郎坊…さん」
「呼び捨てで構わん。杏子の丁寧語はどうにも妙な気分になる」
「そ。いつまでも私を子供扱いするのね」
「そんなつもりは……いや、すまん」
「私も50歳なら良かったのに…」
「そういうな。同い年なら俺はお前の面倒を見る必要がなかった」
「それもそうね。でも……本当にいいの?」
「何がだ?」
「付き合うなんて…乗り気じゃないかと」
「ああ、さすがに若い頃の体力はなくなったし、いろいろと保守的な部分も出てきた。しかしだ。完璧なレディになったんだろ?俺は元々下心を持つ男だ。異性にも興味がある。機会に恵まれなかっただけだ。そこに完璧なレディが現れりゃ…断る理由もない」
「次郎坊…」
「おう」
「キスしていい?」
「…!」
「冗談よ」
「心臓に悪い」
「ごめんなさい。それでもハグくらいならいいでしょ?」
「やっぱり妙な気分だ」
「え?」
「大きくなったな、と思ってさ」
「どこが?」
「聞くな。いろんなところがだ」
「もう次郎坊に追いつけた?」
「追い抜いてるかもな。こっちも余裕がなくなりそうだ。しかしまぁ……せっかくだ。外にでも行こう。杏子の話が聞きたい」
「初デート!」
「おまっ…!抱きつくな暑苦しい!」
「照れてる?……イテッ!叩くこともないでしょ」
「うるせぇ、余裕がないんだよ!」
登場人物
如月 次郎坊 50歳
「彼女いない歴が半世紀を突破したよ」
志島 杏子 25歳
「彼氏?浮気はしたことないわ」
如月 薫 28歳
「元彼が結婚したけど…私は独身貴族目指すし」