吸引術式発動
「準備ができました」
ロゼアさんがこちらに歩いてきた。術式をかけるため、手には何も持っていない。
「――そうですか。では」
ロゼアさんのほうに歩み寄るお爺さんを横目で見ながら、僕は一歩だけ足を前に出した。
振り返ったお爺さんが、大丈夫ですよ、と僕の頭に触れる。ロゼアさんは、緊張した面持ちでそこに立っていた。
「――では、」
始めます、と言って、ロゼアさんは両腕を前に出した。そのまま静かに目を閉じる。
お爺さんの足元に、直径三メートルくらいの魔方陣が浮かび上がった。お爺さんは、思わず下を向いた。ちゃんとした吸引術式をすると、対象の下に魔法陣が出来る仕組みになっている。僕のには、もちろん出来ない。さっきのまぐれの時も、術式自体は不完全なままだった。
両腕を水平に持ってくる。基盤を変えるまでの術式では、みられなかった動きだ。
「天よ、地よ、数多なる神よ。自分、ロゼア・アルルスは森羅万象全てのものに忠誠を誓い、全ての魂に存在意義を持たせ感謝を表し、これより魂吸引の術式を発動する」
両の手のひらを、パンと合わせる。
「全ての者に宿りし生命の源よ、いま此処に現れよ!」
再び両手を前へ。そして、
「――――ロヴィンズフレイ・ラルファイア!」
――――そして、僕たちは青白い光に包み込まれた。