告白とサイレン
「私情なのですが、うちの家内が先日……亡くなりまして」
お爺さんは、組んでいた手を組み変えながら、話し続けている。
「歳で退職してしまって、仕事もなければまた更に雇ってくれるところがあるわけでもなく……当然お金も底を尽きまして、一昨日ですね、遂に家を追い出されてしまったんですよ。こう苦労が続くと、泣くに泣けませんよねぇ……」
僕とロゼアさんは、黙り込んだ。お爺さんは、また手を組み替え、どこか虚空を見つめながら力のない声で呟いた。
「正直、もう、何の未練もありませんよ」ただ、。お爺さんは、朧気に次の言葉を紡いだ。
「最後に一回位は、泣いたり笑ったり、したいですよねぇ」
すみません変な話をしてしまって、とお爺さんは微かに笑った。
そんな時だった。
「――吸いとるか」
ロゼアさんが呟いたその言葉を、僕は信じられない思いで頭に反芻させた。
「ロ、ロゼアさんっ!? 何言ってるんですか、今のお爺さんの話聴いてたんですかっ!」
信じられない。
信じられない。なんで今の話を聴いて、こんな。
こんなに弱ったお爺さんの無理した微笑みを見た後で、こんな。
だって、それじゃああまりにも、
「――最低……ですよ」
次の瞬間、体が宙に持ち上げられる感覚がした。ロゼアさんが、僕の胸ぐらを掴んで持ち上げていたからだった。ちらりと横目で見ると、お爺さんは目を丸くしていた。
「――最低? どっちがだ。どのみち吸いとることになったんだ、それを深い事情を問いただして乱したのはルエル、お前なんだぞ。人間の魂を吸いとって金にする汚い職業、それがソーセオストなんだ。そんな覚悟もない奴が、こんな場所に突っ立ってんじゃねぇよ」
ドサッ、と、地面に投げ捨てられた。ロゼアさんの顔を見ようとしたが、生憎向こう側を向いていて、どんな表情をしているのかは分からなかった。
「おい、立て」
僕に背を向けたまま、ロゼアさんは言い放った。僕も、片膝をついて立ち上がる。
「あの」
話題に取り残されたお爺さんが、僕らに問いかけた。
「ソーなんとかって、一体……? あとさっき、魂がどうのこうのって……」
当たり前だ。きっと、何が何だかさっぱりな状態に違いない。
「いえ、こちらの話です」
ロゼアさんはそう言うと、そっと腕捲りをした。
――――そのとき。
ロゼアさんと僕が携帯しているミニサイレンが唸りを上げた。
サイレンが鳴るとき。――それがどういったときなのかは、ルミネートで散々教え込まれてきた。
「まずいな」
ロゼアさんが顔を歪めた。
サイレンの音が大きい。かなり危険な状況だ。
そう遠くない場所から、唸り声とも叫び声ともつかない音が聞こえてくる。
もう、すぐそこまで迫ってきているようだ。
そして、
――――そして、そいつらはその姿を現した。
燃え上がるような真っ赤な両目、長くて細い牙、赤と黒のマント。
知ってはいた。知ってはいたけれど、僕がそれを見るのは産まれて初めてだった。
僕は、知らぬ間に息を飲んでいた。
「あれは――――」
ロゼアさんが、一人舌を打った。
「――――吸血鬼だ」
この回の軽く枠組みだけ書いたメモを見ながら書いてたんですが、深夜のテンションだったのか、
「お爺さん お婆さんダーイ金ナーイ家ナーイ泣けナーイ未練ナーイ
ロゼア『吸いとっちゃうぞーハッハハーイ!!』
ルエル『えー』
ロゼア『うっせぇそれがソーセオストじゃー』
お爺さん『ソーセージってなんやー?』
ロゼア『なんでもナーイ』
(サイレン)
ロゼア『ルエルお前呼ばれてんぞ』(以下略)」
とか書かれてて、全く参考にならなかった上にお爺さんのラップ調の告白が頭に残って執筆どころじゃありませんでした。
……ちゃんと真面目にプロット書こうか……