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第百十九歩「夢のある未来」

「ふっ、良い心意気じゃがどうするつもりかの?」


 どうしよう! 全く、ノープランですよ、あてくし!

まぁ、そんなこんなで〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の頭上で

最終決戦的な流れになってしまったのだけどもね。

ううむ、若返り在りし日の快活そうな少年の姿になった族長のリトモさん。

本来はエルフのご老人達全員でボコっちゃえばすぐ終わるんだろうけど

それは男の意地なのか、はたまたこの龍の制御に人を割けない為か。

私もほんの数週間前に習ったスルスミちゃん直伝の拳の握りを

やっているが……いやぁ、困った。全く、勝てる気がしないぞ!?


「得物を持たんお嬢ちゃん相手に表道具と言うのはあれなんじゃが

 ま、そうも言ってられまい。行くぞっ!」

「……(やっぱ、そうなりますよね!?)」


 そう言ってはリトモさんが龍の頭蓋に突き立てていた武器を手に取る。

斧槍と言えばいいのだろうか? 長槍に小さい斧が着いた武器で

それをひょいっと軽々しく空へと弾いては構えと共に掴み

まっすぐに向かってきた。くそっ、全く手段が思いつかない!


「……(ええいっ! 取り敢えず、効くかな? 〘畏怖の眼差し〙!)」


【怪異スキル〘畏怖の眼差し〙を発動します。相手を[恐怖]状態にしました】


 私は久しぶりに使用した〘畏怖の眼差し〙で出鼻をくじこうとする。

効くかは解らないが警戒心を高めてくれれば、動きも遅れ何か妙案が

思い浮かぶかも知れないからね! リトモさんも踏み込む様に

ぐっと槍を頭蓋に突き立てて一度止まるがそれでも戦意は失っていない。


「っ! 全く、とぼけた割にエグいスキルを使いおる! カッ!」


【相手の状態異常解除判定により[恐怖]状態は解除されました】


「ぽぽぽっぽっぽぽぽぽっぽぽぽっ!?(気合でなんとかしたの!?)」

「当たり前じゃ。一々こんなんでびびってたら殺し合いなんぞ出来ん」

「……(うわー、なんか解除されっぱなしだな、このスキル)」


 リトモさんの気合の一喝と共にあっという間に[状態異常]を

治されてしまった。むぅっ、となると〘蠱惑の少年愛〙も厳しいか。

えーと、他の手は?と考えている間に当然、リトモさんは

もう至近距離まで近付いている訳でして!


「ボケっとしておると叩き落されるぞ!」

「ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっ!(それはちょっといやぁ!)」

「いや、フツーはちょっとで済まないんじゃけどな!?」


 大振りの斧槍は大きく弧を描いては私の右肩へと叩き付けられる。

くぅ、やっぱ防具や盾ってあった方が良いんだね。痛い! 痛いよほんと!

リトモさんは私が頑丈なのを見ているから攻撃に躊躇がない。

左からの横ぶりの牽制から、真正面への槍の突き上げまで動作は淀みない。

くぅっ、久しぶりに土手っ腹に突き刺さる痛みもあれだが

此処で踏ん張らなくちゃ誰も助けられないからね!


「……(〘ヨミちゃん〙来て!)」


【怪異スキル〘黄泉より追い縋る手〙を発動します】


「それはもう見ておる!」


 私の影から無数に出てくる白い手だがリトモさんは言葉通りに

警戒はしつつも一切恐れる事はなく、あっさりと斧槍を手放せば

腰に携えた短刀で〘黄泉より追い縋る手〙を迎撃していく。

白い手には単純な動作しか出来ない為かまっすぐに伸びるそれを

上から足で叩き伏せたり、探検で手首を狙ったり

関節へ打撃を加えたりとコチラの体力が消耗するばかりだ。

実際に展開しているだけでも再生したてでしんどいと言うのに。


「ほれっ! 危ない! 〘クラッカー・リリー〙!」

「ぽぽっ!?(ふぇ!?)」


 一進一退とすら言えない状況。〘黄泉より追い縋る手〙の合間を

すり抜ける様に斧槍を突き入れた後、先端で爆発が起きる。

ちょっと待て、あんなの刺された後にやられたら

私、ふっ飛ばされてなかったか!? 武器はちゃんと選んでたのね。

ただ、問題はリトモさんが突き刺した先は……あれか。

〈骨の柱〉にひっついてた生肉スライム? あ、もしかしてこれって。


「これに捕まったらお嬢ちゃんのスキルと同様、命を吸われ

 下手するとこのまま骨と一緒に取り込まれるぞ」

「ぽっ? ぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ?

 (え? それじゃリトモさん達も!?)」

「力尽きればそうなるの」


 待って、さっきから上から圧縮太陽光で焼き溶けるわ

ビュンビュン飛び回って旋回する龍の頭蓋の上とか

フィールドにトラップ盛り過ぎなのに更に来るの?

スライムを突き刺し終えた斧槍は当然私へと伸びてくる。

さっきのスキルを見てしまったら、まともに突き刺されていられない。

私は回避に重点を置いた動きをしてるつもりなんだけど

さっきからガッツンガッツン当たってます、はい!


「ぽぽぽぽっぽぽっ?(どうしてなの?)」

「寝物語を聞きたい年でもあるまい? まして、理由を聞いてどうなる?

 お嬢ちゃんが納得してもしなくても、もう止まれぬぞ!」

「ぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっぽぽぽぽっぽぽぽぽっ?

 (それでも誰かが知っておきたいじゃない?)」


 私は文字通り、手当たり次第に〘黄泉から追い縋る手〙達に

生肉スライムを捕まえさせて命を吸い取っていく。

そのおかげでなんとか回復はしているので戦闘は続行出来ていた。

この生肉スライムは吸っててもあんまし美味しくないんだよね。

味のない綿菓子みたいな食感で、口の中ぱちぱち弾ける駄菓子みたいだけど

お腹は対して膨れないので回復効率もよくないみたい。


「ワシ等は傭兵じゃった。金を積めば、誰でも殺した。

 女子供も今のワシ等と同じ様な老いぼれもな」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ?(それで聖龍様も?)」

「雇い主じゃったよ。前にも後にも雇い主を殺した事は他に無かった」

「ぽぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっ?(理由はなんだったの?)」


 リトモさんも若干、疲れているのか肩で息をしながらも

問いに応え始めていく。それでも攻撃は止まらないし

生肉スライムも駆除を続けていく。どうやら、飛び始めてから

活発化しているのを見るに地面から吸っていた分の力が

無くなった分を私達で取り戻そうとしているみたいだ。


「夢のある未来を見てしまったんじゃよ」

「ぽぽっぽぽっぽぽぽっ?(夢のある未来?)」

「元気な娘じゃった。いつ死ぬか解らぬとも明るく振る舞い。

 頭も良くての。いろんな事を話し、想いを広め、希望を打ち立てた」

「……(娘……女の子って事だよね?)」

「ワシ等はかつてこの地を平定していた聖龍と契約しておったんじゃよ」

「ぽぽぽっ?(何を?)」


 リトモさんの手が止まる。周囲へと目配せをすれば

周りのエルフのご老人達も静かに頷いて同意をする。

斧槍を頭蓋へと突き立てて、背筋を伸ばし、はっきりとした声で告げる。

私もその空気と所作に息を呑み、動きを止めた。


「この哀れな龍の名は聖龍リティカ・ルコネクト。

 彼女はワシ等と契約した。


 『いずれ来る日の為に契約をします。あの娘が自分の願いの為に

私が邪魔になった時、貴方達は協力して私を殺しなさい。

今の世で私を殺せる可能性があるのは貴方達だけでしょう』


と言ってな」

「……(なっ!?)」


 私も思わず、体が、時が止まってしまった。

つまり、あのリティカ様の暗殺依頼をしたのはリティカ様本人!?

あれ、[レガシーピース]でシツネ君がリティカ様に尋ねられてけど演技?

それともリティカ様が忘れてたって事? 

いや、彼等がどういった偽装と経緯を作ったかの確認かも?

私が思考を巡らせている隙に、リトモさんは一気に距離を積めては

ぴとりと私の首筋の斧槍の刃を当てていく。

ひんやりとした冷たい金属に高そうな装飾が殺る気と覚悟を伺わせる。


「誰にも言ってはならぬぞ? ワシ等はこの罪を墓に持っていく。

 契約を終わらせる為にこの龍に最期を迎えさせていく。

 それだけ、たったそれだけの事なのじゃよ」

「……ぽぽぽっ(そんなぁ)」


 悲しいな。ほんっと、なんでそうなったのかな?

私がそれに対してとっくの昔に手遅れなタイミングで

この森を訪れ、そして知ってしまったんだと痛感する。

何もかもが遅過ぎるね。システムさんのおかげで

いろんなことは知れたけど、ただ知っただけで終わってしまう。


 そういうのはダメだよね。私が、私がやれる事、出来る事を

無能な働き者だとしても役に立ちたいし……それでもやっぱりね?


「……(子供に誰かを殺させるなんてのはあっちゃいけないんだよ!)」

「むぅっ! まだ分からんか!」


 私はそのあてがわれた刃を手で弾きながらも強行突破する。

首筋が切れて黒いどろどろがぼたぼたと体から漏れ出て

白いワンピースを汚していくが、それを気にしてなんていられない。


「邪魔はさせぬ! 〘クラッカー・リリー〙!」


 私の背中に何やらこつっこつっと当たったと感じた直後

リトモさんが大きく槍を私の背中に突き立てた。それと同時に

小規模な爆発が背後で発生したのを熱と風で感じ取る。

私は頭蓋へと両手を着いてしまうが……諦めない!


「……(〘魂削りの愛撫〙発動! 対象はこの〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙!)」


【怪異スキル〘魂削りの愛撫〙を発動します】


 そう言うと同時に一気に私は頭蓋からありったけの力を吸い取っていく。

言葉にすると凄い格好良いのかも知れないが感覚的には

味のしないぱっさぱさの落雁をひたすら暴食している感じに近い。

そんな感覚が口の中の味覚と触感を溢れ返るのでモチベーションを

ごっりごりと削っていくがそれでも成さねばならないのよ。

奇しくも姿勢としては陸上のクラウチングスタートに近い形だ。


 体制を崩して落下する様に滑空している〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙から

丁度、その方向の先には例の遮光器土偶が居た。

旋回している途中だったのであろう、弧を描いてまっすぐに

相手の胸元へと突っ込む様な軌道を描いている。

そして、私は見てしまった。故にもう私は止められない。


「ぽぽぽぽぽっーーーー!!!(とおおぉりゃあああーーー!!!)」

「いかん! 待つんじゃ!」


 そう、その視界にはあの少年が映っていたのだ。

太陽の君と名付け、お互いに名を名乗る事も出来ずに

私の前に現れてまるで何事も無かったかの様に去ったあの褐色の少年は

痛め付けたかの様な紅い紋様を体に刻み、まぶたを閉じながらも

舞い続け……そして、泣いていた。


理由は解らないがそんな光景を見ては居てもたっても居られず

私は気がついたら其処から飛び降りて、自由落下をしていた。

子供が泣いたままでいい訳がない。理由としては十分だ。

上空からはさんさんと降り注ぐ暖かい陽光が収束しているのが解った。

ずんずんっと腹底をえぐる様な重低音に体中から光り輝き

近付いていた飛竜をその音の壁を纏う土塊の巨像。

当然自らを守る為、また守る故に攻撃する手段もあるのだろう。

その光は今、私とリトモさんの居る頭蓋を狙っている。


「……(だから、止めなきゃ! 後もう少し!)」


 そう強く願い、手を伸ばす。きっと、何が出来るか解らないけど

泣いている子は抱きしめないと……ダメなんだよ!


「〘ブランブル・バインド〙!!!」

「ぽっ、ぽぽぽっ!(あ、待って!)」

「馬鹿者! 死にたがりの老いぼれが子を護ろうとする女を

 見殺しにするなど、そっちの方があってたまるか!」


 私が後もうちょっとでとどこうと言う所で足首に

白い茨がまとわりついていく。まっすぐに頭蓋から伸びるそれは

リトモさんが放ったスキルだ。もう、少年の姿を維持する事は出来ず

老いたままの姿で私に向かって叫んでいた。


「ぽっ、ぽぽっ!(で、でも!)」

「二度は……二度目はごめんなんじゃよ!」


 その言葉が何を意図するか、まるで私の網膜に焼き付いていたかの様に

その情景が写し込まれていく。シツネ君が最期、リトモさんを縛り上げて

投げ飛ばした光景がデジャヴする。それと同じ様に私の足へと絡んだ茨は

空中で大きな円を描き私を振り回しては空中へと投げ捨てた。


「[百英傑]の小さな騎士よ! 聞こえているのであろう!

お主がその胸に騎士道を誇ると言うなら! この女を救って見せよ!」


 リトモさんは最期にそう叫んだと同時にその大きな光の柱が

空中より降り注ぎ、龍の頭蓋と共に消し飛ばされていった。

             第百二十歩「そして、光に還る」に続く

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