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第百二十歩「そして、光に還る」

「ぽぽぽぽっぽっーーーーぽっ!!!(リトモさーーーんっ!!!)」


 私は叫んだ。意味はない行為だがそうせざる終えなかった。

空中に放り投げられた巨体は動く事ままならず

その最期をかなり情けない姿勢で見ることになってしまった。

光の柱、圧縮された太陽光は一瞬にして、あの巨大な頭蓋を溶かしていく。

ソレを皮切りに音を立てる事もなく、何本も何本も光の柱が

聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の体を貫き

消し飛ばし、地面へと磔の様に落下していく様を目に焼き付ける。


「……(あ、これはまず――)」


 私はその光の柱が乱立する中を落ちていく。

あのちょっとかすっただけで私の体を2/3持っていったスキルが

ぼんすかとコレだけ撃たれたら何時か当たる。

その空模様の中、私は翼も無いし、飛行機みたいにジェットも

プロペラもないから空中では全く身動きが取れない。

もとい、落下の風圧が凄過ぎて体が動かせない。


「……(ダメ……死んじゃう)」

「うぉぉぉおおおおっっっ!!!」


スローモーションの様な視界と目の前に立ちはだかる光の柱。

その一柱へと体の投げ飛ばされた方向が一致したのが解った時

後ろからつんざく様な快活な声が響き渡る。

遮光器土偶から放たれる重低音サウンドの中で

聞こえるんだから、よっぽどでかい声で叫んでいるんだろう。


「騎乗技〘月兎飛翔ラビット・ゴー・ホーム〙!」

「クエエエエッ!!!」

「……(ラナス君!?)」

「お姉さん、痛いだろうけど我慢して!」


 草原の方から白馬ではなくグリフォンに跨って飛び立ってきたのは

以前見た兎耳の[百英傑]のラナス君だった。青白い光を纏って

彗星の様に煌めきながらもまっすぐに……そう本当にまっすぐに

私に向かってきて思いっきり私の体へと持っていた槍が

私の脇腹へと突き刺さる。待って、この子も私を殺しに来たのか!?


「ぽっぽっーーーーぽっぽっ!(いったーーーいって!)」

「よし、捕まえた! 〘兎の(ムーンサルト・)月面宙返り(ラビット)〙!」

「クェエエエッ!!!」

「捕まってて!」


 私を貫いた槍を下へと少し後、今度は彼が跨るグリフォンのアポロから

青白い光が出たと思うとまるで其処から花火の様に青い光の粒が放出されれば

まるで空中に壁を作って蹴り上げるかの様にぐっと体を屈めた後

光の柱に迫るギリギリの位置で方向転換し、一気に加速する。

当然、くるっと180℃向きを変えるので私は振り回されない様に脇腹へと

刺さったラナス君の槍をぐっと掴んでいく。深々とそれが刺さっていっては

黒いどろどろが脇腹から漏れているが背に腹は代えられない!


「うぉぉぉおおおっ! もう大丈夫だよーーー!」

「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽっ!?

(いや、私が大丈夫じゃないよ!?)」

「あ、違う。おねーさんの事じゃ――」


ラナス君の叫びに思わずツッコミを入れる。まだ、全然大丈夫じゃない。

なんか、私の脇腹は本当に痛いし、光の柱はボンスカ空から放たれているし。

そんな風に見ていると……あれ? 光の柱の発生が終わったのかな?

暫くはあの喧騒と光で目が潰れてしまいそうな程の激しい光の攻勢も

薄暗い天気を維持するだけに終わっているかに見えた。


「……(ぁ、これは)」


 次の瞬間、其処に光の塔が立っていた。正確に言うと塔と見間違える程の

太い光の柱が〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の体を

すっぽりと包む様に振り下ろされて、文字通り塵一つ残さず消し飛ばしていった。

つまり、ラナス君が大丈夫というのは私では無く、太陽の君か。

そう、離脱した私は良かったが乱打された光の柱に羽を貫かれた飛竜や

聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙に乗っていたご老人達は

さっきの一撃で全員消し飛んで………………………………死んでしまった。


「ぽぽぽっ(うそっ)」

「んっ、無事で良かった。おねーさんは助ける様に言われてたから」

「……ぽぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっ(ぜんぜん、良くないよ)」


 私もやれる事はないか自分なりに奔走してみた結果が

そう、皆死んでしまった。嘘でしょ? さっきまで話してたし

ずっと色々と良くしてくれた人達なんだよ?

あの聖龍の事で色々あったとは言っても……さ?

なんで死ななきゃならないのかな? 


私は昏い気持ちに頭も心も飲み込まれそうになりながらも

刺された槍に捕まったまま速度を落としているアポロを見つめる。

ごめん、色々と私も想いが渦巻いている場面なんだけれども

明らかに『重いんだよテメー』な顔で見ないで下さる?


「むっ、そうだね。ごめん。僕もちょっとえーと、フソン?

 こういう時なんて言えば良いんだろう?」

「ぽぽぽっ……ぽぽぽぽっぽぽっぽぽっ?

(そのっ……どういう事なの?)」

「あー、えーとね。取り敢えず、降りてから話すね」


 そう言って、アポロは徐々に森へと降下させていくラナス君。

私が地面へとついて、駆け足になり、若干引きずられる様に

地面へと着地した事実については割愛したい。痛かったけど!

今はそれどころじゃないんだ。理由を聞いても彼等が蘇る訳じゃない。

けど、何故こんなスキルを使ってまで聖龍を倒したいのか知りたかった。


「んーっとね。僕達はあの龍を倒しに来たんだ。

 どこまでおねーさんが知ってるか知らないけど」

「ぽぽぽぽっぽっぽぽっぽぽぽっ。ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽ?

(大体の事情は知れたよ。だから、その話せる範囲で教えて?)」

「あの骨の龍はね。森から出て街に行くと皆が困るんだ」


 リティカ様の事情をどこまで知っているか知らないが

ラナス君は彼なりの言葉でゆっくりと丁寧に私に教えてくれた。

あの龍がやはり街や都に出たらそれこそ大勢の人の生活が破壊される。

それは彼が一度森を訪ねて、その後リトモさん達が“銀仮面の君”に

謁見した時に初めて解った様で、ラナス君達もこの戦いが始まるまで

聖龍どころか飛竜が居る事すら知らなかったそうだ。

そして、身振り手振りを交えて説明するラナス君の可愛さに

私の心が揺れてしまっていることがまっこと申し訳ない。

此処は喪に服して、もっとしんみりしたいんだよ!


「其処までです、ラナス。破廉恥おっぱい化け物女も止まりなさい」

「コアタル! 僕ちゃんと助けて来たよ!」

「……私が制止しても勝手に出ていったのはラナスでしょう。

 まぁ、可能な範囲で殺すなとは言われて――なっ!」


 森の上空スレスレを飛んできた水龍が弾ける様に霧散すると

ずるりっと中から見知った影が降り立ってくる。

前に見たことがあるあの男女の区別がつきにくい見た目に

青だか緑みたいな肌の色と宝石みたいなキラキラした瞳。

まぁ、ラナス君が居るんだから相方のコアタルちゃんも一緒なのは

当然と言った感じだろうか。私はコアタルちゃんへと

駆け寄っていく。当然、いきなり近付いて来るのに

最初から警戒心ばりばりだったコアタルちゃんは更に警戒を強め

筒を構えて詠唱の準備をしていた。ぽわっと筒の端が光る中

私は寸前で立ち止まり、しっかり地面に膝をついて

額をこすりつけては、深々と頭を下げる。所謂、土下座だ。


「ぽぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっっ!!!

 (この前は本当にごめんなさいいいぃっ!!!)」


【言語スキル〘古代エルフ語〙がLevel3に上がりました】


「な、なんですか! くっ、無駄に〘古代エルフ語〙を

 流暢に扱う様になりましたね! で、何のことですか!?」

「コアタル、落ち着こう」

「ラナスに言われる日が来るなんて……はい」


 私は取り敢えず、今度再会する時は絶対しようと思っていた事を敢行する。

コアタルちゃんにはちゃんと起きている時に謝りたかったのだ。

あいにく、前回は私と対峙した後は気絶、その後お持ち帰り未遂の末

私はラナス君と戦って気絶して別れてしまった。

だから、こうやってちゃんと言葉に出して謝れる機会が出来て良かった。

相手も当惑しているがまず、いつ謝れなくなるか解らないから

誠心誠意の謝罪を伝えようと思ったら、うっかり言語スキルまで

上がってしまった。それに面食らったのかコアタルちゃんも

困惑気味で口をパクパクさせながら私を罵倒する。可愛い。


「ぽぽっー、ぽぽぽっぽぽっぽっぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

 (いやー、逃げる時に一回盾にしたのずっと気にしてて)」

「……は? ああ、いや、私は気絶してましたが」

「あーーっ! あったあったね。あれはびっくりしたよ」

「ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽっぽぽっ、ぽっぽっぽぽぽぽっ

 (あれはパニックになってたとは言え、ずっと謝りたくて)」

「…………ええい! そんな事でいきなり謝らないで下さい!

こっちはもっと文句も言いたいこともあったんです!」


 完全にペースが崩されてしまったのかコアタルちゃんは

筒を私に向けたまま子供みたいな理不尽で応酬する。

私は私でその時の事情を知っているラナス君としみじみと

前回の戦いを思い返しては軽く盛り上がってしまった。

なんだかヤキモチを焼かれているみたいでこれはこれで

とっても楽しい感じになってしまった。ううむ、ダメだ。

少年が来ると気持ちが脱線してしまうよ。


「こほんっ。では改めて……聖龍が暴走するか自力で

 封印を破った場合の危険は解るでしょう。問題はです」

「ぽぽっ?(何?)」

「貴方がエルフから聞いたか、元から知っていたか知りませんが

 あの龍に対する情報を知っている事です」

「ぽっー、ぽぽぽぽっ(あー、そっちか)」


 どうやらコアタルちゃんもそしてラナス君も情報が殆ど降りて来ず

飛竜達と戦ったり、私を助けたりと場面場面での指示はあるが

全体像として今回の一件を把握出来ていないらしい。

私も当然そうなのだが、私みたいな行き当たりばったりとは違い

彼等二人は[百英傑]と呼ばれる英雄として超越した力を有している。

その力には責任を持つべきだし、尚且つ彼等は

『知りませんでした』で済ませない程度には真面目だった様だ。


「まさかあのスキルがあそこまで影響が出る位に

 貴方は重要人物になっている様です」

「ぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽっ?(あの光の柱のスキル?)」

「やはり、解りませんでしたか」


 さっきから終始、ジト目で私を睨んでいるコアタルちゃんだが

問答からどうやら私が原因で何らかのトラブルが起きていた様だ。

深い溜め息と頭を抱えている様がどうにも苦労人体質を演出している。

ダメだよ、コアタルちゃん。まだ、子供なんだからもう少し気楽に

行きないと将来、一気に老けるよ? まぁ、エルフみたいだから

そこら辺の具合は良く解らないんだけども。


「あのスキルは本来、必殺必滅。一度始まれば敵を滅するまで

 止まりません。それがあんなに時間を掛かるなんて」

「僕達から見るとアレはわざと外して力を抑えている様に見えたよ。

 多分、おねーさんが居るのに気付いて、無理して止めていたんだろうね」


 私はその言葉を聞いて複雑な思いに至る。

“太陽の君”の発動したあのスキルは一回や二回って訳じゃないのか。

それは中々に心に来るモノがある。泣きながら踊り続け

そして、殺し続けるだけのスキルなんてその子供にさせるもんじゃないよ。

なんとか気丈にさっきから振る舞ってはみたものの

それでも油断をすればすぐに気持ちは沈んでいってしまう。


「さて、そんな訳で此処からは交渉です。今度は上手くやります」

「コアタルやっぱり?」

「はい。此処で貴方を見逃します。

このまま、エルフの元に一度逃げて下さい」


 そんな気持ちの最中、彼等の予想外の提案に

私は戸惑う事しか出来なかった。

第百二十一歩「百の英雄譚 Episode12 "希望を紡ぐ交渉"」に続く


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