第二十七頁
その時光とファメルの挨拶から、こうして全員が出揃う事となった、七組の“勇者達”による自己紹介の時間が開始された。
最初に挨拶を終えた光は、それまでの重圧が拭いきれていないようで、未だに呼吸を荒らげたままの状態にあった。そんな彼に対して、すぐ右隣にいた少年がその肩を軽く叩き、労いの言葉を送り届ける。
「お疲れさんリーダー!中々素晴らしい自己紹介だったぜ!……ただな光、何もそこまで丁寧すぎる挨拶なんてする必要なかったんだけどな……」
「へへっ、ごめんごめん。折角の自己紹介だから、僕についてちゃんと伝えておきたかったんだけど、やっぱりこういうの鳴れてなくてね……」
言葉の後半を占めた少年からの意外な指摘を受け、思わず苦笑いを浮かべる光。
すると今度は彼の直後に自己紹介を終えたファメルが、相棒をからかう一言を追加させる。
「ははっ、幾らリーダーとはいえ、やっぱ光は光なんだな!何せ村での挨拶の時もガチガチで、全くスピーチとして成り立ってなかったんだから……!」
「ちょ、ちょっとファメル!?それは言わない約束だったはずでしょ!?そんな事を皆の前で暴露されちゃって、ホントに恥ずかしいよお…………」
光にとってこの出来事は、どうやら彼の心に相当深い傷をつけていたらしい。顔中を真っ赤に染め上げた光はそれを両手で覆い隠しながら、崩れ落ちるような形でその場に倒れ込んでしまった。
「やべっ、わりぃわりぃ!そこまで凹ませるつもりはなかったんだけど……」
あまりに突然の事態に取り乱してしまったファメル。相棒をどう慰めればいいのか分からず、ただただ混乱するばかりであったが、それでも当の本人はしっかりと立ち上がる事に成功した。それも微笑みすら浮かべながら。
「へへっ、何てね!流石にもうそんなに簡単な事で落ち込んだりはしないよ!」
光からの突然の一言を受けたファメルは、ほんの一瞬だけ呆気にとられた表情を見せる。そして突如として腹を抱えて笑い出したかと思えば、今度は片方の掌で自らの顔面を覆った。
「……ったくやられたぜ!まさかこうも簡単に光の罠にはまっちまうなんて……これまでと比べたら、明らかに“勇者”として成長した証拠だな!」
「へへっ……ありがとね」
自信を持って自らの相棒を褒め称えるファメルと、それを受けて思わず頬を赤らめる光。その二人が互いの瞳を見つめあい、そして互いに微笑む…………。
その時だった。
「…………っ!?」
その時突如として二人の耳に飛び込んできたのは、両手を二回強く叩く音であった。何者かが発生させたこの音に、会話に夢中であった彼らは酷く驚愕した。
慌ててその音が聞こえた方向へ目を向ける二人。そこにいたのは丁度両手を合わせた状態を保った一人の少年であった。光と同じ人間の少年である彼は、そこから頭上のカウボーイハットを深々と被り直し、笑顔をあまり目立たないように気を配ってから彼らに忠告した。
「はいはいお二人とも!お互いの友情の確認はここまでな。そろそろ俺達の番に回してくれないか……?」
「…………あっ!」
ここで二人は気づいた。自分達の“世界”にのめり込んでいたせいで、互いの自己紹介の瞬間だったという事をすっかり忘れきってしまっていた事に。
顔中に冷や汗を浮かべながら何度も頭を下げ、それが済むと片手を差し出し順番を明け渡す光とファメル。そんな彼らの様子を確認してから、二人の隣で待ち構えていた少年二人の挨拶が始まった…………。
「俺は曽根晴児。皆が見た通り、いわゆるガンマンって感じさ!俺が手にしたのが、この“青い本”。これに導かれて、<水の勇者>に選ばれたってとこかな。とりあえずよろしくなっ!」
「オレはローク。生まれは≪ノアシー諸島≫のカーロル島。こうして晴児のパートナーを任されている……」
(…………流石ロークさま。いつ見てもやっぱりカッコいいんですけどぉ……)
その時ロークの姿を輝きに満ちた瞳で見つめ、心の中で独り惚れ惚れする少女の姿があった。
そんな空気に割って入る形で、突如としてファメルがロークに対し、立て続けに質問をぶつけてくる。
「お前さっき≪ノアシー諸島≫の生まれって言ってたよな?」
「ああ、そうだ」
「諸島って事は、広ーい海のあちこちに、色んな島が浮かんでるって事だよな??」
「ま…まあな……」
「つー事はだ、それぞれの島では、そこでしか獲れない魚も存在するって事、だよな???」
「そうなるな。オレだって、島全体で獲れる魚がどれくらい存在するのかは、詳しくは知らんがな」
一つひとつの質問に対するロークの対応はこれまでと変わらず冷静を保っていた。その一方で質問を次々とぶつけてきたファメルの瞳は、次第に輝きを増していった。
「オレの故郷は海からだいぶ離れているから、海で獲れる魚には、物凄く憧れてたんだよなぁ……!」
ロークから聞かされた情報を元に妄想を繰り広げながら、滴り落ちる涎を笑顔で拭うファメル。
するとその時、光達二人から見て晴児達の百八十度後ろから、特にファメルの名前が強く呼びかけられた。
「ちょっとファメルっ!?」
「っ!はっはいっ!?」
激しく驚愕した彼がすぐさま後ろを振り向くと、そこに立っていたのは先程ロークに向けて熱い視線を送っていた猫顔の少女であった。彼女は更にファメルへ、二つの文句を口にする。
「貴方がそんなに次々と質問責めしたら、流石のロークさまだって疲れてしまうじゃないの!それに貴方ばかりで喋ってばっかりで、次はアタシ達が挨拶する番なの!これじゃアタシ達ばかりじゃなく、他の皆にも迷惑なんですけどぉ!」
「…………はうっ!」
その時ファメルは心臓を幾つもの矢で射抜かれたかのような状態で、ゆっくりとその場に倒れこんでいった。彼に対するこの仕打ちを目の当たりにした光と晴児、そしてロークの三人は、思わず血の気の引いた表情を浮かべざるを得なかった。
そんな彼らの様子を確認すると、猫顔少女はしかめっ面でふんとそっぽを向き、相棒の少女は如何にもばつの悪そうな表情で皆に向かって、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
そこへ猫顔少女が静かに近づき、彼女の腕を引っ張りながら一言声をかける。
「……ほっほらっ!アタシ達も早いうちにっ…………!」
「え……う…うん……」
その時少女は何の反論もせず、大人しく彼女の指示を聞き入れた。もし少しでも逆らえば一体何が起こるのか、十分理解したと思われる表情を浮かべながら…………。
「私の名前は岸川陽音。この“黄色い本”に誘われて、<雷の勇者>として選ばれました!」
「そしてアタシがパートナーのリビィ。≪ネビラニント王国≫から来ました。皆の足手まといにならないように頑張っていくわ!よろしくね!」
「≪ネビラニント王国≫といえば、国民と王族との間がほとんどない、かなり恵まれた国だと聞いた事がある……」
「はいっ!そうなんですよロークさまっ!アタシの故郷はほんっとうに、ステキな所なんですよ!」
その時自らの故郷に関する情報を口にしたロークに対し、瞳を輝かせ心の底から感激するリビィの姿があった。
するとそこに、その場からようやく立ち上がったファメルが何か気になる事がある様子で、彼女にふと声をかけてみる。
「あの……ちょっといいかい、リビィちゃん……?」
「何よいきなり?また他人の挨拶を邪魔する気?」
先程と同様に鋭い眼光でファメルを睨みつけるリビィ。
「い、いや!そ、そういうつもりなんかねぇんだけど……!」
必死の思いで誤解を解き、一旦呼吸を整えてから、ファメルは改めて尋ねてみた。
「なんでさっき、生まれた国だけしか教えてくれなかったんだ?詳しい場所まで知られると、何か不味い事でも……?」
「っ!?あ…あの!それは…その……」
突然彼女の様子が急変した。突如として冷や汗の量が増し、慌てふためくリビィの様子は、これまで全く見覚えがなかった。
そんな彼女の肩に両手を軽く触れさせ、どうにか落ち着かせた人物がいる。それは他でもない、リビィの相棒である陽音その人であった。両手を触れられた事で急に硬直した相棒の為に、陽音は優しく囁いてみせる。
(落ち着いてリビィ。あの事に関しては故郷に戻ってから話すって言ってたじゃない。もしこのまま慌ててばかりだったら、それこそ皆からずっと怪しまれるだけよ!)
(そ、それもそうね……!)
相棒からの助言のお陰で何とか落ち着きを取り戻したリビィ。ここで一回咳払いを行ってから、ファメルからの疑問に答えてみせる。
「…………今ここで語るより、王国に到着したその時になってから教えた方がいいと思うわ。だからごめんね、もう少しだけ待っててくれないかな……?」
実に曖昧な返答であった。結局のところ彼の質問には答えてはおらず、ファメルの頭上には大きな疑問符が幾つも浮かび上がっていた。
それでも彼はそれ以上、彼女に問いただそうとはしなかった。無理矢理質問の集中砲火を浴びせたりなどすれば自分にどのような災難が降りかかってくるのか見当がつかない。そのように自覚したからであった――――。
「――――てな訳で、先ずは俺達三組の自己紹介が終わったぜ!それじゃあ今度はお前達四組の番だな!」
その時先に挨拶を済ませた三組の中から晴児が代表して、今回の自己紹介の時間を提案した犬顔の少年に向けて、順番を明け渡す。これに対し少年はにこりと微笑みを浮かべながら、少しばかり頭を下げてそれを受け取った。
「そうですね!皆さんありがとうございました。今度はこちら側の挨拶を始めたいと思います。では先ずボク達の挨拶からまいりましょうか」
その時彼は少々ずれていた眼鏡を元々の位置に直しながら、自身の相棒である少年に尋ねてみる。彼もまた眼鏡をかけており、同様にそれを少しばかり元の位置に戻す。そして相棒からの提案に言葉で答える代わりに、無言で首を縦に振ってみせる。どうやら少年の提案は受理されたようだ…………。
「さてと、俺の名前は佐久間輝吉(さくま てるよし)。テ・ル・ヨ・シ、なっ!その点はくれぐれも気をつけるように…で、俺が手にしたのはこの“緑の本”。<風の勇者>として、これから戦っていくぜ。つー事でよろしくっ!」
「皆さんはじめまして。≪イートゥラー公国≫にある≪音楽の町・シーキャム≫から来ました、シャオッグといいます。皆さんのお役に立てるよう、一生懸命頑張ります!」
「まさか輝吉くんとも会えるなんて、本当にびっくりしたよ…僕は元々学校が終わったあの後、君のお店に立ち寄る予定だったんだもん……」
「そうだったのかぁ…いつもうちの店の商品を使ってくれてありがとな。でもって今後ともご贔屓に!」
その時光と輝吉の会話が弾む様子を見つめるファメルとシャオッグ。何故彼らが楽しそうに会話しているのか二人とも理解出来ないでいたが、それに気づいた彼らはすぐさま、その理由を二人に伝えた。
「輝吉くんのお家は『佐久間書店』っていう本屋さんで、本の他にも色んな文房具とかも売ってあるんだ」
「他の生徒も沢山来てくれるけど、特に光はうちの常連で、よく来てくれてるんだよ」
それを聞いたファメルもシャオッグも、「成る程」と同時に一言口にする事で、両者とも納得が出来た事を相棒に証明した…………。
「そ…それじゃあ次は俺達かな。俺の名前は瀬戸照太(せと しょうた)。俺もこの“オレンジ色の本”を拾ってから、“この世界”にやって来て色々あって、それでこうして“勇者”になったんだ……よ…よろしく……」
「そしてオレが照太のパートナー、ティレング。生まれは≪茶の国≫にある≪ホーキャル≫。何か困った事があったら何時でも声をかけてくれ。オレでよければ何でも相談に乗るぞ!」
少々自信なさげに挨拶を済ませ、灰色気味の髪の毛を掻く照太少年。その手には、彼が身に着けている武装と同じ、橙色の手袋が着用されている。そして彼の相棒であるティレングは、いわゆる鬼に似た面構えと鍛え上げられた肉体、そして右肩から繋がる頑丈そうな装備がよく目立つ。
(……こ…こりゃあ怒らせちまったらやばそうだな……)
あまりにも強烈な図体に、一瞬後退りをしてしまうファメル。それを見た照太が慌てて、怯える彼を落ち着かせる。
「だ、大丈夫!こいつかなりの強面だけど、実は結構心優しい性格なんだぜ」
「おいおい勘弁してくれよ。照れるだろ……」
相棒の台詞を受けて、ほんの少し頬を赤らめるティレング。その時そんな彼の様子を目の当たりにし、ファメルはほっとした表情で胸を撫で下ろす…………。
「次は私達ね。私の名前は志摩明乃(しま あけの)。私の場合はこの“白い本”ね。これを拾った事で、“こっち”に呼ばれる事になったの。念の為言っておくけど、女の子だからって手加減はなしだからね!」
「オレは明乃のパートナーに選ばれた、ルルーゴだ。≪ティハリーソ国≫にある≪烈風の渓谷≫という町で生まれた。こうしてパートナーに選ばれた事を誇りに、冒険を続けていこうと思っている」
「へぇ、中々おっさん臭い見た目だな。口調もそうだし、実は相当な年齢だったりして……」
「なっ!?お、オレはおっさんなんかじゃない!確かに若々しくないと言われる事もあったが、これでもお前達と同い年だ……」
ファメルからのちょっとしたからかいに、ルルーゴと名乗った少年は過剰な反応を見せる。何の汚れもない白一色に染められた衣装を身に纏う彼。一対の翼と鋭い嘴を持つその姿は、勇ましい鷹を髣髴とさせる。それがあまりにも風格を漂わせているからか、ファメルや自身が言った通り若々しいとは素直にいえない。
それでも一時は平静を装ってみせるものの、同じく白い衣装を披露する相棒の明乃がすぐさま追い討ちをかける。
「それは言っちゃ駄目よファメル!ルルーゴったらずうっと、その事を気にしてるんだから……」
「や、喧しいっ!」
その時明乃は腹を抱えて、相棒の動揺に失笑してしまった…………。
「そして最後、僕は美濃部昇(みのべ のぼる)。この“黒い本”を見つけてから、“こっちの世界”に来る事になったんだ。僕も皆に負けないくらい、“勇者”頑張っていくよ!」
「…………ってあれ?」
その時晴児は疑問に思った。これまで自己紹介を終えた、自分達を含めた六組全てが、“勇者”とその相棒の一対であった。しかし一見すると平安時代の貴族を思わせる黒い着物を身に纏った昇少年の周辺には、誰も存在していないのである。
「ノボちゃんのパートナーが見当たらないな。さっきまで一緒に戦ってたはずなんだけど……一体何処に隠れてるんだ?ノボちゃんのパートナーは……」
そんな質問をぶつけながら、昇の相棒を逸早く見つけ出そうと、晴児はひたすら周囲を見渡し始める。
「そういえば僕のパートナーを知ってるの、晴児くんだけだったね。それじゃあ出て来てもらうよ……」
するとその時、何故か晴児がにやりと微笑み、光や陽音、そしてファメル、ローク、リビィの五人に向かって、何やら意味深な台詞を口にする。
「皆、これからご覧になるのは実に見逃しちゃいけない光景だ。その眼にしっかり焼き付けておかなきゃな!絶対にビックリするはずだぜ」
「へっ?ど、どういう事……?」
親友からの意味深な発言に、光が咄嗟に疑問をぶつけてみる。
それに対して晴児は言葉で返答しようとは一切せず、ただ笑みを浮かべて片目を瞑るのみであった。未だ現在自分のみが知っているその事実を、皆を驚かせようとする形で伝えるのを、今か今かと待ちわびながら……。
「よおし、それじゃあ頼むぜ、ノボちゃん!」
「うん!さあ出てきて、皆!」
(えっ!?み、皆……!?)
その時昇は先程の戦闘と同様、懐から取り出した五枚の黒い札を高々と投げ飛ばす。そしてそれらは空中で綺麗に列を組み、ゆっくりと地面へと降下していく。
その直後、あの時晴児が目撃した事態が再び発生した。五枚の札全てから黒い気体が噴出し、またしてもそれらを包み込む。“黒”に包まれたそれらは静かに地面すぐ近くで止まると、気体は一気に吹き飛ばされる…………。
「…………!?」
「なっ!ビックリしただろ?」
その時あまりの衝撃に言葉を失った五人に、晴児はしてやったりという表情で一言尋ねた。
彼らの目前には、それぞれ容姿の異なった五人の人物が存在していた。唯一揃っていく箇所といえば、全員が昇と同じ黒色の衣装を身に纏っている点だけだった。
その時一列に並んだ五人の中央に存在する人物から、突如として自己紹介が開始された。細身の白い体格と、顔面の両端から伸びた耳のような部位からすると、まるで兎を思わせる少年からだ。そこに現在の環境には絶対に相応しくないと思われる漆黒のジャケットと、かなりの武装が施された同色のブーツがよく目立つ。
一方光達五人はというと、動揺のせいか未だに何も言葉を発せられず、無言のまま彼らの挨拶を聞き入れるしかなかった。
「はじめまして“勇者”の諸君!オレの名はチェティス。この五人の中ではリーダーを務めている。驚かせてすまなかったな」
二番目に挨拶を開始したのは列の左端で、自身の武装に負けないくらいに黒く染まった両翼を羽ばたかせる、烏に似た人物だ。
「セッシャは昇殿のパートナーの一人、ビンニと申す。少しでも“勇者”殿のお役に立てるよう、全力を尽くしますぞ!」
続いてチェティスの右脇にいる、黒のベールで身体を覆った少女が挨拶を開始する。褐色の肌を持ち、ロークと同様に長く伸びた両耳が目立つ。
「皆さんはじめまして。ワタシの名前はシャイカといいます。他の皆さん程強くはありませんが、しっかりサポート出来るよう、頑張ります!」
四人目は彼女の右隣、満面の笑みで片手を挙げ、如何にも自己紹介が待ち遠しいと感じられる少年だ。五人の中で最も大きな図体と大きく広がった両耳、そして長く垂れ下がった鼻からして、間違いなく彼が象に似た種族である。光達三人はすぐに理解した。
「はいはーいっ!オレッチはノボルッチの頼もしいパートナー、エジャイルだよ!よろしくねーっ!」
そして最後に挨拶したのはチェティスの左脇、一見すると狼のような体格なのだが、先程のエジャイルとは対照的にかなり自信のなさそうな少年である。
「お…オイラはヴァリンティ。こ…これでも一応、昇のパートナーなんだ。と…とにかく頑張るよ……」
ヴァリンティのこの挨拶を最後に、ようやく全員の自己紹介が終了した。その時少しだけ緊張が解れたのか、光は思わずほっと一息漏らす。彼の息は砂漠の乾燥した空気と混ざり合い、すぐに何処かへと消え去っていった…………。