きんもくせい
なし
春がくるまえの匂いがする
すぐそばまで
斜面になって
急にトンネルからでる
住宅地をとおる
新幹線の高架をみながら
いつも
この匂いはなんだろうと思う
夕方に
はえる匂い
私のすきなきんもくせいの匂いだろうか
好きだと言っていながら
この時期に咲く花だったか
かなりあやしい
近所の娘さんが
大学に合格した
質素倹約を絵にかいたような
まったくいまどきでない娘さんで
関西の方に行くことになった
なんでも週刊誌の
ランキングにのる大学だそうだ
ご両親はできたおかたで
カノジョがまったく
かわることなど
考えてもいない様子だが
長年の経験が
いやな予感をただよわせていた
こないだ通りであった時から
その変調があったかもしれない
「ばっかじゃないの」と
言われることうけあいで
そんな自分がつまらないなあと思いつつ
予備校のしがない講師をしている
私が実は
不憫なのかもしれない
はたまた
きんもくせいは白い花だったか
白い花がいたむと
茶色にかわる
かくいう私も
つぶれそうになりながら
もちこたえている
いや、やっとこさ
職ありついてる
年度末で
本予備校でも
異動が発表された
びっくり仰天
おーまいごっと
白を黒という
おさき真っ暗な
人事であった
こういうのを絶望感
お昼のニュースで
「先の見えない世の中です」
なんていうんだろうかと
NHKのニュースキャスターのような
しゃべりで
つぶやいてみた
そう思えば
予兆はあった
いやいや
どうりで
給料鳥の
移籍が多かったわけだ
本人たちは
「移籍だ」
「メジャーへ転身」など
当時話題の野球投手になぞらえていたが
いまさらながらに
その先見に
納得した
「時代を見据えて
さきをみた志望校選び」
なんていいながら
自分の進路に惑っている者であった。
目端のきいたやつはいるんだなあと
あきれた人事に
他人事ながら
感心してしまった
でも、どこかで
納得できない自分がいて
高架の上を新幹線が
ながれるのを聞きながら
富山にすんでいる
たけたろうに電話した
たけたろうは
介護の仕事についていて
お見合いをして
中古で家を買った
「絶対あんたは結婚しない」
と自分が結婚しないのを
おいといて
なんども
たけたろうに言ってたから
予想通り
結婚式にはよばれなかった
たけたろうは
「ごく身内ですませたんだ」
と言いながら
あやしい年増女を
結婚式に参加させたくなかったんじゃないか
と今では思う
何かに隠れるように
高架下の暗がりから
電話した
電波が遮断されるかと思ったが
いつもは
まったくつながらない
たけたろうが
今日はすんなりでた
「そりゃあ
わるいやつはいるんじゃよ」
何かのあやしいセミナーで売りつけられたのを
思い出したかごとく
たけたろうは
断言した
本当に気持ちのよい断言だった
ここまできっぱり断言されると
そうなんだよな
としか思えない
話を切って
放心したようにあるく
高架をくぐっても
春の匂いがつづいている
長者どんの屋敷の
きんもくせいではないだろうか
ふと思う
長者どんは、欲をかいて
ながされてしまったと
むかしばなしのイントネーションを
おもわずつぶやいてみた
春のにおいとはふしぎなもの
もうすぐ4月
またあたらしい
出会いがあるだろうか
お金はないけど
あたらしい靴を買おう
なぜかそう思った
春なんだから
なし




