12月28日(月)
今夜も私とサユリは空き教室でプラネタリウムを見ていた。机と椅子を退かし、教室の真ん中で仰向けになって人工の星空を眺める。
私はこの夜のために星座や星に関する神話などをいくつか調べ、それをサユリに話した。
「私はふたご座でね。この双子は弟が神様で不死身なんだけど、兄は人間なの。弟は自分の不死性を兄に半分あげることで、ふたりは一日の半分を神様として、もう半分を人間として暮らしてるんだよ」
「へえ。素敵な話ね」
サユリは興味津々に聞いてくれた。
それでもネタが尽きて、束の間の沈黙が訪れたとき。「そういえば」とサユリは言った。
「今更だけれど、こんな時間に外に出て大丈夫? ご両親、心配するんじゃない?」
それを言うならサユリこそそうなのだが、ひとまず私から話をすることにした。
「私の家、父子家庭なの。中学生のときにお母さんは病気で死んじゃって、それ以来お父さんと二人暮らし。でも、今はちょっとお父さんと喧嘩しててね……」
「……そうなんだ」
サユリはなにも聞いてこない。私に気を遣っているのだろう。彼女の気遣いは嬉しいのだけれど、私はなんだかすべてを話してしまいたくなった。誰かに私の話を聞いてほしくなったのだ。
「クリスマスの日ね。終業式のあとにお父さんから大事な話があるって言われて、レストランに呼ばれたんだ。そしたらね、お父さんの隣には私の知らない女性がいたの」
「えっ。それって……」
「うん。お父さん、再婚したいんだって」
私は出来るだけ正確に話そうと、その日のことを必死に思い出した。思い出したくないあの日の出来事を。
「その女性はお父さんと同じ会社の人でね。一緒に食事したときもすごくいい人だと思ったよ。この人が私のお義母さんになったら、今よりもいい生活になるんだろうな、と思った。でも、それと同時に不快感も抱いたの」
サユリが体をこちらに向けたのがわかった。私は彼女の顔を見て話す自信がなく、そのままの体勢で天井を見ながら話を続けた。
「結婚式で永遠の愛を誓ったら、お互い相手のことだけを想って生きていくんだと思ってた。再婚するからってお父さんがお母さんのことを嫌いになったわけじゃないし、むしろ私の今後を考えてのことだっていうのもわかってるんだけど、それでも私は……」
そこで、私は言葉に詰まった。続きの言葉が思いつかないわけではない。ただ、こんなことを自分の口から言いたくないのだ。
黙っていると、「大丈夫よ」とサユリが優しく声をかけてきた。
「この世には良い人と悪い人がいるけれど、良いだけの人も悪いだけの人もいないわ。ちょっとくらい悪いことをしたって、その人の全部が悪くなるわけじゃないのよ。野ばらは今、自分の考えてることは悪いことだって思ってるんでしょう? 確かにそうかもしれない。でもね、それに負けないくらい、野ばらは良い子だっていうことも、私は知ってるよ」
サユリにはなんでもお見通しなのだろうか。私が今望んでいる言葉をかけてくれる。
「私は……」と、私は本音を打ち明けることにした。サユリにだったらなんでも話せるような気がした。
「私は、お父さんがお母さん以外の女性を好きになったのが、許せない」
「そう。ありがとう。本当の気持ち、言ってくれて」
ただ、私は自分が正しいことを言っている自信はない。なんとも子供で自分勝手な話だろう。しかし、これは理屈の問題ではなく感情の問題なのだ。サユリはそれをわかってくれるだろうか。
「あのね。私も父子家庭なんだ」
「えっ?」
「お母さんは私が小学生のとき事故で死んじゃったの。そして、お母さんが死んで初めてお父さんと会った」サユリは自身の境遇を淡々と話した。「私もお父さんと上手くいってないんだ。こうして夜の学校に来ているのも、家出してるからなの」
私は驚いてなにも言えなかった。まさかこんな近くに私と同じ境遇の人がいるなんて思いもしなかったからだ。
サユリが上半身を起こし、微笑む。
「ねえ。私たちって似てると思わない?」
「う、うん……!」
私は心の底から喜んだ。自分の気持ちを理解してくれる人がいるということは、こんなにも嬉しいことなんだ!




