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第百一歩「戸惑いと焦燥の目覚め」

「……(んぇ? ロシカさんの学び手達ってリトモさん達だよね?)」


 突然の繋がりに深刻な雰囲気に飲まれていた思考が弾け飛ぶ。

確かに傭兵やるって話だったけど、えーと20年位やってて

それで名を上げたって感じなのかな? なんか、えらい高評価っすね。

いや、この世界全体の評価の基準がさっぱりさんではあるのだけども。

少なくともワイバーンさんもその名前が既知であると表情で告げている。


「噂は聞いとーが所詮は傭兵風情やろう?

 命運ば賭くるに値するとは思えんし、こっちん話に乗るとは思えん」

「だから、試しに雇ってみたらどやろ?

 多分、これから人手は居るやろうし、あん子等敵に回されたら辛いやろ」

「……ふむ。具申してみるんも、ありかもしれん。

ただ、高かとは聞いとーけん予算次第か」


【[レガシーピース]〘正義の走狗〙を終了します】


 うぉ、再びシステムさんの[レガシーピース]強制終了か。

こんな感じで〈廃棄されし者の楽園〉に居た

〘セイント・フリード・ワイバーン〙さんの親戚。

あるいはなんらかの関係した飛竜達と

〘マギカ・ミュータント・セイレーン〙という新たな種族を

見知った事になる。そして、今回はこれらの一幕を

イケヅキ君もスキルで覗き見していることになッてね。

ちゃんと見えていたのかしら? 遮断されてない?


【侵入していた監視対象のスキル使用終了が確認されました】


 あ、システムさんもちゃんと気付いていたのね。

そこら辺を察してくれていたのは優しさかつテンポ重視か。

ざっくりと言うか展開でのさじ加減の幅広いもんねシステムさん。

さて、そんな事よりも結構がっつりとした時間見入っていたのか

終わった後、本当に寝てしまっていたのだろうか。

目を醒ますと空の向こう側にほんのり橙色が薄ら滲んでいて

朝日が立ち昇ろうとしているのが解る。

此処の森に来てからすっかり太陽と共に寝起きをするのが

身についたもんだ。隣で寝息を立てているイケヅキ君の

寝起きのキュートさを眠気覚まし代わりに叩き込まれていく。


「ぽっぽっーぽっー(おっはーよー)」

「ん……んぅ、ああ。おはようごふぁいます」


 当然、出来る女の化け物である私は朝のうがい用に水瓶から

竹筒の水筒を二人分用意しているのである。偉いでしょ?

二人でそれを口に含んでは寝起きの水を飲みつつも

朝餉の支度をし始める。私もイケヅキ君も切り出すタイミングを

中々見出だせないのか着々と進む炊事。結局、二人して

いざ食べようというでようやく声を掛ける決心がついた所だ。


「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっ?(さて、どうだった?)」

「はい。アレ程に過去の情景が見えるのは凄いですね。

 正にその場に居たとしか思えません」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

(居たとも居なかったとも証明出来ないんだけどねぇ)」

「ああ、それもそうですね。まぁ、内容はご飯を済ませてからに

 しましょうか。正直、食事中は憚られます」

「ぽぽっー(だねーっ)」


 うん、流石に話も中々ディープな内容だったしとても

朝ごはん食べながらぺちゃくちゃ話す内容でもないね。

何よりも中々情勢的には込み入っていると見える。

まぁ、この前みたいに注意警告が無かった分、見た目的には

マイルドではあったのだけどそれでもご飯中は避けたい内容だ。

二人で淡々とご飯を食べた後、再び切り出していく。


「で、あの情景ですが史実だと思います」

「ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽっ?(やっぱり、あったの?)」

「僕は歴史を又聞きしただけですが確かに族長がまだ若かった頃に

 国が一つ〘深魔海〙絡みで無くなって、それを契機に国々が

 戦争を始めたというのは聞いています」

「ぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽっぽっ」

 (うう、あの皆が潜伏してた国は滅んじゃったのね)」

「ええ……実は朝ごはんの時に躊躇したのはソレです」

「ぽぽぽぽっ(と言うと?)」


 イケヅキ君は水瓶の水で皿の汚れを流しつつも俯き気味に

語り始めていく。本当に歴史すら口伝で伝えられていくんだね。

まぁ、書物に残すって言うのはそもそも紙や石版、粘土版と

後はパピルスとかああいうのが無ければダメみたいだけど。

後は竹簡だっけ? 竹に書き記すって文化もそのウチ出来たかもだが

2~3世代前に入ったばかりのモノで思い付けってのも厳しいか。

あくまで、又聞きとは言え、エルフの長命っぷりから見れば

それでも人間間の伝言ゲームよりは信憑性は高いかも知れない。


「国が滅んだ、攻め落とされたと言うのではなく

 本当にいきなり“無くなった”らしいんです」

「ぽぽぽっぽっ?(どういう事?)」

「聞いた話なのですがある日突然、老若男女、貴族も平民も関係なく

 住んでいた人間が次々と正気を失って、国が機能しなくなりました。

 それと同時に水路や下水、井戸から気の触れた魚人達が現れ

 正気を保っていた残りの人間達を襲って行ったそうです」

「……ぽっぽぽぽっ(えっぐいなぁ)」


 私はイケヅキ君が口伝されたその国の末路を想像する。

……完全にパニックホラー映画だコレ!? ゾンビとかだと

そのまんま過ぎるから魚人襲来とかチョイスが中々にB級じゃない?

しかし、一斉にと言うのはちょっと気になる。

そりゃ散発的に10人くらいが襲って来たらそのまま返り討ちで

退治されちゃうよね。特にファンタジー世界だから衛兵だの

冒険者だのいくらでもいそうだし、現に傭兵も現役みたいだし。


 うーん、突然現れた魚人はやっぱり流された麻薬の中毒者?

あるいはお酒で変わってたいった人達が潜伏してたとかかな。

どっちにしろ、歴史の裏舞台を覗いた後に史実を照らし合わせれば

そりゃ成る程と思わざる負えない。果たして、この国自身の人達は

どの段階でこの異常に気付いていたのだろう?

もし、それなりの時期に気付いて他国に救援を出しても

素気無く断られていたとかだと絶望感が酷いことになるね。


「ぽぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ?(その後どうなったの?)

「言い伝えられている所、魚人達と触発されて気の触れた人間が

 周囲へと溢れて進む所を、その当時にこの地域一帯に

 崇められていた伝説の聖龍が部下の飛竜達と共に

 子供から老人の一人まで焼き払って、事態を鎮圧したそうです」

「ぽぽっぽっぽっぽぽぽぽっ?(あのワイバーンさん達かな?)」

「恐らく、彼らの言語も一致しますね。ただ、事態の早期把握と

 傍観して周辺国と歩調を合わせていた事は初耳です」

「ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽっ(普通、口外しないだろうしね)」


 うーん、リティカ様とワイバーンさん達による掃討か。

マッチポンプ気味でもあるが正直、相手の攻め方の脅威度が

かなり高いことを踏まえると周辺への危機の共有は必要だとは思う。

全部焼却って選択肢は、このくらいの文明度合いだと当然なのかな?

確かにこの話はとてもじゃないが朝ご飯中に聞く話ではない。

そうでもしないと被害がどかすか大きくなるだろうし

かと言って、現実に対処するとなると気の滅入るどころの話じゃない。


「ぽぽぽっぽぽっ(難しいね)」

「はい。正直、もっと断片的でぼんやりした内容かと

 思っていました。毎回、こんなのを夢で見るんですか?」

「ぽぽぽぽっぽっー(時々ねー)」

「心中お察しします」

「ぽぽっ、ぽぽぽぽっー(ふふ、ありがとー)」


 嗚呼、こんなハードな話で自分も十二分に体験したと言うのに

私の心配をしてくれるなんてイケヅキ君は天使なんじゃないのかな?

〘エンジェリックエルフ〙とか居たら絶対イケヅキ君だって!


【〘エンジェリック・エルフ〙及び天使との混血のエルフ族は

 現時点においてこの世界に存在しません。        】


「……(無駄に夢を打ち砕かれた!?)」


 うう、まさかのシステムさんからも湧き上がる気持ちの迎撃を食らう。

ま、そんなアホな事を考えながらも私達は朝餉の片付けを終える。

さて、いよいよ今日から〈第四勇者軍〉とやらが何か行動を

起こし始めるのだろう。私達はあくまで監視。

緊急時に〈廃棄されし者の楽園〉へと事態を伝える役目を担っている。

森全体には老人達以外にも大人のエルフ達が

監視には出ているらしいのだが、少なくとも私が連絡要員として

一番生き残りやすい故の人選だ。まぁ、丈夫ですからね、私。


「ぽぽぽっ(じゃ、上行こうか)」

「はい。タワラには森の巡回と根元の警護をさせておきます」


 そう言って後片付けをし、お昼のお弁当を簡単に作る。

数日分の乾燥した木の実やら豆やお肉を持ってきており

それを炙る程度だが、それでもこうピクニック気分って大切だよね。

若干、香ばしい匂いとともにテンションを上げた後

二人で木を登っていく。なんだか、ローテーションも

楽しい習慣になりそうで意識が戦から遠のいていた所、ソレは来た。


「……(危ないっ!?)」

「なっ!? 木に捕まって!」

「ぽぽっ!(はいっ!)」


 大きく木が揺れては枝にしがみつく私達。下ではタワラが

懸命に吠えている。直撃こそしなかったが何かが掠めていった。

多分、私の視界に一瞬映ったのが想像と一致するなら

また偉いもんを飛ばして来てくれたものだ。

揺れが収まってからゆっくりと地面を眺める。

何やら土煙と抉られた土の上に明らかに

不自然に鎮座しているのは……木だ。


「ぽぽっぽぽぽぽっ!?(木を投げてる!?)」

「上に居続けるのは危険かも知れませんが」

「ぽぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっ!

 (私は多分、死なないから大丈夫!)」

「むっ……解りました。一度、確認したらその後、お願いします」

「ぽぽっぽっ! ぽぽっぽぽぽっ(了解! 早く上がろ?)」


 そう言って、私はこの程度なら死にはしないという

無駄な確信が得てしまったので此処は体を張ろう。

女子としてその行動の選択肢はどうかと思うのだが

イケヅキ君達子供を守る為と考えるなら木にしがみついたり

この木と倒れる位ならお安い御用だ。

私達が木を登り切る間に動揺の振動に怯え、根っこから引き抜かれて

投げつけられる木は一定の間隔で絶え間なく続けられる。


「見えました! ……[ゴーレム]を使ってますね」

「……(なんてダイナミックな環境破壊!?)」


 そして、私達が木のてっぺんに近い監視場所へと

たどり着くと、森の外ギリギリからロープを掛けて

木を引っこ抜いている無数の[ゴーレム]の姿が見える。

兵隊さん達が木へとロープを括り付けつつも[ゴーレム]を警護。

[ゴーレム]は数体で大根を抜く様な感覚で木々を引っこ抜き続け

それを別の[ゴーレム]達がぽいぽいと森へとぶん投げている。


「……(あー、そっか。エコとか環境保全とか意識は無いもんね)」

「普通の〘フォレスト・エルフ〙だったらこれは怒りますね。

 うちのところはそこまで森に依存してるって感じではないですが」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽっー(挑発込みかー)」


 そりゃ勝つためなら全力でぶっ壊して行くよね。

あくまで向こうもやる気か。これは悠長に生活していられない。

かと言って、下手に森の外に出て行ったら先日の謎の炎でやられる。

ゴーレム相手には投石も流石に効かないかな?

ま、その対策も練っていると言えば練っているだろうね。

いざとなれば、またコアタルちゃんの水龍で防いじゃうだろうし。


「ぽぽぽっぽぽぽっ?(意外とピンチ?)」

「ですね。本来エルフの生活圏であり、得意な戦場である森に

 攻め入ろうなんてどんだけ驕り高ぶっているのかと思いましたが

 それなりには考えて来ている様です」


 あ、黒い。なんだかイケヅキ君が! あのエンジェリックな

優しい(けど、忘れた頃に毒舌な)イケヅキ君が黒い発言をしている。

ちょっと怒っているのかな? まぁー、普通にエルフじゃなくても

住んでる森とか庭の木抜かれて、投げ付けられるとかやだよね~。

さて、お爺ちゃん達はどうするんだろ? このまま指咥えて

見ているって訳でもないだろうけど。


「お、族長たちは丘に集まってますね」

「ぽぽっ、ぽっぽぽぽっ(あら、ほんとだ)」


 ふと丘の方へと見るとリトモさん達であろうエルフの集団。

前線に出ていくかと思いきや、結構な数が集まっている。

うーむ、様子見って感じなのかな? ふとそんな感じで

こちらも全体の様子を眺めていると後ろから突然声が掛かる。

普通に振り返ってしまうが後になって此処が木の上だと気付く。

ただ、そんな気付きすら消し飛ばしてしまう様な驚きの光景が

私の目の前に広がっていた。


「オーーっ。オ嬢チャンマダ居ッタカ」


 振り返れば、そこにはまるでムクドリの群れの様に

まっ白に空を覆う無数の〘セイント・フリード・ワイバーン〙が

森の外へと向かっていくのが見えていた。

           第百二歩「真の自由の為に」に続く

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