第七歩「それでも私はやっていない」
「……(私はーくーまーじゃないーから、魚は一ぴーきずーつーつまんでくー)」
【伝承スキル〘誘う歌唱〙の発現には現在、適正がありません】
うるさいよぅ! く、ただ好きな声優さんの声だからツッコミもし辛い。
そういう時は作業だ、作業。私はさっきの石の一撃で気絶して浮かんでいる魚を
一匹ずつつまみ上げては河原に打ち上げていく。
結構な数が捕れたが、あんまし獲り過ぎてしまうのは環境に悪いのだろうか?
いや、けどサバイバルしなきゃならない訳だし其処はノーカウントで。
というか適正とかあったのか? え、逆にガン付けは適正有りだったの?
私、どんだけ目つき悪かったんだよ、ほんと。
まぁそれでオオカミさんを追い払えたんだから良しとしよう!
それに獣からすれば、私の美醜よりも単純なデカさにびっくりするだろう。
「……(三枚おろしは無理っぽい? お腹開いて内蔵を取るべきかな?)」
まさか毒があるタイプでも無いだろうし、とっとと調理を始めてしまう。
手に持ったぬるぬるな感触は気持ち悪いが我慢だ我慢。
花嫁修行だと思えばいい。サバイバル可能な嫁とかきっと重宝するに違いない。
取り敢えず、捕まえた魚をさっき砕いた石の破片でエラの付近から頭を落とす。
刃物で斬る訳ではない。むしろ、潰し切っているというのが正解か。
ぐちゃっと肉と骨が歪ながらも頭を取り外せば、次はお腹の部分へと石を当てる。
内蔵を引きずり出せる様に切れ目に無理矢理、石を突っ込んで
引っ張る様に腹を裂いていくのだが、中々にグロテスクだ。
少なくともこんな所は他人に見られたくないなー。きっと誤解される。
「(川の水で内蔵を洗ってー、ウロコを落とせば下処理としてはいーかな?)」
川魚ってウロコとかあったっけ?と思いつつ、見よう見真似で薄い石で
削ぐ様に魚に当ててはそれっぽく落としていく。
一通り無理矢理開かれて切れ目がぐちゃぐちゃな魚を見て満足な私。
多分、包丁があっても対して変わらなかったろう。
なんとなく、魚を下ろした経験とかそんなに無かった気がする。
スーパーで切り身が売っているから必要性無さそうだし。
「(よし、これを後は枝とか刺して、焼けばそれっぽくなるよね!)」
あ、川魚だとそういや、頭から刺してたっけ? イワナとか鮎はそーだよね。
ま、まぁ鱒みたいなでっかい感じの奴だし、練習だと思えばいいか。
そして、私は此処にきて最重要な事に気付く。今更気付く。マジで遅い。
「……(アレ? 火とか起こせなくね?)」
待って、マッチとかライター無いよね? 火打ち石?
アレって火種もそうだけど、燃やすために燃えやすい物も必要だったよね。
え、どうしよう。火を起こさないとお魚焼けないよね。
し、システムさーーーん! なんか、火起こせるのない!? 発火系のプリィズ!
【怪異スキル〘狐火〙の発現には現在、適正がありません】
あ、あるのか! く、ただ適正の壁は超えられないのか。
むしろ、知りたくなかったよ! 無けりゃ無いで諦めがついたしさ!
いや、聞いといてむしろ悪かったかな。うう、えーとどうしようこの魚。
取り敢えずあれか。天日干しにでもすれば、そのうち生でもイケるかな?
まぁこのまま放置したり、リリースしても勿体無いから
捕まえたのは全部やっておこうか。段々と手慣れておけば、色々と経験にもなるし
他の所で役に立つかもしれないし。後は最悪、生で食べるしかないね。
た、多分化物的ポテンシャルでお腹とか壊さない筈!……だといいなぁ。
「……(しかし、適正かー)」
なにげにさっきからシステムさんが新しいワードを出してきた。
現在無いということは何らかの形で将来的に適正が出るのだろうか。
進化とかして、私は〘狐火〙が使えるお狐様にでもなるのかな?
く、九尾でもっふもふとか、それはそれで生き方が楽になりそうだな。
私は11匹の川魚を処理し終えると、大きめの石に並べ
血まみれの手と石を洗う。後はコレを獣に食べられない様にしないといけない。
寝ずの番という訳ではないし、干物とするにも何日も掛かるだろう。
どっちみちすぐ食べられる果実やらを採取しないと駄目かな?
最悪、洞窟に持ち帰って……うわ、この生臭いのと一緒に寝るのはきついな。
「(あー、お腹空くタイミングが解らない。私はお腹がそもそも空くのか?)」
大前提として、この〘八尺様〙の主食がよく分からない。
なんだろうか、山とか田舎で山の幸やら人間の食べ物を盗んで食べていたのかな?
似たようなので例えば、雪女とかだと普通の食事が作って食べてたよーな。
いや、雪女は実在する訳ではないし、本来は〘八尺様〙だって存在しない。
あ、そういえばこの土地の情報もさっきあったよね?
うー、食料確保もアレだけど場所の情報は聞いといて悪く無いかもね。
なんか食べ物が有名だったり、近くに人里とかあればいいかもだし。
ということで私はステータス画面を開いては
用語辞典から〈封印の白き森〉の項目を突っついて開いていく。
【〈封印の白き森〉 Level1[地名]
強固な結界が貼られている森。木々や土が白く聖属性に満ちている土地。
〘セイント・シール・エルフ〙というエルフ族が邪悪な存在を封じ込める為に
外界との接触を絶っていると言われている】
ふむー。エルフとか居るって事はファンタジー世界確定かなぁ――って!?
――邪悪な存在って私か!?
私の為にわざわざ森を封鎖してんのか! え、私って結構、危険生物?
待て、そもそも結界が貼られているって事は、私この森から出られなくないか!?
まじかー! しかも地名でがっつりと紹介されているって事は
結構古くから封印されているって事だよね。
火一つ起こせなくて寝る場所すら困っている私相手に大掛かりすぎね?
オーバーじゃないっすかね? いじめですか!?
取り敢えず、このエルフ族と接触出来れば良いのかな?
けど、退治されそうだよね。私、邪悪で封印されている存在だし。
ただ、エルフとか見てみたいな-。きっと背がすらっとして肌が白くて
キラキラしてるマジで二次元な存在なんだろうなー。見てみたーい。
【伝承スキル〘少年渇望〙を発現しました。このスキルは自動発動タイプの為
以後は幼年、少年期の男性に対して自動的に探知効果を発揮されます】
い、いや、システムさん!? 私、確かにエルフと逢ってみたいとは言ったけど
別に少年限定って訳じゃないよ? 私は取り敢えずサバイバル的な意味で
ちゃんとね、現地の人と仲良くなるなり、友好的なね?
【伝承スキル〘少年渇望〙の効果により隠遁状態だった存在を探知しました】
え、マジで!?という言葉を出す暇もない位に頭の中に強烈に
存在感というか、此処に居ますよ的な第六感が鳴り響いていく。
その方向へと目を凝らすと何やら茂みの中でこちらを伺っている人影がある。
あ、あれってエルフなんじゃね? こ、これは助かったか?
大人だったら兎も角、このスキルで見つけたって事は子供って事だから
怖がらせなかったら話はし易いかも? ほ、ほら一応人型だしね、私!
遠目に眺めてみると何やら色白でちゃんと服を着込んでいるというか
森での生活感溢れている装いだ。正に現地の人とひと目で解る。
ベルトが多く、肌の露出の少ないデザインの服に身を包んだ
耳が尖って長い男の子がいる。多分、男の子で男の娘でも少女でもないだろう。
あ、いや、ほんと少年狙いって訳じゃないからね? 私、まだ何もしてないって。
やらしーことはしないよ? ほんとだよ? そ、そりゃ仲良くしたいけど――
【怪異称号〘少年狂愛〙がアンロックされました。
怪異スキル〘蠱惑の少年愛〙が発現しました。Lv1に上がりました】
そ、それでも私はやってないんだからねーーーーーーー!?
第八歩「イケヅキ哨戒報告」に続く