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第十六歩「怒りを爆発させる姉」

 くっ、忌々しい化け物め。アタシの可愛いイケヅキがこんなに苦しむ様を!

アタシ以外がイケヅキを苦しませるなんて許せない。忌々しいわ。歯が軋む。

愛する弟のうめき声とその歯ぎしり音だけが静かな病室と化した寝床に二人きり。

くそ、奇跡の様に素敵な空間だというのに今がこんな緊急事態でなければ!


「……ねえさん」

「イケヅキ。必ず、仇は討つ。いや、ただで殺すものか」


 嗚呼、アタシの可愛いイケヅキが呻いている。ちょっと可愛いし、欲情する。

さて、どうしてくれようアノ化け物め、嗚呼化け物め、化け物め。

一応、女の化け物と聞いている。ドコに矢を射ってやろうか。

顔か? 胸か? 口か? 目か? やはり、女となると……んむ。

しかし、あそこに矢が刺さると痛みはあるのだろうか?

実践した事がないしされた事もない。

里の者で試す訳にもいかないし、どうしたものだろう。


「……ぇさん」

「心配するなイケヅキ。例え、封印された邪なモノが相手だろうと

 一歩も退かず、弓を引いてやる。絶対、死なす!」


 と言うか、そもそもアタシはまだ件の化け物の姿を見ていない。

……くっ、あの時は気配がうっすら残っていたから、もしかすると相手は

アタシを見ていたのかもしれない。しかし、アノ場で特に接触してこなかった。

怖気づいたか? もしくは泳がされたか? いや、追跡された気配はない。

多少、隠していた様だが大まかな位置と存在感はあった。

むしろ、イケヅキは何故、気づかなかったのだろう? いや、アレは逆だ。

つまり見せていたということか。挑発か? 挑戦か? 嘲笑か?

くっ、忌々しいったらありゃしない! 嗚呼、殺意だけが煮え滾る。


「イケヅキのことをアノ場で第一とするのは最善だけど

 それを見越した上か。あの、化け物めぇえっ!!」

「ぁさ……ぁん」

「大丈夫かイケヅキ! っくぅ、一体何をされたんだ!」


 腕の黒化した肌は塗り薬で少し色は薄れているがそれと同時に

イケヅキは暴れるとまではいかないが身体をよじり、ベッドの上で寝乱れていた。

いやらしいという印象をきちんと受け取りつつもアタシは頭を働かせる。

一応、何をされたのかは詳しくは解らないが、何をされようとしたかは解る。


「しかし、Level4クラスの〘魅了〙スキルか。只者ではない。

むしろ、どんな感じに魅了されたのか参考にしたい!」


 イケヅキの首に掛けられていた首飾り。複数の色の付いた水晶で括られていた

簡素な作りとは裏腹、実は結構な便利アイテムである。

名は〈金糸雀の水晶飾り〉。状態異常に一度だけ対抗魔術を

自動で発動出来る上に、相手のスキルLevelの把握も出来る。

〘毒〙〘麻痺〙〘呪い〙〘睡眠〙などが一通り対処出来るが、デメリットもある。

事前に魔力を込めないと発動できない上に対抗効果は

どんな種類でも一回しか発動しない。

そして、込めて一日経てば魔力は消えて、再度の魔力の充填が必要になる。

短期決戦や強行偵察用に持たされる里の貴重な装備だ。

これが配られた時点で今回の自体は相当危険ということだ。


「女の化け物。サキュバスや淫魔種か? こんなド田舎の森に?

 結界をすり抜けて? やはり、封印されし邪なモノか?」


 その水晶の一つ、桃色の水晶が見事に砕けて粉微塵になっていた。

桃色、即ち〘魅了〙の効果。アタシの可愛いイケヅキを誘惑したとは羨ましい!

おまけにLevel4以上、即ち該当スキルに対して熟練した達人クラスの一撃だ。

Level1は発光、Level2は点滅、Level3でヒビが入るなど

この首飾りは受けたスキルの習熟Levelを影響が受けた水晶の形状で教えてくれる。

粉微塵になるLevel4以上となると、生業や種族的に代表とされるスキルに等しい。


「なんらかの目的があり調査、偵察だったのか?

たまたま迷い込んできた路線も切り捨てる訳にもいかないが……情報が足りない」


〘魅了〙を主とするならそもそも、人間や亜人種が多い都会を狙うし

世間的に保守的かつ他種族との交流を持たないアタシ達を狙うのはおかしい。

いや、いざという時に他種族から救援や連携がない事を狙うのは逆に一理ある。

くっ、なんでアタシはこう、きな臭い事ばかり頭が回るのか。

薬学とか魔術系の教えの時は、眠たくてろくに頭に入らなかったのに!

アタシは万感の想いを込めつつもイケヅキの手を握る。イケヅキも苦しそうだ。


「……さんぅっ」

「くっ、族長が戻ってきたらやはり何か一手を打たないと。里の皆も怖がっている」

「――スルスミの姐さん! 此処に居たんすかっ!?

ってイケヅキ君に近づいちゃダメって!」


 苦悶の表情を浮かべる可愛い弟。それを一人にすることなんて出来ない。

故に封鎖されている扉を蹴破る位は当然の事として

部屋に慌てて入ってきたアタシの舎弟の一人が動転したまま喋ってくる。

こいつは何を言っているんだろう? 

族長の言いつけなんかよりイケヅキの方が大事だろうが!


「喋ったらぶっ殺す。で、要件は?」

「こ、殺すのは後でいいんで、大変です姐さん!」


 殺意のひと睨みで無事冷静さを取り戻した様子でアタシは満足する。

両手を前に出して制止を促す様などなんとも愛らしいものだ。

やはり、この手に限る。日頃からきちんと躾けておくのはやはり、大事だな。

私はぴんっとした伸ばされた背筋の舎弟からの報告を待つ。


「例の化け物が結界の修復向かっている族長様の一団を襲っているそうです!

後をつけさせていた子から連絡がありました」

「なんだと!? ちっ、あっちから先手を取りに来たか!

 〘ヒビ割れ〙連中と弓矢を集めな! 族長の援軍に行くよ!」


 告げられた事態に思わず手を離す。目を見開き殺意と戦意が高ぶってくる。

く、族長が修復に出たのを感づいたのか例の化け物は? なんて狡猾な奴だ!

しかし、そうなると不味い。儀式、修復用の人員がメインで護衛の数と

武装はそんなに多くはない上に、敵の数が一匹とも限らない。

ココで族長を殺されるのは里の存亡に関わる。やはり、戦うしかないか!

アタシは立ち上がりそのまま、外へと走る。ことは一分一秒を争う。


「いや、姐さん勝手にっ!」

「馬鹿か! 族長がやられたらこの里自体が終わるぞ!」

「……さん……」

「イケヅキ! 行ってくる! 仇は討ってくるぞ!」


 教えに来てくれた舎弟はどうも乗り気じゃない様子に見えた。

全く、報告しに来るなら事前に武装したり、キビキビと手筈を整えられないのか!

よし、こうなったら、こんな事もあろうかと思って作っておいた

とっておきを出すしかないな! アレか! アレは凄いぞー! うふふっ!

血沸き肉踊るなぁ! ひゃっふーーー! 絶対、ぶっ殺してやる!


「……って訳で。イケヅキ君。行って来るね――ってうわぁっ!?

 手が真っ青!? え、え? 里に戻った時こんなじゃなかったよね!?」

「姉さん……ずっと握って……痛くて……ほんと、痛くて………ありがとぅ」

「ぁー、イケヅキ君。うん、お薬塗る様に頼んどくね」


 アタシは〘ヒビ割れ〙連中を連れて里を出る。勿論、全員完全武装だ。

ふふ、待っていろよ、邪なモノめ!

                 第十七歩「平和的秘技」に続く 


〘狐火〙[怪異][召喚]

火の玉を宙空に召喚するスキル。

Levelを上げていくと段々と大きさが増し、狐の形になっていく。


 一見、魔術や妖術の類に見えるが、このスキルの恐ろしい所は

魔力等の影響や詠唱過程を経ず、何の契約もせず

意思も感じさせない火の塊が突如、宙空に現れる事である。

当然、魔法等で呪文を打ち消したり、水を掛ける等の消火活動をしても

一度で消し止められなければ長時間、火の玉は燃えて浮き続ける。


 魔術理論や魔力の原理、化学的な原理も全部すり抜けて

捕獲する事が出来ない火の玉が浮くという結果のみを出される奇怪なスキルであり

この世界の理から外れる事への可能性を示す現象でもある。

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