小さな村、そして小さな恋物語
東方プロジェクトの二次創作を書いていたのに、いつの間にかこちらに移っていました。無意識って怖いですよね。怖いですよね…
「おはよう、フレイヤ」
「ええ、おはよう」
僕の目の前にいる女性は、同居人のフレイヤ。僕たちは、ユグドラシル(神々の町)という場所に住んでいる。名前だけは大きいけれど、実際には小さくこぢんまりとした田舎町だ。
「それじゃ、朝ごはん食べるかい?」
この家に住んでいるのは、幼い頃両親を亡くしたフレイヤと、同じく幼い頃両親を亡くした僕、フレイだけだ。昔から仲が良くて、一緒に遊ぶことは多かった。
それでは、話を戻そう。
「うーん、食べようかしら」
僕は火や水など、自然の力を操ることが出来るので、家では料理の役目を担っている。ちなみに、フレイヤは月を操り、動物と会話することが出来る。いつかいたずらで月の満ち欠けを無くし、村を大騒ぎさせたことがあった。
ここまで言って驚いただろうか。僕たちがそれぞれなにかしらの能力を持っていることに。しかし、これは普通のことなのだ。気にしたって始まらない。とりあえず、僕たちは生まれつきこのような能力を持っていたのだ。それにしても、うーん、どうにも僕は話を脱線させる癖があるみたいだ。
「じゃあ今日は…じゃが芋のスープと丸パンでいい?」
「ええ。私の好物を、よく心得ているわね」
そう言ってふんわり笑うフレイヤに、ドキッとする。
朝ごはんを食べ終わると、僕は畑に行って野菜の世話をする。先ほどのスープに入っていたじゃが芋も、この畑で育てたものだ。だけど、世話と言っても能力を使って水やりをしたり土に空気を行き渡らせたりといったことしかしないので、すぐに終わる。畑仕事が終わって家に入ると、大抵笛の音が聞こえてくる。これはフレイヤが近くの草原で吹いているもので、癒しの力がある。彼女は、自分の能力とその横笛を上手く利用し、野犬に捕まって傷ついた動物などの治療をしているのだ。
小さな木枠の窓から草原を見ると、今日もフレイヤは笛を吹きながら動物たちの群れの中に立っていた。僕の視線に気づいたのか、一旦笛を下ろして手を振る。僕が微笑み返して私室に向かうと、また演奏を再開する。この演奏はほとんど一日中続くが、フレイヤはそれほど疲れないらしい。
「お昼を食べに、一度は戻るでしょう。フレイの作ってくれるご飯はとっても美味しいから、ずっと外にいても元気なのよ」
フレイヤはいつか、そう言っていた。嬉しいことを言ってくれるな。自分の部屋で一人になると、僕は必ずつぶやく。
「こんな日がいつまでも続くといいな… こんな日が、いつまでも…」
でも、そんなことがあり得るわけがない。僕は迂闊だった。
「フレイ、フレイ」
ある日朝起きると、フレイヤが僕のことを繰り返し呼んだ。
「…なんだい?」
寝ぼけ眼で聞き返したが、僕は次の一言で目が覚めた。
「私ね、ある人のところにお嫁に行くの」
え?今なんて?そう言いたかったけれど、言えなかった。
「毎日笛を吹いている私のことを見た人がいてね。その人が結婚して下さいって。いい性格もしていたし、了承したの」
僕には何も聞こえなかった。ただ、目の前で嬉しそうに飛び跳ねているフレイヤを虚ろに見つめていた。もう僕と住めないの?もうその微笑みを独り占めすることはできないの?
死んだ目をしている僕を見て、フレイヤは慰めるように言った。
「大丈夫よ。その人にはフレイのことを話していて、一緒に住むことを許してくれたから」
違う。僕は、そんなことを望んでいない。
「ありがとう。あと、おめでとう」
違う。そんなことを言いたいんじゃない。なのに……
フレイヤとあの人…僕から大切な女性を奪っていった…ロキの結婚式の日が来てしまった。村の小さな教会で式は開かれたが、僕は行かなかった。
いつも草原のフレイヤを見ていたように家の中から僕は彼女を見ていた。しかし、フレイヤはこちらに気づいて手を振ってはくれなかった。
もう、耐えられない。僕は家を飛び出し、村のはずれにうっそうと茂る森へ逃げ込んだ。この森は曰く付きで、中に入った者は二度と出てこられないと噂されていた。でも、構わない。フレイヤから少しでも離れられれば…
もしも僕に勇気があれば、君をこちらに向かせることができたかもしれない。だけど僕にはそんなものないから… ごめん。ごめんね。こんな僕でごめんね。弱虫のくせに嫉妬なんかして、ごめん。
好き。好き。好き。大好きだ。これ以上想っていたら、気が狂ってしまうかもしれない。いいよ。構わない。精神が壊れる寸前まで、君のことを考えていられるなら。でも…やっぱり無理だろうな。君のことを考えているから、精神が壊れないんだから。
そうしてどこまでも、闇に堕ちていくんだろうな。光の中に君を残して。
東方プロジェクトの二次創作もちゃんと書きます!