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恋愛ものっぽい話

すきなもの

作者: 雲雀 蓮



「君の好きなものはなに?」



そう訊かれて私は困惑した。

なぜならばいつだって自分を隠していることへの詰問なのではないかと思ったからである。


誰にだってあたりさわりなく、公平に生きて行く。

そうすることで本来の醜くて汚くて酷い自分を隠してきたのだ。

「本当の自分を知って欲しい」、「ありのまま生きたい」。

そう言っていた他人を見下しながら生きてきたのだ。




この本心は誰にも伝えられない。

だから今日も私はまやかしの口から言葉を発した。




「うーんとね、いろいろ!」

「なんだよそれ。もっと具体的に」

「えー」



"いつも通り"の私を笑って続きを促す、そいつ。

本当のことを言えばこの世界にあるものすべてが嫌いで、壊したくて仕方ないのに。

ゴミだらけのこの世界が、今すぐにでも崩壊してしまえばいいとすら思っているのに。


なんで、わかんないかなぁ。こんなに嘘ばかりついているのに。

演技だってなんでわかんないかなぁ。



誰かの言葉、いわゆるネタと言われるもの、流行りの映画、漫画。

それら多くの他人の引用を繰り返し組み直し使っているだけの日常会話。

誰も気づかない。知らないから。

誰も気にも留めない。そう言うキャラとして自分を確立しているから。

誰も止めない。自分が知っているという優越感から。



だれもかれも、引用に過ぎない私の言動を「私の言葉」として受け取る。

それがとても滑稽で仕方がない。




「そうだねぇ、うーん」



悩んでいる仕草をして見せる。

どうせ、こいつの求めている答えはたった一つだ。

でもだからこそ敢えてすぐには言わない。

そいつを喜ばせるためだけに先延ばしにするのだ。




「なぁ、まだー?」

「えーー、わかーんなーい」



にこにこ。そんな効果音を思い浮かべる。


本当に、こいつ嫌だな。

でもあと数年の辛抱だ。だって後一年もすれば学校も卒業。

わざと県外の学校の受験をしたのだ。こいつから離れるために。

遠距離になれば流石にこいつだって追いかけてこないだろう。

連絡先だって一斉に変えてやる。

見た目だって、言動だって全て変えてしまう。



次また会ってしまったときに、私だとばれないように。

大丈夫だ、私はできる。

だから安心して嘘を吐こう。




「・・・・あっ!」

「ん?決まった?」

「もちろん!」



「××くんが一番大好き!」






あぁ。

こうして私は今日も自分を殺した。



残基はおよそ10。

こいつと付き合う期間はあと10か月。

丁度間に合うだろう。



無機質な目で、声で、反応であったとしても。

この目の前の男は気にも留めないだろうから。












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