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逃走と闘争

 ルエル、と、ロゼアさんが僕を呼んだ。

「お前はそのご老体を連れてどこか建物の中へ逃げろ。吸血鬼もそこまでは追ってこない。あいつらの知能は俺達よりもかなり低い。いいか、何があっても爺さんだけは守れ」

 僕はいいのか……。

「でも、」僕は顔を上げた。「ロゼアさんはどうするんですか」

「俺はこいつらを食い止める。ある程度倒したらそっちに連絡するから、場所を教えてくれ」

 僕と、全く事情は分からないけれど変な怪物が迫ってくるので腰を抜かしていたお爺さんは、えっと息を呑んだ。

「三十体はいるじゃないですか、無理ですよロゼアさん!」

「君、なんだかよく分からないけどやめなさいっ!」

「――黙れ!」

 ロゼアさんが一喝した。

「ふざけたこと言ってんな、このままじゃどの道全員地獄行きだ、お前らまで守れねぇんだぞ!」

 ――分かったらさっさと行け。思いのほか優しい声だった。

 やっぱり、顔は見せてくれない。

 ロゼアさんは、おびただしい数の吸血鬼に向かって、一人で走っていってしまった。

「お爺さん、行きましょう」

 お爺さんをベンチから無理矢理ひっぺがすと、僕は後ろを振り返らずに、一目散にそばの建物へと向かって走り出した。


 お爺さんの足が弱いから、そんなに速くは走れない。僕は、覚えたての防御術式を唱えながら、お爺さんの腕を抱えるようにして必死に走った。

 後方からは、ロゼアさんが吸血鬼相手に戦っている音が聞こえてくる。時折、飛び蹴りをする音も混じるのだけど、吸血鬼に飛び蹴りって、果たして効くんだろうか。「かかってきやがれぇ、ド~ラ~キュ~ラ~ァァァ!」とか叫んでいるから、まだ一応、余裕なのだろう。

 これなら大丈夫だ。

 そう思った、そのとき。

 突然真ん前、しかも目の前に、三体の吸血鬼が姿を現した。防御術式は? 効かなかったのか。唸り声を上げながら、今にも襲ってきそうな雰囲気だ。

「う、うわぁぁぁあ!」

 僕とお爺さんは、思わず叫び声を上げた。

 目を瞑る。

 遠くから、「ルエルッ!!」と、僕を呼ぶ声がした。

 次第に足音が近づいてくる。

 ――何メートル走った?

 百? 二百?

 僕はどれだけ、逃げられたんだ。

 どれだけ、任務を全うできたんだ。

 ロゼアさんの言う通りだ、僕は全て、生半可な気持ちで――――


 目の前にいたはずの吸血鬼達の気配が消えていた。

 そして、誰かの、恐らく僕の大切な人の、悲鳴。

 地面が鳴る音。

 唸り声。

 何かが裂ける音。

 何が起きている?

 知りたい、知りたくない、知らなきゃいけない。複数の気持ちが混ざり合う。


 そして僕は、ゆっくりと目を開いた――――

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