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空き教室の亡霊  作者: 灰原仄火
2/11

12月25日(金)

 今日はクリスマスということで、街は活気づいている。

 電飾が飾られた街路樹は光輝き、カップルは腕を組んで歩く。学校帰りの学生はカラオケへ向かい、ケーキ屋の店員は明日には無意味になってしまうクリスマスケーキを売るために道行く人に声をかける。みんな忙しなく、そして楽しそうだ。

 桜ヶ丘学園は明日から二週間ほどの冬休みが始まる。本来ならばとても嬉しいことなのに、今の私の気持ちはどんよりと沈んでいる。というのも、現在私は人生初の家出をしているからだ。きっかけは父との喧嘩である。今まで父と喧嘩をしたことはなく、こんなことは初めてだった。

 行く当てもなく、ぼーっとしながら外を彷徨っていると、気が付けば私は母校である桜ヶ丘学園に来ていた。いつもは電車で通っている距離を歩いて来ていたのだ。

 当然ながら校門は閉まり、電気はついていない。通い慣れているこの校舎も、夜に見るとなんだか不気味だった。今にでも幽霊が出てきそうだ。

 どうせ中には入れないのだから、ここに来ても意味はない。そう思い、この場所を去ろうとしたところ、

 ――あれ?

 正門の正反対の位置にある裏門。その前に人影を見た。街灯に照らされてその人物の姿がはっきりと見える。色白の肌に、胸元まである白髪のストレートヘア。赤いコートにベージュのマフラーをしている。遠くからなので顔ははっきりと見えないが、おそらく私とそう変わらない歳の少女だろう。

 ――外国人? それにしてもやけに白いな。

 いったいこんなところでなにをしているのだろうか。気になり、電柱の陰からその少女をじっと見る。

 少女は門に手を触れた。すると、施錠されているはずの門はなんの抵抗もなく開いた。

 鍵をかけていなかったのだろうか。それとも少女が鍵を持っていたのだろうか。私が混乱している内に、少女は学校の敷地内に入っていく。

 この少女が学校の関係者とは思えない。明らかな不法侵入の現場を目撃して、放っておくわけにもいかず、私はあとを追った。


 裏門から入ると、少女は普通教室のあるA棟に向かった。そして、人目につかない場所にある非常口を開けて入っていった。この非常口も本来ならば鍵がかけられているはずだ。

 最上階の四階まで上がると、そこから特別教室のあるB棟へ続く渡り廊下を歩いていく。B棟に着いて廊下の角を右に曲がった。その先にあるのは視聴覚室と例の空き教室のみだ。

 角の壁を陰にして見ると、少女は裏門と非常口のときと同じく、普段鍵がかけられているはずの空き教室の扉を開けた。少女が中に入ると、扉は閉まった。

 少女が空き教室に入ってからしばらく待ってみたが、電気がつく気配はない。物音も一切しない。

 ――いったいなにしてるんだろう?

 気になり、そっと教室に近づいてみる。扉の窓から中の様子を窺おうとした、そのとき、

「こんばんは」

「!」

 脳に直接響くような、澄みきった綺麗な声が聞こえた。それと共に教室の電気が付き、目の前の扉が開く。

 扉の向こうにいたのは、あの少女だ。

 陶器のように滑らかな乳白色の肌と、絹のように艶やかな白髪。また、近くで見て初めて気付いたのだが、彼女は髪だけでなくすべての体毛がそうなのだろう。眉毛や睫毛も白かった。そして、ガラス玉でも埋め込んでいるのではないかと思わせるほど綺麗な青い瞳。

 白く美しい少女は、微笑んだ。

「私はサユリ。あなたは?」

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