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第百十一歩「正しさの理由」

「口だけかと思いましたが?」

「傭兵ってのは古来より使い捨てられるのを恐れ

 美味しいところだけ頂くものでしょう?」

「其処まで賢しい者だけが生き残るのでしょうね」


 相変わらず、リトモさん達とのリティカ様は軽快に

言葉を投げ掛け合っている。一向にリティカ様の余裕が崩れる事はないが

それでも鉄化をした鬼達に爪を食い込ませ、そのまま鉄鎖にもなった

茨ごと両手足を封じられ、飛ぶこともままならぬ様に縛り付けられている。

背中からはセイレーンちゃん達が群体として動かしている

雷光と放電が輝き弾けるでかい雷鳥がけたたましい鳴き声とともに

上から抑えつけられ、自由に動くのは首周りと尻尾位だ。

それでも紫炎の吐息で手足を縛る鬼達やセイレーンちゃん達を

消し飛ばそうとするが、ワイバーンさん達の火炎弾の相殺で防いでいる。

連携としてはどこまで実践出来たか解らないが彼らなりに

考えてリティカ様を追い詰めているのだろう。


「〘ブランブル・バインド〙!」

「賢しい黒エルフが登って来ますか」

「ま、獲物に群がるのは小さき者の務めですので!」


 鬼達を支援しているエルフ達とは別に茨を出しては

リティカ様の鱗に引っ掛けたりしては絡みつかせた後

それを引き寄せては垂直に走り抜けていく様は

なんともアクション映画さながらの動きである。

鬼達の肩越しから飛び乗ったりとリティカ様の言葉通りに

白い鱗の上を駆け上がる黒肌はまるで蟻が群がる様子に酷似していた。


「ふむっ……なるほど。吾の体を傷付けるとは」

「俺達は武器だけは一流品を扱っているものでね!」

「……(うっそ!?)」


 私は驚嘆して言葉を失ってしまった。

エルフ達が駆け上がる位まではなんとなく想像の範疇であったが

先程までいくら鬼達が大きな石器やセイレーンやワイバーンの

火炎弾や雷撃ですら血一つ滴らせなかったリティカ様の肉体。

今見ているのは翼部分の透ける様な翼膜なのだが

其処にシツネ君が刃を突き立てたと同時にそのまま自重を掛けては

一気に切れ目を入れて、引き裂いていく。それに負けじとリトモさん達も

背中に刃を突き立ててはまるで鍬を轢く牛の様に刃を背に引き裂いては

白い鱗から白身魚の様な生白い血肉を露わにして

僅かに赤い鮮血とを溢れさせていく。初めてその巨大な大口を開け

吠える様を見れば、これがダメージとして有効だった事を教えてくれた。


「……(ファンタジー故に力強い打撃や火炎よりも謎武器の威力って)」

「しかし、その程度の切り傷では吾は倒せませんよ?」

「でしょうね。けれども、其処は数でこじ開けるんですよ」


 そうしては体のあちこちに傷付けていくと其処めがけて

鬼の打撃は飛び、雷鳥の鉤爪は傷口めがけて足を踏み降ろしては

そのまま、一気に放電をしていく。先程までの邪魔くさそうに

体を抑えつけられているのとは違い、痛みによる明確なしびれと

その痛みから逃れようと体をもがかせる様を覗かせる。

どんなに大きい体の石器の一撃や火炎弾や雷撃よりも

あのエルフたちが後生大事に抱えていた高そうな武器はこんなにも

高い威力があったのか。なんか、魔法でも掛かっているのかね?

すぱすぱ切れてるものね。


「吾に尾を使わせるとは……」

「あはは、そのくらい必死じゃないとダメですね!

 ケダモノらしく尻尾を振り回さないと!」

「……(おー、シツネ君が煽ってるー。尾を使うのは恥ずかしいのか)」


 今まで妙に大人しかった尾を振り上げてはびたんっ!と叩き付ける。

水音と地面の揺れは地響きを鳴らせる程度の威力ではあったが

なんだか、口調から察するに尻尾を振り上げるのは

恥ずかしいって感じなのかな? 明確に体を揺らし始めては

鉄鎖を引きちぎろうとするも、鬼達の集団の押さえ込みと鉄化の重みで

それもままならず、傷口から手足へと鬼の打撃は移っていく。

初めて、リティカ様の苛立ちを感じさせた。


「シツネ! 次は尾を頼む!」

「もうやってる!〘スラッシュ・ロンド〙!」


 掛け声とともに先程まで翼膜を切りつけていたシツネ君は

まるでトランポリンを跳ねる様に其処から飛び立てば

体を回転させその羽根動き回る尾へと切りつけていく。

何度も何度も同じ位置に斬りつけ、分厚い鱗は剥がれ落ち

赤い血肉が顕になっていく。其処へ、先程までは

叩きつけるだけだった鬼の巨大な石槍が何本も投げつけられる。

深々と傷口めがけて突き立てられると神経か骨まで届いたのか

暴れていた尾が力なく地面へと垂れていく。


「……(劣勢なのにあの余裕は凄いなぁ)」

「……ふむ」

「少しは焦って来ましたか?」

「嗚呼、そろそろ終いにしましょうか。

 奥の手とやらが逃げられては面倒でしたがもう打ち止めでしょう」


 そう言って髭を揺らしては目を大きく見開くリティカ様。

あ、これは不味い雰囲気かも知れない。大きく発光する体に

切り裂かれた翼膜はあっという間に再生しては羽を大きく広げていく。

気配を察知したのかワイバーンさん達はリティカ様の頭部に

火炎弾を集中させていくがまるで止まる気配を見せない。


「退避やーーー!」

「裁きとは戒めなり 戒めとは後悔なり 煌めく星々の粛清が降り注ぎ

 我が痛みと共に矮小な夢現を焼き散らすがよい 〘パニッシュメント・レイ〙!」

「!!! みんな、 避けろぉぉぉっーーーー!!!」


 大きく口を開けたまま再び紫がかった白光が天へと向けて放たれる。

次の瞬間、まるで夜空に浮かぶ星々が一直線に急降下してきたかの様に

光の雨が降り注ぐ。そう、“リティカ様自身を狙い”周囲を取り囲んでいた

全ての種に対して、それは放たれていた。鉄化した鬼達や

空を舞うセイレーンやワイバーンの体をその光の雨が射抜いていく。

細いレーザーの様なスキルなのだろうか? 撃たれた後は

どの種族もまるで穴の空いた水風船の様に血が吹き出しては

その綺麗な湖面を様々な種の血液が混ざる赤い水面へと染めていった。

バタバタとワイバーンさん達やセイレーンちゃんが空から落ちて来て

鬼達も口から血を吹きながらもその場で立ち尽くしている。


「くっ!」

「吾は不死。故に自らの身を削れば容易い事です」

「……はぁ……まったく」

「吾は寛大です。死ぬまで尽くす事を誓えば、命ばかりは助けましょう。

 これで力の差も解ったでしょう? 私が正しいのですよ」


 当然この攻撃に巻き込まれたリティカ様も体中に穴を開けているが

決してその姿勢も態度も崩す様子は見せない。毅然という言葉を

体現しているみたいという印象が一向にぶれないよ。

血もだらだらと垂れているし、さっきまで囲まれて受けていた攻撃よりも

明らかに自分の攻撃の方がダメージは大きそうに見えるんだけど。


「答える前に一つ聞きたかった事があるんです」

「内容によっては答えて上げましょう」

「何故、貴方様は其処まで自分の正しさを信じられるのですか?」

「……(あ、私もそれ聞きたかったわ)」


 リティカ様の背中に剣を突き立てて立ち上がり

こちらも血を僅かに吹き出しているリトモさんが尋ねていく。

うん、それは気になっていた。最初見た時からそうなんだけど

リトモさん達とのふざけたやり取り以外ではリティカ様は

常に確信と自信に満ちて言葉を出している。

良くある慢心とか、自分が優秀であるとかいう驕りとは違って

一言一言が熟慮の末に絞り出した決断の様な厚みを感じる。

ソレもあってセイレーンちゃんの言葉は相対的に幼く聞こえるし

リトモさん達はその土俵にすら上がっていない様子だった。


「〘マギカ・ミュータント・セイレーン〙達も聞きなさい。

 私が正しいと思っているのは向き合った時間故です」

「時間ですか?」

「よく吾の事を神聖視し、神の使い、あるいはそのものと言われますが

 私は子すら産めません。死すら遠くなり、生まれながらにして

 力が他のワイバーンとは次元の違うだけのただ一匹の龍です」


 リティカ様は体に血を流し、さっきまでは殴られるわ

焼かれるわ、雷撃を食らうわで散々だったと言うのに

それでも諭す様な落ち着いた口調で語り掛けていく。

鬼達は血を流しつつもエルフの魔術スキルで回復を受け

決して、鉄鎖と化した茨を放す事はなく、ワイバーンさん達は

血を滴らせながらも再び空へと飛び立っている。

以前の話などを纏めると龍というのはワイバーンさん達、飛竜の中から

突然変異みたいに現れるのかな? けど、子供も居なくて数千年か。

周りもバタバタ死んでいっちゃうだろうし、辛いよね、ソレって。


「産まれて数千年。私はこの世の悲しみを嘆き考えました。

 皆、子を産み家族を作れるのに何故、他者を殺めるのでしょう?

 皆、分かち合えるのに何故、他者から奪い合うのでしょう?」

「それこそ、心を持って生きている証では?」

「そうかも知れませんね。けれど、悲しみは不合理です。

 だから、私は誰よりも永い時の日々の中で悲しみを如何に払うべくか

 皆が心穏やかに平穏な日々を過ごす為にはどうしたら良いか?

 考え、行動し、それを省み、意見を求め、何度も何度も試行錯誤し

 今夜も、そして明日も、今まで生きた年月と同じ時間が過ぎようとも

 その想いに向き合い生きていくのです。これが私の正しさの根拠です」


 私は言葉を失ってしまった。リティカ様のコレは正しさの業だわ。

普通の人が思い至ったとしても、挫折し、諦めたり

次の世代に託したり、それは経典や教えの宗教として継続したり

ルールを敷いて、法律として長らく守ったりする事で

初めて過程や結果を経て、後世で評価される様な事を

たった一匹でずううーーーっと考えては、試行したの?

それだけ生きれば見てくるモノも多いだろうに。


「別に謀反も裏切りも初めてではありません。

 貴方達は優秀です。望みが足らぬなら応えましょう。

 吾が願う平穏と平和の為に力を尽くす生き方はお嫌でしょうか?」

「寛大なお気持ちだけで結構! 此処までは想定通り! 行くぞ!」

「ええ、ウチ等もまだ諦めてへんよ!」

「…………………誠に残念です」


 きっとリティカ様は気づいていても尚、答えたのだろう。

鬼達や落下したワイバーン達がお互いに傷を塞ぐスキルを掛け合い

どんどんと包囲を再構築していく。そして、コレは勘なのだけど

きっとリトモさんもある程度このリティカさんの言葉や思想は

解っていたのかも知れない。けれど、こうやって問われたら

リティカ様はきっとどんな状況でもまっすぐに答えを示す。

リティカ様の今までの生き方を偽り、隠す事をしない誠意であり

また逃げられない程に積み上げてしまった弱さなのかも知れない。


「……(なんでこんな事になってるんだろう)」


 私は気持ちとしては蹲って、体育座りになりながらも

この場を見届けたいが、生憎お体はがっちがちに固められているので

立ち尽くす様にその様子を眺めている。気持ちのすれ違いとか

そういうモノなのかな? けれど、それもこの龍は問われれば

きちんと答えてくれたのかも知れない。それが出来なかった?

なんとなくだが……説明不足もあるんだけど、どうにも引っ掛かる。


「「〘超雷鳥・鵷鶵ノ陣ちょうらいちょう・えんすうのじん〙!!!」」

「もう維持するのも辛いでしょう。何が不満だったのでしょうね」

「不満も不安もあったんや。けど、それはな、ほんまにちっぽけで

 貴方の正しさの前では霞んでしまうんや!

 ただ、それだけじゃ……そのままじゃあかんのよ!」

「理解には時間が足りない様ですね」


 セイレーンちゃん達は涙を流し、再び群体を作っては雷鳥へと変わっていく。

先程より放電も弱々しいし、音も小さく明らかに勢いも弱体化している。

抑え付ける事もままならず、再生した翼を駆使すれば飛ぶ事すら可能だろう。

セイレーンちゃん達の中には既に切れかけの電球の様に光を点滅させては

息も絶え絶えのもの、そもそも撃ち落とされて群体に戻れぬ者も多い。


「ノース姐! アタシはもうダメみたい……卵の事頼んだで。

 番号は79-2! 逝って来ます!」

「あ、こら!」

「命絶つ雷鳥は跡も濁さず、それは鳴り響く稲光のまま爆ぜ散るのみ!

 〘雷鳥・爆雷彗星らいちょう・ばくらいすいせい〙」

「……およしなさい」


 そう言って雷鳥の中から一羽のセイレーンが飛び出ると詠唱と共に

青白く光り輝き、放電する。一人だけで雷鳥の3分の1位のサイズには

なっているだろう。それが空中で綺麗な弧を描いた後

リティカ様の白い巨体へと突っ込めば――轟音と激しい発光と共に爆散した。

その爆撃は白い鱗を僅かに焼け焦がす程度だが

わずかに心身共にリティカ様を揺れ動かす。

……ぅ、自爆攻撃って奴? ちょ、止めて……そういうのはほんとさ。


「ウチも、くっ! 番号は25-1、頼んだわ!

 征って来るで! 〘雷鳥・爆雷彗星らいちょう・ばくらいすいせい〙!!」

「あかん……待ってぇ!」

「……すまんなぁ、ノースちゃん。後の事は頼んだで?

 卵の番号は91-2や。〘雷鳥・爆雷彗星らいちょう・ばくらいすいせい〙!!」


 雷鳥の中から光が消え掛かるセイレーンちゃん達が後から後から

その自爆スキルを使って特攻を仕掛けてくる。

私も目を逸したい気持ちは一杯だが、これは見なきゃダメなんだろう。

彼女たちが命を賭している事もそして、私がコレを見る機会を得た事も

意味があったからこそだと……思いたい。


「鬼さん……ウチはもう飛べん……投げてくれん?」

「……………解ったべ」

「おおきに。うちの番号はえーと……15-62やったかな?

 〘雷鳥・爆雷彗星らいちょう・ばくらいすいせい〙……ッ!」


飛べぬセイレーンちゃんは膝を着いて回復を受けている鬼達に

投げ飛ばされてリティカ様へとスキルで特攻をしていく。

これが歴史でなければ、私は彼女たちを止めたかったのか?

多分、止められなかっただろうか? 彼女らが最期に告げる番号は

なんとなくでしか解らないがそれほどに意味があるのだろう。

ノースと呼ばれるセイレーンに託しながらも次々に散っては

リティカ様の行動を止めていく。それは体のダメージではなく

散りゆく様を目の前で見せる事での停滞だろうか?


「……ごめんなさい。ようやく……ようやく出来ました!」

「時間がかかってすまないが結果は出そう!」


 リトモさんとシツネ君も泣きそうになりながらも声を振り絞る。

すると同時に今までリティカ様の背や体に刻みつけていた傷跡が

一斉に黒く輝き出す。黒い光と表現すれば良いのか?

まるで墨がその割れ目から吹き出る様に体から溢れかえっていく。


「混沌たる血脈の病。求める茨の病は血に狂い、肉を喰らい尽くし

 それは心の臓符も突き破る! 〘ケイオス・ブランブル・ペスト〙!」

「なっ!? ……これが奥の手ですか」


 初めて見せる驚愕の声色と共に山の様に大きいリティカ様の巨体に

黒い茨の影が一斉に伸びては鱗を内側から突き破り、その体を縛り上げる。

第百十二歩「そして、正義は朽ち果てて」に続く

〘超雷鳥・鵷鶵ノ陣〙[雷属性][陣形]

〘マギカ・ミュータント・セイレーン〙が使用する陣形及び变化スキル。

お互いの体の魔力を回路の様に何重にも繋ぎ合わせて雷光を発し

自らが電光を発する大型の雷鳥となる


魔力を有した電力の為に念動力に近い形で疑似物質化しており

重さこそはないモノの巨大な雷鳥としての機動や

羽ばたかせる風圧は突風そのものになる


司令塔の一羽を中心にした一撃離脱及び爆撃型の奇襲陣形であり

高速突撃→雷撃と電光による無差別攻撃→散開離脱をを主な用途とする


名前の鵷鶵えんすうとは鳳凰の傍らに居た黄色の伝説の神鳥で

鳳凰の亜種や別の性別個体と言う色々言われているが

黄色なら雷属性だろうというのと、雷切だの千鳥だのは

他作品のイメージが強い為に抜擢された

他に雷っぽい神鳥はサンダーバード位しか居ないのが悪い

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