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再逆転(前半)

今回は突然現れたアルテシア王女の視点です。

「あの子には期待していたんだけどなー」


 なんでこうなったのかしら?


 私、第1王女アルテシア・ルーメリウスには1人の兄と2人の弟がいる。

 その中で、下の弟こと、第3王子ルイスには期待していたのだけど、どうやら困った事になってきている。


 兄は、ダメだ。王族としてのプライドが高いばかりで、実力がまるで見合っていない。

 部下の手柄は自分の手柄。自分のミスは部下のミス。

 大局を見る事が出来ず、おだてに弱く、老獪な者達に良いように操られるのが目に見えている。


 双子の弟でもある上の弟は、兄とは真逆。王族という意識がまるでない。

 政務に興味なく部下に丸投げし城を抜け出して昼間から町で遊び呆けている。

 時にはそれが意外な利益をもたらす事もあるが、基本は無駄な出費でしかない。

 密かに付けている影の者の負担もばかにならない。


 兄も上の弟も王位に付けば周りの者が傀儡とするのが目に見えている。

 まぁ、傀儡とするのはメイベル公爵辺りだろうから、国としては困る事にはならないのだろうけど。


 だが、下の弟は違う。

 王族としての品格を持ち、責務を知り、才覚があり、周囲にも優秀が多くいる。

 父も密かに期待しているのだろう、兄の立太子を宣言しないままでいる。

 学院を卒業した後に数年自身の補佐をさせ器量を見極める気なのだろう。


 私もそんな下の弟(ルイス)に期待していた。


 そう、()()()()

 過去形なのだ。


 今は下の弟にも期待は出来ない。


「ハァ、なんでこうなったのかしら?」


 1つ言えるのは、いつの世でも男を変えるのは女の仕業という事。

 あの娘も困ったものだ。


「アルテシア様」

「うん、準備できた?」

「はい」

「証拠は十分用意できた?」

「はい。完璧な検証とまでは行かず穴も見受けられますが、十分では有ると思えます」

「分かったわ。なら行きましょう。懐かしの我が母校へ」


 まだ学生、何者でもない1人の少女がここまでやるとはね。

 勿体ないの最大があの娘ね。






 懐かしの我が母校。卒業して2年。ここで過ごした3年が私の中で大きな糧となっている。

 そういった事に気が付くのは、えてして過ぎ去ってから。

 あの時にこの覚悟があれば、こういう心構えが出来ていれば、もっと違う自分になれていたのにと思う事が多々ある。


 まぁ、懐古趣味はこの辺にして問題の解決に、……て、遅かったかしら。


 卒業記念のパーティーは既に半ばを過ぎ、通常ならホールのあちらこちらで歓談している頃合の筈なのだが、なぜかホールの一部に生徒の大半が集まっている。

 中心にいるのは、愚か者になった我が下の弟ルイス。ルイスの婚約者リアリーゼ・メイベル公爵令嬢。

そして、

「あれがメイサ・シーゼル嬢ね」

 報告の通りのその姿は遠目からもハッキリと見える。


 見たところ、ルイス+α対リアリーゼという図式の様ね。

 そうなると問題は、何処まで把握した上で、という所なのだけど。


「シス、集音」

「はい。只今」

 部下の1人に集音魔法を使わせる。さすがにこの距離で声は聞こえない。どの話をしているのかまでは分からない。



『……身に覚えがありませんわ』

『ほう、では2月前、白花の月の14日。メイサ嬢が何者かに階段から突き落とされたという事件があった。犯人がどなたかご存知なのでは?』

『……知りませんわ』


「ねぇシス、あの子達何の話してるの?」

「さぁ、私にも。集めた資料には……ない話ですね」

「フム……、ちょっと様子を見ましょうか」

「はい」


 どうやらリアちゃんを断罪する気の様だけど、私の予想とはちょっと違うのかしら?





「あのボルケスさんの坊ちゃん、事件当日の容疑者の動きとか調べないのかしらね?」

 そこがまず最初に押さえるべき所だと思うのだけど?



「ロックシェード伯のとこのもツメが甘いわね。事務局辺りにでもちょっと確認すれば分かったでしょうに」

 そもそも、鍵の使い方の取り扱い説明書にでも書いてある筈なんだけど。

 新しく配備された設備を調べもせずに信用して使うとか、危機管理的に大丈夫なの?



「終わり!?」

 驚いた。そんなものでリアちゃんを断罪するつもりだったの?


『ハァ、茶番でしたね』

 集音魔法が運んできたリアちゃんの嘆き。

 確かに茶番でしかない。色々と準備をしてきたであろう彼女としては拍子抜けもいい所だろう。


『私の努力を返して欲しいですね』


 ですか。


 では、お望み通り。


「なら、その努力にしっかりと報いてあげましょう!」


 ホールに乗り込む。


「姉様!?」

「シア様!?」

 こちらを見て驚いたような弟とリアちゃん。


「何故このような所へ?」

「母校の卒業記念パーティーに顔ぐらい出しても良いでしょ」

「しかし」

「ていうか「何やってんの?」はこっちのセリフよ。あんたこんな所で何してくれてんのよ?」

「ウッ、それは」

 たじろぎ一歩下がる愚弟。


「御無沙汰しております、アルテシア様」

「えぇ、お久しぶりですねリアリーゼ殿」

 その代わりにと前に出てきたリアちゃん。

 公式な礼をしてくる以上「ヨ! リアちゃん。おひさー」とは行かないわよね。

 私的には、そっちの軽い挨拶の方が良いんだけどね。


「さて。皆様、私は国王陛下付政務補佐官のアルテシア・ルーメリウスです。卒業生を祝う記念の夜会で場を騒がせて申し訳ありません」

 今年の卒業生はともかくそれ以降の者達は私の事を知らないでしょうから、一応挨拶をしておこう。


「お見苦しい所を見せましたが、この場は私が預からせて頂きます。どうか皆様は会をお楽しみ下さい」

 とはいえここまで晒した醜態を無かった事にするのは無理。

 まぁ、自業自得というところね。


「付いて来なさい」

 主要な者達を連れて別室に移る。

 そこでお説教よ。




「最初に言います。アンタが悪い!」

 愚弟を指差し断言する。


「ね、姉様」


「アンタが色ボケしていたおかげで学院が今どんな状況か分かってる? 使途不明の使い込みで運営費が激減。 バカらしい所だと他国からの留学貴族生徒は帰国しちゃうし、他国に見せる為の学生合同演習は中止、卒業生の各省への割り振りも適当」

 周囲を見渡せば皆が俯き下を見ている。勿論貴方達にも責任の一端はある。


「学生自治会が機能してないからよ。この学院は規模の小さな国。自治会が政府となって様々な運営をしているの。それは本番に向けての練習。大げさに言えば、この学院は未来の国家運営の練習の為に作られているの。貴方達の為に」

 運営事務局も自治会の支配下に置かれ、治安維持や学生寮を含む設備管理、生徒の使用する購買の運営等の様々な部署を取り仕切る事で未来の国家運営の幹部候補生に経験を積ませようというのが学院の裏の目的だ。

 どう運営して見せるかを試しているとも言える。

 その自治会の会長は暗黙のルールで王族が務める。次いで公爵、侯爵と爵位の順という決まりだ。

 当然今年はルイスが会長、グラハム・ボルケスとリアリーゼ・メイベルが副会長。ロイド・ロックシェードも役員だし、その他にも多くの弟の取り巻きが役員になっている。


「なのに、働いていたのはリアリーゼ殿1人だけ。役員がほぼ役立たず。破綻しなかったのはリアリーゼ殿がギリギリの位置を保ったから」


 まぁ、良いわ。自業自得で苦労するだけだし。国のお偉方に「こいつ等は役に立たない」そう認識されるだけだし。


「フゥ、本題に移りましょう」

 ネチネチ説教しても仕方がない。

 と言うか、役立たずが数年連続する事も別に珍しくはない。不遇の年と諦めるだけ。


 それよりも本題よ。


「愛する者を妻に迎えたい。という気持ちが分からない訳じゃないけど、それが出来ないのが王侯貴族というものでしょ。どうしてもと言うなら、メイベル公爵のように全てを捨てる覚悟で駆け落ちでもしなさい」

 それじゃあ相手が付いてこないでしょうけどね。それは言わないでおいてあげるわ。


「それが嫌なら、形だけでも正妃にリアリーゼ殿を据えて、側妃にしなさい。側妃とばかりイチャイチャしても、文句は言われないわ」

 正妃以外は相手が嫌がるんでしょうけどね。それも言わないでおいてあげるわ。


「王家と公爵家、その両家の婚約をあなたの一存で白紙に戻せるなんて本気で思っているの?」

「それは……」

 どうやらその表情は分かっているようね。


 リアちゃんのすまし顔を見る限り、すでに諭された後みたいね。


 でも、

「それが出来ちゃうのよね」

「「「は?」」」

 見事に同調したわね。


「どういう事ですか姉様!」

「どういう事も何も、メイベル公爵の人となりを考えれば、ねぇ」

「あぁ、確かに。よく「気が変わったらいつやめても良いんだよ」と言ってましたね」


 メイベル公爵は自由恋愛の末の結婚を奨励している。自身がそうだ。

 ルイスとリアちゃんの婚約の際にも「当人のどちらかが望めば婚約は解消」と明文化した誓約文を作っている。


「これがその誓約文よ」

 父から預かってきた誓約文をルイスに渡す。

 ものすごい勢いで中身の確認をしている。


「……確かに。間違いなくそう書いてあるし、父上と公爵の署名もある」

「という事は」

「婚約は解消だ!」

 その事実に大喜びの愚弟は「メイサ!」「殿下!」と抱き合っている。


「リアちゃん。残念?」

「いえ、婚約破棄に関しては全く。ただ、あちらに勝った感があるのが悔しいですね」


 フフ、全くこの娘の負けず嫌いにも困ったものだ。

 婚約者の座に全く興味がないのならくれてやれば良かったのに。この負けず嫌いこそが、今回の騒動の根本ね。


「さて、ルイス! 私が証人になるからここで宣言なさい」

「はい!姉様」

「私が宣言したら、もう何を言おうが覆らないからよく考えなさい」

「大丈夫です」


 大丈夫じゃないでしょ。何が大丈夫なのよ。


 もう無駄だと諦めるしかないか。


「ルイス・ルーメリウス。貴方はリアリーゼ・メイベルとの婚約解消を望みますか」

「望みます」

「分かりました。今この瞬間をもってルイス・ルーメリウスとリアリーゼ・メイベルとの婚約解消を宣言します」

「「ありがとうございます」」

 なぜかメイサ・シーゼルも一緒にお礼を言う。


 お礼を言う事態ではないのに。


「同時に、ルイス・ルーメリウスの王位継承権剥奪を宣言します」

「へ?」

 喜び抱き合っていた2人が固まる。


「い、今、何と?」

「ルイス・ルーメリウスの王位継承権剥奪を宣言し終えたところです」

「え? いや、え?」


 驚き混乱している愚弟に伝言をしなければ。


「父上からの伝言です。『馬鹿者が、学院でどんな失態を犯そうが、若気の至り、学生ゆえに、と見逃してやろうと思っていたが、リアリーゼ殿との婚約を破棄するなど愚の極み。それが王家にどんな悪影響を及ぼすか。そんな事にすら思い至れないような者を王家に置いてはおけん』だそうよ」

「……」

 驚愕の事態に呆然とする愚弟。本当にちょっと考えれば分かっただろうに。

 この婚姻が王家からメイベル公爵家に申し入れた物。でなければ自由恋愛主義のあの公爵が子供に婚約者などつけない。

 それをこちらから破棄など、喧嘩を売っているようなもの。

 怒らせ独立でもされたらどうする気よ、全く。


 気付けば、いつの間にかメイサ・シーゼルがルイスから離れている。確かにしたたかな女だ。


 先に釘を刺しておきましょうか。


「グラハム殿、あなたも婚約を破棄されたようで。お父上がお怒りだそうですよ。ロイド殿も、卒業したら婚約を発表する予定を白紙撤回されたそうですね。お相手の伯爵家が兵馬をそろえているそうですよ」

「なっ!?」

「そんな!?」

 突然降ってわいた自身の話に驚かれているようで結構。

 ルーメリウスの次に狙っているであろうボルケスとロックシェード。

 近づくのはキナ臭いと彼女なら気付くだろう。


「この学院での出来事はかなり筒抜けですよ。なぜなら、先程も言った通り、この学院は幹部候補の手腕を見る為の物だから。他の皆様も明日からの休暇で実家に帰った際にお叱りを受ける覚悟をしておいた方が良いですよ」

 ニッコリ笑って告げておく。

 皆が目を見開いて驚いている。

 本当に誰も気付いていなかったのだろうか?


「それと、メイサ殿。貴女の事も色々な方が知っていますよ。10名近い方々と同時にお付き合い出来るとは驚きです。卒業後の社交界で淑女の皆様がコツを聞きたいと言って来るでしょう。教えて差し上げてください。

 まぁ、その様な方とお付き合いしたいという殿方が現れるかどうかは、神のみぞ知る。といった所でしょうがね」

 誰に擦り寄っていけば良いのかを思案していたようなメイサ・シーゼルにも一言告げておく。

 言わなくてもその内分かったであろう事を敢えて教えてあげるとか、私優しい。


 そして、

「最後に、リアリーゼ殿。貴女は退学。王国南部のべリアルに送られる事になります」


「はい?」


 さすがのリアちゃんも驚いたようね。


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