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再逆転(後半)

 第1王女のアルテシア様が突然夜会に現れた。


 今国王陛下を支えているのは第1王子でも第2王子でもなく、この第1王女様だ。

 人懐っこい笑顔と気さくな物言いに隠された、悪辣とまで称される容赦ない手腕で「王家の鬼姫」と恐れられている。


 そして、あっという間に場を収め、別室での手打ちへと移行させられた。

 「何でこんなところにアルテシア様が?」と混乱している内の電光石火の展開。

 さすがはシア様。陛下に「アレの間違いは女に生まれてきた事」と女性が王位継承権を持てない事を恨ませる存在。


 そんなシア様から殿下との婚約の条件を教えられた。

 そんな条件が付いていたのを知っていたら、こんな茶番にはならなかったのに。

 まぁ、自身の婚約の誓書を見ておかなかった私も悪いんだけどね。


 やれやれ、と思っていたら殿下の王位継承権剥奪と王家からの放逐まで宣言されてしまった。


 いや、確かにメイベル家との関係が悪化するのは王家として困るでしょうけど、お父様がそんな事で怒るとは……、あり得るかも知れないわね。

 時折「もう、頭にきた! 独立してやる!」とか言ってるしね。


 まぁ、大事に成らない様にフォローしておきますか。



 なんて考えていたら、

「最後に、リアリーゼ殿。貴女は退学。王国南部のべリアルに送られる事になります」

 だそうです。


「はい?」

 どういう事?


「シア様、お話が全く見えないのですが?」

「そお? さっきも言ったけど、この学院は結構な監視下で運営されてるの。大抵の出来事は国の上層部は把握しているつもりよ」

 そう言ってシア様は周囲を見渡す。


「まぁ、生徒間の色恋沙汰なんて気にもしないし、婚約破棄ウンヌンだって大半はどうでも良いわ。今回のレベルはちょっと困るのだけどね。

 でも、大量の使途不明金や留学生との揉め事とかは不味いのよ。お金は何処へ消えたのかしら? 他国との国際問題にはならないかしら? 騎士学校や士官学校との合同演習は国防上の武威演出でもあるわけだし、学院レベルの問題じゃなくなっちゃうでしょ?」


 なるほど。そういう事ね。

 つまり相手が第3王子一派から鬼姫に変わった訳ね。


「それで、大問題になる前に調査しなきゃ、て訳で色々調べさせてもらったわ」


 シア様は私を見てにっこりと笑う。


「調べてみると多くの所でリアリーゼ・メイベルという名前が出てきちゃったのよ」


 あぁ、やっぱり。

 ちゃんと調べる人が調べれば分かるわよね。

 何で王子一派は気付かなかったのかね?


「使途不明金の決済の多くがリアリーゼ殿の印で行われ、何度かお金の受け取りもしてるわね? 自治会でのリアリーゼ殿の役割は会計ではなかった筈では?」

「会計役の役員がほとんど仕事をしていなかったので、代わりに代行しておりました」

「確かに、その役員はほとんど仕事してないわよね。でも、それで納得すると思う?」


 思いません。

 というか、納得されても困ります。


「貴様、やはり悪事を働いていたか!」

 先程まで意気消沈していたグラハム様が、突然復活された。

 ホント無駄にタフなバカだ。


「ちょっと、そこうるさい。退場」

 シア様がビシッと指差すと、部下らしき数人がグラハム様を拘束し連れて行く。


 やれやれ、といった感じの苦笑いで退場させられていくグラハム様を見送り向き直ったシア様。


 ここからが本番ね。


「そうまで仰るなら当然、証拠があっての事ですね?」

 いったい何処まで把握しているのだろう?

 第3王子一派はほとんど何も把握していなかったが?


「証拠、ね」

 シア様が部下から書類の束を受け取る。


 その書類の束に視線を落としながらシア様が口を開く。

「リアちゃん、あなた私を馬鹿にしてる? この程度で騙されると思ってるの?」

「ッ!?」

 再び上がった視線に背が震える。

 今までに見た事の無い鋭い視線。そこには若干の怒りも感じさせられた。


「今の学園の状況を作ったのは、愚弟」

 チラリとルイス殿下を一瞥すると、視線は再び私を射抜く。


「そして、貴女よ」

 もしかしたらこの方は本当に全て分かっているのかもしれない。

 そう思わせる目だった。


 そして、それは正しかった。


「ロイド・ロックシェード殿、私が先程言った言葉を覚えてる? 「リアリーゼ殿がこの学院をギリギリの所で保たせていた」と言ったその意味分かるかしら?」

「それは、……我々自治会役員が働かなかったところを彼女一人で耐えて見せたと」

「違うわ。彼女はギリギリを保っていたの。敢えて、ね。

 立ち直らせる事が出来たのよ、リアちゃんには。でも敢えてしなかった」


 シア様の目が「そうでしょ?」と語りかけてくる。

 やはりこの方は全て分かっているようだ。


「これらの調査もある点までは簡単だったわ」

 シア様が手に持つ資料をポンポンと叩く。


「調べ始めると直ぐにリアリーゼ・メイベルの名前に辿り着く。ちょっと調査をすれば「彼女なら出来る」「彼女が怪しい」と言ったレベルの証拠は出てくるわ。でもそれ以上は出てこない」


 そう、その通り。

 状況証拠は出てきても決定的な直接証拠は出ない筈だ。

 何故なら私は『やっていない』からだ。


「そこで行き詰っちゃったんで、逆に『彼女がやっていない』証拠が無いか調べ始めたら、これが出てきちゃうのよね」

 シア様は手に持っていた資料をバサバサッと捨て肩をすくませて見せる。


「多くの事件でやってないのにも拘らず、怪しく見える。これは誰かが彼女を嵌めようとしていたという事。誰だと思う?」

「それは……」

「……」


 皆の視線がメイサ嬢に集まっていく。


「違います! 私そんな事していません」

「そうね。貴女には無理ね」


 メイサ嬢の言葉をシア様が肯定する。


「酷だけど、貴方達とリアちゃんじゃ、物が違う、格が違うわ。実際さっきも皆まとめて一蹴されてるでしょ?」


 その通り。残念ながら今の学院に私を嵌められるだけの相手はいない。


「そんなリアちゃんにしては、随分と不用意な行動が多いわ。これじゃあ、疑われても仕方ない。という行動もね」

「敢えて、嵌められた振りをしていたと?」

 いつの間にか復活していたルイス殿下がそれを口にする。


 その通り、実際に嵌めようとしてきた相手は結構いる。

 使途不明金に関しては運営事務局の副局長だ。嵌められた振りをしてバッチリ証拠を掴んでいる。

 留学貴族とのトラブルも、その国の反王国派の裏工作に乗ってみせた訳で、彼には事情を話していずれ反王国派を潰す為のネタを提供しておいた。


「何の為に! そんな事をする意味は?」

「暇つぶしでしょ」


「「「ハァ?」」」

 驚いた顔で皆の視線がこちらへと向く。


「彼女には、この学院は小さすぎた。まともに張り合える相手がいなくて退屈だったんでしょ。敢えて爪のかかり所を作っておいて、そこを突いて来た相手と遊ぶ気だったんでしょ?」


「まぁ、そんなところです」

 皆が好き勝手な事をするなら私も好きにさせてもらおう。と考えたのが始まりだった。


 メイサ嬢が逆ハーを形成しつつあったので、いつか断罪イベントが来る事が予想できた。

 そこで、逆転シナリオ用に色々仕組んでみた。という理由はナイショだ。


「フゥ、全く」

 シア様が苦笑いで嘆いている。


「そんな訳で、話を戻すわよ」

 真顔に戻ったシア様が私を正面へと向き直る。


「リアリーゼ・メイベル。貴女を退学処分とします」

「それは」

「不服?」

「……はい」

 学院の運営を混乱させたのは働かなくなった役員達。悪事を働こうとした者達もそこにつけ込んだ。

 それが罪なら私だけ退学というのはおかしい。


「この学院はある種の試験みたいなもの。サボって良い点が取れなければ将来に差し障るわ。彼等は1年サボった事を後で後悔する事になるでしょう。

 でも貴女は違う。優秀で力を示したわ。このまま中央に置いておくのは危険だと思わせるほどのものを、ね」


 つまりは、やり過ぎたという事。

 暇潰しに混乱を生み出されては困るという事。


「そんな訳で、ベリアル地方に送られる事になると思うわ」

 シア様の言葉に誰かが「ベリアル地方って」と呟いたのが聞こえる。


 王国の最南部であるベリアル。王家直轄の領地であるが、国内最大の「派遣されたくない場所」でもある。

 ドラゴンや危険な魔物が多く存在する魔境と呼ばれる地域を含んでいる。


「楽しんでいらっしゃい」

 とても良い顔でシア様は笑いかけてきた。


 えぇ、本当に楽しそうな場所ですよ。



 こうして私の学園生活は終わりを迎えた。


「あれ? もしかしてこれって、追放エンド?」


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