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逆転(前半)

「ここまで見事にバカしか居ないとは」


 私の放った一言に周囲はかたまる。


「もう少しは優秀だと思っていた私が愚かでした」

「なんだと? お前まだ……」

 殿下が何か言いたげなのを無視してその横を通り過ぎる。

 立ち止まるのはメイサ・シーゼル嬢の目の前。

 彼女を守るように何人かの男子が壁を作る。が、そんなものはガン無視。


「まず簡単なところから行きましょう」

 周囲を見渡し話し始める。


「私がメイサ様を脅迫したという話ですが」

 一度言葉を切って再度周囲を見渡す。


「何か問題でも?」

 その言葉に周りは一瞬言葉の意味を理解しかねたのか、皆が頭の上に疑問符を浮かべている。


「何だと!?」

 いち早く立ち直ったらしい殿下が声を荒げる。


 そもそもそんな事はしていない。私は婚約破棄万歳派で、むしろ推奨し奨励しているくらいだ。

 でも、あえて『した』を前提で話を進める。


「自分の婚約者に近づく相手に警告する事の何が問題なのですか?」

 婚約者がいると知り近づく。それも女としてだ。最初から不貞を働く気満々じゃない。

 どう考えても悪いのは、あっちでしょ。


「それでも、言い方という物があるだろう」

「あら、私が何と言ったと?」

 貴方ご存知かしら? という視線を近くにいる男子に投げ掛ける。

 どこの誰かも分からないが、服装からそれなりのボンボンだろうと予想する。

 こんな近くで聞いているのだ無関心という事もないでしょう。


「僕が聞いた話では「下賎な血を引く卑しい女」と罵ったとか」

「あら、それは酷いわね」

 余りにも都合の良い言葉に笑みが浮かぶ。

 そんな私の笑みを見て「何が可笑しい」「貴女が言った事だろう」「卑しいのはどちらだ」と殿下(と言うよりメイサ嬢)の取り巻き達が騒ぎ出す。


「メイサ様、本当に私がその様な事を言いましたか?」

 視線をメイサ嬢に向け首を傾げる。


「そんな直接的な言い方ではなかったような気がしますが、母を侮辱され悲しい思いをしたのを覚えています」

 伏し目がちにプルプルと震えながらメイサ嬢は言い切る。


 言い切ったよ。これだけの面子の前で。


 確かにメイサ・シーゼルはシーゼル子爵が侍女に手を付け産ませた子。

 故に「半分平民」と貴族の子女に馬鹿にされる事は多いらしい。

 ただし、それは学院の中だけ。社交界で彼女を卑下する者はいない。少なくとも表立っては。


「メイサ……それは」

「どうされました殿下?」

 苦い顔をしている殿下。同じ様にグラハム様やロイド様も苦い顔をしている。

 知っている者は皆苦い顔だ。


「その様な事を私が決して口にはしない。という事を殿下から説明して差し上げて下さいませんか」

「……そうだな。リアリーゼがその言葉を言う事は考えられないな」

 それまで私を責めていた王子が突然擁護した事に周囲の者が唖然とする。

 なぜ? という面持ちを隠せない者達に教えてあげましょう。


「私の母も平民だからです」

「「「はい?」」」

 フフ、アホ面が並んでるわね。


 私の父、現メイベル公爵であるエドワルドはまだ家督を継ぐ以前、旅行中に隣国で出会った女性に一目惚れをした。

 帰国を1月遅らせて口説き落とし、その女性を国へと連れ帰った。当然妻にする為に。

 そして、これもまた当然のように周囲の者に反対された。

 「ならば全てを捨てて彼女と共に暮らす」と駆け落ち上等の父に出された妥協案が「貴族の養女となり、その家から輿入れする」という物だった。

 そういった経緯から公式的な母の出身は伯爵家となっているが、実は平民だ。

 そんな訳で、平民を「下賎な」呼ばわりする事は国内でも指折り(と言うか最恐)の実力者であるメイベル公爵の逆鱗に触れるとして暗黙の内に禁句とされた。

 その流れでメイサ・シーゼルの様な生まれの者を揶揄する事もドラゴンにケンカを売るような物である。


 ただ、暗黙のルールとなって久しい為か、若い世代は知らない者が多いようね。


「という訳で、私がメイサ様を「下賎な~」と罵る事は有り得ませんわ」

 これでこの脅迫されたウンヌンは終わりだ。彼女自身が言い切った話が嘘なのだ。他の話の信頼性も推して知るべしだ。


 そう思っていたら。

「きっと、メイサ様は怖い思いをされたので色々な記憶が混同してしまったのでは?」

「そうだな他の者に言われた事だったが、混乱して勘違いしてしまったのだろうな」

 サイアス君とロイド様が何やら知った顔で分析し助け舟を出してきた。


 あくまで勘違い。ウソを言ったわけではない、と。

 なるほど、悪くはない。

 まぁ、良くもないけどね。


「確かに。そういう事もあるでしょうね」

 にこやかに微笑むと殿下やロイド様は、いぶかしむように顔をしかめる。

 勿論、これで終わりではないですよ。当然。


「それなら、私から受けた軽い警告と他の者から受けた酷い脅迫も混同し勘違いしてしまったのも仕方ありませんね」

 助け舟ありがとう。

 まぁ、結局は言った言わないの水掛け論でしかない。

 ウソが混じっている事が知れた以上、どっちが有利かは言うまでもない。


「ですが勘違いではない事もありますよ」


 おう、ここでサイアス君が前に出た。


「メイサ様が階段から突き落とされた一件、目撃者は僕です。勘違いではありませんよ」

 どうやらサイアス君はこれをポイントアップの機会にしたいようだ。

 おとなしい良い子だったのになー。


「勘違いはなくとも見間違いは有り得るのでは?」

「なんですと?」

「これが私の制服なのですが」


「「「なっ!?」」」


 何もない空間からニュッと赤い制服が出てくる。

 亜空間に収納しておいた物を取り出しただけで、別に驚くほどの事でもない。

 コツさえ掴めば消費魔力も低く便利な魔法。なぜ広まらないのかが不思議でならない。


「このように私の制服には生徒自治会の役員である事を示す腕章がついています。ありましたか?」

「……いえ、遠かったのでそこまでは見えませんでした」

「では、この刺繍は?」

 腰の部分に付いた銀糸の刺繍。メイベルの紋章を模したもの。派手で目立つと言うほどではないが、分かりやすい目安ではある。

 制服は原型を壊さない程度の改造は許されている。


「……いえ、遠かったので」

 サイアス君はうつむき気味に小さな声で呟く。


「では、赤い髪がカツラかどうかも分かるはずがありませんね」

「……」

 これで目撃証言の私を見たという信憑性が低いという事を示せた。


「おかしな事を言うな」

 終わったと思っていたらグラハム様が食いついて来た。


「カツラはともかく、赤の制服は決められた者にしか着用は許されていない。校則違反だ。誰がそのような事をするというのだ」

「グラハム様は、人を階段から突き落とすような輩も校則は遵守すると思われるのですか? 人に危害を加える事より校則の方が重要視されていると?」

「いや、それは……」

「それに私が言っているのはサイアス殿が見たのが私だという証拠にはならない。という事です。見たのは、ただの赤い上着だったのかもしれません」

学院内で赤い上着を着ていても「紛らわしい格好をするな」とたしなめられる程度で別に罰せられはしない。

 その点、赤の制服を正規ルート以外で入手するとなると並大抵の手間ではない。

 となれば、赤い制服を手に入れられる立場の者が、私を陥れる為に、という事になる。


「確かに貴様だという証拠はないな。だが、同時に貴様ではないという証拠もない!」

 グラハム様が鼻息荒くいきり立つ。「そうだ、そうだ」と取り巻き共も囃し立てる。


 君等はもう少し考えようか。

 なんで私がこんなに余裕をかましているのか、とかを。


「ありますよ」

「なに?」

「メイサ様を突き飛ばしたのは私ではないという確たる証拠ならあります」

 スマンね、サイアス君。バカがでしゃばらなければ君の名誉を守れたのに。


「事件の日は白花の月の14日。昼食時でしたか?」

「そうだ」

「それは間違いではありませんか?」

「ふざけるな! 間違えてなどいない」

「本当に?」

「くどい!」

 顔を赤らめ怒気を強めるグラハム(バカ)


「では、私ではありません。そして、サイアス殿が目撃したというのは疑わしいです」

「なっ! 僕は嘘などついていません!」

 疑いの目を向けられた天才魔法少年は、さすがに声を荒げ否定する。


「白花の月の14日。これが何の日か心当たりはありませんか?」

 問いかけるように周囲の者に視線を送る。


「あっ、学術発表会」


 はい、そこのあなた正解。


 それこそが私の無実を証明するのよ。

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