第百十歩「正義の終わる夜」
「「「グオォォォッッ!!!」」」
「「「〘雷鳥・稲妻呼び〙!!!」」」
「……(あー、これは『やったか!?』って言いたいわ)」
最初は『リティカ様大丈夫!?』とか思ったりもしたのだが
先程からそれはもう火炎弾やら雷やらが雨あられと降り注がれている。
うん、此処まで撃ち込まれると、逆に完全に生きてるパターンだわ。
これで死んだら、この[レガシーピース]の再生終わっちゃうものね?
どうやら結界を解いた上には既にワイバーンさん達が待機していた様だ。
もう一種の雷系の攻撃は〘マギカ・ミュータント・セイレーン〙の
スキルなのかな? 流れ的にそうだと思うけど雷系か。
てっきり、風属性なイメージだったよ、セイレーンって。
さて、もうもうと立ち込める灰色の煙が混じる中
やっぱり其処にはリティカ様は立っていた。……って!!!
いけません! いけません事よ! お召し物が全部焼け落ちてて
“リティカ様! フ、フフー、フルヌードでございますぅ!”
くっ、しまった! 今回は私の視点を固定している為
空中に浮かんだまま遠目でその白い肢体を眺めるしか
出来ないじゃないか! 角度が! 絶妙な配置をしている
あの煙が邪魔をしていて見えない! 肝心な所が見えない!
違うの! 少年(多分?)の裸体が見たい訳じゃないの!
もう、性別不詳なの多過ぎるから確定しときたいのよ!
角度もうちょい変えられないかな、システムさん!?
【この[レガシーピース]の観覧は座標指定をしている為
頭部稼働範囲外での視点の角度の変更は出来ません】
「……(なんてことなの!)」
くっ、私はまだ[レガシーピース]でリティカ様を見る度に
『性別どっちなんだろう?』とやきもきしなきゃいけないのか!
毎度、結構辛いのよ?コアタルちゃんも暫く分からなかったし
太陽の君も実は姫君でしたとか言うオチがあったらとか怖いのよ?
其処はっきりしときたいじゃん? まぁ、知るのも怖いんだけども!
「なるほど。これが足りない分ですか」
「はい。ご無礼がない様に、まだ奥の手もありますよ?」
「宜しい。ならば応えましょう。反省はもうしなくて良いです」
「“何故なら、この場の全員を滅ぼすから”ですか?」
「ちょっとベタかなー?」
おいいぃぃぃっ! なんか空気止まっちゃっただろ!
リティカ様押し黙っちゃったよ! キョトンとなされてるぞ!?
やべぇ、このリトモさん達かなりフリーダムだぞ?
まじで何があったの? ひと夏の経験を経て健康エルフから
こんな、心まで真っ黒になっちゃったの!?
体はなんか兆候が見えてたけど、性格まで荒み過ぎでしょ!?
リティカ様にそういうボキャブラリーを求めるの?
こら、後ろのエルフさん達もヒソヒソしない!
可哀想だろ! リティカ様に無茶振りは可哀想だろ!
「……ふむ。短絡的だと?」
「もう少し捻りが欲しい所だね」
「貴方達は一捻りにするので今ので捻りは十分なんですよ」
「ひゅ~♪ やれば出来るじゃないですか!」
「おっ、これは負けてられないね!」
「……(うっわ、この人達ほんと楽しそうだな)」
無表情全裸というもうツッコミどころしかないリティカ様と
なんだか酷い掛け合いをしているリトモさん達。
上では一度爆撃を止めているのか空中で旋回をしている影が
夜の星空の元で影を作っている。あ、なんかリティカ様も
渾身の返しが出来て少し嬉しそうに見えるよ、多分!
それと同時にリティカ様の眼光が青白い光とともに
体の周りからもその煙を消し飛ばす様に何らかの力が見える。
くっ! それでもちゃんと股間部分へのアングルは死守するのか!
「……(やべぇ、でかい)」
そんなアホな感想を頭の中で渦巻いたのはほんの束の間だった。
やばい、リティカ様が人間体から龍の体へと戻っていくんだけど
その、白い鱗がびっしりと生えたり、途中で顔面とか
背骨の骨格が変わったり、尻尾が伸びたりと結構ガチな変身を
見せているのだけども……何よりも圧倒的にでかい。
まだまだ変身途中を見せている最中だとは思うのだけど
既に湖の半分位の面積を飲み込み、更に巨大化を進めていく。
四つん這いの態勢に最初はちょっとやらしーかなとは思ったが
手足は鋭い爪が伸び、刺々しい鱗に体を覆えばその感想も消える。
シルエットは一般的な四足のトカゲに頭に角や牙の装飾された姿だが
羽はうっすらと向こう側が見える程に薄く、星空を透かせいる。
柔らかい触手の様な髭と綺麗なキューティクルを感じさせる
滑らかそうなたてがみは龍の姿を持ってしても美しさを主張する。
「ふむ、話には聞いてましたが、いざ目にするとやはり驚きますね」
「はー、ほんとに山みたいに大きい」
「怖じ気づきましたか?」
「いえ、これくらいでなければわざわざ裏切り甲斐が無い!」
エルフの一人が何やら角笛を吹くとそれが合図だったのだろう。
再び天空から降り注ぐ火炎弾と雷撃の雨あられ。
しかし、龍の姿となったリティカ様の大きさはますますでかくなる。
切り立った崖を超えては鎌首をもたげれば、口元を発光させていく。
次の瞬間、吐き出されるのは巨大な紫がかった光。
それは巨大な柱の様に虚空をかき混ぜる様に吐き散らかせば
連隊を組んでいたワイバーンさん達や小さ過ぎて見えないが
恐らくセイレーンちゃん達も居たのであろう。
それを散り散りにさせていく。下手するとアレで
何匹か焼け死んでいるか、死体も残らない位に消し飛んでるのかも?
しんっと星空の煌めきの中に隠れる様に空中からの爆撃は止まる。
ふんっと鼻息荒くもその息と共にぼわっと小さく紫炎が漏れる様は
強者の風格と言った所だろうか? 薄い透き通った絹布の様な羽を広げると
羽ばたき始める。その巨体で飛ぶのか!? チート過ぎるよ!
火力に加えて機動力まで出来たら後は上を取って
上からさっきのえっぐい口からビームで全部終わってしまう。
「させへんよ! 総員隊列を組んで!」
「「「はいな!!!」」」
「望むは万物の上に羽ばたきし霊鳥 偽るはその傍らに佇む黄金の雷鳥
我ら、小さき命の雷光が集まりし 形を為すは暗雲を駆けめぐる雷電なり!
〘超雷鳥・鵷鶵ノ陣〙!!! 」
遠くから一度聞いたことのあるあの関西弁のイントネーション!
うん、やっぱり〘マギカ・ミュータント・セイレーン〙達か。
ワイバーンさん達から合間合間で雷撃を放っていたが
それが今度は大きく空中で隊列を組み直すと一斉に放電し始める。
それは段々と大きくなっていくと、巨大な金色の鳥の形へとなっていく。
鳳凰みたいなシルエットだが、見た目は真っ黄色で電気の塊って所か?
バチバチと放電を繰り返しつつもその巨体を羽ばたかせては
猛禽類の様に一気に急降下し、巨大な鉤爪でリティカ様を押さえ付ける。
「……(ひぃっ! 電気が凄い、眩しい!)」
「貴女達もですか。目を掛けていたつもりですが
体外、私も節穴だった様ですね」
「すまんなぁ! もう、これしかあらへんのよ!」
巨大な龍からはそれでも動揺を感じさせない淡々として
声が漏れていく。あの口から発声をしているとは思えないので
〘霊話〙スキルかあるいはシステムさん側からの翻訳かな?
巨大な雷鳥となったセイレーンちゃん達の群れは頑張っても
リティカ様の大きさの3分の1程度で抑えつけるのも大変そうだ。
ざっとビルの大きさを悠々と越えるリティカ様の龍の姿は
ソレほどまでにこの世界では規格外なのだろうか?
羽ばたきを止める気配の無いリティカ様。火花を散らしては
放電が周囲の崖や湖に落ちてはばちぃんっと大きな音と響かせていく中
“それ”は急に降り立って来た。落下と共にリティカ様の羽や頭
あちこちに打撃を加えつつも大きな水柱と共に湖へと落ちていく姿が
ざっと考えると5~10体と言った所か。
ワイバーンさん達がつかみ抱えていたのだろう。
低空飛行の滑空中に落下させていたので、最初は大岩かなにかを
上から落としているのかと思ったがそれは違った。
「……っ! 奥の手という奴ですか」
「オラ達は逃げも隠れもしねど」
「あんたに恨みはねが、これもおら達が恩義の為だ」
水柱の中をかき分ける様に出て来たのは……人。
否、めっちゃこいつらもでかい! 一人が大体5mはゆうに超えてる。
巨大な毛皮を腰に巻き付け、羽織りの様に纏っている。
武器も大きな丸太や石で出来た大きな岩を巨木に括り付けた石斧やら石槍。
なんだ、このでかい原始人!? あ、頭に角が生えてるし
下の歯の犬歯が伸びているから……マジ、これ[鬼]って奴じゃね?
鉄の金棒こそ持ってないが、切り立った崖から更に同じ様な鬼達が
わらわらと崖から降りてきてはリティカ様を包囲していく。
ざっと数で言えば周りに30体程集まっては鬼の人垣を作っている。
いや人垣は人で作るから、この場合は鬼垣って言えば良いのかな?
「……〘ボーダー・ブロケイド・オーガ〙でしたか。
〘ケイオス・タール・エルフ〙に駆除を命じていましたが」
「ま、此処に居るって事は同胞って事です」
「節操のない事で恥も外聞もあったものではないですね」
「流石、数千年操を立てている龍が仰る言葉は違いますな!」
「そんな相手はいませんよ。勝手に律しているだけです」
「それは失敬!」
「何を今更」
リティカ様から聞き慣れぬ種族名が出て来る。
多分、この鬼達の種族名であろうか? ボーダーって国境とか境って意味?
オーガという事から元から巨大な鬼の種族なのかな、多分。
彼らの筋骨隆々のたくましい体から繰り出される石造りの武具は
一撃を放つ度にあのリティカ様の巨体を揺らしていく。
リティカ様もそれに応戦しようと口を大きく開けては
先程の光の柱をだそうにも、上からセイレーンちゃん達の雷鳥が
頭を押さえつけ、鬼達のフルスイングの打撃が飛んでくる。
“頭と背中を取って囲んで棒で殴る”
こんな単純な事だと言うのに、それを山を見下ろす程の巨竜相手に
行使して講堂を封殺している。恐らく、リティカ様も
要所要所でスキルを使い、応戦しようとしているのだろう。
ただ、それらは全てエルフたちの陣頭指揮の元
多数種族の連合軍がその行動を一つ一つ丁寧に潰していく。
高度を一時的に降りてきたワイバーンさん達が
リティカ様の口部めがけて火炎弾を乱射し
何かを唱えようとすれば、バチバチと雷撃共に
そのけたたましい放電音と共にセイレーンちゃん達が掻き消す。
手足を動かす度には降って来た鬼達が数匹で囲んで膝や関節を
狙いすましては打撃を加えては足元や重心を鈍らせていく。
そう、リトモさん達の基本戦術は私がかつて見た
対[ゴーレム]戦の映像と何一つやることは変わっていない。
相手の行動を誘い出し、それを集団で徹底的に潰して
身動きを取れなくする。それが[ゴーレム]の様に
仕組まれたモノ相手でもなく、自分達のチームだけではなく
矢継ぎ早に現れる他の種族と連携しリティカ様という巨大な龍相手に
立ち回り、攻略しているのだ。
「弱いと言うのは駆けずり回って大変ですね」
「あはは、まぁ俺達みたいな小さき者が
目を大きく見開いて地面を見ると良いことも案外あるもので」
「小銭を拾ったりね?」
「困窮する程に支払いを滞らせた事も額を減らした覚えもありませんが」
「自分の手で拾い上げるケチな幸運ってのも、また良いもんなんですよ」
そう、そしてこれだけ劣勢かと思われる中でも
リティカ様は決して弱腰な様子を見せる事が無いのもまた凄い。
先程から口調や語気を変える事もなく淡々と言葉を交わしていく。
感情を抑えつけている様にも見え、時々漏れでた感情の片鱗が
この戦い自体を楽しんでは居る様子が伺える。
暴れる姿も何処までも焦っている様子が見えなく
次はどうやって潰しに来るのか観察している様にも見えた。
「ところで山脈にこもっていた国境塞ぎの鬼が何故にこんな場所へ?」
「おら達は命を守る為、人間たちの山越えを塞いできた。
命の恩義は命を持って応えるが昔からの習わしだべ」
「んだんだ。こまけぇ事はおら達解らねけどな。
助け求められたら応えるもんだべ?」
「こんな何も知らぬ田舎鬼まで駆り出すとは。
いい加減、その弱々しい打撃で撫でられるのも飽きました。
その貧相な体、引き裂いて上げましょう」
鬼達と言葉を数度交わしていくと前足の大爪を振り下ろしていく。
もちろん、鬼達は打撃を繰り出すがそれすらもまるで意に介す事はなく
振り払う様にしながらも上から叩きつけては鬼を5体程巻き込んでいく。
「今だべ!」
「「「〘ブランブル・バインド〙!」」」
「「「〘カースド・アイアン〙!」」」
「ほぅ? 命を賭した割には賢しい手を」
「はははっ、死んでも離さん……どっ!」
鬼達へと振り下ろされた大爪はまるで茹でたささみ肉を割く様に
ぱっくりと赤い血肉を露わにして食い込んでいく中、それを受け止める。
一撃を食らっただけで膝まで埋まる程の打撃であり、鬼達の石の武器とは
威力の次元がそもそも違う。
しかし、それと同時にリトモさん達のスキルが鬼達へと掛けられる。
その巨大な鬼の体ごとリティカ様の爪へと茨を絡み付けると
そのまま、茨、鬼の体、爪をひとまとめにする様に徐々に足元から
鉄へと色を変えさせていく。鈍色の光沢を輝き放つ鬼の巨体と茨から
爪を引き抜こうと地面ごとに鉄化した茨が絡み引き上げられ
上に上げることも出来なくなっていた。後ろ足も同じく
鬼達が掴みかかり、茨を出すスキルと鉄化をするスキルの同時掛けで
あの巨体をそのまま、両手足の枷へと変貌させていく。
「よし、足を封じた! 一気に畳み掛ける!」
「ようやく、お出ましですか」
茨は時間の経過と共に、どんどん増えては鉄になっていく。
その様子を見ていて、今まで声掛けと陣頭指揮で
各種族に声を掛け合っていたリトモさん達は得物を取り出し
その戦場を駆け始めた。
第百十一歩「正しさの理由」に続く
疑似無詠唱化カット編集及び調整設定の提案
詠唱は文化や思想の源流をたどる意味でも翻訳は積極的に行うべきですが
毎度毎度長ったらしく聞こえるとテンポが悪いため
システムの翻訳時に詠唱をカットして編集し直す事を提案します。
また、スキル情報を取得していない小規模のスキルに関しては
詠唱情報の事前カットを加えて提案します。
カット機能はデフォルトで設定が望ましいと考えます。
初見時やある程度期間が空いた時以外は反復した内容の聴覚情報は
緊張感が切れてしまう可能性が十二分にあります。
他に光が強すぎるとストレスが多い為、発光の調節など
細かいところでストレス軽減の内容について
下記の提案を申請します。
他、グロテスク系の描写に関しては編集する術がない為
事前警告などを行うべきでしょう。
年齢や人生経験にかかわらず本来は忌避される内容でもあります。
-中略-
―採択結果 本提案は可決されました