第十三歩「住めば都」
さて、どうしたものか。今、川岸に居る私は悩み耽り水面を見つめる。
ドコかに移動しようか? 洞窟はうん、本当に怖い。
光源が無い中で、奥に何が居るか解らない状況で寝るとかありえない。
鍵もないし、寒いし、石は堅いだろうしで、女子としてあるまじき寝床だ。
「……(川沿いに行くか。下流か上流か)」
方向としては下流には恐らくエルフの里があると私は予想する。
なんだかんだで水場に近いというのが集落の形成では必然だろう。
井戸も掘っているかも知れないし、他に川もあるかも知れないけど。
エルフ君を図らずも、ぶっ倒してしまった訳だから
今のタイミングで里にというのは、ちょっと不用意過ぎる。
ナニか手土産でも持っていくべきだろうか?
ただ、変に見繕ってごんぎつね状態になってしまっても困る。
神聖なモノとか、エルフに対して毒なモノを差し入れとか致命的過ぎるよ。
うーん、ならば消去法で上流に行ってみよう。
下流だとうっかり、森の結界まで辿り着いた場合は引き返さないといけない。
「……(それにしても結界か)」
結界がどういうものかはまた後回しでいいかな?
指先が触れてじゅわっと溶けたり、火傷したりするのも怖い。
単純な見えない壁という優しめな設定とは限らないのだ。
私はそんな事を考えながらも、足元を見つめながら歩いて行く。
「……(あ、あったあった~♪)」
【〈尖った枝〉を装備しました。攻撃力が+2修正されます】
川岸にさっき捨てた枝を拾い上げる。うん、何となくもったいないし?
さて、上流をてくりてくりと私は進んでいく。
これから長い間を過ごす事になりそうな森だ。景色も綺麗だったが
せめて、木の実やら食べ物が取れる様にしておきたい。
一応、木からスキルで栄養は取れるがそれでも甘味はほしい、女子的に考えて。
「……(私、生存の目処が立ってからなんか我儘になってないか?)」
ぼけーっとそう考えながらもなんというか生きている性を感じてしまう。
うう、食うに困るレベルだったというのに随分と余裕だな私。
まぁ、やっぱりそれだけ『食』って大きいんだろう。水と食料がある安定感。
特に狩りとかしなくて済むってのは草食動物としての優位性を実感出来る。
「……(そりゃ、アフリカとかでもあんだけ肉食獣が居ても増える訳だ。
ガゼルとかシマウマとかって、おぅ!?)」
私は川の上流へと歩いているとなんと小屋を発見した!
これは結構大きいんじゃないかな! 多分、アレだよね。
エルフさん達の狩猟小屋とかそんなノリだよね? わ、わ、やった!
ついてる-! エルフ君を間違えてぶっ倒してから私ついてるー!
ああ、ごめんよ、名も知らぬエルフ君。君にとっては厄日だったが
私としては、生活基盤がなんとかなりつつある転機になっているよ。
「……(うー、多分、エルフ君の件もあるからすぐには来ないよね?)」
川岸の近くに立っていた小屋は簡素な作りながらも、キラキラと輝いて見えた。
壁も屋根も木で作られており、石が土台になってるのかな?
アレだ、白雪姫が小人の家見つけた時とかこんな感じだったのだろう。
私は幸いにも、毒林檎食べさせられる程恨まれて……ないよね?
「……(お邪魔しまーす。誰も居ませんよねー?)」
扉を開けると何やらロープやら革袋やら置かれている。
鍵が無いのはやはりこの森にはエルフしか住んでいないのだろうか?
他に悪さをしたり、住み着いたりする人型が居ないとなると
まぁ、こういった無防備な作りになるのも当然かも知れない。
「……(火を付けられる道具はないか。まぁ、そ・れ・よ・り・もー♪)」
そう、小屋の片隅に盛られた藁! 藁ベッドですよ、先生!
アルプスで少女がハイジってる訳ですよ、えぇほんっと!
わーわー、なんかほんとヨーロッパに旅行に行ったみたい!
バックパッカーとかじゃないと、こういう宿に踏み出す勇気は中々ないよねー。
傍らにはちょっとボロっちい毛皮が畳まれて置かれている。
む、今から干しとけば夜にはいい感じかな!
きゃーきゃー、テンション上がるなー!
「……(うう、システムさん。サバイバル設定意外と緩かったよ)」
エルフ達に襲撃されるという危険性は全く無い訳ではないが
そんなのはどーでもいい。藁ベッド-、藁ベッドだよ-! 雨風凌げるよ-!
私はルンルン気分を振りまきながらも畳まれていた毛皮を
外の干し台みたいな所に引っ掛けておく。ふふ、夜が楽しみだぜ!
さて、宿は決まった。あ、この干し台みたいなところにさっきの魚を
干しとけばいい具合になるんじゃないかな!? ちょっと獣が寄るのは怖いけど。
おお、道具箱っぽいのを漁ってみたら木のボールとかもある!
わーわー、凄い生活出来るよコレ! さっきの川に戻って魚を取ってこよう!
私は狭い小屋の中で両手を上げては、爆発しそうな感情を表現する。
「ぽっー。ぽっぽっぽっーー!(あーー、生きるって楽しいーーー!)」
私はそのままの勢いで外へと出ては、川へと歩いて行く。
ついさっき、エルフ君を追いかけた際に解ったのだが、身体能力は高い様だ。
まぁ、ただの薄のろな高身長女性ってだけじゃ色々と不都合もあるのだろう。
足取りは軽く、干してあった魚を回収しては小屋へと戻ってくる。
辺りはすっかり日が落ちてしまった。うう、薄暗くて手元がおぼつかないが
夕暮れの内に藁ベッドの準備が出来て良かった良かった。
「……(おー、満天の星空。いいねー)」
私は小屋の周りを軽く見回りながらも空を眺める。
流石に電気も何もない時代故だね。天の川っぽい星の密集や
まるで星座図に描かれているかの強い光の星の並びは……うう。これがアレか。
私がもうちょい天文系の知識、記憶があったら
『あ、あの星の位置がアレだから北はあっちか』とか
『あの星座は違うから此処は別世界か』とか思いが馳せられたんだろうか?
「……(そういう意味で天文に詳しく無いというのは勿体無かったかなー)」
そんなことを考えながら、窓枠という額縁から星空の絵画を眺めるなんて
ドコかのCMで聞いたような言葉を胸に抱く。藁が織りなす弾力に受け止められ
毛皮の温かみに包まれて寝そべるのは気持ちいい。
うん、勝手に間借りしてしまったが良かった。
あ、そうそう、寝る前に『ステータス画面オープン』っと。
「……(おーー、夜だとちゃんと発光してくれる。
あ、コレって照明代わりになるね! マジ便利!)」
私は再び《CONFIG》の場面で明るさや透明度などを調節する。
バックライトが何分後に消えるかの設定まで出来るぞ、これ!?
流石のユーザーインターフェースっぷりに驚きながらもそうそう。
一個、見忘れてたのがあったよね。なんだっけ? 〘捕縛機動〙だったかな。
「……(あーっと、あったあった。ポチッとな)」
【伝承スキル〘捕縛機動〙Level2[ムーブ][カウンター]
逃亡する目標に対して、自動的に捕縛する様に体を動かすスキル。
身体能力の限界近い動きをする為、意識的に動けなくなる。
New 相手が[ムーブ]系のスキルを発動した際に自動的に追尾する】
おぅ、コレは便利と言うか。なるほど……うわ、怖いなぁ。
これ、うっかりと勝手に発動とかしないのかな?
なんだろうこの全自動ストーカー、私はコレでエルフ君に着いて行けたのか。
「……(何か連鎖的に発動や効果が出ないか確認し直さないと)」
よっぽど夜にする事が無ければ、情報整理と明日の予定は毎日立てよう。
計画的に全てうまく行く訳が無いけど、頑張らないとほんと殺されちゃうし
また、昼間のエルフ君みたいに犠牲者を産んではいけない。
今の私はもう普通の人間ではないのだから。
「……(エルフ君達とは仲良くならないとなー。
後は他に生活できる様にナニか出来ることは)」
あー、今日一日が色々有り過ぎた! 起きたら洞窟だし!
オオカミさんと出会うし! 川に行ったら自分がビッグ(物理)になってたし!
川魚も捕まえたり、エルフ君と追いかけっこしたし! この小屋も見つけたし!
ああ、凄い密度だね。なんというかペース配分大丈夫なのかなって話だよ。
「……ぽぽぽっぽぅっ(明日はもうちょっとゆっくりした一日だといいな)」
うとうとと意識が段々と薄れていく。ああ、一応眠気ってあるんだね、〘八尺様〙。
電気もスマホもネットも無いと夜ってこんなに早く眠れるんだ。
ん、明日は洞窟ももう一度見てみよう。なんかあるかも知れないし。
そんな淡い計画を枕に私は〘八尺様〙としての初日を終えたのであった。
第十四歩「土下座案件」に続く
〘フォレスト・ハイディング〙[自然][隠遁]
主に森の魔獣やエルフ、フェアリーなどが生息する際に自然と身につけていくスキル。
現代的な言い方をすれば、カモフラージュや擬態化に近いのだが
スキルによる隠遁は視界や意識に働き掛ける者が多い。
ただ、完全なステルスという形にはならず、このスキルの場合はあくまで気配や
意識から逃れやすくなるだけで、視覚や嗅覚、聴覚や熱探知による索敵には引っ掛かる。