第十一歩「怪異として」
私は先ほどの川岸へと腰掛けてはステータスウィンドウを開く。
見る項目は今まで手付かずだった怪異称号という項目だ。
多分、字面的には化け物の大まかなカテゴリーなのだろうか?
まずは〘少年狂愛〙から開いてみよう。
ぽんっと指先をつつけば、その説明文が音声と共に出てくる。
【怪異称号〘少年狂愛〙Level1 [怪異][能力補正]
少年期の男性人類、亜人類に対してメリットのある効果全てに
3倍の修正及び3Level分の補正が加算される】
「……(はぁ!? 何そのチート!)」
つまりアレか。え、え? 私、対少年専用特攻能力なのか!
エルフ君相手に4段階強い威力でスキルぶっ放してたのか!?
そりゃ、エルフ君一撃で撃墜するわ! うっわ、この怪異称号ってつまり
スキルとか全体に影響を与えるって事? Level4とか結構高くない!?
超重要っていうか能力の根幹に関わるじゃん! なんで、放置してたし私!
「……(うわー。エルフ君には本気で悪いことをしてしまった)」
これはまずい。スキルには習熟したLevelによって追加効果とか色々と
隠されていたマスクデータが見えるっぽい。逆に言うとそこら辺ガン無視で
一気に威力だけぶっ放してる訳だから、ひーー! エルフ君マジで大丈夫かな!?
そりゃ、いきなりそんなんぶっ放されたら交戦状態になるよ!
むしろ、さっきのエルフ君は逆にヤンデレになってたのかな?
私は頭を抱えながらもウィンドウをぽちっと閉じる。
これはもう一つ〘生を喰らう者〙も結構な能力を持つんじゃないだろうか?
うう、見るのすら怖いが仕方ない。怖いがぽちっと押さねばならぬ。ぽちっとな。
【怪異称号〘生を喰らう者〙Level1 [怪異][効果補正]
生命力及び精神力などを奪うスキルを使用した際、満腹感や潤いをもたらす。
Levelが上がる事に回復効率及び得られる栄養素が増加する】
お、おぅ。これってつまり……私はあのスキルで得た生命力とかが
ご飯に変換されるってことなのかな? 待って待って。これってひょっとして?
あ、うん。ぬか喜びは良くない。何かで実験してみよう。
「……(これはひょっとして〘魂削りの愛撫〙と合わせると)」
私は干していた魚の開きを手でぎゅっと握りつつも〘魂削りの愛撫〙を使う。
エルフ君の時と同様まとわりつくモヤが魚の開きを包むと
段々と潤いは失われて、まるでミイラにでもなったかの様に色は茶色にこけて
表面がさらさらと砂になっていく。そうして、ある程度満腹感と共に
魚だったモノは掌の中で砕けて地面へと落ちていく。
「……(うっ、お腹が膨れたけど……これは)」
端的に感想を言うと不味い。うん、そりゃ調理をしてない訳だから
味の感覚としては分厚いお刺身を醤油付けないで食べている感じだ。
ただの切り身を齧ってるのと一緒な訳だからね。
しかし、コレは助かるかも知れない。魚の開きがイケるということは?
「……(これって例えば、こっちも?)」
私は川岸近くの木に掌を当てて同じく〘魂削りの愛撫〙を使う。
そうするとまたモヤが木を掴むと同時に段々と木が立ち枯れ始める。
葉は枯れ落ち、木は軋みながらも皮が割れて中身が露出しつつも
音を立てて崩れ落ちていく。幻想的というよりは世紀末的ナニかを
感じさせる描写なのだが、それよりも私の身には大変な事が起きていた。
「……(うう、こっちも不味い)」
こちらも圧倒的に不味いのだ。うん、今度の味の感想を言うなら
何も付けていないきゅうりか大根をそのまま、齧っているかの様な感覚である。
大根は辛味が多少なりあったかも知れないし、きゅうりも甘味が全く無いとは
思わないが、それでも味がしないサラダをバリバリと食っている感覚である。
ドレッシングがほしい。青じそとかバジルチーズとか!
「……(ま、まぁ良い。ご飯の問題解決!)」
良かった。本当にコレで懸念事項が消えた。餓死路線はほぼ無くなった。
味の無い野菜丸かじりとは言え、少なくとも毒やら調理やらの心配が要らない。
勿論、水を飲んだ時の感触はあるので人間に近い味覚は残っているのだろうが
少なくともこの森の木々を枯らし尽くすには何年掛かるんだという話だし
その間にもこの森から新しい木々は育っていくだろう。
「……(良かったぁ。多分、私は生きてられるよ)」
色々とハプニング続きだったがなんだろう。すごく安心出来た。
水面を見つめれば、ほっと胸をなでおろしている自分が居る。
棘々しい名前に反して私はこの〘生を喰らう者〙の力に心底感謝出来た。
―生きられる
名前も言葉も解らない上、見知らぬ化け物になっていた私だが生きられる。
こんな根源的な事に喜びを感じられるなんてのは贅沢であり、過酷な話だ。
「……(さて、しかしどうしたものか)」
水面を見つめたまま、腕を組んでは思考を戻す。
さっきのエルフ君との接触でもそうだが、システムというか私の体は要するに
少年を襲い、生命力を奪って日々の糧にする化け物という事だ。
スキルの揃い方や体の性能を考えるに、それが一番効率よく命をつなげるのだろう。
逆に非効率なのは通常のサバイバル。火を起こしたり、魚を獲ったりすらも苦労する。
地元のエルフとも会話すらままならない。勿論、それはこれから覚えられるのだが
その前に吸い取り殺してしまいそうになっているのも事実だ。
「……(ほんと、私に何をさせたいのかな?)」
私を化け物にした張本人……否、人間かすら解らないが何がしたいのか?
何か超常的な力を持つ存在が私をこうしたのか。
それとも〘八尺様〙と呼ばれる怪異が私を同じ身へと落としたのだろうか?
しかし、ソレにしてはこのシステム周りがあまりにも親切な作り過ぎる。
むしろ、システムボイス周りは趣味に走っている。
いや、それすら私の好みに合わせているのかも知れない。
「……(ま、考えても解らないよね)」
仕方ない。もしかすると私は一生というかこの〘八尺様〙をしている間は
何も解らないかもしれないし、何かきっかけで真相なりにたどり着ける。
そういう物語が仕組まれているのかもしれない。
しかして、それを知るには私はこのままだらだらこそこそと森の木を枯らし
魚を砂にしていても仕方ない訳だ。うむ。切り替え切り替え!
「……(よし、まぁなんにせよ。まずは寝る場所の確保!
エルフ達とちゃんと交流を持てる様にしよう!)」
私は指針を胸に立ち上がり、今夜の寝床を探す事にした。
第十二歩「怒れる姉」に続く
〘狩猟探索〙[野生][能力補正]
主に動物や魔物が持っている[能力補正]スキル
自身の嗅覚や聴覚などを一瞬だけ増幅して、狩猟対象の獲物を探す。
しかし、現実に使用するにはある程度の訓練や才覚が必要で
発現する時は大抵群れの主になったり、長期間教育、調教されている必要がある。
それだけ利便性の高いスキルになっている。