表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

ロゼアとマフラー

「ロ、ロゼアさん……見つかりません……」

 僕が遠慮がちに呟いたのは、再び人間を探しはじめてから、だいぶ経ったあとだった。

「馬鹿野郎、なに手間取ってんだ! 俺は魂吸引の術式の調整で忙しいんだよ!」

「調整って……半月前にも確か」

「ああ、やったよ。隊長の奴、利便性が高いからとか言って、術式の基盤を根本から変えやがったんだ。ったく、何が利便性だ、あの石頭。お陰でこっちは調整面倒だわ呪文覚えんの大変だわ」

「でもロゼアさん、術式は調整も効力も、隊長より上じゃないですか。上手くいかないものなんですか?」

「あのハゲ、術式の基盤をかなり旧式のやつに変えやがったんだ。ティーンな俺からすれば、こんなの伝説レベルだぜ伝説。抗議したらダミ声で『貴様が知らないのが悪い』とか抜かしてやがんの、そのくせ俺以外の奴には扱い方きっちり教えてんだぜ、あー腹立つ!」

 ロゼアさんは、しきりに地団駄を踏んでいる。ハゲって……そんなこと言っていいのかな。

「でも、隊長さんもなんでそんなこと」

「大方俺の方が術式も吸引数も多いから嫉妬してんだろーよ!こっちは人数多いから苦労してるっつーのに!」

 僕は、はっと思い出した。ロゼアさんは、小さい頃にお父さんを亡くして、体の弱いお母さんとまだ小さい妹たちを、一人で養っている。きっと、隊長さえ凌ぐような術式も、家族を守るために必死の努力で手に入れたものだ。

 ロゼアさんは、家族のことが大好きだ。誰だって、僕にだって分かる。家族の、とりわけお母さんの話をするとき、ロゼアさんは目を輝かせて、他では見せないような笑顔をするから。

 そんな家族のために、できるだけ多く人間の魂をもって帰らなきゃいけないんだ。僕は、自分がただずっとびくびくしていたことを、急に申し訳なく思った。

 隣を見上げれば、ロゼアさんはしきりにくしゃみをしながら、体を震わせていた。着ているものと言えば、オレンジのシャツの上に薄手のチョッキだけ。寒いのも当たり前だ。その状態で格好つけながら歩こうとしているから、なんだか笑える。

「……ロゼアさん、風邪引きますよ」

 僕は、自分の巻いていたマフラーをロゼアさんに差し出した。

「いらねー、風邪も引かねー」

 そして、またくしゃみをひとつ。

「ほらー! 寒いですって!」

「お前は俺のオカンか!」

「もう!」

 僕は、背伸びをして(悔しいことに、届かなかったから)、自分のマフラーをロゼアさんに無理矢理巻き付けた。

「だから! 要らねーって! こんなんでどーにかなるわけねーしダセーし!」

「風邪引くよりいいじゃないですか!」

 マフラーで顔の半分までぐるぐる巻きにされているロゼアさんは、「この歳になって毛糸編みのマフラーって……」と呟きながらも、巻かれたまま(気に入ったのかな)。ロゼアさんなりの、精一杯の感謝なのかも。

 一応喜んでいるらしいロゼアさんを眺めながら、僕はなんだかごきげんになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ