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第十二歩「怒れる姉」

八尺丈の 幻想眺めは 絶景かな ―伝奇転生物語

第十二歩「怒れる姉」


「一体誰に、何にやられたんだイケヅキ!」


 怒声に近い声を殴りつける様に、気を失っているイケヅキへとぶつける。

イケヅキの姉にして里で一番強いと自負するアタシ〈スルスミ〉にとって

この事態は屈辱である。〘パートナーハウンドウルフ〙の〈タワラ〉から

一報を受けた時、文字通り矢の如く追いつこうとしたが間に合わなかった。

せめて、敵を一目見て、一矢報いて、そのまま報い倒してやろうかと思ったが

イケヅキの様子からそれは断念せざるおえなかった。


「……姉さん……ごめん」


 今から戻ってそのまま、イケヅキをこんな目に合わせた奴を

矢だるまにしてやりたい気持ちをグッと堪える。

アタシはタワラにイケヅキを背負わせた後、里へと戻っていく。

イケヅキは衰弱していた。手を抑えていたので

最初は毒かナニかをされたかと思ったがどうやら違うらしい。

とにかく、怪我をさせられた腕を抑えたまま息も絶え絶えといった具合だ。


「どんな奴だ。やはり、封印された邪なモノだったのか?」

「……うん。恐ろしく素早い女の化け物だったよ」


 アタシはイケヅキの言葉に驚嘆する。イケヅキは実戦経験こそはないものの

身軽さでは里の中では上位に入る方だ。当然、アタシが鍛え上げた

自慢(自称)の家宝弟(強制)な訳で、生半可な雑魚にやられる訳がない。

く、しかも女だと? アタシの可愛いイケヅキを惑わし、手に掛ける。

まして、殆ど殺せる状態で嬲ったまま放置するという舐め腐った仕打ち。

絶対に矢で射抜き殺してやる。きっと、性格もド腐れで何度も獲物に出来ると

高をくくっているのだろう。くそ、想像するだけで腹が立つ。


「しかし、外傷はないが……毒ではないのか?」

「多分……違う」


 ああ、青ざめた唇で言葉を出す様は嗜虐心を唆られてしまうがそれはそれ。

その情欲を怒りへと変えていく。なんとか里には辿り着く。

駆け寄ってくる皆は、不安と好奇心の入り混じった顔でイケヅキを見てくる。

当然だ。この里で事件が起きる事が珍しい。勿論、心配はしているが大人も含めて

皆この事態に対する情報を少しでも集めたいのだろう。

口々に掛けられる心配の声もどこか浮ついていた。全く、脳天気だ。

アタシなんてイケヅキの凄惨たる姿を見て、近くの木をへし折ったというのに。


「スルスミ! イケヅキは無事か!」

「族長すまない。イケヅキを診てくれ。女の化け物にやられた!」

「女の化け物……じゃと」


 嗚呼、我らが族長様。時々、その役割がメイン過ぎて実際の名前をど忘れする事が

多々あったりする。今、現在そんな状況な族長様が前に出てくる。

当然、アタシは今、イケヅキがイケヅキしてイケヅキな訳で仕方ないのだ。

イケヅキの様子には動揺無く、役割相当の落ち着きを見せていたが

続く言葉には驚嘆が隠せていない。長い眉毛に隠された目の奥は

明らかに瞳孔が揺れているのが解る。やはり、それだけの事態ということか。


「族長! 祠に封印された邪なモノとはそいつか! 弱点は無いのか!

 アタシはそいつを射殺さないと収まりがつかない!」

「落ち着けスルスミ。イケヅキは奥で寝かせる。

 傷を見せて見なさ――これは! ……皆、イケヅキに触るな!」


 さっきから族長の驚きが続いている。一応、年を食っている訳だから

多少の落ち着きはあるはずなのに、その族長がこれだけ動揺しているというのは

かなりの衝撃だったのだろう。族長が実はビビリという想定は除く。

そして、あいなくアタシもソレを見て目を見開いては驚嘆が伝染する。


「なんだこれは……肌が」

「黒くなってる!?」


 大人たちが口元に手を隠しては驚嘆の連鎖は続く。中には泣き出す者もいた。

年配者に散見されるにこれは古い悲劇的ナニかを連想しているのだろうか?

そう、イケヅキの掴まれた腕が真っ黒に汚れたと言うよりは肌が黒くひび割れている。


―まるでアタシの様だ。


生まれつきで〘ヒビ割れ〙と言われる特異体質が里には何人か居る。

特異体質と言っても見た目以外の変化は特に無い上に薬で完治する。

多少、気性が激しくなるという事はあるらしいが、そんなのは里の者から

異端扱いをされているんだから、誰だって性格に歪みが出るものだ。

悪目立ちもするし、怒られる回数も多いのだが今はそれはいい。

一番問題なのはイケヅキの腕が掴まれた部分が、手の痕を残すほどに黒くなり

そして、そこからひびが入る様に黒い線が入っている事だ。


「族長、コレは」

「解らん。ただ、今はあるだけの薬をこの子に使ってやる事じゃ。

 それと祠の修復を明日にでもするぞ。これ以上ナニかが出ては対処が出来ん」


 族長の指示で大人たちが各々の役割を担っては対処を始める。

イケヅキを運ぶ者、〘ヒビ割れ〙用の薬を取りに行く者。

アタシはイケヅキに着いて行きたかったが、触るな、近づくなと怒られる。

仕方ない。アタシが心配そうな顔で見つめていてもイケヅキが治る訳ではない。

此処はいち早く、その女の化け物を何とかしなければいけない。

一分一秒でも早く、その女の化け物を射殺さなければならない。

しかし、族長が対処出来ないとなると、里でナニか知恵を出せる者は居ない。


「族長。例の者は如何致しましょう」

「丁重に追い返すしかあるまい。今はこの子の事で手一杯じゃ。上手くあしらえ」

「はっ。行って参ります」


 何やら族長の耳元で囁く大人とそれに応え、指示を飛ばす族長。

すぐに大人はその場から離れると森の方へと消えていく。

アタシ達が哨戒に出ている間に何かあったのだろうか?

全く、問題が立て続けに起こるとはなんとも悲劇的だ。

しかし、それを何とかしなければならない現実。

族長に詰め寄る様にアタシは言葉を並び立てていく。

やはり、じっとしている訳にはいかない。アタシがなんとかしなくては!


「族長! 放っておいてしまったらまた里の者に被害が出てしまうぞ!

その女の化け物は邪なモノなのか! 退治しないのか! 退治出来ないのか!」

「何度も言わせるな、落ち着けスルスミ。

 気持ちは解る。解るが今は何も出来ん。……コレを見よ」


 そういって抑えていた腕とは別、イケヅキに首に掛かっていたソレを見る事で

アタシも思わず言葉を飲んでしまう。これは確かに迂闊には手を出せない。


「くそがぁああ!!!」


 私の怒声は小さい里全体へと響き渡っていった。

  第十三歩「住めば都」へ続く

〘パートナー・ハウンド・ウルフ〙[魔獣][使い魔]

本来は野生の狼の魔獣の一種であったのだが

エルフを始め、長い年月を掛けて交配、調教された結果

主に人類、亜人類種のパートナーとして飼育されている。


大変、賢く従順で育成過程によっては野良の狼の魔獣より強くなるが

その分、プライドも高くなり、弱い相手には尊大な態度をとりがちになる。

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