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別界記  作者: 星 陽友
第二章 集いの時
24/45

第二十四頁

 その時経過していた時間が、彼らにとっては不気味に遅く感じられた。

 目前で大群を成す「クロハイエナ」の中の一頭が、陽音の転倒をきっかけに突撃を開始した。本来ならば既に“勇者達”の目前まで接近し、その牙か鉤爪で一撃を食らわせているはずだ。それがゆっくりと進んでいくこの時間のせいで、その図体は未だに彼らの元へは辿り着いてはいなかった。

 とはいえそれまでに溜め込んでしまっていた疲労により、その場から逃げ去ろうにも、ましてや陽音に至ってはもはや立ち上がり事すら出来ないでいた。

(な…何が何でも……守ってみせる……!)

(み…皆…ごめんなさい……私のせいで……!)

(…………くそ!)

(こ…ここまでなのか……!)

(こんなところでなんて……勇者失格だ、オレ……!)

(…………!)

 その時彼らの心中には、言葉こそ異なるものの、この危機に対する“覚悟”の思いは揃って浮かんでいた。そして全員はほぼ同じ瞬間、一斉に自らの瞼を強く閉じる…………。


(…………あ、あれ?)

 その時彼らは不思議に感じた。

(モンスターが…襲って……こない……?)

 その時真相を突き止めようと、意を決した六人は少しずつ、閉じていた瞼を開かせていく…………。


「…………!?」


 その時彼らの両眼に映し出されたもの、それは先程自らに向かって突撃を仕掛けてきた一頭の「クロハイエナ」であった。

 その姿は必死の思いで相棒を庇うリビィに今にも襲い掛かってきそうな状態で、硬直している。しかもただ硬直しているだけではない。その首筋をよく確認してみると、正方形の対角線を描くような形で一本の矢が突き刺さっている。

 やがて硬直を維持していた図体もこれ以上重力には耐え切れなくなったようで、砂煙を巻き起こしながらその場に倒れ込んだ。もはや虫の息の状態で。

「こ…これは……一体……?」

 初めの内は未だに混乱した状態に陥ってしまっていたファメルであったのだが、ほんの二、三秒経過してから“ある物”を感じ取り、呟いた。

「……ま…まさか…………!」

 その時ファメルは自らの目線を、とある一点へと向けて集中させる。先程自身が感じ取った“ある物”があるはずの場所へ。そして残る五人もそれを感じ取り、ファメルと同じ方向へと視線を向ける。


 その時彼らが感じ取った物、それは何者かの“気配”であった。


「ふうぅっ、何とか間に合ったみてぇだな!」

「はい!一時はどうなる事かと思ってしまいました!」

「よかったぁ、皆無事で……」

「ああそうだな。これで不安も解消だな」

「どうだったかしら?これが私の実力よ!」

「見事じゃないか!我がパートナーに相応しい腕前だ!」

「ふうっ!どうやら今のところ、僕の出る場面じゃなかったみたいだね……」


 その時六人が向けた視線の先には、七つの黒い影が並んでいた。逆光の影響で正確な姿形こそ確認出来なかったものの、それはまさしく彼らが捜し求めていた“あの四組”に間違いはなかった。

「あ…あいつらが……オレ達の…仲間……!」

 六人の窮地に駆けつけてくれた四組に大きな希望を抱いた彼らの表情は、いつの間にか安堵のものに変化していた。

 とはいうものの、六人を取り囲む「クロハイエナ」の数は、まだまだ減ってはいない様子であった。それらをしっかり迎え撃とうと、改めて気合いを入れ直す六人。

「これ程の数なら、まだまだ油断ならねぇな。でも……」

 その中でファメルはある程度の緊張感を抱きながら、多少の余裕を生み出す事にも成功していた。

「こうして全ての“勇者”が揃ったからには、こんな所で倒れる訳にはいかないぜ!」

 その時ファメルがそう確信を持つと、他の五人も無言のまま首を縦に振った。そして手にした“武器”の持ち手を強く握り、目前の大群へと力強い視線を向ける…………。

「改めて行くぜ、皆!」


「よぉし!それじゃ俺達も……!」

 その時目前の六人の突撃を確認した四組のうちの誰かが声を上げ、こちらもまた援軍の準備を整えた。

「…………行こうか!」


 その時この場で集合を果たした計七組の“勇者達”が、迎え撃つ「クロハイエナ」の数を減少させてみせた。

 光とファメルのコンビは自らの刃で、時には呪文で生み出した炎を纏わせながらモンスターの図体に刀傷を刻み込んでみせる。

 晴児とロークのコンビは自らの銃で、時には呪文で生み出した水で形成した銃弾を放ちモンスターの図体を撃ち抜いてみせる。

 陽音とリビィのコンビは自らの杖で、時には呪文でハッセさせた雷を使った魔法を発動させモンスターの図体を黒焦げにしてみせる。


 一方新たに加わった四組もまた、彼らに負けじと様々な攻撃を食らわせてみせた。


「<タブルス>!」

 その時一人の少年の声がそう唱え手にした“武器”の先端から出現したのは、一つの旋風であった。まだまだ赤ん坊といえる程の大きさでしかなく、これではモンスターに十分なダメージを与えられそうにない。

「ちょっ、ちょっと待って!それ位じゃどうしようもならないんですけどぉ!?」

 あまりの小ささに驚嘆し、思わず文句を漏らしてしまったリビィ。

「慌てんな。ここからが腕の見せ所ってやつさ……」

(や、やけに自信満々そうだけど……)

 戦いに夢中でその容姿こそ確認出来ないでいるものの、彼から受け取った返答を聞く限り、どこか余裕すら感じさせられるリビィ。

「“これ”をこう構えてから勢いよく突き出す事で、この風の威力が発揮されるんだ……」

 少年はそう説明しながら、自らの“武器”の先端をモンスターの群れへと向けるように構える。リビィがそれを確認したところ、どうやら彼の“武器”の正体は、一本の鋭い槍であった。そして…………、

「…………うりゃあっ!」

 その時彼がそう叫び槍の先端を突き出すと、そこに生み出された幼い“旋風の子”が、かなりの速度でモンスターへと向かっていった。

「っ!?」

 ここでリビィは気づいた。向かっていく旋風が周囲の風を徐々に吸収し、次第に巨大化していく事を。そしてそれが一つの集団にぶつかった瞬間、何の抵抗も出来ないまま、それらは既に“大人”へと成長を遂げた旋風に次々と巻き込まれていく。

「今だっ!」

「はいっ!」

 旋風を放った少年と彼の相棒と思われる少年の掛け声が響き渡ると、今度はその相棒の少年が呪文を唱える。

「<タブルス>!」

 先程と同様に“旋風の子”が誕生する。

「たあっ!」

 彼はその掛け声を口にするのと同時に、“その子”を“大人の旋風”へとぶつけさせる。

 すると二つが混ざり合ったその瞬間、今まで巻き込まれていた何頭もの「クロハイエナ」があらゆる方向へと飛ばされていったのである。物凄い速度で地面に叩きつけられたモンスターは皆すっかり目を回してしまっていて、もはや立ち上がる事さえ不可能に思われる。

(す……凄い…………!)

 その時リビィはこの一部始終の感想を、たった一言で表現する事しか出来なかった…………。


「<ドゥルング>!」

 その時一人の少年がそう唱え、自らの拳を高々と掲げる。そのすぐ傍で銃撃を続けていたロークはそれに興味を抱いたようで、無言でそちらに視線を向けてみる。すると…………、

「…………ほぉ……」

 常に冷静沈着な彼の口から思わず感心の言葉が漏れたのも無理はない。なぜなら掲げた少年の拳に向かって周辺の砂が集まっていき、次第に大きさを増していったからである。

「中々面白そうな瞬間が見れそうだな……」

 被っていたカウボーイハットのつばを掴み、ほんの少し笑みを浮かべるローク。

「な、何だか緊張しちゃうけど……ど、どうか見ててねっ!」

 突然の観客に少々緊張気味の少年だったが、それでもロークの言う“面白そうな瞬間”を披露する為、その場で深く息を吸い込む。そして…………、

「…………はあっ!」

 その時彼はそう叫びながら、掲げた拳を思い切り足元へと叩きつける。するとその時彼が呟いた“それ”が、ロークの目前で披露された。

「……こ……これは…………!?」

 彼が驚愕するのも無理はなかった。

 少年の拳が砂の大地と接触した次の瞬間、激しい地響きとともに、目前の集団に向かって一直線に地面が割けていったのである。その場にいたモンスターの中でこの変化に逸早く気づいた何頭かはすぐさま回避したのだが、残りの何頭かはその地割れに巻き込まれ、大きな鳴き声を上げながら地の底へと姿を消していった。

 更にこれだけではない。やがて割けていたはずの地面は少しずつ身を寄せ合っていき、いつの間にか元通りの大地へと戻っていた。その時それを目の当たりにした何頭もの「クロハイエナ」は、恐れを成してその場から一目散に逃げ去っていった。

 それでも一向に敵からの襲撃は止まる所を知らなかった。先程の攻撃など特に気にならないと言わんばかりに、数頭のモンスターがこちらに向かって突進を開始する。

(中々しつこいな、あいつら……)

 この攻撃に対しては、流石のロークでさえも思わず溜息を漏らしてしまう程のしつこさであった。

(…………仕方がない、ここは……)

 それでも何とかそれらに立ち向かおうと、平常心を持ちつつ自らの銃口をそれらに向けようとする…………。

「ここはオレに任せてくれ!」

「?」

 するとその時ロークの目前に、まるで巨大な塊が落下してきたかのように、自分より大柄な人物が立ちはだかった。彼の前方が黒一色に染まり、迫り来るモンスターの姿が瞬時に隠された。

「当然さっきの攻撃だけじゃないって事だよな?」

 自身の目前に姿を現した彼に対しそう問いかけるローク。

「その通りだ。まだまだオレ達の能力(ちから)を甘く見てもらっちゃ困るぜ!」

 するとその人物は深呼吸を一回行い、自らの拳を力強く叩き合わせ、先程の呪文を唱える。

「<ドゥルング>!」

 そして今度はその拳を、再び大地へと叩きつける。

「はあっ!」

 するとその時、彼の周辺に存在する大地の奥底から、巨大な拳が飛び出してきたのだ。その一撃をまともに食らった「クロハイエナ」の集団は、先程の旋風と同様にあらゆる方向へと弾き飛ばされてしまった。

「……中々やるじゃねぇか……」

「だろ?」

 その時感情を表に出さないまま称えるロークに向けて、その握り拳から親指を一本突き出して彼の言葉を受け取る少年の姿があった…………。


「<ジルグ>!」

 その時陽音の目前で自らの呪文を唱える“勇者”の姿があった。気迫溢れる声色の高さから判断するに、どうやらこの“勇者”は少女に違いない。ここで陽音はそう確信した。それと同時に彼女の様子を背後から見守るうちに、こうも思った。

(も…物凄い自信を感じるわ……私も自信を持って行動出来るように、この子をお手本にしないとね……)

 という事で目前の少女のここからの行動を少しも見逃さないように、しっかりその目に焼き付けようと決めた陽音であった。

 その時目前の彼女が迫り来るモンスター達に向けて構えたのは、一張の弓であった。全体を純白に染め上げた弓を、今まさにモンスターへと向けて構える。

 しかしここで陽音は不思議に感じた。本来弓を使用する場合、絶対に必要としなければならない物がある。なのに現在の彼女はそれ自体ばかりではなく、背負っているはずも入れ物すら見受けられない。

「矢が…ない……?」

 あまりに不思議な光景を目の当たりにし、思わずそう呟く陽音。

「……!?」

 その時彼女は驚愕した。それまで何も持たないまま弓を構えた彼女の手に、突然一本の矢が出現したのである。しかもそれはただの矢ではない。眩い程の輝きに満ちた、文字通り“光の矢”なのであった。

 そしてそれは自分自身にとって、随分と見覚えのある物のように陽音は感じた。厳密に言えば彼女だけではなく、もし他の五人が同じように目の当たりにしたとしても、同様に思えたはずである。

「あの“矢”…もしかして……!?」

 その時彼女が頭の中に思い描いた“それ”は、先程自分達に襲い掛かってきたモンスターを仕留めたあの“矢”であった。

(もしあの時この子の一撃がなかったとしたら、今頃私達はきっと…………!)

 ふと脳内で作り上げた“最悪の結末”を想像し、あまりの恐怖心で思わず身震いを引き起こしてしまった陽音。そんな彼女とは打って変わって、狙いを定めた一頭に向かって静かに意識を集中させる少女の姿があった。

「…………はあっ!」

 その時彼女の掛け声とともに放たれた矢は、目前の「クロハイエナ」の一頭を正確に射抜いた。

 直後その一頭は眩い輝きに包まれ、暫くして輝きが失われた頃には、射抜かれたそれの図体は何処にも見当たらなかった。

「す…凄い……これが…この子の能力……」

 再びそんな言葉を漏らす陽音。するとどうやらその言葉は、目前の少女の耳に入り込んだらしい。

「…………ちょっと君」

「え?は、はい……」

 突然少女は陽音に向かって、自身の声を始めて送る。すぐさま反応した彼女に対し、少女は怒鳴りつけるように言い放つ。

「そんなにじろじろ見られたり、いきなり声をかけられたりすると集中出来ないんだけど!お願いだから気をつけなさい!」

「ご、ごめんなさい!悪気はなかったの!でも貴方の機嫌を損ねちゃったなら本当にごめんなさい、私どうすれば……」

 突如として厳しい口調で話しかけられた事に激しく動揺し、慌てふためき始める陽音。

 するとその時それを見た少女が突然くすりと微笑み、次の瞬間自らの腹を抱えて笑い始めた。全く訳の分からないこの展開に、思わず呆気にとられ首を傾げる陽音。ようやく笑いが治まったところで、少女はその理由を語り始める。

「まさかそこまで謝れるとは思わなかったわ!さっきのは冗談よ、冗談。びっくりさせちゃってごめんなさいね!」

「な…なんだ……そうだったんだ……」

 先程の彼女の発言が冗談だと判明し、陽音はほっと胸を撫で下ろした。

(よ…よかったぁ……どうやら怖い人ではなさそうね、でも……)

(とても素直で優しい子じゃない…こんな“勇者”もいるんだ……あれ?)

 その時当然本人達には分からなかったが、二人の心の声は偶然にも一致した。

(この声、どこかで……?)

 その時だった。

「……おいおい話し合いは済んだのか?早くしないとモンスターの餌食にされちまうぞ?」

「あっ!そうだったわね!気軽に話せそうな子だったから、つい長話しちゃって……」

 突如として二人の会話に介入してきたのは、やけに渋い声色を使う男性だった。どうやらこの人物が彼女の相棒なのだと陽音はすぐに確信した。

 そんな彼からの言葉を受け、思わずばつの悪そうに自身の後頭部を掻く少女。それでも彼女は掻いていた手を自らの“武器”へと移すと、もう一度陽音への言葉を送る。その目線を目前に迫るモンスターへと向けながら。

「よぉく見ててね。これが私達の“実力”よ!」

 その時二人の“勇者達”は深く息を吐き、高々と彼らの呪文を唱えた…………、

「……<ジルグ>!」


「<ディーカル>!」

「う、うおおっ!?」

 その時晴児の目前で構える“勇者”の掌から、黒色の球体が出現した。あまりに突然の出来事だった為、思わず高い声で驚愕してしまった晴児。

(い、いきなり掌から訳の分からない物を出しやがった!こ、こんな凄そうな“勇者”まで存在するのかよ!?…………ってあれ?)

 ここで彼がよく確認してみたところ、どうやら自身の想像は全く違ったものだったと気づかされる事となった。

「な…何だこれ……?」

 その時晴児が“勇者”の掌と球体の中間に見出したもの、それは一枚の紙であった。球体と同じ黒色をした長方形の紙で、その中央部分には何やら赤い文字が記されてある。何やら見覚えがあると感じ、何気なくその名前を口にする晴児。

「まさかそれ……お札……?」

 するとそれに気づいた“勇者”が、すぐさま晴児の疑問に返答する。その時彼の耳に入り込んだ“勇者”の声は、活発そうな少年が発するものであった。

「そう。このお札が僕の“武器”なんだ。そしてさっき見せた球体の源は、“闇”。僕の呪文で生み出した“闇”を使って、敵にダメージを与えるんだ!」

「ほぉほぉ……」

 その時この二人の心の声も、陽音達と同様に、偶然にも一致した。

(この声、何だか聞き覚えが……?)

「……ってちょっと待ってくれ!」

 ここで晴児はある重大な事実に気づく事となった。それは自分も含めた他の六人の“勇者達”とは、あまりに様子が違うものであった…………。

「お、お前……よ、よく見たら何処にもいねぇじゃねぇか!?お前の“パートナー”が!これは一体……!?」

 彼がそう叫んだ通り、ただ一人目前の少年だけが、相棒と思わしき人物が存在しなかったのだ。この衝撃的な事実を受け、思わず頭を抱えて悩む晴児。

 しかしその直後当の本人の口から発せられ言葉は、いたって冷静なものであった。

「そうだったね!勿論僕にだってパートナーはいるよ。最も僕の場合は、他の皆とは少し様子が違うんだけどね……」

(ど…どういう事だ……?)

 少年の話した言葉の意味を今一つ理解出来ず、ただただ首を傾げるばかりの晴児。

「困るのも無理はないか。ここはやっぱり口で説明するより、直接お見せしたほうが手っ取り早そうだね」

「すまねぇ頼むわ。そっちの説明のほうが俺にとって分かり易いし」

 少年からの提案を受け入れる事に決めた晴児の表情は、苦笑いと冷や汗に満ちていた。

「ちょっと待ってね。僕のパートナーを君に見せるには、これとは別のお札が必要でね……」

 そう答えて少年が懐から取り出したのは、またしても黒色に染まった札であった。それを使ってどのように相棒を呼び出すのか、気になって仕方のない晴児の姿が傍らにいた。

「さあ、出てきて、()!」

(み…みんなぁ!?)

 その時少年は所持した札を高々と投げ飛ばした。それは一旦空中で静止すると、突然その場で五つに分かれ、線で繋げれば丁度五角形が出来上がるように配置された。

(ここから、一体どうなるんだ?……って!?)

 その時晴児は驚愕した。

 先程五つに分かれた札の中心から黒色の気体が噴き出し、それ自体を完全に包み込む。その直後再びその場に出現したもの、それは容姿こそ未だにはっきりとはしないものの、間違いなく人物であるという事は彼にもすぐに理解出来た。

(ぱ…パートナーが……五人も……!?)

 そんな晴児の心情を一切気にする様子もなく、出現した五人はそれぞれ一言ずつ、これから戦うという気持ちを言葉で表現した。その言葉遣いから、この五人全員がそれぞれ異なった“個性”の持ち主であるという事実も証明される。

「さてと、ようやくオレ達の出番が訪れたって訳だな!」

「こうして我々の力が必要となったからには、全力を尽くしてみせましょうぞ!」

「少しでも皆さんのお役に立てるよう、ワタシも精一杯頑張ります……!」

「ま、このオレッチが来たからには、何にも心配する事なんてねぇな!」

「……お…オイラも頑張るよ……!」

 それぞれが自らの思いを述べた直後、全員は揃って“勇者”の方へと視線を向ける。そしてそれを目にした少年は一回咳払いすると、次のような言葉を投げかけて彼らを従えるような振る舞いを披露した。

「さあ、いよいよそれぞれの力を発揮させる時が来た。皆の戦う覚悟はさっきの言葉で理解してるよ……さてとそれじゃあ始めようか、僕達の“戦い”を!」

 その時言葉を受け取った五人は形こそ違うものの、全く同じ意味を持った言葉を大きく吐き出した。

「ああ!」

「了解!」

「はい!」

「オッケー!」

「う、うん!」

 そしてその時少年を含めた六人全員が揃って、彼らが持つ呪文を高らかに唱えた…………、

「<ディーカル>!」

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