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第十四歩「土下座案件」

鳥のさえずり、眩しい朝日が脳味噌を揺さぶり起こしてくれる。

多少、体は軋むものの小屋に寝泊まりさせて貰っている時点で幸運だ。

化け物生活二日目は順風満帆さから、私の寝起きに爽やかさを添えてくれる。


「……(おへよー)」


【おはようございます】


 特に声も出さず、鏡も無いので適当に自分の頭の中で朝の挨拶をする。

システムさんも挨拶を返してくれた。地味に嬉しいサービスだ。

手近に半分暗くなっているステータスウィンドウを閉じつつも

色々と思考を覚醒させていく。朝ごはんでもと思うが、肝心の食料はない。

ボールに入れた魚をもう一度干しに行こうか……って今更気づいた。

そうか、塩がないのか! 水分とか飛ばないんじゃないかな?

ぁー、どうしよう。岩塩とかあるのかな?

山の方にいけばあるのかも知れないが、問題は結界だ。

山が見えても結界に遮られているという可能性は十二分にある。


「……(うーん、結界の範囲が解らない)」


 ギリギリまで行ってみるのもアリかも知れないなぁと腕を組む私。

もしかすると接触したら、システムさんが情報を提示してくれるかも知れない。

マッピングは流石に無理だったんだよねぇ。

地図とかは買えって話かな? 便利さの線引がよく分からん。

ただ、地図とか貰えても、川と洞窟位しか解らないかも?


「……(むー、分からんない)」


 再び、藁ベッドへと体を沈める。うー、ふかふかの毛皮の寝心地が良い所為か

思考がまとまらないまま蕩けていく。これは絶対二度寝コースに……ん?

アレ? なんか今、すごく重要なことを認識してないよーな。毛皮?


「……(あ、えーと、そう毛皮!)」


 起き上がり、今まで寝そべっていた毛皮を見る。多分、違和感はコレだ。

今まで気づかなかったというか舞い上がり過ぎて意識しなかった点があった。

私の寝起き頭が長い計算時間を要した後に、正解を告げてくれる。


――でかくね?


 私って今、結構なでかさの女の子だよね? ああ、女性としておこうか。

その背のでかい女性がすっぽり問題ない位に寝られるって結構なサイズじゃね?

んで、毛皮ということは、これはかつて生きていた獣ということだ。

継ぎ目やら縫い目がないからこれが一枚という事になる。熊かなんかだろうか?

つまり、生前ではこれは私よりでかいので……で、コレは誰かが仕留めた訳で。


「……(エルフ君達、こわわああああ!?)」


 私は昨日までぐっすり寝ていた毛皮を改めて広げてみる。

やっばい! エルフ君達がこの獣の命を奪って、革を剥いだって事?

え、強くね? これ、私すらゆったりくつろげるサイズの巨体だよね?

あ、えーと、知性のある人型が文明の利器を使うと

これくらいなら仕留められるのかな? 昨日見たエルフ君も弓とか装備してたから

狩猟とかやるんだろうし……うわ、うん。今、私がハリネズミみたいに

矢で射られまくる絵を想像してしまった。的でっかいからかなり当たるぞー、私。

これは私、エルフ君の件は早々に謝るべき土下座案件なのではないかな!?


「……(とりま! やっぱ、エルフ君達とは仲良くならねば!)」


 私は干し台に毛皮と魚を干した後、今日の予定を詰めていく。

今まで出会って居ないが狼が居た位だ、他の動物なんて幾らでも居るだろう。

現在の私より巨体な熊や化け物が居ても何の不思議でもない。

ソロプレイ対処出来るとは思えないから、やっぱりね。仲間とかほしいよね。


「……(って、まぁーそもそも)」


 私、別に冒険する必要って無いよね? う、うーん?

ずっと、この森に住み着く? エルフ君達が許容してくれればそれで良いのか?

ステータスとか見えるのに肝心要の未来は見えない。


「……(ま、悩んでも仕方ない、切り替え切り替え!)」


 私は小屋を出て川へと向かう。鍵とかは無いので

支え棒代わりに昨日からの相棒の〈鋭い枝〉先輩を掛けておく。

取り敢えず、先日の川へと向かってそのまま下流へと歩いてみるコース。

最悪、川をたどっていけば迷う心配も無い。小屋も避難目的だったりするのかな?

道が簡単に敷かれていたので辿り着くのも容易だ。


「……(逆に言うとエルフ君達も勿論、此処にはすぐ来れると。

     ほんと、早く友好関係を造っておかないと小屋にも居られないよ)」


 川へと辿り着く。朝の洗顔と……歯って私も洗わないとダメなのかな?

指を口に突っ込んでなんかしゅわしゅわする川の水で洗っていく。

まさか指で歯磨きをするなんてね。この〈天然聖水〉のシュワシュワ感は

意外と清涼感を与えてくれるので、目覚めには良い祓われ具合だ。


「……(さて、軽く、冒険してみましょーか)」


 私はぱんっと両頬を叩いては気合を入れ直し、下流を見る。

季節的には春か夏へと移ろう感じなのだろうか?

四季があるか解らないが僅かに肌寒さを残す朝の川を歩いて行く。

幸い、オオカミさんや熊などは出てこない。

真っ白な森。川原の石すら真っ白でまるで色の概念を抜け落ちた光景は

あらためて見ても異常ではあり、美しくもある景色である。


「……(はー、絶景かな、絶景かなと)」


 なんて思いつつも果実とかの木はやはり見つからない。

もとい、真っ白だから更に判別しづらい感じになっている。


「……(んー。中々見つからないなぁ……ってんぅっ!?)」


【スキル〘少年渇望〙の探知対象を発見しました】


 な!? また、エルフ君かな? 私の感覚的に遠くでピコーンピコーンっと

音を鳴り立てている存在感が一つ近づいている。

えーとどうしようか。いきなり挨拶するのはダメだ。

また、言葉が通じないとか変に追いかけっこになっても仕方ない。

〘気配隠遁〙と〘遮音隠遁〙を発動しておこう。スニーキングミッションかな?

遠目に見ると……アレ、なんか乗ってる。って、アレって!?


「……(グリフォン……だと……!?)」


 一瞬、名前を思い浮かべるまで時間が掛かっていたけど、あれ確かそうだよね?

私の遠目、茂みから眺めるソレには大きな鷲の頭と翼にライオンの身体。

オオカミさんも大体びっくりではあったし、エルフ君の存在も結構驚いたが

グリフォンって凄い。単純にでっかい犬とか耳が長い少年とかと衝撃の質が違う。

そのびっくりどっきり幻想動物のグリフォンが何やら額当てとかすね当てを

完全武装していて……嗚呼、凄い。騎士様が上に乗ってる。


「……(おもちゃみたい。そして、アレが少年か)」


 川岸をノシノシと歩いてくるグリフォンに跨っているのは甲冑を来た騎士様だ。

そのかなり背が小さいので本当に置物みたいになっている。

鈍い光を返しているピカピカの西洋甲冑の鎧は大事にしている印象を与える。

〘少年渇望〙が示しているので中身は少年騎士の様だ。


「……(おぅふ。もう一人も中々ファンタジーな)」


 隣で歩いている子は肌の色が凄い。特殊メイクか!?ってツッコミ入れたい。

緑と青と水色とも言えない絵の具とか色鉛筆であったら珍しいカタカナな名前が

名付けられている色だ。こちらは生足がちらりと覗かせているスリットの入った

法衣という感じだろうか。胸元もざっくり開いているが

首筋までちゃんとガードされてるタートルネックのインナー。

あ、足元もスパッツを履いていてガードが堅いし、身体にウロコが見えている。

紋様とか見るにいかにも水使います的なデザインだ。

ゲームとかだと解りやすくて良いし、シンボリックなんだけど

現実的にああいう見ただけで属性なりが解るのってどうなんだろう?

植物か雷か土辺りの属性をぶつけ……私は持って無いから止めておこう。

なんで戦う前提なんだよ私。〘少年渇望〙に引っかからないから女の子かな?

遠目だからちょっとよく分からない。


「……(恋人とか幼馴染なのかなー? 仲良さそうー)」


 私は双眼鏡とかズームカメラもないので、遠目に二人が連れ添い歩いているのを

眺めているだけだ。このでかい図体で隠れ切れているのはスキルのおかげというか

逆に言うと、こんな姿を森でいきなり見つけたら相手もびっくりだろう。

少年騎士君はちんまい感じで、水使いちゃんはそれよりちょっとお姉さん?

なんかおでこを出しているのと冷たい感じの印象の目つきなので

尻に敷いている系かクーデレ系なのかな?


「――かし、結界を抜けられるとは思わなかったよ」

「川が流れているということは水自体は素通りしているということ。

私の術で川の水を引っ張り上げればアノ程度造作もありません」

「ちょっと、ずるい感じはするけどね」


――えっ?


 私は段々と近づいてくる相手を観察している。どうせ、言葉は解らないから

精々仲のよさ気な様子を観察しつつ、前にあった言語経験値が

貰えればいいかなとかそんな打算な状況だった。

ただ、事態はその予想を斜め上に飛び立つ現実へと移り変わっていく。


「それにあの結界自体は強くはありません。ただ、確実に探知はされるでしょう。

それより、気付いてますか?」

「ぁ、うん。〈アポロ〉も気配には勘付いている。

 けど、地上での目は良くないから」

「かといって今、飛ぶ訳にもいきません」


 そういって、二人は立ち止まり、周囲を警戒、観察する。

相手は言葉振りから私の存在に勘付いてしまったが、今はそれどころではない。

私は思わず声を上げそうになってしまいそうなのを、ぐっと堪えて口元を抑える。

目を見開いては視線を向けつつもじっと耳を澄ませていく。


「……(アノ二人、日本語を話してる!?)」


【〘ケントゥリオ共用語〙の言語項目を開放しました。

  言語理解経験値の取得を開始します】


               第十五歩「カップルに疑心暗鬼」に続く

〘古代エルフ語〙[言語][古代]

遥か昔、大戦時以前のエルフ族が各部族、各種族単位で使用していた独自言語。

人類や他の亜人種達には聞き取れない、発音出来ない言葉が多く、また地域ごとの方言も存在する。

現在、習熟するのに大変苦労のする古代言語であり

かつてのエルフ達がいかに他種族との関わりを断って、独自の文化圏を形成していたのか解る。


古い文献の読解や実際にまだ現役で使用するエルフの部族が居ない訳でもないので

専門性の高い学校や教育書籍は現存する。

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