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別界記  作者: 星 陽友
第二章 集いの時
21/45

第二十一頁

「…………へ……?」



 その時この場所に集まった六人が、揃って呆気にとられていた。彼らにとって予想だにしなかった宣告

を耳にしてからは、先程の一文字が放たれてからは、全員の開いた口が塞がらないままでいた。

「…………おやっ?聞こえてなかったかしら?」

 その時彼らを硬直させる原因となった、何処からか聞こえる“女性の声”が一旦疑いの言葉を漏らす。その直後彼女はもう一度、自身が伝えたかった事実を六人の為に告げる。

「君達以外の四人はもう既に揃っていて、この前からずっと残る三人との出会いを待ち望んでいるのよ。だから早く皆のところに行ってもらわなければならないの!ああ、きっと皆、今頃痺れを切らしてしまって大変な事になっているかも……」

 六人の出発を催促させるかのように、少々慌てふためく声で最後の一文を語る彼女。それでも彼らの脳内は依然として混乱を極めており、ただ呆然と立ち尽くすのみであった。

「い……いきなりそんな事言われても、僕らは一体何処へ向かって行けばいいのか、全然分かりません!せ……せめて何処へ向かえばいいのかだけでも教えてくれませんか!?」

 ただ空を見上げるばかりの六人を代表して、全く見当のつかない“声の主”に向かってそう依頼してみた光。…………とは言ってみたものの、この時の彼にはあまり自信を感じられなかった。

(な、何とか言えたけど、そんなに都合よくいく訳……)

 光は心中でそう呟き、未だに不安を隠しきれずにいた。しかし彼のこの心情は、彼女の一言により簡単に一蹴される事となる…………。


「ええ、それならお安いご用よ!」


「…………え……?」

 その時光はまたしても呆気にとられる事となった。後に心中で思い悩んでしまう程大胆な質問をぶつけたはずだったと彼は思い返した。なのにそれが、こうも簡単に解決させてしまうだなんて……。先程彼の口から零れ落ちた唯一の文字には、そういった嘆きが言葉となって現れた物であった。

 そんな事情など一切気にする事なく、彼女は光からの質問に返答した。

「四人が今現在君達との出会いを待っている場所、それは≪キェイル≫の町よ」

「き…≪キェイル≫……?そ…それって……」

「俺とロークが、光達と出会った町……だよな……?」

 その時これまで硬直したままだった晴児の口から、久々に声が発せられた。

「その通り!あの時四人とも立ち寄ろうともしてなかったけど、あの町の大通りを最後まで進んでいくと、≪集いの丘≫という場所に辿り着くはずだったの」

「≪集いの丘≫……ああそういや、ばあちゃんから聞いた事あるぞ!≪別界(アナザー・ワールド)≫から選ばれた七人の“勇者”とそのパートナーは、その場所で全員が揃うって……」

 今度はファメルがはっと思い出し、彼の言う“ばあちゃん”が語っていた事を呟く。

「おいおいファメル、忘れてもらっちゃ困るぜ!そーいう大事な話は……」

「わりぃな晴児。お前らを探すのに夢中で、つい忘れちまってた……」

 その時苦笑いを浮かべながら軽い文句をぶつけてくる晴児に、ファメルは片手で頭を掻きながら、簡単な反省の弁を述べる。そしてここから彼女による説明が再開される事となる。

「だから君達には悪いんだけど、一刻も早くその場所まで向かってもらいたいのよ。急なお話で申し訳ないけど、お願いできるかしら?」

「…………」

 その時光は彼女からの依頼をしっかりと頭の中に叩き込むと、数秒間無言の状態を維持させる。そして一度ゆっくりと深呼吸し、その答えを口にする…………。

「…………分かりました。どういう事情なのかは知りませんが、貴方の言う事が本当だとしたら、こんなに嬉しい事はありません。だから……貴方の言葉を信じて、≪集いの丘≫に行ってみたいと思います!」

 その時彼の返答に合わせて、残る五人の仲間達も首を縦に振った。それを天高くから確認したからか、彼女の声色がこれまで以上に嬉しそうな物に変化していた。

「まあ、それならよかったわ!ならば早速そこに向かってちょうだい。きっと皆が君達を待ち望んでるはずだから。それじゃあワタシはこの辺で……」

「…え……ええっ!?ちょ、ちょっと待ってください!」

 突如としてその場から去ってしまおうと告げた彼女に驚愕し、慌てて静止させようとする光。“声の主”はそれに逆らう事なく、彼からの呼びかけに応じる。

「あら、どうしたの?何か言い残した事でも?」

 その時自身の呼びかけに応じてくれた彼女に向かい、光はこんな疑問をぶつける事にした。

「貴方は一体誰なんですか!?どうして僕らに手助けしてくれたんですか!?」

 すると彼女は実に優しい声色を用い、一言こう答えた。

「それはワタシが教えなくれも、いずれ君達自身で理解出来るはずよ……それじゃあまたねっ!」

 そしてその言葉を最後に彼女の声は途絶え、これまで六人が感じ取っていた何者かの“気配”が、一瞬にしてその場から消失した。

「……な、何だったんだろう、一体……?」

 その時その場に取り残された彼らは、揃って開いた口を塞ぎきれないまま、変わりなく広がる空に視線を送るばかりであった…………。


「…………って、こうしちゃいられねぇ!」

 その時一言そう叫び残りの五人を我に返させたのは、ファメルであった。そして全員が彼に視線を集めたのを見計らい、更に言葉を続ける。

「いつまでもこうしてボーっと突っ立ってる訳にはいかねぇぜ!さっきの光も言ってたけど、もしさっきの“声の主”が言った事が本当だとしたら、一刻も早くそこに向かった方がいいと思うんだ。そうすれば、残りの“仲間達”に迷惑をかける事もねぇし、オレ達だって余計な苦労をせずに済む。残りの四人とオレ達、どちらにとっても十分損のない事だと思うんだけど……」

 最後に仲間達へと問いただすような形で、ファメルは自論を語るのを終える。そんな彼からの問いかけに対し、五人はその答えとなる台詞と順番に語り始める。

「…………そうだね!」

 そう言って彼らの中から先陣を切ってファメルに返答したのは、光であった。

「君の提案には僕も賛成するよ!そこに行くだけで“仲間”に会えるのなら正直嬉しいよ。それに……」

 その時光は改めて空を見上げ、再びこう語る。

「僕、楽しみで仕方がないんだ、一体どんな人達が僕らの“仲間”になってくれるのかが!これはきっと僕だけじゃなく、他の皆もそう思ってるはずだよ……!」

 確信を持ってそう語り、自身の背後にいる四人の“仲間達”へと視線を送る光。

 その時そこにいる四人は全員揃って、自らの首を縦に振った。これにより先程彼が語っていた言葉が、確実な物へと変化を遂げていた。

 それを自身の目で確認した光は、もう一度自身の顔を相棒へと向け直し、満面の笑みを浮かべた表情を披露させる。

「…………ねっ!」

 そんな彼らの様子を目の当たりにしたファメルの表情も、自然と相棒によく似た笑みへと変化していた。

「…………それじゃ、決まりだな!」

 その言葉を口にしたファメルは、ここで一回深呼吸して自らを落ち着かせる素振りを見せる。そして改めて五人の姿に視線を向け、はっきりとした声で宣言してみせる…………、


「行こうぜ皆っ!オレ達の“仲間”が待っている≪集いの丘≫へっ!」


 その時彼の放った掛け声に五人とも力強く頷き、彼らの新たなる“目的地”へと歩み始める――――。



 ――――その時果てしなく続く砂の大地には、相変わらずの砂煙が舞い上がっていた。それはまるでこの地を進んでいこうとする者達を送り出そうとしているとも思え、また彼らに障害を与えようとしているとも思える光景であった。

 その中で吹き荒ぶ向かい風に逆らいながら、砂ばかりの道なき道を踏みしめていく六人の姿がそこにはあった。全員が身に纏った毛皮で全身を防護し、先程まで彼らが滞在していた≪テンヴ≫から離れようとしていた。

「はぁ、はぁ……何とか町からは離れたけど、やっぱりまだ風が強いね……」

 そう呟いた光が息を切らしかけているのも無理はない。彼らが既に承知していた事ではあるが、この≪テンヴ≫の町の周辺は常に強烈な砂嵐が発生している。それは特に激しい外側を離れたとしても暫くはその風と立ち向かう事になる。

「もう少し歩けばこの風ともおさらば出来る。それまで頑張ってくれ!」

 その時六人の先頭を行くファメルが、厄介な砂嵐に苦戦する相棒に激励の言葉を贈る。それを受け取った光も一切愚痴を漏らす事なく、懸命に歩みを止めようとしなかった。

 やがて町から遠ざかるにつれ、襲い掛かる向かい風も徐々に姿を消していった。そしてその代わりに、天高くから降り注ぐ陽の光が次第に強くなってくるのを彼らは感じた。

「はぁ、はぁ……だいぶ風も治まったみてぇだな……皆、大丈夫か?」

 暫く歩き続けた事で≪テンヴ≫の町並みからかなり離れたその時、ファメルが背後に続く五人の様子を確認する。どうやら歩みに余裕がありそうなのはロークのみで、残る四人はすっかり息を切らしていた。特に陽音に至っては呼吸が荒く、持病の喘息が今にも再発しかねない程である。

「……よしっ!あそこまで辿り着いたら、少し休憩しよう。それまで頑張ってくれ……!」

 そう語ったファメルが、前方のとある一箇所に向けて指差す。そこには大きな砂丘が存在していて、その付近には六人全員が十分収まりそうな広さの日陰も見受けられた。

 それを見た五人はファメルの言葉に頷き、更に歩みを進めていくのであった…………。


 その時六人の姿は、砂丘が生み出した日陰に包まれていた。

 ファメルの指示でこの場所へ向かう事に決めた彼らは、誰一人として欠ける事なく、やっとの思いで辿り着く事に成功した。早速その場に腰掛け、荒らげた呼吸を整える六人。そしてそれぞれの鞄から水筒を取り出すと、すぐさま口にくわえ上へと傾け、渇き切った喉を潤す。久々に味わった潤いで、全員の疲れ切った表情に笑みが舞い戻ってくる。

 しかしこの恵みをもってしても、一向に笑みが戻りそうに思えない者が一人だけ存在した。深い溜息を漏らし、自らの腹に手を当てて項垂れる素振りを見せたのは、ファメルその人であった。

 そんな彼の様子が気になり、ふと声をかける光。

「どうしたのファメル?お腹押さえてそんな顔して、具合でも悪いの?」

 それに対しファメルは首を横に振り、素直にその理由を口にする。

「ちげーよ光……!」

 すると突然、ぐーっという聞き覚えのある音が、その場に大きく鳴り響いた。それは紛れもなく腹の虫が鳴る音で、目前にいる相棒の体内から発せられたものだと、光はすぐに気づいた。

 その時ファメルは自身の腹部を軽く摩りながら、再び大きな溜息を漏らした。

「……ご覧の通り、オレもう腹ペコなんだ。出発前にしっかり食ってきたはずなのに、ちょっと(、、、、)歩いただけで腹が減っちまうなんて…全く、勇者たる者、こんな事じゃいけないな……」

 そう呟いたファメルは、その情けなさにより自信を失い、すっかり意気消沈してしまう。

 そんな相棒を目の当たりにした光は、自らの右手を彼の肩に重ね、残された左手を自身の腹に当て、優しく語り掛ける。

「そんな事ないよファメル。実は僕だって……」

「…?…!」

 その時聞き覚えのある“あの音”が、その場に再び鳴り響く。それは自分からではなく、今度は自らの相棒から発せられたものだと、ファメルはすぐに気づいた。

「……そう、実は僕も腹ペコだったんだ。こんなに急いでる時に言うのが恥ずかしくて、ずっと我慢してたんだけど……」

 今まで隠していた秘密を正直に暴露し、ふと苦笑いを浮かべさせる光。するとそれに乗じて、残る仲間達の中から数人がゆっくりと名乗り始める。

「……そうかお前らもだったのか。実は俺も……」

 まずは晴児から名乗り出る。

「……じ、実は私も……」

 続いて顔中を真っ赤に染め上げた陽音。

「……あ、アタシも、お腹ペコペコなんですけどぉ……」

 そしてリビィもゆっくりと手を上げる、とてつもない恥ずかしさに満ちた自身の表情を、ファメルがいる位置とは違った方向へと向けさせながら…………。

「な、何だよみんなぁ!そ、それなら正直に白状しておいてくれよぉ!オレばっかり無駄な我慢しといて滅茶苦茶恥ずかしかったぜぇ……」

 こうして自分以外にも空腹に耐え続けていた者達の存在を知り、顔を真っ赤にさせながら愚痴を漏らすファメル。名乗り出た全員が苦笑いを浮かべながら詫びるも、一向にその口をへの字型に変形させたままであった。しかしそれでも心中では、浮き彫りになる態度とは裏腹の言葉が巡っていた……、


(皆、すまねぇな…オレを元気付けようとしてくれて……)


「……なあローク、今何か食い物ないかな?折角の休憩だし、ここは一つ腹ごしらえといきたいところなんだけど……」

 六人の中で唯一人平然とした表情を保つ相棒に、何気なくそう尋ねる晴児。するとロークは自らのリュックサックに手を突っ込むと、丁寧に何かを探し始める。

 暫くしてようやく取り出されたのは、大きめに作られ紐で口を閉ざされた木箱であった。早速その紐を解き、上部の蓋を開くローク。

「丁度全員分あるはずだ。これでよければ遠慮なく食べてくれ……」

 その時彼がそう告げて披露した箱の中身を目の当たりにした五人は、瞬時に満面の笑みを浮かべた。

 彼らに笑顔をもたらした物、それは箱の中に数多く詰め込まれたサンドイッチであった。肉や魚、野菜など挟まれた具材は様々で、五人ともつい歓喜の言葉を漏らさざるを得なかった。

「わあっ!」「美味そーっ!」

「凄過ぎるわっ!」「どれも食べたいんですけどぉっ!」

「流石だぜローク!これなら俺達、空腹に悩まされる事もなさそうだなっ!」

 最後に相棒である晴児からのお褒めの言葉を受け取ったロークは、ほんの少しばかり頬を赤らめる。

「そ、それ程でもないがな……ほ、ほら、早いうちに好きな奴を選んでくれ!食い終わったらすぐに“仲間達”の元に向かわなけりゃいけないからな……」

「ちぇっ、折角褒めてあげたのに……」

 かなり恥ずかしそうに選択を催促するロークに、つい舌打ちして文句を呟くファメル。それでも彼は直後に笑顔を蘇らせると、ロークに向かって感謝の一言を口にする。

「…………ありがとな、ローク」

「…………」

 彼は何も語らず、身につけたカウボーイハットの端を摘まみ、自らの表情を隠す。対するファメルも何も語らずに軽く頭を下げ、サンドイッチの詰まった木箱に手を突っ込み、その内の一つを取り出す。その後に続いて他の四人も同様に、木箱の中から一つずつ取り出す。

 最後の一人が手にしたのを確認したファメルが、こほんと一回咳払いし、六人を代表してその場を取り仕切る。

「さあそれでは皆さん、少し早めではございますが……」

 すると残る五人は、それぞれのサンドイッチを自らの顔の手前まで掲げる。そして…………、

「オレ達“勇者”の出会いを祝して……」

 その時ファメルの一言に合わせて、手にしたサンドイッチを高く掲げた、宴の幕が上がる“あの瞬間”を思い浮かべながら…………。



「…………乾杯っ!!」

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