夜空と後悔
「ロヴィンズフレイ・ラルファイア!」
濁流のように押し寄せる青白い光が、僕達を包み込んでいく。目がおかしくなりそうな程の光に、圧力さえ感じる。
鋭い光の海の中で、僕は耐え切れなくなって固く目を閉じた。
フッと光が弱くなるのを感じた。目を開けると、光はだいぶだいぶ弱くなっていた。少し経って完全に消えて、それと一緒に魔方陣も跡形も無く消え去った。
魔方陣が描かれていた場所では、丁度支えを失ったお爺さんの体が仰向けに倒れていくところだった。慌てて駆け寄って、すんでのところで受け止める。
お爺さんの目は閉じ、口元には何度か見せてくれた笑みを浮かべていた。まるで、眠っているみたいだ。
「――ロゼアさん」
術式を終えたロゼアさんの方を見やると、丁度お爺さんから抜き出た魂を両手に取って眺めているところだった。
「白い魂か……。よほど心が綺麗なんだな、高くつくぞ」
わざとかどうか、急に現実的な話をしだしたロゼアさんの表情は、沈痛さを帯びていた。とてもじゃないけれど、話しかけられるような雰囲気ではない。
「――お前、先に外出てろ」
魂を専用の携帯壺にしまい、お爺さんを機材によりかからせながら、ロゼアさんは口を動かした。素直に従い、廃工場を後にする。
外に出て、夜空を見上げながら、なんだか分からなくなった。あれでよかったのか、僕はどうしたかったのか、それ以前に、悪魔と人間、どっちが大事なのか。あと、お爺さんが幸せだったのかも。
考えてもしかたがない、分かっていはいるけれど、やっぱり考えてしまう。そんなことを何回か続けているうちに、ロゼアさんが重い扉を開けて隣にやってきた。頭をぐしゃぐしゃとやられる。そして、
「うじうじすんな、うざいわ」
いつもの罵倒。でも、なんだかちょっと気が紛れた。しっかりしろよという、ロゼアさんなりのメッセージだったのかもしれない。
「行くぞ」
またどこへ、とは言わずに先を歩き出したロゼアさんの後に続いて、僕も何かを振り払うように歩き出した。