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幕間へと踏み出す足「そして、私は森を後にして」

 それからの時間というのは正にあっという間に過ぎて行ってしまった。

〈第四勇者軍〉の代表“銀仮面の君”と新たに族長となったイケヅキ君。

“銀仮面の君”との謁見を持って此度の一件は納められた。

私は警戒されない様にと奥へと引っ込んでいたので顔を見られなかったが

中々の美青年だった様だ。まぁ、私は青年は趣味じゃないのでそこはどうでもいい。

うん、それよりイケヅキ君が族長なんだ。若過ぎじゃないとか経験無くない?とか

最初聞かされた時は当惑したもんだよ。なんでも規定路線だったらしい。

ただ、後数十年先の予定だったから大人達は大慌てで

後ろに数人のおじさんおばさんが引き連れる様な形になっていた。

うう、アレはアレで中々のプレッシャーだったよね。


「姉さん、〘ハッシャクサマ〙、忘れ物は無いですか?

 大丈夫ですか? 本当に行っちゃうんです?」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽっ(そんな今生の別れじゃないんだから)」

「ようやく里としてのやり方も落ち着いて来たからな。

 早めにアイツラを連れて来ないと馴染めなく成る」

「うう、解ってますが」


 そう、そんなこんなで殆ど咎を受けることもなく

この〘セイント・シール・エルフ〙達はこの森に住み続ける事になった。

勿論、あの戦いで森は穴だらけだし、地形も変わってしまった。

ワイバーンさん達はもう何処かに行ってしまったし

老人エルフ達はあの戦いで居なくなってしまったので環境も体制も変わり

その忙しさと求められる変化が贖罪になっているのかも知れない。


 さて、そんな事情はさておいて、私も何か手伝えるかな?とは思ってたが

この状況において、私は“構ってられない”部類になってしまった。

私は図体がでかいが怪力がある訳でもなく、特に器用な訳でもない。

お手伝いは出来るが森暮らしエキスパートの彼等から見れば

兎にも角にも鈍臭い。それでも、〘ヒビ割れ〙の子達への貢献から

邪険にこそされないが、やっぱり私としてもお手伝い出来ないは心苦しい。


「では、早く戻ってきて下さいね!」

「ああ、留守の間はお前らしっかり森を守ってくれよ。トゥータもな?」

「「ウッス!!!」」

「シャァー!」


 同じ様にスルスミちゃんも里の中ではちょっと孤立してしまった。

つるんでいた〘ヒビ割れ〙の子達も里の手伝いに奔走する中

誰もスルスミちゃんに指示を出すエルフも、出されるエルフもいなくなり

彼女一人だと行動力はあるが指針も内容も考えられない上に

今まで誰かを手伝うという行動に不慣れ過ぎた為

晴れて私と一緒の“構ってられない”部類になってしまった。

どうしようと相談した時の『こうなるって解ってたんだよ』の意を込めた

無言の哀愁ある表情は此処の森での衝撃的な瞬間ランキングに

土壇場で食い込んでいた。あの子もあんな顔するもんなんだね。


 そんな私達はイケヅキ君を始め、他のエルフ達に見送られている。

うん、結局ある程度落ち着いて準備も出来た段階で

スルスミちゃんが言っていた森の外の用事をする事になった。

トゥータは勿論連れていけないし、タワラも里の復興には貴重な労働力だ。

逆に言うと私とスルスミちゃんの労働力はトゥータとタワラ未満だ。

そんな訳で私達はこの白い森から旅路へと出る為に

出立の挨拶を済ませていた。スルスミちゃんはなんだかんだで

慕われているので心配そうにする〘ヒビ割れ〙の子達。

私はイケヅキ君位しか心配されないがそれでも嬉しいものだ。


「あ、あの! コレ、受け取って下さい!」

「ぁん?」

「ぽぽぽっ(これは)」

「ずっと気になってたんで。作ってました。今、履かせますね」


 そう言って、イケヅキ君から別れ際にプレゼントを頂いた。

真っ白い革で作られたヒモのサンダルだ。靴底も革と木で作られている為

流石には着心地は現代の靴とは違うが、なんだかシンデレラになった気分で

私の裸足の足にそれは付けられていく。少しかかとが上がっていて

元から高い視点がちょっとだけ上がるのはなんだか変な気分になっていく。

靴は簡単に止められる様に作られていて、私でも出来そうだ。

よくあるRPGとかである。無駄にヒモがゴテゴテしているのだと

履くの大変だものね。うん、かかともヒモで引っ掛かるから脱げる事もない。


【〈白革のミュール〉を装備しました。特にステータスは上がりません】


「……(あ、サーセン。これミュールだったのね。サンダルって)」


 そう言えば、鼻緒の部分も無いし、少しかかとも高いからミュールなのか。

おねーさん、化け物ぐらしが板についてるのかそこら辺さっぱりだよ。

た、多分、元からよく分からんかったという事はなかった事にしたい!

スルスミちゃんの殺意目線は見なかった事にしつつも履かせて頂いて

革紐を調節されると妙にしっくり来る。靴を履いたと言うよりも

靴に体が合わせられたと言った感覚に近い。これもこの体の特性なのかな。


「ぽぽぽっ! ぽぽぽぽっー!(素敵! ありがとー!)」

「はい。山登りになりますから靴位は。寒い時は毛皮を羽織って下さい」

「………………ぽぽっ?(はいっ?)」


 おい、ちょっと待て!? 今から、私は山登りに行くのか!?

そう言えば、妙にスルスミちゃんも荷物多いと思っていたが

私は相変わらず白のワンピースの白の帽子で浜辺のお嬢さんスタイルだぞ!?

いや、これアレでしょ。山岳警備隊にちょっとダメだよお嬢さんって

止められる服装じゃないの? 私は思いっきりスルスミちゃんを見るが

きょとんっとした顔で返されている。あ、コレはアレか。

お前、荷物とか必要ねーだろ的な雑なアレか!

くっそ、このタイミングで荷造りなんか出来ないぞ!?

野営用の毛皮とかお鍋とか最低限のもんしか持ってきてないぞ?!


「……(ええぃ、このまま野となれ山となれ……山かぁ)」

「姉さん、ちゃんと説明してなかったんだね」

「ぁ? コイツなら適当にそこら辺の獲物捕まえれば、何とでもなるだろ。

 へーきへーき。アタシも居るし、森の外でも肉は走ってるし、飛んでる」

「豆とか野菜も食べて下さいね?」

「ぽぽっ、ぽぽぽぽっぽぽっ(うん、なんとかする)」


 そんな明らかに締まらないやり取りを終えて兎に角森の外へと

私達は歩き始める。他のエルフ達は仕事に戻っていく中

森の際まで送ってくれたのはイケヅキ君だけだった。

段々と足取りが重くなっていくのは解っていたのか

スルスミちゃんが珍しく空気を読んでいてくれた。

そう思ったが彼女の様子を見れば、やっぱり戻って来るとは言え

イケヅキ君と一時的に離れるのも森から出るのも気分が良くない様だ。

ただ、奥歯を噛み締め、口を真一文字にしている様子から

その覚悟を持って彼女が行動しているのは解る。


「それじゃ、いってらっしゃい。また、戻って来ますよね?」

「ぽぽぽぽっ!(もちろんっ!)」

「取り敢えず、若いのを向こうの余裕がある分連れて来る。

 それまで出来る事は頼んだよ」

「うん、分かったよ、姉さん」


 言葉が少なくなってきた中、私達はようやく森を抜けてきた。

妙な結界などはもう無く、少し裾野に真っ白い草が生えそろっている先は

正に雄大な大地と地平線、そして遠目に見えるは山々の頂き。

そうか、世界はこんなに広かったのか。森の中から、高い木の上から

終いには飛竜の籠にぶら下がって空中散歩をしても尚、見えなかった

この世界の一端を感じさせていく。風は気持ちよく頬を撫でていて

この雄大な大地の先の息吹を運んでいる。


「それじゃ、〘ハッシャクサマ〙いってらっしゃい」

「ぽぽぽっぽぽぽっ(行ってきます)」


 最後に〘セイント・シール・エルフ〙の少年、同棲相手、良き理解者

そして新たな族長となり、もう何も封じていないただのエルフになる

イケヅキ君は私に微笑みかけて来る。私もその笑顔に応えた後

ゆっくりと最後の抱擁を交わしている。何、コレが最後じゃない。

その筈なんだけども、なんだろうね。居た期間が結構永いからかな?

まぁ、正直、生存期間自体が短過ぎなのでそりゃ割合的にも多くなるか。

私が中々離れないと後ろから髪の毛をむしらんばかりにぐいっと

引き降ろされる様な力が掛かる。


「長い」

「ぽぽぽっぽぽぽっ(ごめんなさい)」

「もう、姉さん!」


 スルスミちゃんから髪の毛引っ張られて私は渋々離れながらも

何もなくて、これからいろんな事が起こるであろう、外の世界へと

足を踏み入れる事になる。嗚呼、戻って来れるのかな?

なんだか、今までの顛末を見るに絶対ろくでもない事が

起きるフラグをビンビンに感じながらも心の中で一息入れる。

歩きながら、その世界の空気を感じながら見据える先を瞳に映す。


「(はぁ、幻想眺めは絶景かな)」


      第二章〈極楽谷〉と〈星屑雲海〉編に続く

一年近い連載、お付き合い頂きありがとうございます。

コレにて第一章 〈封印の白き森〉編は一区切りです。


第二章〈極楽谷〉と〈星屑雲海〉編は現在構築中の為、暫くお時間を頂きたく思います。

その際はまた告知させて頂きますのでよろしくお願いいたします。

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