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第百十七歩「窮地へと射られて」

「……ぽぽぽっぽぽぽぽっぽっぽぽっ?(辛くなったら言ってね?)」

「はい! 大丈夫です」


 そう言って私は顔を赤らめているイケヅキ君に真正面から近付き

そっと抱きしめてはスキル〘魂削りの愛撫〙を発動する。

相変わらず、襟首をトゥータに咥えられたままであるので

残された片腕だけで相手により掛かる様は介護を受けているご老人の様だ。

胸も押し当てる形になってるし、怖い。後ろのスルスミちゃんの視線が怖い!


「……(集中、吸い取り過ぎちゃうと倒れちゃうし)」

「んっ……ふっ……」

「……(ああ、そんな艶っぽく吐息が! 耳に! 耳に!)」


【怪異称号〘少年狂愛〙の効果により回復効率上昇。

 怪異スキル〘魂を削る愛撫〙がLv2に上がりました】


 私は加減をしながらもイケヅキ君から〘魂削りの愛撫〙を使って

体力を頂いていく。大分体も楽になっていくのと同時に

システムさんからLevelアップのお知らせを頂いた。

なんだかんだで結構使ってたけど、中々上がらなかったねこのスキル。

その報告と同時にぐっとイケヅキ君の生命力の旨味が上がる。

甘味はよりネットリと舌先に絡み、お腹もすぐに膨れていった。

うう、いかんいかん。これ緊急事態じゃなかったらずっと吸っていたい。


「……キメェ。いや、仕方ねぇんだろうけど」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっ(うううっ、ごめんなさい)」

「まぁ、良い。それにしても服まで戻るのは便利だな」

「ぽぽぽっぽっー(ほんとねー)」


 そう言いながらもぶくぶくと体の奥から黒い気泡と共に

肉体が膨張していって、体の切れ目から溢れ出るのは

煮えたぎったあんこの様な黒いどろどろとした粘体。

〈ケイオス・タール〉と呼ばれていた

リトモさん達が摂取していたあの黒いドロドロとは

色味が本当に違うんだなと今更になって思う。

照り返しも無くて、ほんと墨みたいに吸い込まれそうな漆黒だ。

それが徐々に足の形や肩の形を復元していくと真っ白い肌が

上から糸の様に輪郭を作っていって、その間を再生した肌が埋めていく。


 スルスミちゃんの感想を心に直撃しながらも、私のすらりとした

美白な美脚が復元する。見えちゃいけない所を手で隠しつつも

上からまるで侵食された映像を逆再生したかの様に

ワンピースも元通りになってくる。

うむ、流石に美少年を喰らうと此処まで回復効率が良いのか。


「ぽぽっぽぽぽっ、ぽぽっぽぽっ!(うん、元気100倍!)」

「なんだそりゃ? 元が少なそうだからあんまし多く見えないな」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっつぽぽぽぽっぽぽっ!

 (こういう時はこう言うものなの!)」

「よく分からんがそうなのか。立てるか?」

「ぽぽぽぽっぽぽぽっ(ちょっと待って)」


 そして、私の体は完璧……なのか解らないけど復元された。

思わず版権的にちょっと危ない台詞が漏れてしまったが

見逃して欲しいものだ。そう言って自らの足で立つのは

なんだか久しい感覚に陥りながらも八尺の高さへと

私の身長は戻っていった。うむ、やっぱこの眺めは良いね!

足と意識がまだふらふらとはするが、それでも段々と慣れてきた。


「よ、かっ……たっ……」

「ぽぽぽっぽぽっ!?(大丈夫!?)」

「はい……ちょっとくらくらします……けど」


 そう言いながらも今度は倒れそうになっているイケヅキ君を

トゥータが襟首を咥えて支えていく。うう、このままスキルで

イケヅキ君を回復してあげたいけどそれは本末転倒だよね。

頭をそっと撫でては心配げに顔を寄せてしまうけれど

後ろから、うっすらと殺気が来るので腰を仰け反らせてしまう。

スルスミちゃんの怪我人見逃し期間は終わったみたいだ。

此処からは気をつけないとまた怪我人に逆戻りだよ。


「ま、イケヅキはタワラに乗っけりゃ大丈夫だろ。

 さて、問題はお前さんをどうやってあっちに行かせるかだが」

「ぽぽぽっぽぽぽっぽっぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽっ?

 (普通に走って飛び乗るんじゃダメなの?)」

「ぁ? 手足には爺様達の部隊が居るし、途中で飛竜やら

 あっちの巨像が何してくっかわからんだろ?」


 そう言って改めて状況を見直してみる。

相変わらず、あの遮光器土偶は沈黙を保っているが

それでも何度か〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の

スキルの発動を見ている。それに未だに無傷と言う恐ろしさが酷い。

一体どういう素材で出来ているんだろうというのと

そもそも、何をしているのかというのが一番の謎だ。

あれで〈第四勇者軍〉を守っているのかな?

確かにあの遮光器土偶のおかげで〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙は

一歩も森の中で足踏みをしたまま前に進むことが出来ていない。

ある意味、あの沈黙も堅牢さも強みであり、戦略なのだろうか?


「今は……大人しいみたいで」

「イケヅキ、お前はしゃべんな。寝てろ」

「ぽぽぽっぽぽぽぽっ、ぽっ?(後は任せて、ね?)」

「……はぃ」

「うむ。なんとかするが取り敢えず降りるぞ」

「ぽぽぽっ(はーいっ)」


イケヅキ君のみぞおちへと軽く一撃を入れるスルスミちゃん。

これ悪意は無いんだろうけど、かなり痛くないだろうか?

まぁ、無理に頑張られても色々と辛いからね。

そのまま今度はイケヅキ君を咥えたままトゥータは

この巨木を降りていくとタワラが律儀に待っていた。

いや、時間的には大した事はないんだけど

すっかりハチ公ポジションじゃね、この子。


「ぽっ、ぽぽぽっぽっ?(で、どうするの?)」

「ぁ? 飛ばすに決まってんだろ?」

「……(あ、これは不味い!)」


 私が本能と共に逃げようとした瞬間、一度地面へと

イケヅキ君を置かれた後、トゥータが私へと絡みつき締め上げる。

無理すれば引き千切れるのかも知れないが

この子にもお世話になってない訳ではないので当然無理。

哀れ、私は呆然と蛇に縛られていると、スルスミちゃんが

ものすっっっっっごい笑顔ででかい弓を取り出すの。

巨木の根元の荷物に忍ばせていたんだけどね、私ね、アレね。

すっごく覚えるんだ。なんでか解る?


「ぽぽっ! ぽぽぽっぽぽぽぽっぽっぽぽっ!

 (それ! 私の胸に大穴開けた奴!)」

「おぅ、覚えてたか。よし、これで飛ばすぞ」

「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ!(無理無理無理無理無理無理!)」

「前よりでかく、強くしたから魔力のブーストかけりゃ

 お前もお星様に出来るぜ☆ 〘ブランブル・バリスタ〙!」


 そう満面の笑みで取り出したるは恐らく初めて対峙した時に

取り出した大弓……なんだけど、前よりでかくなってない?

もう、なんかそれ武器とかじゃないよね? 装置だよね?

そんな私の拒絶など見ることもなく、スルスミちゃんの声と共に

その大弓が蔦に巻き取られている。もうほんとでかい。

なんか、前も体外でかかったけど、これ天文台の望遠鏡じゃね?

何、本当に私お星様になっちゃんじゃないの、これ?


 トゥータに懇願の視線を向けるがまっすぐな目で頷き

『諦めておくれやす』的なニュアンスを受け取る私。

くっそ、この子でもスルスミちゃんは止められねぇか!

後、なんで無駄に京都弁ニュアンスなんだよ! なんか解るけど!


 そんなこんなで蔦でバケットの様なものが作られると

其処に長い板切れを添えられる。其処にしがみつけと言う

無言の圧力をスルスミちゃんから感じ、逃げられない。

もう、足まで治されちゃったら仕方ないよね?


「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽぽっ

 (ううう、逝って来れば良いんでしょ)」

「ちゃんと帰って来いよ?」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽぽっ(はーいっ、解ってるよ)」

「死んでイケヅキを哀しませたらアタシが死んだ時、あの世でボコる」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっ(無茶、多すぎじゃない!?)」

「そん位出来る奴じゃないとイケヅキはやれん」


 くっそ、どこまで本気か解らないが、そんな条件を出されたら

私としても気張らずには要られない! ファイトだ、私!

別にイケヅキ君を娶りたいとかそういうんじゃないんだ。

あの超弟狂愛(ド・ブラコン)のスルスミちゃんが

其処までシスコン魂を賭すというのなら、私もショタコン魂を

賭けるしかないじゃない! いや、訳解らないんだけど

私としてもそう思うしかやってられん訳ですよ、ええ!


 そして、その蔦のバケットから伸びた蔦を引っ張る様にして

弓をしならせてはトゥータ、タワラ、スルスミちゃんが

童話『大きなかぶ』状態で引き絞っていくと、ぎしぎしと巨大な弓が

しなり、音を上げていく。このまま折れない?と思っていたら

ほんのりなんだか緑色の光が纏っている様で魔力でも

注いでるっぽい感じがする。スルスミちゃんの集中力もナンカ凄い。


「よし、征ってこい!」

「ぽっぽぽぽっぽっーぽっ!(いってきまーす)!」


 スルスミちゃんがマチェットを振り下ろして、伸ばしに伸ばした

蔦をマチェットで斬り落とせば、限界まで伸びた弓の弦は戻り

私の乗った板切れを高速で射出させていく。

なんか、緑の粒子みたいなのが漏れてるんですけど、何これ?

SFアニメのなんたら粒子的な奴なの!? すっごい、空中で

更に加速していく訳で、私としてはほらサーフィンが如くね?

こう、格好良く立ったまま空を駆けたかった訳ですが

現実は悲しくもその飛ぶ板切れにしがみつくのみなのです。


「……(おおおおおっ、この森に来て飛んでばっかりだな!)」


 もう3回位空中散歩をしている気がするし

毎回その方法が違うってのもなんというご縁なのだろうか。

顔からは風圧で頬がびらびらと揺れていくし髪はばっさばさだし

帽子が何故飛ばないのかさっぱり解らない中、空飛ぶ板切れは

まっすぐな放物線を描いては〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の

背中へと突き刺さろうとしている。当然、私は受け身なんか出来ないので

そのまま直撃とともに体は放り投げられる訳ですが!


「……(〘ヨミちゃん〙! 助けてーー!)」


【〘黄泉より追い縋る手〙を発動します】


 そう言って、〘聖茨骸龍セイント・ブランブル・ネクロ・ドラゴン〙の腰骨辺りに

降り立った私はなんとか背骨と骨盤の隙間に落ちる前に

影から出た真っ白いお手手達に掴まれては腰骨しがみつく事が出来た。

ふぅ、危ない危ない。さすが足から登るのは骨がいるところだったよ。

いや、まぁ周りは骨だらけなんですけどね?


「誰だ! 〈第四勇者軍〉の奴か!?」

「……って、お前さんは!」

「何をやっているんじゃ!」

「ぽぽぽっ(どもー)」


 そう言って、なんとか腰骨へとよじ登ると其処には

エルフのご老人たちが私に向けて高そうな武器を向けていた。

私は両手を上げつつも〘ヨミちゃん〙を一度引っ込めていく。

取り敢えず、間の抜けた声ながらご挨拶をすれば、ご老人たちは

武器を引く事はないが殺気を立てる事なく、私に視線を注ぐ。

うう、こういう注目の仕方は何度目かだが、慣れないものだね?


「何が飛んできたと思えば」

「どうした!?」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽぽっ

(いやぁ、アレに子供が乗ってるんで助けたいかなと)」

「なっ……止めると言うのか」

「子供が……いや、しかし」


 ご老人達は私の発言に顔を見合わせては話し合っている。

どうやら、ご老人たちもあの巨像に対しては何の情報も得ていなかった様で

大慌てでスキルを使ったり、他の老人達と連絡を取っているのか

〘霊話〙が乱れ飛んでいる。あまりに早口なのと

恐らく、老人達同士で会話を絞っているのか私にはノイズ混じりでしか

聞こえないがどうやら確認作業をしているらしい。

私は両手を上げながらもその動向を見守っている。


「む、本当らしいの。操者自ら乗り込んでおるのか」

「いや、普通危ないじゃろ? 馬鹿か」

「何考えておるんじゃ。あんな所から落ちたら死ぬぞ」

「ぽっ? ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっ。

 (ねっ? だから、子供だけでも)」


 どうやら、エルフのご老人達も確認が取れた様で

一応に呆れ疲れた様子で大きなため息を吐いていた。

次から次への事態の転換に驚き、疲れている様で笑いも乾いている。

ただ、其処から上手いことに転がる事はなく、ご老人達は再び

私へと高そうな武器を向けていく。少し古くてくたびれた感があるが

[レガシーピース]で見たあの聖龍を仕留めた武器達だ。

私なんかを斬りつければ、すぱっと体は再び真っ二つだろう。


「すまぬが、お嬢ちゃん。ワシ等は此処で止められぬ」

「子供を殺すことは多分無かろう。だから、降りるんじゃ」

「悪いことは言わん。帰ってくれぬか?」


 そう言って、ジリジリと私へと包囲をしていく。

ぐぬぬっ、やはり想定はしていたが、向こうも向こうで

かなりの覚悟を持って、この場に居るという事だね。

だが、私だって負けていられないよ! 

なんて言っても『イケヅキ君を娶っていい(拡大解釈)』と言う

スルスミちゃんの大英断を引っさげてこちとら来ているんですもの!


「……むっ! あの巨像動くぞ!?」

「夜闇を払いしは偽りの宴。鶏の如く喚き立てては

 その舞を持って我が身姿の鏡より偽り踊り照らされれる。

 引き摺り出すは神の輝きし日輪の朝焼け!」

「くっ、詠唱が! このタイミングでか!」

「次は何をしでかす気か!」


 私に詰め寄っていた老人達と共に一斉に私は巨像の方へと視線を向ける。

首と肩の骨が邪魔で全体像が見えないが

ここいら一帯が急に曇り空になった様に薄暗くなっていく。

遮光器土偶の紋様が輝く出せば、ソレとともにずんっずんっと先程より

遠くから鳴り響いていた耳鳴りがより一層大きく聞こえてきた。

それを追い掛ける様に太陽の君の声による詠唱が頭に直接語り掛ける。


「太陽神話スキル〘チラ見セ☆ | AMANOIWTO 来舞《天岩戸・ライヴ》〙!」


 そのスキル名に思わず吹き出しそうになった瞬間、遮光器土偶から

骨の奥にまで染み渡る様な重低音とドラム音が鳴り響きはじめる。

それと同時に突起物がまるでスポットライトの様に輝いて

薄暗い一帯を照らし、コッチの方まで打楽器と笛の音色が聞こえてくる。


「……(え、えーと! なんか、音楽LIVEが始まってしまった件!)」

         第百十八歩「最期に立ちはだかる者」に続く

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