それで、?
「いくつか聞きたいんだが」
通りを歩きながら、ロゼアさんが僕に話しかけた。むっつりと黙り込んでいると思ったらこれだ。ちょっとびっくりしながら、僕もそれに答えた。
「なんでしょう?」
「お前、どうやってあの吸血鬼二体を倒したんだ」
あ、それはですね、と、倒した経緯をかいつまんで説明する。ロゼアさんはしばらく黙って聴いていたけれど、
「で、奇跡的に吸引術式を発動させて、」
「待った」
いきなり話を制される。
「なんですか、そんなに信用できないんですか!? 確かに魔方陣は出なかったけど! なんなら今やりますよ、ここで! 今!」
いやそうじゃねえよ、とロゼアさんは信じられないといったように僕を見つめた。
「……な、なんですか」
「――お前、なんで元の基盤の術式で発動できたんだ?」
しばらく考える。え、っていうことはそういうことで、って、どういうこと?
「あーーーーーーーー!?」
「うるさい、近所迷惑だ!」
ロゼアさんにひっぱたかれる。まあ、そりゃそうだ。
いや、それより、
「なんで僕、基盤の影響受けてないんでしょ!?」
そんなもん俺が知るか、とロゼアさんはようやく僕から視線を外した。
「多分、一年実習で来てるってだけだからリストに入れてなかったんじゃねえの」
自分で振っておいて興味がなくなったのか、ロゼアさんはまた歩き出した。そこで、ふと違和感を覚える。歩き出した後ろ姿を目で追いながら、僕は今しがた気づいたことを口に出した。
「……ロゼアさん、マフラーどこにやったんですか?」
ぎくりと立ち止まる。
「ああ、置いてきた、ってか失くした」
「ええ!? そんな!」
「お前が貸したんだろが! 俺は要らないっつったぞ!」
「だからって人のもの悪びれもせず失くしたりしますか普通!?」
「俺が普通だと思ってるんなら大間違いだ、よくメモっとけ!」
「えええー!」
「うっせえな、失くしたもんは失くしたんだよ!」
気まずさを紛らわすようにずんずんと先に進むロゼアさんを、僕は走って追いかけた。
一年実習はまだまだこれからだと、さっき反射的に考えたことを思い出す。
この一年実習が終わったら、僕はどうするんだろう。いや、普通にルミネートに戻るんだろうけど、そういうことじゃない、もっと根本的なもので。これも、僕なんかが考えたって仕方がないのかもしれないけど。でも、それを考えさせられるほど、今日はいろいろありすぎた。
――でも、この一年、楽しまなきゃ絶対に損、だよね。
「寒……」と思わず呟いたロゼアさんにやじを飛ばしながら、僕は素直じゃないパートナーの後を追った。