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第百五歩「言葉の壁を超えて」

「妖・即・斬ぅぅっーーーー!!!」

「ぽぽぽぽっーー!?(いやああああっーー!?)」


 長巻を担いでは斬り掛かるおじさま。待って、なんでこの世界は

狂戦士率高いの? どんだけ、血に飢えているの!?

何、輸血が足りないの!? なんか希少な血液型なの!?

お菓子とアニメキャラで釣ってもまだ足りないの!?


 私の足取りは重いながらも、なんとか間一髪でおじさまの

一刀両断を避け切る。うわ、帽子のツバが綺麗に切れ目入ってる!?

すっぱーん、切れてるんですけどぉっ!? ひぃっ!

長い柄が斬った直後にそのまま下から追撃してくる!

怖い、めっちゃ怖い! ガツガツ斬り掛かり、斬撃を避けた後も

長柄で薙いで突いての打撃を打ち込んでくるおじさまを

なんとかしなければと思考を巡らせていく。

あ、こういう時はあれをやるしか! 出来るかな?

ええい、あれが決まれば多分、なんとかなる筈!


―パーーンッ


「ぽっ、ぽぽぽぽっ!?(と、取れねぇ!?)」

「ふんっ! 甘いわぁあ!!!」


【そのスキルの行使には現在適性がありません】


 やばい、〘真剣白刃取り〙って意外と出来ないもんだね!?

相手の振りに対してタイミング合わせようとしたけど

空中で皮膚の叩く音を響かせるだけで終わってしまった。

相手のおじさまも一瞬、動作に警戒して刀を引っ込めたが

私の不発を見れば鼻で笑われてしまう。

仕方ないじゃん! やった事ないんだし!


 しかし、これで私が戦闘の素人だとバレてしまっただろうか?

まぁ、実際に経験積んだ感は全く無いのですが。

それに対して、おじさまは歴戦の戦士な風体をしてらっしゃる!

戦場を散々生き抜いた上で此処にも来てますって感じなのと

私個人……正確に言うとおじさまの言う[妖かし]のカテゴリーに

並々ならぬ殺意と戦意を感じる訳です。なんぞ、昔にあったのか?

そういう血脈みたいな事は言ってたけど、あれ言う意味あるのかな?


「……(くっ、これはちょっときついって!〘畏怖の眼差し〙!)」


【現在そのスキルは封じられています】


「……(うっそーん!? 今、どれが封じられてるの!)」


【現在、封じられているスキルは

 〘畏怖の眼差し〙、〘気配隠遁〙、〘遮音隠遁〙、〘愛念の抱擁〙。

 [隠遁]系及び[状態異常]系スキルを中心に封じられています。

 対象スキルの侵食度が増すと更に封印指定されるスキルが

 増える可能性があります】


 ひぃっ! スキル封印が辛い! ええと使えるのは何が残ってる?

〘蠱惑の少年愛〙は少年限定だからおじ様には使えないし

〘魂削りの愛撫〙が残っているのは幸いか!

いや、これも何時封じられるか解らないし、あの長柄の武器相手に

近付くのって難し過ぎる。此処は一端逃げておくべき?

け、けど、此処で私が逃げたらあの木の下敷きになってる少年の

生命が危ないかも知れない。どうやったら解ってくれるだろう?


「何かスキルでも使おうとしたと見える! ならば!

爆ぜ符・墨飛沫(はぜふ・すみひまつ)〙」


「ぽぽっ! ぽぽぽぽっ?(ひぃっ! まだ来るの!?)」


 私は思わず身構えては、飛んでくる符を叩き落とそうとするが

なんとその符はまっすぐ私に飛んできたと思った次の瞬間に爆発した。

弾けてびっくりするのと同時に体中へと墨が弾けて汚れていく。

こ、これ洗うの大変なんじゃね?と思うのも束の間

私の手足から這いずっていた文字達が膨張して一気に体を締め付ける。

い、痛いんですけど! 手が上がらないの? 足もなんだかあれ?

誰かに掴まれているかの様に重い! これ、次は避けられないよ!?


【ししししっ、出力低下かかかか。現在、機能を一部制限して続行中。

 封印指定スキルの増加を確認。現在、侵食を遮断中です】


「……(ぎゃーーー!? システムさーーーん!)」


 おまけにシステムさんまで不調と来ている。これは大変まずい。

さっきから動きを見ていて解ったんだけども

基本的にこのおじさまは大振りで確実に一撃一撃殺しに来てるの。

相手を弱らせようとか少しずつ傷付けて形勢をとか言うんじゃない。

当たったら確実に手足は切り飛ばされてるだろうし

下手したら頭を割られている。多分、私が避けられたのは

この大振りのおかげでもある。示現流とか言うのは

一撃必殺気味だった気がするけどそれと似た様な感じなのかな?

別に剣術マニアって記憶も無いからいまいち分からんのです。


「ふんっ! これで小賢しい手は使えまい!」

「ぽぽぽっ!(あわわっ!)」


 おじさまはそう威嚇気味に声を発しながらも、再び長巻を構え直しては

上段から斬り伏せに掛かる。私は避けようとしても体が動かず袈裟斬りに

すっぱーんっと胸元に傷を作られた後、そのまま流れる様な突きが

胸部へと突き刺さっていく。ごめんなさい、まじで痛いって!

体から黒いドロドロさんがダダ漏れになりながらも傷口はゆっくりと塞がる。

いや、ほんと私が痛いのは良いんだけどさ! 男の子どうにかしようよ!


「噂に聞いた通り、中々丈夫な事だなぁ。

 だが、[妖かし]相手におっさんが負ける訳にはいかん!」

「ぽぽっー、ぽぽぽぽっーー(誰かー、男の子を助けてーー)」


 体は重いし、体は痛いしで散々である。〈廃棄されし者の楽園〉で

散々、少年少女エルフ達から色々と吸い上げたおかげで余剰分を

回復に回せているので、すぐ倒れるという事はないがそれでもきつい。

ただ、やはり相手のスキルの影響だろう、中々傷の治りも悪くなってるし

このまま畳み掛けられたら負けてしまう。私が負けるのは兎も角

ねぇ、ほんっとそっちの子大丈夫なの!? もう声が出てないよ!?


「ッテメェ、ウチノ客ニ何シテクレテンダゴゥラァアアアアッ!!!」

「むっ! 何奴!?」


 森の奥から猛獣の様な声と猛獣の鳴き声が同時に響いてくる。

いや、訂正する。両方猛獣だったわ、ごめん。

奥の方からタワラの背に跨ったまま、まっすぐ向かってくるのは

何故かスルスミちゃん。いかん、絵面が! 物凄く絵面が!

これ、著作権大丈夫なのかって感じだよ! 大丈夫だよね?

土器の仮面とアクセとか付けていたら色々とアウトだったよ!


「タワラァァっ! アタシヲ投ゲロッ!」

「ガウゥッ!」


 そんな私の心配を他所にタワラの鼻先を蹴って飛び

空中でスルスミちゃんの胴体をがぶりと咥え込んだ後

そのままくるっと横回転の遠心力でスルスミちゃんをぶん投げる。

この娘は相変わらず肉食獣に噛まれたり飲み込まれたりと凄いな。

後、凄い見た目のアクションは良いんだがそれ実際早いのか?とか

いろんな疑問をぶち砕く様に、大振りの石刀をぶん回して

上からおじさまをぶった切りに掛かる。完全に蛮族の動きだわ。


「奇襲するのに奇声を上げるバカが居るか!」

「ウルセェ! 何言ッテッカ解ンネェゾ、ゴルァアア!!!」


 如何、スルスミちゃんが出逢ってから何度も見ている

ブチギレモードに入ってらっしゃる。そして、そうか。

あのおじさまは〘ケントゥリオ共用語〙で話しているんだけど

スルスミちゃんは〘古代エルフ語〙で話しているから

私は二人が何言ってるか聞き取れるけど、二人はお互いの言葉が

通じてないのか! 凄い面倒な展開! 私が通訳しなきゃダメなの?


「オィッ! コイツ殺ッチマッテ良インダヨナ!?」

「ぽっ、ぽぽっ! ぽぽぽっぽぽぽっ!

(あ、はいっ! 引き付けといて!)」

「テメェ等ガ森ニドカドカト木ヲ投ゲ込ミヤガッタナァアア!」

「くっ、この森のエルフか小娘!」


 嗚呼、スルスミちゃんはそれでキレてるのか。

まぁ、イケヅキ君ですら結構イラッとした感情を

表に出してた位だから、そりゃースルスミちゃんなら仕方ない。

おじさまはなんとか長柄でスルスミちゃんの石刀を受け止める。


 恐らく、石刀自体を砕く位は出来そうかも知れないが確実に

長巻の刃の方がダメになってしまうので先程から回避と

受け流し重視の立ち回りで、大振りなスルスミちゃんの

斬撃を避け続けている。スルスミちゃんも怒り任せと思いきや

先程から合間に蹴りを差し込んだりと猛攻で

相手を押し切り、ペースを作っていく。

ちなみにタワラは遠方でおすわりしつつ待機状態。

流石に主人が居ないと割って入る気は無さそうだが

段々空気薄いキャラ定着してないだろうか、この子。


「ちっ、昨日のガキエルフといい、今日の飛竜といい

 なんでこの森の奴はこんなヤバイのしか居ねぇんだよ!

 どんだけ魔境なんだよ、ここは!」

「……(あー、私もそれ思うわ、ほんと)」

「ウルセェ、クソガ! 死二晒セ!!!」


 おじさまも負けじと長柄で殴打したりもするが

肝心の刃が石刀相手に無闇に当てられないのか相当参っている様子だ。

それでも時折、スルスミちゃんの頬へと拳が飛んでいて

盛大に吹っ飛んでいるのを見れば、この世界の男女平等っぷりに

ちょっと感動してしまう。嗚呼、生死の前では平等なんだね。


「……(い、今のうちに!)」


 よ、よし! 完全にスルスミちゃんがおじさまの目を引き付けてる。

故意なのか偶然なのかはどうでも良い。その隙に私はよろよろとした

すり足の重い足取りで倒れた木と少年の方へと向かう。

〘気配隠遁〙も使えないから仕方ないんだけど

おじさまもすぐ気付くだろう。ただ、それでも早くしないと

あの緑髪おかっぱ眼鏡という中々属性を揃えている少年の命が危ない!


「あ、てめぇ待て! くそっお前は邪魔だ!

 しつけぇ女は嫌われるぞ! 男もだが!」

「余所見シテンジャネェエエエ!」

「メスガキが! お前がうるせぇんだよ!!!」


 ……なるほど、罵倒は言語の壁を越えるんだねって。

むしろ、言語の壁をぶち破り合っているのか。世界は今日も乱世だよ。

さて、それにしてもどうしようか。下手に丸太を動かすと

うどんを綿棒で伸ばす要領でばきばきっと内蔵を潰してしまうだろう。

かと言って私がこれを持ち上げられる訳でもないし、ちょっと上げて

また落としてしまったら今度こそこの少年が危ない。


「……(ん、うーん。試してみるか! 〘ヨミちゃん〙かまーん!)」


【〘黄泉より追い縋る手〙を発動します】


「なんだありゃ!?」

「相変ワラズ、キメェスキルダナ」


 って、ちょっと待って! スルスミちゃんも気持ちは解るけど

普通にさらっと気持ち悪がらないで!? ディスりは辛いよ!

この手達は結構頑張ってるし、今からお役に立つ筈だから!

私は影から白い手を這いずり出させると木を掴ませる。

残念ながら〘黄泉より追い縋る手〙達で木を持ち上げる事は

到底出来ない。ただし、ここでスキルを使えば?


「……(よしっ、ちょっとお腹一杯だけど〘魂削りの愛撫〙発動!)」


【スキル〘魂削りの愛撫〙を発動します】


 久し振りの味無しサラダ大食いタイムである。

うう、相変わらずドレッシングなし、甘味も辛味も無い

大根かきゅうりみたいな触感と味わいであるが

私は少年に倒れ掛かった木の生命力を吸い上げていく。

最初は葉が段々と乾き、枯れ萎んでいくと徐々に枝も力を失っては

枝垂れていくと同時に幹も割れる音が響き渡る。

ぱきっぽきっとまるで木を無理矢理乾燥させているかの様に

水分を絞り上げて行けば、大分その重量も軽くなっていく。


「……(よしっ! 思惑通り!)」

「すげぇ、木があっという間に枯れたぞ。どういう術だ?」

「隙アリッ!!」


 目の前で木一本が枯れている光景に思わず

おじさまも戦いの手が止まるが、その隙にスルスミちゃんんが

頭突きを入れた後に、膝蹴りもお土産にして叩きつけていく。

おじさまも負けじと長柄の先をスルスミちゃんの顎を叩き上げる。

うん、そろそろ手伝って欲しいんだけどね。止まらないかな?


「……(仕方ない、私が頑張ろう)」


 声を掛けるには二人共、もう少しバテてくれないとダメだ。

ちょっと色々と戻しそうになりつつも、木は褐色に変色し

遂には黒炭の様にまっ黒になっては表面が砂になっていく。

盛大に音を立てて、木は完全に突けば崩れる様になり

少年への重みもほぼ無くなったが……困った。


「……(って、コレもう大分弱ってるよ)」


 当たりどころが悪かったのだろうか?

少年はぐったりしたまま、木をどかしても動きそうにない。

戦闘に時間を掛け過ぎたか? 少年の様子を心配に

覗き込んでいると、ちょいちょいっとスカートの裾を引っ張られた。


「ぽっ? ぽっ、ぽぽぽぽっ?(んっ? え、〘ヨミちゃん〙?)」


 私が視線を落として振り返るとそこでスカートの裾を引く手は

〘黄泉より追い縋る手〙の一つだった。

何事かとその手を眺めていくと私に張り付いた御札へと摘み上げる。

ばしゅっと言う破裂音と白煙を上げ、しかもその手の表面が

まるで酸でも付けたかの様にただれていくのだが

その様子を見せた後、私の方へとその手を向けていく。

これは、えーと了解を取りたいのかな?


「……(え、えっ!? 大丈夫なの?)」


 手は一斉にこくこくっと手首を揺らしては相槌を取っていく。

スルスミちゃんとおじさまはその光景に嫌そうな顔をした後に

何事も無かったかの様に殴り合いを再開する。

気持ちは解らないでも無いが、此処は善意を受け取ろうよ?

いや、まぁ私だけが受け取れば良いんだけどさ。


「……(解った。痛いけど我慢してね? 助かるよー)」


 その了解と同時に〘黄泉より追い縋る手〙は私の手足に

こびりついていた御札を剥がしていく。白煙を上げては

真っ白い皮膚をどろどろに溶かし、黒ずんだ肉を見せながらも

献身的に私の御札を剥がす姿はなんとも痛ましい。


【封印状態が解除されつつあります。

 現在、使用再開可能になっているスキルは以下の通りです】


 お、なんとなく期待はしていたがやっぱりか!

符を剥がされたと同時にシステムさんは復調し始める。

よし、このスキルに賭けて見るか!

         第百六歩「語彙力低下」に続く

〘真剣白刃取り〙[カウンター][格闘]

相手の振り下ろした点を両手で挟み

捕まえてからの武器破壊や回避をするスキル。

本来、幾ら肉体や集中力を研ぎ済ませても

このスキルを実現化する事は難しいとされている。


似た技である〘無刀取り〙と言うのは振り下ろす前に

相手の腕を掴んで動作を阻害するのが源流とし

それを創作、演出などの過程で変化したものと見られる。



しかし、この世界において、スキルや武具の発展と共に

暗殺や夜襲など無手のタイミングを狙う襲撃が増えた為

一部の剣術家や格闘家が考案したスキルになる。


無理矢理、手のひらに魔力による障壁や絡みつく操作などを行い

武器を途中でへし折ったり、腕ごと絡め取るなど

流派や術式によって異なるがどのみち習得、実行の段階で

大変危険な為、熟練者用の護衛術として密かに伝えられている

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