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苦手な方はご注意ください。

乙女ゲー悪役令嬢の執事 ~やめてくださいお嬢様~

作者: アマラ

 乙女ゲームそっくりな世界、「フェリティーテ」に暮らす執事、セバスチャン・ブラウンは転生者である。

 前世で一般男子高校生だった彼はひょんなことからうっかり死んでしまい、何やかんやあって転生することになったのだ。

 彼が転生した世界「フェリティーテ」はいわゆるゲームっぽい世界であった。

 ファンタジー系で、なんか魔法とかが発展しちゃっているのだ。

 精霊とかモンスターとかも居る、とてもステキな世界である。

 お約束な感じで人間の国は王様とか貴族が仕切っており、セバスチャンが生まれたのはその貴族。

 に、仕えている、執事、侍女の家系だった。

 生まれ変わってすぐに、果てしない「コレジャナイ」感に苛まれたセバスチャンだったが、その後襲ってきた壮絶な違和感は想像を絶するものであった。

 先ほども記した様にセバスチャンの生まれた家はとある貴族に仕える執事であり、その仕事は実に多岐に渡る。

 例えば内務の手伝いや各種調査、戦闘の時はそのとなりに控え剣や魔法を振るい、他の貴族の動向を調べたり暗殺任務をこなしたり。

 最早執事なのか何なのか全く意味が分からない。

 内務の手伝いというのは地球で言えば執事やら侍女の仕事ではないだろうし、戦闘だって有り得ない筈だ。

 まして調査や暗殺など論外である。

 そんなものが存在するのは、せいぜいゲームやマンガやアニメの中だけだろう。

 だが残念な事に、セバスチャンが生まれた世界「フェリティーテ」は、思いっきりゲームっぽい世界だったのだ。

 忍者っぽかったり密偵っぽかったり、最早喧嘩売ってるとしか思えないような重武装の執事とか侍女が実在しちゃってる世界なのである。

 そんな世界の執事侍女の家系に生まれたセバスチャンは、生まれたときから英才教育を施されていた。

 具体的に言うと魔法とか剣とか暗殺術とかを叩き込まれたのである。

 転生したことによる前提知識と、生来の高い魔力と身体能力のおかげか、セバスチャンは若干六歳にして執事長として認められる実力を手に入れていたのである。

 ちなみに。

 セバスチャンの家系である「ブラウン家」には階級制度が有り、下から「下位執事」「中位執事」「上位執事」「執事長」「執事頭」となっている。

 執事頭とは家の当主であり、ブラウン家の最も優れた執事のことである。

 ちなみに、現執事頭はセバスチャンの父親であったりした。

 執事長は現在四人いて、セバスチャンは最年少の幹部ということになる。

 ブラウン家が束ねている執事、侍女は現在数百人を越えており、その詳しい数は極秘事項となっていた。

 もはや執事侍女ではなく、「執事とか侍女っぽいなにか」のような気がしなくも無いが、当人達がそうだといっているのだから仕方がないだろう。

 まして異世界「フェリティーテ」は文字通り「ゲームっぽい世界」である。

 地球の常識なんて通用しないのだ。

 常識が通用しないといえば、セバスチャンの年齢だ。

 通常六歳の子供がそんな高い実力を持つことなど不可能なのであろうが、そこはやはり異世界である。

 極々稀に早熟な子供が居るらしく、六歳ぐらいで大人顔負けの知識や体力を発揮する事があるというのだ。

 そういうお子様が実際に居る世界なのでセバスチャンは別に異常視されることもなく、むしろ「働き手が増えてよかったね」ぐらいの感覚で受け入れたのであった。

 セバスチャンとしては普通の子供と同じように育ててもらいたかったのだが、そういった声は一切無視された。

 もっと子供らしいゆたかで伸び伸びとした生活を!

 そんな風に講義したセバスチャンに返って来たのは、こんな言葉であった。


「闇に潜み、陰に生きる執事に人権はない」


 一体ドコの執事だというのだろう。

 ここは異世界。

 地球の常識なんてなかったんや。

 そんな風に悟ったセバスチャンは、以来必死に自らを高めていったのである。

 そして、若くして執事長の地位にまで上り詰めたのであった。

 ちなみに三代前の執事頭は、四歳でその地位に着いたのだという。

 しかも、実力でもって。

 世の中というのままさに無常である。

 さて、セバスチャンはチート能力というものを持ち合わせては居なかった。

 身体能力や魔力が優れているのは、両親の血を色濃く引き継いだからだ。

 そこの前世の感覚と若さゆえの吸収力が手伝って、現在の実力を得る事ができたのである。

 チートもなしにそんな事ができるのか。

 そんな風に思う人も居るかもしれない。

 だが、ここは異世界である。

 魔法もあるし物理法則だって若干違ってるようなところに対して、なにをいわんやだ。

 というか、その辺に一番驚いているのはセバスチャン本人なのである。

 五歳ぐらいの時に200kgの相手を魔法無しに分投げた時には、もはや「ああ、もう悟りとか開くしかないんだな」と思ったほどであった。


 そんなわけで、セバスチャンは転生者であり、スーパーお子様執事であり、とある貴族に仕える事を義務付けられた少年である。

 セバスチャンの一族が使える貴族とは、国内でもかなり高い地位を持つ貴族であった。

 国内に四つしかない、最高位貴族「公爵家」である。

 ブラウン家はそんな公爵様に代々付き従う、いわば影の軍団なのだ。

 内務や外務に限らず、身の回りまで世話するその姿は、本当に何か設定を間違えてしまった感バリバリである。

 おおよそお察しの方も居るだろうが、こういった場合貴族の血縁者にはそれぞれ御付きの執事、侍女が不可欠だ。

 いわゆる直属の、というヤツだろうか。

 公爵様や奥様、お子様達にもそれぞれ執事や侍女が付いており、常にその身の回りのお世話をしていた。

 当然、セバスチャンにも直接お仕えするご主人様ともいえる存在が居たりする。

 そのお方は、公爵家の長女様であった。

 名前は、「アナスタシア」様。

 そして、いわゆる「乙女ゲームの悪役令嬢」であった。


 転生前のセバスチャンの世界には、とあるゲームが存在した。

 タイトルは、「魔法学園フェリティーテ」。

 乙女ゲームとRPGを足して割ったような作品である。

 学校で勉強しつつ剣や魔法を駆使してダンジョンとかを攻略しつつ魅力的な男子を落とし、最後はなぜか国の英雄になるという不可思議なゲームだ。

 ぶっ飛んだ設定と奇想天外な展開にたいして、恐ろしくバランスのいい戦闘システムが逆に浮くという、なんともいえない評価を得ていた。

 その「魔法学園フェリティーテ」で恋でも戦いでも主人公のライバルとして立ちふさがる敵役が、「アナスタシア」様なのだ。

 分かりやすくヒロインを挑発し、攻略キャラとの間を徹底的に阻害。

 さらには戦闘パートでも邪魔をしてきて、その上堅実で手堅く強いという凄まじくいやらしいキャラであった。

 高飛車で常に人を見下したようなその態度と分かりやすい「~ですわ」口調から、ドエムホイホイとして薄い本で大活躍したほどである。

 しかし、彼女のゲーム内での扱いは恐ろしくえげつないものであった。

 マルチストーリーなので様々なルートが存在するのだが、そのすべてでアナスタシア様は絶命するのである。

 あるときはヒロインが攻略したキャラにより家を没落させられ自殺。

 あるときは戦争が起こり真っ先に領地に攻め入られて戦死。

 あるときはダンジョンの奥深くの魔王とかに主人公より先に挑んで消し炭にされる。

 またまたあるときは、主人公と真剣勝負をして夕日をバックに「違う出会い方をしていれば、親友になれたかも知れない」死。

 最早「マルチバットエンディングシステム」といっても差し支えのない死にっぷりの多様性を見せるのだ。

 中には何の脈絡もなく「領地に滞在中隕石が降ってきて領地後と消し飛ぶ」という雑すぎるものまで存在する始末。

 ライバルの扱いがそれでいいのかと思うレベルだ。

 セバスチャンは、そんな悪役令嬢「アナスタシア」様の、専属執事なのである。


 そんなアナスタシア様ではあるが、実は現在セバスチャンが居る世界のアナスタシア様には、ゲームとは全く異なるところがあった。

 一体何か。

 それは、「アナスタシアも転生者である」というところだ。

 三歳で初めてアナスタシアとセバスチャンが対面した時、彼女はコウ言い放ったのである。


「セバスチャンか。アニメや漫画で執事の定番の名前だな」


 この一言で、セバスチャンは会って二秒でアナスタシアは転生者だと確信したのである。

 そこからのセバスチャンの行動は速かった。

 アナスタシアにここがゲームに似た世界だと話し、このまま行くとまた死ぬことになると説明したのだ。

 何やかんやあって死んだ前歴を持つセバスチャンは、死ぬことを極端に怖がっていた。

 どうやら死んだ時の経験が死ぬほどつらかったらしく、トラウマになっているようなのだ。


「清く正しく品行方正、大人しく人に喧嘩を売らず、戦いとかとは関わらないステキなレディーになりましょう!」


 力強くそう提案するセバスチャンに、アナスタシアは一言。


「やだ」


 聞く耳持たずとはまさにこのことだ。

 ちなみに、アナスタシアは前世ではゲームなどは殆どやっておらず、「魔法学園フェリティーテ」は名前は知っているけどやったことはないという。

 そのため、「死に様の見本市」と呼ばれたゲームのアナスタシアの扱いについては全く知らないのだとか。

 では、一体どんな事をしていたのか。

 そんな風に訪ねたセバスチャンに、アナスタシアはこう告げた。


「路上で殴り合いとかしてた」


 はじめは冗談だと思っていたセバスチャンだったが、その言葉がリアルガチだと気が付いた時には、すべてが後の祭りであった。




 アナスタシアとセバスチャンは同い年である。

 同じ歳に生まれるなんて、運命的っ!

 とかそう言った感情は、一切浮かんでこなかった。

 父と母が主人の懐妊に合わせて自分を仕込んだ事を、セバスチャンはよく知っているからである。

 だからこそ良くアナスタシア様に仕えるようにと、口をすっぱくして言われているのだ。

 互いに六歳であるアナスタシアとセバスチャンは、既に主人と執事としてて行動を共にするようになっていた。

 そんな、ある日の事である。

 アナスタシアが、こんな事を言い始めた。


「殴り合いがしたい」


 一瞬何を言っているのか理解できなかったセバスチャンだったが、続く言葉を聞いて一気に青ざめる。


「大緑鬼とかなら殴っても問題ないよな。行って見るか」


 普通ならば冗談の部類だろう。

 しかし、アナスタシアの目はマジだった。

 ここで、思い出していただきたい。

 この世界「フェリティーテ」では、人によっては六歳にもなれば十二分に戦う事ができるようになる。

 その実例がセバスチャンだ。

 そして、もう一人。

 アナスタシアも、齢六歳にして既に十二分の戦闘能力を有していたのである。

 何故ご令嬢が。

 そう思う人もいるだろう。

 しかし、アナスタシアは、ゲームの中では戦闘分野でも主人公の障害になる先頭もこなせる万能系お嬢様なのだ。

 その実力は、執事長であるはずのセバスチャンに勝るとも劣らないものであった。

 そんなアナスタシアであるから、やろうと思えば本当にオークとの殴り合いを演じる事ができるのだ。

 むしろ、一方的に痛めつける事になるだろう。

 とはいえ、そんな事を認められるわけもない。

 アナスタシアは六歳で、公爵家の長女なのだ。


「いや、お嬢様落ち着いてください。ほら、ハーブティーとかたしなみましょうよ。すぐに入れますし。心の落ち着く系のヤツ」


「いらん」


 なんとかごまかそうとしたセバスチャンの提案をばっさり切り捨てると、アナスタシアはかけていたイスから立ち上がった。

 二人が今居るのは、館の三階にあるバルコニーだ。

 お茶をするスペースがある広い、というか家一軒ぐらい建ちそうな広いスペースである。

 アナスタシアはじっと屋敷の外の方をにらみつけると、すっとそちらを指差した。


「アッチの方に行けば居るのだろう? 大緑鬼は」


「なんですかオオミドリオニって。まあ、確かに辞典とかにはそう書いてありますが。はい、あちらは魔物が住まう森ですから。一応」


 アナスタシアが指差した方向には、中規模の森が存在してる。

 魔物を育て、狩り、素材などを得るための、管理された猟場。

 いわゆるダンジョンである。

 公爵領は自然が豊かなので、魔物素材の生産も盛んなのだ。

 オークは皮が厚く、バッグや靴の素材になるほか、食用としても一般向けに需要が高い。


「いやいやいや、オークってほら危険ですし止めましょうって。そんな野蛮な事危険ですよ、怪我でもしたらどうするんですか」


 アナスタシアをおしとやかで落ち着いたレディーにして、そもそも主人公との対立を発生させず延命フラグを立てたいセバスチャンは、全力でとめにかかる。

 だが、その言葉がアナスタシアの変なスイッチを入れてしまったらしい。


「ほぉ。アレは私が怪我をするほど強いのか」


 アナスタシアの興味が、一気にオークに傾いたのである。

 あ、やばい。

 セバスチャンは凄まじく後悔したが、もう取り返しは付かないだろう。

 アナスタシアは本人の申告どおり、前世では路上で喧嘩に明け暮れる、ストリートファイターであった。

 しかも、より強い相手と戦って勝つことを喜びとするタイプの、かなり危ないタイプであったらしいのだ。

 ちなみに、前世でも女性であったというから、驚きである。

 世の中には思いも寄らない世界があるものらしい。

 まあ、それはともかく。

 そこからのアナスタシアの行動は、実にスピーディーだった。

 まず、セバスチャンの胸倉を掴むと、そのままダッシュ。

 バルコニーの手すりに脚をかけ、そのまま外に向かって飛び出したのである。

 あまりにすばやいその動きと、相手がお仕えするお嬢様である事から、セバスチャンは抵抗する事ができなかった。


「ちょっ! なにかんがえてっ! やめてくださいお嬢様ぁああああ!?」


 そんなセバスチャンの叫びを引きながら、アナスタシアは凄まじい速度で走り抜けた。

 確認のために言うが、二人が居たのは、「三階のバルコニー」である。

 このときアナスタシアは「強化魔法」などといった物を、一切使っていなかったことも付け加えなければならないだろう。

 異世界のお嬢様というのは、なかなか苛烈な生き物なのだ。




 数十匹のオークを積み重ねた上に腰掛けたアナスタシアは、なにやら納得行かない様子でため息を付いた。


「弱い。話しにならん」


 どうやらオークが思ったよりも弱く、それが気に食わなかったらしい。

 機嫌悪そうにしかめられたその表情が、不満振りを良くあらわしている。


「弱い。じゃありませんよ?! なに考えているんですか?!」


 アナスタシアを見上げてがなりたてているのは、セバスチャンだ。

 ところどころ服が汚れているのは、恐らく引きずってこられた影響だろう。


「いいだろうが別におーくぐらい」


「オークぐらいじゃありませんよ?! オークぐらいじゃ有りませんよなに言ってるんですか! 一寸の虫にも五分の魂って言葉がですね!」


「安心しろ、気絶してるだけだ」


「気絶してるの重ねちゃだめでしょう!? ああもうなに考えてるんですかほんとに!」


 セバスチャンはアナスタシアを抱き上げてオークの上から下ろし、さっさとオーク達を解散させた。

 気絶していたり、意識が朦朧としていて歩けないものも居たのだが、他の無事なオークに手伝わせる。

 基本的に群で行動するものの、そこまで仲間意識のないオークだったが、セバスチャンに脅されて、仕方ないといった様子で行動していた。


「まったく、慎みを持ちましょうよ! 慎み! 公爵家の令嬢ですよアナスタシア様は!」


「知らん。それよりも喉が渇いた。何か持ってきているか」


「はい。ええと、水筒に入れたお茶でよろしければ」


「頼む」


 ぶちぶちと文句を言いながらも、セバスチャンは内ポケットに入れていた水筒をとりだし、アナスタシアに差し出した。

 緊急用の飲料として、常に持ち歩いているものである。

 中身を飲み干してしまってもコップ代わりに使えたりするので、意外と便利なのだ。

 アナスタシアは受け取った受け取ったそれを、行儀悪く一息で飲み干す。

 もちろん、それを見たセバスチャンはいい顔をしない。

 むしろ、露骨に怒ったような表情を見せた。


「アナスタシア様。行儀作法の時間に習ったじゃ有りませんか。人目がないとはいえ、水筒からとはいえ、もうすこし飲み方がですね……」


「弱かったぞ。大緑鬼。話しにならんではないか」


「聞いてます? 僕の話し聞いてないでしょう、ねぇ。そんなこといったって、お嬢様に一対一で勝とうというんならそれこそ南国の島国に居るとかって言うアイランドオークとかでないと無理ですよ」


「いくか」


「行きません! なに考えてるんですか貴女は!」


 至極真面目な顔で言うアナスタシアに、セバスチャンは大声で怒鳴る。


「何度も何度も本当にもう、そろそろ大旦那様にも怒られますよ!」


 そう。

 アナスタシアがこういった無茶をするのは、実は一度や二度の話ではないのだ。

 家庭教師との戦闘である程度実力をつけたアナスタシアは、セバスチャンを引きずっては外でこうして戦いを演じているのである。

 現当主であるアナスタシアの祖父は彼女にとても甘く、こういった行為を半ば公認してしまっているのだ。

 万が一にも何かがないように、きちんと護衛するようにとセバスチャンに言い渡しているほどである。

 何でもそのおてんばぶりが死んだ当主の妻、つまりアナスタシアの祖母に似ているのだそうだ。


「こう手ごたえがないと、学園とやらに希望を託すしかないか」


「が、がくえん? なんで急にまた?」


 突然飛び出した不穏な単語に、セバスチャンは表情を引きつらせた。

 学園というのは、「魔法学園フェリティーテ」の舞台である、そのまんまの名前の場所である。

 世界の名前がついている学校だけあって、世界でも最高の権威のある学校なのだそうだ。

 要するに「東京〇学」とか見たな物だと思えば、まず間違いないだろう。

 アナスタシアは、基本的にこの学園に興味を示していなかった。

 何なら通いたくなさそうな様子であったのだ。

 ヒロインや攻略キャラとからむことを避けたかったセバスチャンはこれを大いに喜んでいたのだが、今しがたのアナスタシアの発言は、そんな喜びを打ち砕くものであった。


「お爺殿が言っていたんだ。学園には強いやつが居るとな」


 あのクソジジィ、イランこと吹き込みやがってからに!

 セバスチャンは絶対口には出せない事を、心の中で大声で叫んだ。

 確かに学園には強いやつは居るだろう。

 なにせそういう学園なのだから。


「いやいや、どうですかねぇー! 魔法とかあいつら使いますし、ジャンルが違うんじゃないかなぁー! お嬢様が求めるのとはー!」


「ほう、魔法か」


「そうそう! 飛び道具ですよ飛び道具! 火の玉飛ばしたり! お嬢様は拳で戦うタイプでしょう? あわないとおもうなぁー!」


 真正面からとめるのが無理ならば、何とか話をそらして。

 そんな風に考えてセバスチャンは、必死に声を上げる。

 だが、お嬢様の興味は別の方向に跳んだようであった。


「そうか、魔法対策が要るのか」


「いやいやいやいや! 対策とかではなくてですね!」


「一つ考えがある。セバスチャン、実験台になれ」


「何さらっととんでもないこと言ってるんですか?! いやですよ! 嫌に決まってるでしょ?!」


「安心しろ。私に向かって魔法を打つだけだ」


 どうやらお嬢様は、対魔法戦闘の準備を始めるらしい。

 セバスチャンはある程度の魔法を扱う事ができるため、丁度いい実験台になると思ったようだ。

 だが、当のセバスチャンにとっては大迷惑どころの話ではない。

 うっかり怪我でもさせようものなら、物理的に首が飛ぶかもしれないのだ。


「なにいっちゃってるんですか!? 駄目に決まってるでしょうそんなの!! 絶対やりませんからね?!」


「安心しろ。私からお爺殿に頼む」


 至極真顔で言い放つアナスタシアの顔を見て、セバスチャンは瞬時にある判断を下した。

 これはマジだ、と。


「やめてくださいお嬢様ぁあああああ?!」




 結局、セバスチャンはアナスタシアの訓練相手になるようにと、公爵閣下から直々に命令が下される事になった。

 その後、お嬢様が対魔法戦術を自分の中で確立し、更なる敵を求めてダンジョンへと走っていくのは、この少し後の話である。

連載前にどのような書き方が良いか考えるために書いてみました。

セバスチャンの設定はかなりいいと思うんですが、どうしても説明に時間がかかってしまいます。

連載にするとしたらやっぱりプロローグとかでお嬢様の戦闘シーンを入れて、セバスチャンの訓練とか世界の事情習得が必要かな。

その後3~4話ぐらいでお嬢様と出会い、事情を知り合い、お嬢様が突き抜けた感じで駆け抜けて学園に入るぐらいで、一章完。

コレを書いててそんな流れが見えたので、書いてよかったと思いました。

読んでくださった方に楽しんでいただけるかは分かりませんが、少しでも喜んでいただけたなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「弱い。じゃありませんよ?! なに考えているんですか?!」 の次の行で アナスタシアを見上げてが成り立てているのは、セバスチャンだ。 →がなる、または我鳴る だと思われます。
[一言] 連載版まってます
[良い点] あいかわらず面白い作品をありがとうございます。 [一言] 執事という言葉ですが、時代により役割や立場が変わります。 戦国・江戸時代で言う家老も、それより古い時代には執事や宰や執権などと…
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